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006

 おれはイモムシだ。醜くて気持ち悪いイモムシだ。こんなのはホントのおれじゃない。まわりのヤツらがなんと言おうと、おれはおれだ。

 だからおれはサナギになる。いや、繭かもしれない。別にどっちでもいい。醜いイモムシでなくなれるんだったら。ホントのおれになれるんだったら。

 そうして、おれはおれになる。殻を突き破って新生する。ハッピーバースデー、今日からは今日がおれの誕生日。誰にも文句は言わせない。

 まったく、よく化けたもんだ。そっくりじゃないか。おれだけが知っている、ホントのおれ自身に。

 美しい翅を広げて、おれは空へと舞い上がる。

 中国には『胡蝶之夢』という話がある。人間が蝶になった夢を見ているのか、それとも蝶が人間になった夢を見ているのか――。確かめるすべはない。

 とはいえ、これは蝶じゃなくて蛾かもしれない。まァどっちでもいいが。

 花が咲いていた。満開の花。おれはそこに泊まると、はしたなく広がる花びらに管を挿し込む。突き刺して、蜜を吸い出す。すると甘い蜜がどんどんあふれ出てくる。潮のように噴き出す。

 ――ああ、おれはこれがヤリたかったんだ。あらためてそう実感する。おれが本当にやりたいことは、ホントのおれにならないとできないんだ。

 えもいわれぬ高揚感に包まれながら、おれは死んだ。死骸が地面に落ちる。土の上で腐って、跡形もなく消える。この世界の一部になる。

 しばらく経つと、死骸の朽ち果てた場所から、小さな芽が生えてきた。芽はあっという間にぐんぐん成長して、大きな1本の木になった。大地に堅く直立して、雄々しくそびえ立っている。太く伸びた枝の先に、いくつもの実をつけた。

 そこへひとりの女が現れた。女は幹にしがみつくとよじ登り、生っていたリンゴをひとつもぎった。そして一心不乱にむしゃぶりつく。

 芯だけ残して、リンゴを残さず綺麗にたいらげると、女はそれを自分の股のあいだに挿し込んだ。狂ったように何度も出し入れさせて、なかの蜜をかき出す。何度も何度も。じゅぶじゅぶと音を立てて。蜜が次から次へとあふれ出る。蝶は長い管でそれを啜った。ああ、なんて甘い。

 しかし、ふと気が付くと、おれは蝶じゃなかった。リンゴの芯でもなければ、大樹でもなかった。

 おれは蜜を吸われる花だった。満開の花のように、だらしなく股を広げてよがり狂う女だった。快感の波に翻弄されるだけのか弱い女――。

 おれはあまりの気色の悪さにギョッとして叫んだ。

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