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旅の仲間たち

 アヴェスタは、それが夢であることに気づかぬままに、自分が幼かった頃の夢を見ていた。

 それは、アヴェスタが長きにわたる戦争により両親を失い、ザラスシュトラの孤児院で生活していたときの夢だった。


 アヴェスタは、十二歳の頃まで孤児院にいた。

 その孤児院は聖職者たちによって運営されていたのだが、事もあろうか、その聖職者たちは施設の子供たちを商品にして、人身売買をおこなっていた。

 その事実を知ったアヴェスタは、ある時、数人の仲間とともにその孤児院から逃げ出したのだった。

 その後、アヴェスタは気の合う仲間たちと街の路上に隠れ住み、その頃に、ある程度の危険を冒しながらも徐々に鍵開けの腕を磨いていった。

 アヴェスタたちはいつでも食べる物がなく、その日を生き延びることに精一杯でいたが、それでも仲間たちと協力し合いながら、街の片隅でたくましく生きていた。

 アヴェスタはその頃のことをよく思い出し、そして夢の中でも見た。

 本当なら、辛い想い出のはずが、アヴェスタはその頃のことを想い出すと、なぜか温かい気持ちに包まれた。

 アヴェスタたちは、しばらく貧民街で暮らしていたが、一人また一人と仲間は飢えや病気で命を落とし、またある者は役人に捕らえられ、徐々にアヴェスタの仲間たちはその姿を消していった。

 そしてアヴェスタが十五歳になったとき、気づけば孤児院から一緒に逃げた仲間たちは、アヴェスタの周りに一人も残ってはいなかった。

 孤独になったアヴェスタは、それまで磨いた鍵開けの技術で生きていくことを決め、十五歳で冒険者組合の門を叩いた。

 それから二年、様々な冒険者たちと何度もデーンカルドの迷宮へおもむき、徐々に人並みの生活を送れるようになっていった。

 そんなある日、組合の経営する食堂で声をかけてきたのがダハーカたちだった。

 アヴェスタは、はじめからダハーカたちに不穏な空気を感じていたが、ダハーカが連れていた気味の悪い魔法使いの、「財宝の眠るありかを知っている」という言葉に、まんまと釣られてしまったのだった。

 のちに、その魔法使いの言葉が、確かに嘘ではなかったと分かったが、その財宝を奪いに来た冒険者たちを捕らえるために、恐ろしく巨大な蜘蛛が待ちかまえていようとは思いもよらなかった。

 財宝の前で、あわや大蜘蛛に捕らえられそうになった魔法使いは、何かの魔法で仲間の一人を身代わりに差し出したかと思うと、ダハーカも、そのすぐそばで仲間の一人を突き飛ばし、仲間が大蜘蛛に捕まる隙に逃げていたのを、アヴェスタは確かに見た。

 ダハーカたちは、今までに出会ったどの冒険者たちよりもタチの悪い連中だった。

 組合の食堂で、ダハーカたちに声を掛けられた時に抱いた、あの嫌な予感に従うべきだったと、アヴェスタはそこで酷く後悔したのだった……。


                 *


 サムルクは、自分がいつの間にか眠っていたことに気がついたというように、ふと目を覚ました。

 ベットから起き上がり、隣のベットをうかがうと、アヴェスタはまだ毛布にくるまり眠っている。

 窓の外は相変わらず明るく、自分が一体どれほど眠っていたのか、まるで見当がつかなかった。

 そんなに長くは眠っていないはずだと思いながら、サムルクは不安になって一階へ降りてみることにした。

 フーム様はトロールのところから戻って来ているだろうか。

 サムルクが一階に下りていくと、「おや、もう起きて来たのかい」とフーム様の声がした。

 一階のテーブルには、フーム様とフラワシが座り、二人で何か話をしていたようだ。

 フラワシがテーブルの上に置かれたクッキーを頬張りながら、「サムルク、もうすっかり元気になったか?」と尋ねてきた。

「うん、僕どれくらい寝てた?」

 サムルクはフラワシに尋ね返しながら、二人と一緒のテーブルに着いた。

 フラワシのかわりにフーム様が、「ワシが風呂に浸かるほども寝とらんよ」と教えてくれて、サムルクにはそれがどれくらいの時間なのかは分からなかったが、多分そんなに長い間眠っていた分けではなさそうだと感じて安心した。

「まあ、あの娘が目を覚ますまで、茶でも飲んで心を落ち着けておれ」

 フーム様はそう言って、あの独特な風味のお茶を注いでくれた。

 それからフーム様は、陶器で出来た一本の瓶をおもむろに取り出すと、サムルクの目の前に置いた。

「トロールたちがガオケレナの実から作った神酒じゃ。これだけの量があれば優に十人は癒せるじゃろう」

 サムルクはそこに置かれたものが、おとぎ話でよく耳にしたことのある、不老不死の霊薬「ソーマ」だとすぐに勘付いた。

 貧しさに喘ぎながらも、平凡に暮らしてきたサムルクには、想像も追いつかない神話の世界の飲み物が目の前に置かれていた。

 サムルクは、こぶし二つ分ほどの瓶を、目を白黒させながら見つめて、自分がおとぎ話の世界に迷い込んだような気持ちになっていた。

 追いつかない思考の中で、サムルクがはじめに思ったことは、「一体どんな味がするのだろう?」ということだった。

 神酒(ソーマ)の味に、とても興味をそそられたサムルクだったが、飲めば不老不死になってしまう。

 サムルクはそのことが、なぜか恐ろしいことのように感じた。 

 ガオケレナの神酒を前に黙りこくっているサムルクを見て、フーム様が言った。

「もうガオケレナの"根"を手にしておる、お前さんには不要な物じゃったかの?」

 その言葉を聞いて、サムルクは我に返るとフーム様を見た。

「根っ子? 僕が摘んだあの枝は、ガオケレナの根っ子だったんですか?」

「そうじゃ、この迷宮のいたるところに張り巡らされた、ガオケレナの根っ子じゃよ。表にひょっこり顔を出しておる場所がいくつかあっての、わしらが『癒しの(その)』と呼ぶ場所に、お前さんは運よくたどり着いたというわけじゃ」

 なるほど、そういうことだったのかとサムルクは納得した。

 やはりガオケレナの樹は二本も存在してはいなかったのだ。

 そう思うとともに、もしかして自分の取ってきたガオケレナの根っ子には、何の力も宿っていないのではないかと考えた。

 そんなサムルクの心を見透かすように、フーム様は言った。

「ほっほっほっ……、お前さんの手に入れた癒しの園の根は、ガオケレナの中でも特に生命力にあふれた貴重なものじゃ。葉や実などとは比べるまでもなく、強力な癒しの力を持っておる」

 それを聞いたサムルクは、よもや自分がそんな強力な根を手に入れていたとは思いもよらず、そして何でもお見通しのフーム様に、一体どういう顔をすればいいのか分からなくなって、ぎこちなく笑った。

 フーム様は、テーブルの上の神酒をサムルクに押しやると、念を押すように言った。

「ガオケレナを使えば間違いなく、お前の母は回復しよう。しかし、それと同時に不老不死の身にもなる……。サムルクよ、そのことをしっかりとその胸に刻んでおくのじゃぞ……」

 サムルクは、「不老不死」という難題をどう捉えればいいのか分からないまま、ただ、黙って神酒の入った瓶を見つめていた。

 その時、家の外からドシンドシンと重い音が近づいてくるのが聞こえてきた。

 サムルクは、音の近づいてくる玄関を恐る恐るうかがっていると、その物音に目が覚めたアヴェスタも、二階から血相変えて駆け下りてきた。

「フーム……、トントのやつ張り切りおって、もう来おったのか」

 フーム様はそう言って、席を立ち玄関へと向かう。

 すると、玄関に大きな土の塊が現れて、サムルクは思わず声を上げそうになった。

 アヴェスタといえば、ばっちり悲鳴を上げていた。

「アラーニェのもとに行くのに、お前さんたちだけでは心もとなかろう。トロールの戦士、トントも一緒に連れていきなさい」

 フーム様は、玄関をくぐる巨大な粘土人間を二人に紹介しながら言った。

 サムルクは、フーム様の紹介するトントをまじまじ見ながら、その昔、見世物小屋で見たことのある、異国の動物、確か「ゾウ」といったか、その動物を思い出していた。

 アヴェスタは、「こりゃあまた、とんでもないのが仲間になったね……!」と顔を引きつらせながら笑っていた。


 一通りの支度を済ませると、サムルクたちは、ここに来た時とはまた別の出入り口へと歩いていた。

 サムルクの受け取った神酒は、「自分が持っているよりも安心できるから」とアヴェスタに預けた。

 本当のところ、すでにサムルクがガオケレナの根を持っていると、言い出せないでいる罪悪感からそうしたのだった。

 サムルクは、自分の手にしているガオケレナの根のことを、アヴェスタに話すタイミングを見失ったままでいた。

 そのことを知りながら、何も言わずに黙っているフーム様とフラワシに、サムルクはむしろ、どうせならバラしてくれたらいいのにと、勝手なことを思っていた。

 アヴェスタなら、きっとサムルクの告白を聞いたとしても、「なんだそんなこと」と笑い飛ばしてくれるだろう。

 サムルクはそれも分かっていたが、いまさらそれをアヴェスタに伝えることが、なぜか裏切りのように感じられた。


 再び迷宮へと戻る上り階段の前まで来たところで、「さあ、お前たちにこれをやろう」と言って、フーム様はサムルクとアヴェスタの二人に、ヤドリギを模して作られたブローチを手渡した。

「見えぬものも見ることが出来るようになるお守りじゃ。そのお守りがあれば迷宮の暗闇も見通すことが出来るじゃろう」

 そう言って、フーム様はガオケレナの樹を指差した。

 ヤドリギのブローチをそれぞれ手にした二人は、フーム様の指差す樹を見て息をのんだ。

 ガオケレナの樹がゆらゆらと黄金色に輝いて、樹のまわりを色とりどりの光が渦巻いている。ガオケレナの(その)中を色彩ゆたかな光が踊っていた。

 二人はその光景に圧倒されながら、もしかしたら天国だとか、神の国があるとすれば、こんな場所なのではないかと同じようなことを考えていた。

 ただサムルクは、その踊る光の正体が、パックルたちの群れだと知っていた。

 驚嘆している二人の後ろで、「お前さんたちが無事に地上に戻れることを願っておるぞ」そう言って、フーム様は二人を見送ってくれた。

 サムルクたちは、感謝の言葉もないほどに助けてくれたフーム様を残し、昔デーンカルドの街であった、いまやトロールたちの村となった聖地を後にした。

 人間のサムルクとアヴェスタ、そして妖精のフラワシとトントという、一風変わった四人の冒険の仲間たちは、またフラワシの案内のもと、「太陽の門の鍵」を大蜘蛛アラーニェおばさんから取り返すべく、迷宮へと続く階段を上っていった。


                 *


 同じ頃、ダハーカ率いる悪党たちは、上機嫌で魔法の杖に照らされた迷宮を歩いていた。

 あれほど悩まされてきた魔物たちが、嘘のように一匹たりとも姿を現さない。

 緊張を張り巡らせながらの探索から解放されて、盗賊たちの会話も自然と弾んでいた。

「――なあ、ダハーカよォ、あんた大金持ちになったら一体何に金を使う?」

 アジーがのんきに尋ねた。

「そりゃおめぇ、まずはこんなちんけなコソ泥みたいな仕事はやめてだな、奴隷商売を始めんのさ。そんでもって、宮殿の一つでもおっ立てて、後は悠々自適に暮らしてやるぜ」

「へえ~! さすがは兄貴だ、しっかり考えてらぁ!」

「お前は何に使うか知らねぇが、どうでもいいことであっという間にすっからかんにしちまいそうだな」

 などと夢を膨らませながら、二人の盗賊はゲラゲラ笑っていた。

 杖の先で迷宮を照らしていたアーリマンは、そんな二人の馬鹿話に付き合うのはうんざりだというように、「くだらない話はそれぐらいにして、あの大蜘蛛の巣までの道をしっかり集中して探してもらえないかね」とイライラしながら冷たく言い放った。

 二人の盗賊は、愛想のない魔法使いを無視するように、ああだこうだとダラダラ喋りながら、大蜘蛛の巣へ通じる道を探していた。

 ダハーカは内心、いつこの高慢ちきで薄気味悪い魔法使いを出し抜いて、その手に持つ"退魔の首飾り"を奪い取ってやろうかと考えていたし、同じくアーリマンも、二人の盗賊の利用価値がなくなるときが来るのを待ち構えていた。

 実のところ、ダハーカ率いる盗賊たちも、アヴェスタと同様にアーリマンの、「財宝の眠るありかを知っている」という言葉に誘われてデーンカルドへ潜ったのだが、偉そうに高圧的な態度で話すアーリマンを、ダハーカは最初からうとましく感じていた。

 しかしダハーカは、どうやらこの魔法使いは財宝が目当てで迷宮に潜るわけではないと勘付いて、そのことに興味をそそられた。

 アーリマンが財宝よりも見つけ出したい物とは一体何なのか。

 ダハーカは、内心苛立ちながらも、アーリマンに調子を合わせて同行していた。

 もちろん、アーリマンがその"何か"を見つけたとき、すかさずぶんどってやるつもりで。

 ――少なくとも、この魔法使いにとっちゃあ、金銀財宝よりも価値のある物なんだろう。それはもしかしたら、俺にとっても価値のある物かも知れねえ。

 迷宮とは、自分の腹の中へ冒険者を誘い込むため、得てして魅力的な品々を取り揃えているものだ。

 ダハーカの思った通り、アーリマンの目当ては大蜘蛛の貯め込んだ金銀財宝などではなかった。


                 *


 アーリマンは、ザラスシュトラの名家、マンユ家の長子として生を受けた。

 幼少の頃から魔法使いとしての才能を開花させ、その類い稀なる資質から、人々に神童とうたわれるほどであった。

 アーリマンは十二歳になると、当然のようにザラスシュトラの王立魔法学院へと進み、そこで十年もの間、自身の魔術師としての技を磨き、そしてついには、王宮のおかかえ魔術師になるまでの出世を遂げた。

 二十二歳になった彼は、誰の目から見ても、若くして全てを手に入れた非の打ちどころのない勝者のように映っていた。

 しかしアーリマン自身は、決定的なコンプレックスを抱えていたのだった。

 魔術を使うには、その魔術を使用するための「呪文の詠唱」と、魔法の出口を導き開く「手印(しゅいん)」、そして術者の内に流れる「魔力(マナ)」と呼ばれる神秘の力の三つが合わさることで、はじめて使用することができる。

 アーリマンの呪文の詠唱と、手印の腕前は、誰が見ても一流であった。

 しかし、アーリマンの内なる魔力に限っては、同じ年代の学友たちに比べれば遥かに乏しいものだった。

 魔力とは、人の身長と同じ性質があるといえる。

 見上げるほどに成長する者もいれば、いつまでも小さく留まる者もいるという具合に。

 子供の頃には、さほど気にはならなかった(へだ)たりは、アーリマンが王宮魔術師の役職に就く頃には、目に見えるほどに開いてしまっていた。

 まわりの魔術師の誰よりも、優れた術者であったアーリマンは、しばしば妬みの矛先を、魔術師としての肝ともいえる魔力が備わっていないことに向けられるようになった。

 王宮で、それほど大量な魔力を必要とするかといえば、アーリマンの内在する魔力で充分事は足りていた。

 そうでなくとも、アーリマンの持つ膨大な知識や魔法の数々は、王宮に数えきれないほどの貢献をしていた。

 アーリマンは自分の魔力が微少というだけで、皮肉や嫌がらせを浴びせてくる者たちを許せなかった。

 ――王宮内の誰よりも優れた魔術師であることは明らかなのに!

 アーリマンは自分をあざける者たちを呪い、同時に自身の魔力の乏しさを呪いながら、魔力を増幅させる方法を探していた。

 もしもその時、自分に投げかけられる皮肉など、劣った者たちの()()()()だと受け流してさえいれば、アーリマンはいずれ王宮の魔術師長にまで上り詰めたことだろう。

 しかしそれまで、「神童」「天才」ともてはやされていた、アーリマンのプライドがそれを許さなかった。

 王宮魔術師となり、今まで回覧することの叶わなかった、古文書を読む機会を手に入れたアーリマンは、時間の許す限り、食べることも忘れて、取り憑かれたように王宮の書物庫に(こも)って古文書を読みあさった。

 膨大な書物庫の本を、すべて読み切る勢いでいたアーリマンは、そこでついに探し求めるものを見つけた。

 アーリマンは、それまでに築き上げてきた成功をまるで無かったことにしてしまう、ボロボロの古文書に巡りあってしまったのだ。

 その古文書の表紙には「ディーヴ伝記」と書かれていた。

 本には、遥か一万年もの昔、「ガオケレナ」と呼ばれる聖樹によって、「デーンカルド」という国が建国された様子や、その地を偉大な「魔術師ディーヴ」が統治していたという史実が、詳細につづられていた。

 本はところどころ歯抜けていて、すべての内容を読むことはできなかったが、アーリマンはその本の中に、「――デーンカルドの繁栄は、大魔術師ディーヴが作り出した"膨大な魔力の込められた腕輪"によって成された」と書かれているのを見つけ、打ち震えんばかりの興奮を覚えた。

 本によれば、"腕輪"はそれを作り出した、ディーヴ本人でさえも扱うことが難しい代物で、「――その強大な魔力の腕輪を扱うことが出来たのなら、神にも匹敵する力を手に入れるであろう」と書かれている。

 そして、後にその腕輪は「蜘蛛の女王の手に渡った」と書き記されてあった。

 一体なぜ「蜘蛛の女王」に腕輪が渡ったのか、魔術師ディーヴがその後どんな人生を送ったのかなどは、ページの劣化や落丁により知ることはできなかった。

 しかし、アーリマンが長い間探し求めていたものは、残りのページの中に充分見つけることが出来たのだった。

 アーリマンは、その「ディーヴ伝記」をこっそり書物庫から持ち出すと、他の誰にも見つからないように大切に保管した。

 そしてある日、アーリマンは王宮魔術師という名誉ある役職をあっさり捨て去り、デーンカルドの迷宮へ挑む冒険者となった。

 アーリマンは、もはや他者から受けていた妬みのことなど、どうでもよくなっていた。

 ただ、古文書にあった「ディーヴの腕輪」を手に入れて、自分の中の足りない部品(パーツ)を埋めることだけを夢に見た。

 アーリマンの心は、それまで一度も感じたことのない興奮に満たされていた。

 それから幾年もの間、冒険者を募り、デーンカルドの迷宮へ潜っては、腕輪の所在を探し続けていたアーリマンは、その持ち前の執念により、とうとうデーンカルドの(ぬし)「蜘蛛の女王」を見つけ出したのだった。


 雇い入れた盗賊の二人が大蜘蛛の犠牲となったとき、もはやこれまでかと一度はあきらめもしたが、今となって"退魔の首飾"りを手に入れたアーリマンは、運命のようなものを感じはじめていた。

 ――大魔術師ディーヴは、私に腕輪を託そうとしているに違いない。王宮の書物庫で『ディーヴ伝記』を見つけたあの日から……!

 アーリマンとダハーカ、それぞれが腹にイチモツを抱えながら、一行は順調に"大蜘蛛の女王"の巣へと、歩みを進めていった。

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