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光り物

「一体、いつまで続けるつもりだ」


 鋭い非難の声が響き、その場に居た数名の兵卒がぎょっとした顔で声の主を見た。


 武器庫の隣に併設された作業場――井戸付きの三和土たたきに、悌夏と瞬華の二人はいた。

 罠砦に捕らわれた瞬華救出作戦という名の実地訓練のあと、やはり今回も瞬華の手前で滑り落ちてしまった悌夏の体たらくを戒めるため、瞬華は敢えて、人の少なくなったこの作業場に出向き、彼を捕まえて説教を始めていた。


「基準を超えられないのは貴方だけだ、悌夏殿。

 私の要望を忘れたのか? 最低十人、と言ったはずだ」


 作業場は、刀や斧、槍の刃を研ぐための道具が一通り揃えられた場所だ。一列に並べられた角材でできた腰掛けの上に、板が斜めに渡され、近くにはそれぞれ粗さの違う砥石が沈んだ桶が三つ設置されている。


 彼女の非難は続く。


「お前を止めた兵卒のほうが、遥かに良い仕事をしているぞ。前回と同じ者なら位を上げてやるんだな。少なくともお前より感知の能力ちからが高い。そういう者は大切に扱うべきだ」


 これは不名誉な場面に立ち会いそうだと空気を読んだのか、武器の手入れを切り上げ、そろそろと退出していく兵卒たちを視界の端にとどめながら、悌夏は作業場に二人のみ取り残されたところを見計らって、彼女に諭すような声をかけた。


「瞬」

「何だ」

「この間、他の将と話をする機会があったが――やはり三人で良いそうだな。俺以外は」

「む……」


 沈黙は肯定はい――最近覚えた彼女の癖を見やりながら、悌夏は敢えて優しく事情を聞きだしにかかる。


「どうして俺ばかり、こんな規定を押し付ける」


 はあっ、と――心底いらいらした溜息をひとつつかれると、瞬華は一転、なぜか悔しげな表情を彼に見せ始めた。


「……悌。大半の将が基準を通過したが、そもそも三人というのは最低基準なんだ。錬暁殿は、この半分の時間で十二名だった。

 貴方も少しは奮い立て。そうしてくれなければ、兵たちの士気だって落ちてくる」


 錬暁れんぎょう

 前衛として、猛将として転戦先で華やかな戦績を挙げ続けるその名を聞き、悌夏はむっとした表情で自身の腰に手を当てた。


「俺の隊があいつの隊の記録に並ぶことなど、初めから考えていない。

 軍には役割というものがある。俺が前衛に立つことも滅多にない。

 お前の心配は察する。しかし俺のような凡将ぼんしょうとあいつを較べること自体、間違っているぞ」

「だが!」

「それに、俺はお前の上官だろうが。なぜこうも、俺だけ当たりが厳しい」

「それは──」


 一旦口ごもる。だが彼女の中で確実に伝えたいことが勝ったのか、きっと彼を見据え、瞬華は主張した。


「それは、私の上官だからこそだ。あの程度の仕掛け、看破すらできないなど……少しは恥ずかしいと思え」

「あの砦を『あの程度』と軽く言うお前のほうが、俺には理解できん」


 何せ、あの罠砦は全て彼女の考案である。軍師以上に冴え渡る策やら仕掛けを随所に施し、なおこんなことを平気で言ってくるのだから、尚更に性質たちが悪い。


「俺はいくさは嫌いではない。しかしこの隻眼もあって得意でもない。だから、後方で兵站へいたんやら調整やらをしているんだぞ。

 それに造られた仕掛けを突破するだけがいくさではないだろう。その点、お前もよく解っていることだろうに」

「……それならひげでも剃って牢番にでもなればいい」

「何?」


 腕を組みながらの挑発的な呟きに、ぴくりと悌夏が反応すると、瞬華は堰を切ったかのような言葉の濁流をほとばしらせる。


「この乱世、戦一つ満足にできないでどうすると言ってるんだ。裏方や調整役をしていれば戦禍せんかに巻き込まれないとでも? 貴方が武官である以上、次の戦では刀を手に戦場を駆けることになるかもしれない、その準備をしろと言っているだけだ! 

 ──それとも貴方は、今後も常に、誰かに守ってもらうつもりなのか」


 容赦ない言葉の平手打ち――答えられず悌夏が唸ると、おもむろに彼女の腰にいた刀に手をかけた。

 はっとして瞬華は腕組みを解き、鞘を手で抑える。


「ちょっと、悌!」

「研いでやる。貸してみろ」

「はぐらかすな。さっきの答えを――」

「貸せ。これは命令だ」


 強い調子でそう言われ、瞬華はわずかにたじろぐと、渋々と鞘から手を離した。


 悌夏は彼女の刀をそのまま鞘から抜き放つと、角材の腰掛にゆっくりと歩み寄りながら隻眼を近づけ、刃の状態を間近で確認し始める。


「……これくらい、私だってできる」


 小さく呟く瞬華の言葉に、悌夏は刀を検分していた目線を一旦上げると、分かっとらんな、と告げながら大きくため息をついた。


「その女官服で脚を出し大股開くのか? お前は妓楼を干上がらせるつもりか」

「……わかったよ」


 説教はうんざりだと言わんばかりに、瞬華は悌夏の座るべき席の隣に寄ると、膝を揃えて静かに腰を下ろした。


 水を張った桶にじゃばりと布切れを突っ込み、悌夏は刀を研ぐための準備を始める。


 腰掛けと水場に斜めに渡された板の上、砥石がずれないように軽く絞った布を敷くと、抜き身の刀を手に持ったまま、並べられた桶の前で砥石を選びに向かう。


 刃を窓から差し込む日射しに照らしたり、指先で刃に触れたりして刀を検分していたが、ふと首を傾げるそぶりをしたかと思うと、彼は再度確認するように瞬華の名を呼んでいた。


「瞬」

「ん?」

「この刀、本当にお前が研いだか?」

「……え?」

中砥ちゅうとまでで処理が止まっている。これは俺やあの錬暁のような、力で叩き斬る者の砥ぎ方だ。切り裂くのが目的のお前の刀なら、もっと細かい仕上げまでかけるべきだと思うが」


 ぴくりと瞬華の肩が動いた。

 そういえば――あの事件以降、三ヶ月ほどまともに抜刀していない。

 彼の側で護衛を始めて以降、夜討ちをすることが無くなり、刀身に月明かりの反射を防ぐ炭を塗らなくなったためだ。

 また、刀のみでは護衛として至近距離の間合いに対応できないと案じ、彼女は携行に優れた長さ四寸ほどの暗器、鉄針てっしんと呼ばれるそれを主に鍛練していた。

 しかし、先程の引き継ぎやら雑務やらに時間をとられ、最近はろくに己の刀を見る暇もなく、ただ惰性のままに腰に下げているに過ぎなくなっていた。

 そればかりか、彼女の刀を最後に研いだのは――整った髭が特徴のあの将だ。


「そうだったかな」


 わざととぼけて見せるが、悌夏は刃先を鋭く睨みながら口を開く。


「砥ぎ方はかなり丹念ではある。だが砥石と刀との相性が悪い。これでは刀の良さをまるまる消したようなものだ。やはり、誰かに触られている」

「……記憶にない」

「おい、瞬。自分の得物えものだぞ? 自分で把握しておかんでどうする。まさか刀に足でも生えて、勝手に研がれて帰ってきたとでも?」

「最近色々忙しかったからな」

「……だと、いいがな」


 やがて悌夏の手が桶の中から目の細かい砥石を引き上げると、斜めに渡された板の上で待っている滑り止めの布切れの上に置き、そのまま瞬華の隣で板を跨ぐ格好で腰掛ける。

 腕をまくって眼を閉じ、ひとつ深呼吸すると、静かに砥石に刃を当て、丁寧に刃を滑らせ研ぎはじめる。

 ちりちり、ちりちり――細目さいめの砥石が、僅かな音を立てつつ中砥で取りきれなかった微細な欠けを取り除いていく。

 独自の節奏リズムを刻む、音曲に似た慣れた音に耳を傾けようとした瞬華に、悌夏は砥石に向かい静かに刃を滑らせながら、その時ぽつりと問いかけた。


「瞬。お前、戦は好きか」

「いきなり何だ、藪から棒に」

「雑談は範囲外だったか? 単なる質問だぞ」


 他意はないとばかりに問い返すと、瞬華も質問の意図に気づいたのか、ごく自然な口調で答えを口にする。


「戦に好きも嫌いもない。火の粉が振りかかってきたなら、逃げることは許されない。敵を殺す――それを、粛々とこなすだけだ」


 言うなれば数ある作業の一つなのだと言う彼女の答えに、悌夏が驚いたような声を上げる。


「理由はそれだけか? 国ひとつ、やすやすと揺り動かしたお前が?」

「ああ、それだけだよ。だから日々腕を磨く。皆おしなべて善良で、お互いに助け合っていけるのなら、きっとこんな刀など要らないのだろうけどな」


 そう皮肉げに呟く夢想に、悌夏はふっと唇に笑みを浮かべる。


「乱世に限らず、無理な話だ。……で、この刀新調する気も無しか」


 やっと本題にたどり着いたものの、彼女は是とも否とも言うことなく、ただ悌夏に対して一言問う。


「研いでいる貴方から見て、どうだ?」


 逆に聞かれ、悌夏は作業の手を止めることなく問いに答える。


「砥ぎ方違い以外、目立った歪みも傷も無いからな。今のお前の使い方であれば、まだしばらくはいけそうだと思うが」

「では、まだ使う。私も今のところ、新調は考えていないし」

「まったく、物持ちのいいやつだ」


 微細な欠けがならされたのか、瞬華の刀を研ぐ音が変わりはじめる。

 しゅるしゅると心地よい音に瞬華はしばらく聞き入っていたが、悌夏が再び彼女を呼んだことで、ふとその顔を上げた。


「そういえばお前、耳や髪に飾りを付けてる所を見たことがないんだが。あの手のものは嫌いなのか?」

「また随分と、らしくない質問だな」

あるじの問いだ。答えてくれ、瞬」


 そう聞くのには意味があった。

 瞬華の執務室に山と置かれたかざぐしの箱。

 都じゅうの飾り櫛がそこに集ったかの如く、おそらく中身も見ずにほこりかぶっている異様な光景を、悌夏はつい最近目撃していた。


 わりとよく見かける女性への贈り物の一つとして、ここ温経では大小様々な飾り櫛が流通している。

 しかし、瞬華が護衛となって以降、彼女が身を飾っている場面を一度として見たことがないのだ。


 武官付きの補佐官、それも妙齢の美女が、その頭に何も載せていないというのは、実際問題、諸将の間ではかなりの噂になっていた。


――瞬華殿は、誰のことも『頭にない』のか?

――あの方のこと、わざと『からにしている』のでは?

――ということは、誰かに身請けしてほしいのか。



 そういうやりとりがあったかは定かではない。

 しかし、意中の女がひどく簡素な姿をしていれば、その足りないところを満たしてやりたくなるというのが男の甲斐性というものである。


 贈られた飾り櫛を挿すことで、「貴方の事を考え」、耳飾りで「貴方の言葉に従い」、服を着て「貴方に身を任せる」――男からの贈り物にはそんな暗黙の了解が含まれる。


 そのため、最初の一歩である髪飾りは女性の歓心を買うため、もしくは自らの懐具合を誇示するために、とりわけやたらと豪奢に走っておけというのが、この乱世において男が自分という存在を女性に主張する上での定石じょうせきとされていた。

 髪飾りが意中の女性の目に留まり、気に入られ、その髪に輝いて初めて、耳飾りや服へと進むことを許される。


 もちろんその途上で本能的手段に踏み切ることもあるわけだが、表面上すべて自分色に塗り替えたうえで、彼女という領地を理性的に奪い取ることが、このじゅつでは模範とされる男女の付き合い方となっていた。


 実のところ、悌夏自身は瞬華に飾り櫛を贈ったことはない。

 彼女が「あれが欲しい」と駄々をこねるのならば事態はまた少し変わったかもしれないが、今のところその兆候もなく、懇意こんいにしている商人もいない。

 後衛兵站を任される悌夏といえども、戦場に落ちているものでもない商人との縁を得るには全く別の手段が必要となってくるし、ぎらぎらと飾りをはためかせた芸妓や遊女たちには「怖い」と評され受けも悪かったので、悌夏は蒼弦や辛夷からみやこの男になるための通過儀礼を一通り経験して以降、その知識を頭の奥底にしまいこんだまま、思い返そうともしなくなっていた。


 しかし、そういった事情も他から見れば隙と見えて当然のことで――頭部が明らかな空白地帯であることを「(悌夏以外の)強き男を待つ」意思表示と解釈した諸将たちは、瞬華の無実が証明された日を皮切りに、一気呵成いっきかせいとばかりに贈答品の攻勢をかけたのだ。


 山と積まれた装飾品にも顔色ひとつ変えぬ彼女を遠くから眺めつつ、しかしそれでも頑として誰からの貢ぎ物をも着けずにいる姿に、悌夏は安堵と共に妙な違和感を覚えたと同時に、諸将たちからまるで自分の存在が無視されたようで、少々不機嫌になったことも事実だった。


「その件、どうしても話さねばならないか?」

「ああ、聞かせてくれ」


 瞬華はちらりと作業にいそしむ悌夏の横顔を確かめ、口を開く。


「信じてくれと言っても、無理かもしれないが……嫌いというより、苦手なんだ。あの手の飾りはな」

「あ?」


 意外な答えに、悌夏が彼女を見た。


「苦手とは、どういうことだ? 女は皆、光り物が好きだと蒼弦から……」

「確かに、策で身につけることはあった。だが、あれは自分で選んだものではないんだ。

 郷では身を飾る習慣がなかったし、動きの邪魔になりそうなものを好んで身に付けたいと思わなくて。同じ光り物なら、刀などの使える物の方が好きだ」


 彼の言葉を遮ってまで主張を通す瞬華に、悌夏は片目を見開いた。


「そ、そうなのか?」

「ああ。それに……貴方が指摘したように、どうも私は物持ちが良過ぎる人間らしい。貰ったものを落としたり失くしたりするのも好きじゃないから」


 言を継ぐ。


「それに付けるにしたって、私は間者だ。潜伏現場に落ちていたら愚かの極み、余計なものは外しているに限る。私だって給金ならしっかり貰っているし、どうしても欲しければ自分で買いに出るくらいはできる。

 ……なのに、どうしてあんな噂になったのか」

「噂?」


 ああ、と頷いて、瞬華はさらに言を継ぐ。


「『私が飾りを付けないのは、気に入るものが無いからだ。

 ものにしたければ贈り続けろ――もっと高価で、もっと華やかで、私にしか似合わない特別のものを』……だそうだよ」

「なんて事だ」


 言って、悌夏は懐に手をやった。

 実は先日、調停で都に訪れた民から、謝礼にとぎょくのついた小さな耳飾りを悌夏は受け取っていた。

 聞けば、質素な姿で民との応対をこなす瞬華を見て、悌夏への感謝――というより、悌夏の持つ瞬華に対する好意への後押し――のため、民がわざわざ地元から届けさせたのだと言う。


 順序としては髪飾りの後、服の前という実に中途半端な位置に属するこれは、そのままではすぐに贈ることはできないばかりか、彼もまた飾り櫛を贈る事から始め、更に辟易するほど積まれた櫛の山から選ばれなければならないのだ。


――これを、あの方に。

――私たちの名前は結構ですから。


 そうこっそりと囁きかけてきた民の言葉が浮かぶものの、この規模の前ではあっさりと捨て置かれるのではという恐れのほうが大きい。


「一人一個、なんて約束があるわけでもないから、皆好きなだけ積み上げて帰っていく。

 髪、耳、服と三点全て送りつけてくる気の早い御仁ごじんも居る。

 結果として知らないうちにあれだけの量が集まった。皆、私のために贈られた物のようだから、女官たちに持っていって貰うわけにもいかない。困っているのは私の方だよ」

「そういう事だったか」


 見つけ次第、くびり殺してやる。


 飾りもの嫌いの彼女とも知らず、焚き付けた奴がいる――苦々しく思いつつ、仕上げ砥にゆっくり刀を滑らせながら、悌夏は訊く。

「さて、そろそろ砥ぎ終わるんだが……これから何かうまい物でも食いに行くか?」

「何を言ってるんだ? 節酒、粗食は基本だろう? 甘やかせば身体がたるむぞ」


 どこの武芸者かと聞き間違うほどの禁欲的な生活ぶりに、悌夏が呆れたように呟く。


「なるほど、これなら屋敷を呈されるのも頷ける。……さ、できたぞ」


 水ですすぎ、砥ぎ上がった刀の柄を持たされると、刹那、瞬華がはっと息を呑むのがわかった。


「……悌、上手い、な……」


 何のことかと聞き間違うくらいの惚れ惚れとした声音に、悌夏は思わず確認した。

「研ぎ方が、だよな?」

「……ああ。今まで見た中で、一番上手い。誰かに習ったのか」


 感嘆しきりに刃を見つめる瞬華の様子を眺めつつ、悌夏は一旦席を離れると、砥石と滑り止めの布を手に、片づけを始める。


「きっと身に染み付いているだけのことだろう。育った家では、俺はずっと包丁研ぎをさせられていた。俺の長刀ならここまで仕上げなくとも良いんだが……研ぐ腕がある以上放っておくわけにもいかんしな」

「積み重ねの、賜物……」


 ――何なんだ、この違和感は。

 研いだ刃の仕上がりを気にする女なんてまず居ない。まともな斬れ味に戻っていれば良い、そんなことを考える人間が大勢を占める。


 だが、この美女おんなは刀砥ぎごときで喜んでいる。妓楼ですら怖がられる彼と話の通じる瞬華の感覚は、間違いなく戦で生きる武人おとこのそれに近い。


 彼としては正直なところ、物騒な場には置いておきたくはないのだが、それにも関わらず、彼女はその物騒なものに魅入られたように、どんどんと手繰り寄せられていく。


 これ以上刀の研ぎ方を話すほどに更なる泥沼にはまりそうな感覚を得て、悌夏は話題の矛先を変えた。


「さて、久々に饅頭まんじゅうでもどうだ?」

「あの店の?」


 指定されたことで、悌夏は彼女が乗り気であることを感じ取る。


「ああ、ではあの店にするか?」

「あの店ならば、私にはご馳走だな」

「ならば、あの店に行くとしよう」


 悌夏とて、無理に豪勢なものを食べたいわけでも、無理に食べさせたいわけでもない。あくまで瞬華が、笑顔で美味しそうに食事をするところが見たいだけなのだ。


「では、行くか」

「はい」


 使った砥石を専用の桶に沈め、軽く手をすすぐと、悌夏は彼女を伴い城の正門へと向かった。

 あの店――それは彼女に、最初に饅頭を振舞った店へ。

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