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【短編版】オラオラ系侯爵にパートナー解消されたのでやれやれ系騎士に乗り換えます。え? やっぱりパートナーになってほしい? お断りですわ

「クレア=シーフィア。貴様とのパートナー契約を解消する!」


 ヘルメス錬金騎士学園の玄関ホールで、一等貴族レイノルズ家長男のヴィンセントが声高に宣言する。


「……はい?」


 なんとか笑顔を維持しつつ、首を傾げるクレア。


「またお前のせいで昇級試験が不合格だったからな。これで3度目だ、もう我慢ならん」


「いや、それは私の錬成物に問題があったのではなく、ヴィンセント様の剣の腕がまだ銀級(シルバーランク)レベルではなかっただけでは?」


「うるさい、黙れ! お前の作る武器はいつも無骨(ぶこつ)で美しくない。俺様に相応しくないんだよ。お前の作る武器は!」


「そ、そんなことを言われても、ヴィンセント様がいつもくず鉄しかくださらないから仕方ないじゃないですか! 美しい装飾をしてほしいならもっとマシな素材をください!」


「言い訳は聞かん! 錬金術の腕が立つと聞いて六等貴族のお前と組んでいたが限界だ! ブスで、錬金術も(つたな)く、品もない貴様とはもうやってられん! 今日から俺様は二等貴族のエヴァリーと組むことにした。お前は用済みだ」


 ヴィンセントは“パートナー解消契約書”を掲げる。

 この契約書に騎士と錬金術師がそれぞれサインすることで、パートナーは解消となる。すでにヴィンセントのサインは入っていた。


 野次馬たちがクスクスと笑いだす。

 これまで一等貴族のパートナーとして持て(はや)されてきたクレアが落ちる様を笑っているのだ。クレアはこれまで自分が一等貴族のパートナーであることを誇ったり、自慢したことはなく、周囲が勝手におだてていただけである。なのにこの、『ざまぁみろ』という空気……。


 クレアは怒りを抑え、無言で契約書にサインした。


「これで貴様とはお別れだ。せめて六等貴族らしく、どこぞの馬の骨と組むことだな。はーっはっは!!」


 高らかに笑い、ヴィンセントは背を向けて階段の方へ向かう。

 ヴィンセントの笑い声に呼応するように野次馬たちも笑い声の音量を上げていく。

 一方クレアはそんな笑い声など意に介さず、助走をとっていた。


――ドロップキックをかます助走である。


「こっちの方こそ……アンタなんて……!」


 ダダダダダ! と50m6秒台の速度でクレアは走る。


「は?」


 足音に気付き、ヴィンセントが振り向いた時にはもう遅い。

 クレアはすでに靴底をこちらに向けて、飛び込んできている。


「――お断りだこらぁ!!」


「ぼはぁ!!?」


 ヴィンセントの顔面にクレアの右足が突き刺さる。

 こうしてクレアは一週間の謹慎処分をくらった。この一件は“ボンボン玉砕キック事件”としてヘルメス錬金騎士学園中で噂となった……。



 ---  



 ヘルメス錬金騎士学園は騎士と錬金術師を教育する学園である。

 この学園には珍しい校風があった。それは『騎士と錬金術師は二人一組で行動すべし』というものだ。入学した時点で騎士と錬金術師でタッグを組み、課外授業や試験に(のぞ)んでいく。ゆえにこの学園に(かよ)うすべての生徒にはパートナーが居るのだ。


 クレアは祖母が高名な錬金術師であり、入学前より期待の新入生として注目されていた。噂を聞いたヴィンセントがクレアにパートナー契約を申し込み、クレアはそれを受けた。ヴィンセントは真っ赤な短髪で一見爽やかで、ガタイも良く、最初だけは穏やかな態度だったので断る理由がなかった。そう、申し込んだのはヴィンセントの方なのだ。


 なのにまさかあちらから解消を申し出るとは。クレアはヴィンセントの厚顔無恥さに呆れを通り越して尊敬の念を抱いた。


 謹慎明け。

 クレアは中央塔の契約室に呼び出された。

 契約室はパートナー契約に関する手続きを(おこな)う部屋だ。


「クレア=シーフィア。今日呼び出された理由はわかるね?」


 契約書士の老教師が諫めるような目つきをする。


「……えーっと、パートナーが居ないまま2週間が過ぎると退学だからです」


「そうだ」


 クレアはすでに1週間パートナーが居ない状態で過ごしている。あと1週間で退学処分だ。


「我が学園の生徒は必ず騎士と錬金術師でタッグを組み、行動しなければならない。ゆえに君は今すぐ、新たなパートナーと組まねばならない」


「わかってます。でも私と同じではぐれ者騎士がいらっしゃるでしょうか?」


「この学園の生徒の数は常に偶数! 余り者は出ないようになっている。君の元パートナーであるヴィンセント、彼が組んだエヴァリーには元々組んでいた騎士が居る」


「あ、そっか」


「今日は彼も呼んでいる。入りなさい」


 契約書士は扉に向けて言う。


「失礼します」


 そう言って部屋に入ってきたのは褐色肌の男。

 真っ白な髪をひとまとめにしており、獅子のような目つきをしている。


「彼はロアン=クロックス。君の新たなパートナーだ」


「はじめまして。クレア=シーフィアです。よろしくお願いします」


 丁寧な動作で頭を下げるクレア。

 一方、ロアンは礼を返さず、ため息で返す。


「やれやれ。こんなガキ臭い女が新たなパートナーとはな」


「む」


 クレアは胸が小さく童顔で、16歳でありながら見た目の年齢は13~14歳ほどに見られる。

 動きやすいから、という理由だけで短く整えられた緑髪も子供っぽく見られる要因だろう。


「はじめましてクレアお嬢様。ロアンと申します」


 ロアンは気取った感じで自己紹介する。


「……なんか、むかつく」


 ちなみに2人は同学年だが顔合わせは初めてである。


 ここヘルメス錬金騎士学園では騎士と錬金術師でクラスが分かれており、課外授業や昇級試験はペアで臨むが通常の授業や筆記試験はクラスごとでやる。パートナー以外の騎士・錬金術師と顔を合わせる機会がほとんどないのだ。


 それにまだ入学してから半年しか()っていない。クレアはまだ同じ錬金術専科(アルケミストクラス)の人間すら半分も把握していないだろう。


「双方、異論がなければこの契約書にサインを」


 異論を唱えれば2人で退学の道しかない。

 両者とも迷わずサインする。


「結構。では次の課外授業より2人で臨むように。以上、解散」


 部屋の外に出た2人はそのまま中庭に足を運んだ。


「これを見ろ」


 ロアンが自身の剣をクレアに手渡す。

 クレアは剣を鞘から抜き、その光沢に目を奪われた。


「……良い出来ね」


「俺が錬金術で作った」


「え!? 騎士のあなたが……!? 凄いじゃん! 騎士で錬金術も使えるなんて!」


 クレアは心からの称賛を送る。


「俺は自分で自分の装備を作れる」


 ロアンはクレアから剣を取り上げる。

 その時、クレアはロアンの手のひらを見た。


(凄いタコ……)


 恐らく幾千と剣を振ったのだろう。ロアンの手のひらにはいくつも潰れたタコがあった。


「つまりだ、お前が錬金術で俺をサポートする必要はない。余計なことをせず、俺の影に隠れていろ」


「え?」


「悪くない話だろう? お前はただ錬金術を行使しているフリをするだけで単位を貰えるんだ」


「なにそれ、余計なお世話よ。私たちはパートナーでしょ? 装備は私に任せて」


「……俺はもう錬金術師には頼らない」


 ロアンはそれ以上なにも言わず、その場を去っていった。


「どいつもこいつも~~!!」



 ---



「もぉ~! 私はただ錬金術を極めたいだけなのに!!」


 中央塔二階の廊下を級友と歩きながらクレアは愚痴を零す。


「錬金術を極めたいならそのロアンって人の提案に乗ればいいじゃない。試験を全部任せられるなら、アンタは自分の研究に集中できるでしょ」


 級友のエマは冷たく切り返す。

 エマは青い髪のクールな女子だ。クレアの錬金術仲間である。


「ペアのランクが上がらないと行動範囲を制限されるし、使える施設も限られる。全任せするわけにはいかないでしょ! それに錬金術を使うフリをするとか、結構難易度高いし!」


「それもそうね」


「ほんっと男ってワガママな奴ばっか!」


「だったら私みたいに女子の騎士と組めば良かったでしょ。ま、女子同士は女子同士で面倒なこともあるけどさ」


「……はぁ、エマが騎士だったら良かったのに。――ん?」


 廊下の窓からクレアは外を見る。

 窓から見える中庭に……ロアンが居た。ロアンは金髪のロングヘアーの女子と何やら話している様子だ。

 クレアと違い胸が大きく、色気のある女子だ。クレアは彼女の胸を見て、ムーッと唇を尖らせる。


「あれ、エヴァリーじゃん」


「あの子がエヴァリーなんだ」


「同じウェポン学の授業取ってたでしょ」


「あっはは~。ウェポン学の授業中は武器にしか目がいってなくて……」


「ほんっと武器バカ」


 ロアンとエヴァリー、なにやら2人の空気は険悪そうだ。


「もう、仕方ないな……」


「行くの?」


「一応、今のパートナーだしね~」


 クレアは階段を下り、柱の影から中庭を覗き込む。


「……なぜだエヴァリー! 俺たちは2人で星級(ステラランク)を目指すと約束しただろう!」


 ロアンの怒号が中庭の穏やかな空気を切り裂く。

 周囲の他の生徒はロアンの声に()され、退散していく。


 星級(ステラランク)。それは生徒の中でトップに値するランク。

 個人に与えられる称号ではなく、ペアに与えられる称号だ。一流の騎士と一流の錬金術師のコンビでないとまず手に入れられない。


「いい加減、しつこいですわよ。ロアンさん」


「理由を聞かせろと言っている。俺が1度でも足を引っ張ったか?」


「……いいえ。あなたは優秀な騎士でしたよ。剣技も上等、錬金術にも精通している。唯一で最大の欠点は……あなたが六等貴族だということです」


 貴族は特等貴族と一から六等貴族の合計7つの位からなる。

 六等貴族は特別貴族とも言われ、他の6つの位とは大きく異なる。なぜなら彼らは厳密には平民だ。特別に一時的に貴族の位を与えられているに過ぎない。

 この錬金騎士学園は貴族専門の学校、しかし身分とは別に優秀な人間は引き込みたい。ゆえに、優秀な平民に在籍中のみ貴族の身分を与えるのだ。クレアやロアンはその例である。 


 本来貴族でない彼らは一部の生徒より疎まれている。


「同じ実力で、位に差があるのなら……より高い方を選ぶ。当然ではありませんか」


(さいってー!)


 クレアは自分勝手なエヴァリーに対して嫌悪感を抱く。


「その通りだ!」


 エヴァリーに同意し、中庭に現れたのはヴィンセントだ。


「同じ能力を持つ人間ならば、より高貴な方を選ぶのは当たり前だ。もっとも、俺様はお前より強いがな!」


 ヴィンセントの言葉は盗み聞きしているクレアにも突き刺さる。


「……誰だお前は」


「ヴィンセント=レイノルズ。エヴァリーの新たなパートナーだ」


 ヴィンセントは仲良さげにエヴァリーの肩を抱く。


「……正気か? その赤毛猿と、本気で星級(ステラランク)を目指すつもりか?」


「あ、赤毛猿だとぉ!?」


(ぷっ!)


 クレアは思わず吹き出しそうになるが耐える。


「エヴァリー。お前は以前、『実力さえあれば身分など関係ない』と言っていた。あれは嘘だったのか?」


「わたくし、そんなこと言いましたっけ? はっきり申し上げると……わたくしは一度だって、あなたを対等な存在だと思ったことはありませんわ」


 ロアンは舌打ちし、2人をにらみつける。


「あぁん? なんだその眼は? そんなに俺たちが気に食わないなら謝罪を賭けて決闘試合でもやるか?」


「……くだらん。そんな児戯(じぎ)に付き合う気はない」


 背を向け、ロアンは立ち去ろうとする。


「逃げんのかよ! だっせぇなぁ!」


「まったく、元パートナーながら恥ずかしいですわ」


「……」

 

 なにも言葉を返さず、立ち去ろうとするロアン。

 だが――



「その勝負……受けて立つ!!」



 空間を切り裂く少女の声。

 ロアン、ヴィンセント、エヴァリー、中庭の様子を二階から眺めていたエマや野次馬の視線が1人の少女に集中する。


 彼女の名は――クレア。


「クレアぁ……!!」


 忌々し気にクレアを睨むヴィンセント。その鼻にはまだ腫れが残っている。


「その勝負、受けて立つ! 私とロアンで、アンタら2人を叩き潰す!」


「おい、なにを勝手なことを言っている!」


 ロアンが反論する。


「こんな何の得にもならん勝負、受ける必要など――」


「うるさぁい!!」


「ぐはぁ!?」


 ロアンの顔面にクレアのドロップキックが突き刺さる。

 敵であるヴィンセントやエヴァリーですら唖然とする一幕。

 地面に倒れ込むロアンを見て、エマは「……あんなおてんば娘とは絶対組んでらんないわ」と呆れた。


「悔しくないわけ!? そんなタコができるまで剣を振ってきたのに、地位なんかを理由に手を切られてさ!」


「お前……」


「私は悔しい……! あの女、絶対見返してやる!」


 クレアはヴィンセントを指さす。


「このボンボン赤毛猿! アンタもまとめて叩き潰してあげる!!」


「お、お前らぁ……! さっきから人のこと猿猿言いやがって!! 俺たちが勝ったら靴舐めて謝ってもらうからな! 勝負は一週間後! 騎士2人による刃無し(オフブレード)の決闘で決める! 異論はないな!? クレア!」


「上等よ! 私たちが勝ったら、ロアンへの無礼の全て、きちんと謝罪してよね! 行くよロアン!」


 クレアはロアンの首根っこを掴み、ズルズルと引きずってその場を去ったのだった。



 --- 



「やれやれ……まったく余計なことをしてくれた」


「あー、もう。うるさいうるさい」


 目を覚ましたロアンを連れて、クレアは学園敷地内の森の中にある自身の工房へ向かう。


「こうなっては仕方ない。決闘は俺が作った武器で戦う」


「本当にそれで勝てるの? ヴィンセントはそれなりに優秀な剣士。エヴァリーだって、あなたが執着するぐらいには優秀な錬金術師なんでしょ?」


「それは……そうだが」


「どうするかは、私の錬成物を見てから決めても遅くないでしょ」


「ちっ、わかった。それは構わない……しかし、お前の工房はこんな森の深くにあるのか?」


「基本みんな部屋に工房を持つけど、私の場合、部屋じゃ狭くてね」


 辿り着いたのは木造の一軒家だ。


「ただいま~」


 クレアの後に続き、ロアンも工房の中に入る。

 ロアンは工房の中を見て、目を丸くした。


「これは……!?」


 工房中に飾られた剣・槍・斧。

 そのすべてがロアンの持っている剣を遥かに超える切れ味を誇る。


 錬金術にも精通しているロアンは、これらの武器の完成度の高さにすぐさま気づいた。


「久しぶりパイロン! 今日も良い艶ね! あぁん、レヴィ。ちょっと錆が出てるわ。後で綺麗にしてあげるねぇ~」


 クレアは武器1つ1つに名前をつけ、まるで人に接するように話しかける。

 そう、彼女はド級の……武器フェチなのだ。


「……これはすべて、お前が作ったのか?」


「ええ、そうよ。こと武器の錬成に関しては誰にも負ける気はしない。あなたの剣なんか、私の剣なら一撫でで壊せちゃうんだから」


 ロアンは「やれやれ」と肩を竦める。


「これは負けられんな」


 ロアンはわずかに、口角を上げていた。



 ---  



 ――決闘の日。


 ヘルメス錬金騎士学園では正式に決闘を認められている。しかしきちんと教師が1人立会人となり、勝負を見届ける決まりだ。


 学園が所有する訓練場の土俵にて、ロアンとヴィンセントは向かい合う。両者の背後にはそれぞれの錬金術師、クレアとエヴァリーが立っている。他にもギャラリーが30人ほどいる。


 騎士2人が持つは刃の部分が平らになっている剣。決闘剣と呼ばれる、切れ味を排除された剣だ。刃物というより、鈍器と言った方が正しい。


 当然、2人の剣を作ったのは2人のペアである錬金術師である。


「よく来たな平民コンビ! 我が相棒、エヴァリーが作りしこの名剣で、完膚なきまでに叩き潰してやろう!」


 ヴィンセントは鞘から剣を抜き、ギャラリーに剣を見せつける。

 黄金の鍔、宝石の埋め込まれた柄頭。剣身は白銀。

 その豪勢な剣を見てギャラリーからは感嘆の声が漏れる。


「すげぇ! 見るからに高ランクの素材を使った剣だ!」

「……美しい剣身、見とれちゃう」

「さすがはエヴァリー様だ! 銀の加工は難しいのに、あんなにも綺麗に錬成するなんて!」


 クレアはイライラから頬を膨らませる。


「あの男……私にはくず鉄しか寄越さなかったクセに……!」


 そのクレアの頭をぐしゃっとロアンが鷲掴みにする。


「この程度で腹を立てるな。アレに負けないだけの素材は渡しただろう」


 そう言ってロアンは剣を抜き、掲げる。

 その剣は……質素だった。銀色というより灰色の剣、鍔も大した装飾はされていない。

 ただヴィンセントの剣より1.5倍ほど幅がある。


「なによあの剣、地味~」

「これは武器で勝負が決まったな」


 嘲る錬金術師たち。そんな中で、


「どうかしらね」


 異を唱えるはクレアの友人のエマだ。


「はぁ? なによエマ。あの剣のどこにヴィンセント様達の剣より優れた部分があるわけ?」


 エマはため息を挟みつつ、


「……あの剣の素材、多分一角獣(ユニコーン)の角が使われているわ」


一角獣(ユニコーン)って……上級生でも手に余る魔物じゃない!」


「そうよ。その角は鋼鉄を容易(たやす)く貫くと言われている。見た目は地味でも、破壊力は抜群よ」


 ただし。とエマは心の中で補足する。


一角獣(ユニコーン)の角は金の3倍重い。下級生にあの剣を振り回すことができるはずないんだけどね)


 錬金術師2人が()け、土俵の上に騎士2人だけが立つ。


「この決闘はこの私、レヴィフィスト=シュベットが仕切らせてもらう。相手の体に渾身の一撃を加えるか、相手の武器を壊した方を勝利とする」


 ヴィンセントが顎を上げ、


「クレアと同じで、色気のない剣だな」


 ロアンは鼻を鳴らし、


「香水臭い剣よりマシさ」


 審判役の教師が右手をあげる。


「では、はじめ!!」


 まず飛び出したのはヴィンセントだ。


「おらぁ!」


 高速剣撃でロアンを詰めていくヴィンセント。


「そんな安物の剣、すぐに折ってやるぜ!!」


「ふん、猿の腕力では不可能だな」


「なんだとコラ!」


 剣を振り回すヴィンセントと、ヴィンセントの剣を冷静に受けきるロアン。

 傍から見れば一方的な試合だ。


「その調子ですわヴィンセント様ぁ!!」


「オラオラオラァ!!」


 ヴィンセントは何度も何度も何度も剣を振り下ろす。

 しかし――


「あ、あれ?」


 ヴィンセントは汗だくになりながらも攻撃し続けたが……ロアンの剣は、無傷。


「……いつも通り。スタミナ無視の突撃ね」


 クレアは冷たい瞳でヴィンセントを見る。


「クレアの言ってた通りだな。お前はいつもペースを考えず突撃し、すぐスタミナ切れを起こすと。そんなお前に配慮し、クレアはいつも武器を軽くしていたそうだ」


「な、なんだと!?」


 ヴィンセントはいつもよりスタミナを早く消費していた。

 その理由は武器の重さにある。クレアが作っていた武器より、いまヴィンセントが手にしている武器の方が1.7倍ほど――重いのだ。


「お、重さなんてどうでもいい。なんで、これだけ打ったのに、お前の剣は刃こぼれ一つしていないんだ!?」


「逆に聞くが、お前は――彼女が作った武器が刃こぼれしたところを見たことがあるか?」


「はっ!?」


――ない。


 ヴィンセントは今の今まで、クレアに作ってもらった武器が欠けたところを見たことがなかった。


「……さぁ、次はこちらの番だ!」


 ロアンはヴィンセントほどの機敏さはない。その代わり、ジックリと耐える忍耐力と、重い剣を振り回せるだけの腕力がある。


 互いに万全ならロアンはヴィンセントを追いきれない。しかしスタミナの切れたヴィンセントはあっさりとロアンに距離を詰められた。ロアンは剣を横に薙ぎ、ヴィンセントはそれを剣を縦にして受け止める。


「駄目です! ヴィンセント様!」


 金属には打ち(がね)と呼ばれるモノと凌ぎ(がね)と呼ばれるモノがある。

 打ち鉄は打ち込みに向いた金属。軽くて面が粗く、相手の武器を削ることに向いている。

 凌ぎ鉄は防御に向いた金属。重くて面が繊細で、受けた衝撃を分散する。


 ヴィンセントの剣には打ち鉄が使われている。受けには向かない。

 ヴィンセントの剣とロアンの剣が重なった瞬間、ヴィンセントの剣にヒビが入り、あっという間に剣は砕ける。


「なに!?」


 ヴィンセントの剣を砕いてもロアンの剣は勢いを失わない。そのままロアンの剣はヴィンセントの脇腹を捉えた。


「体で覚えろ。これが……アイツの剣だ!」 


 バギ!! と鈍い音と共に、ヴィンセントは壁までぶっ飛ばされる。


「がは!!」


 ヴィンセントはそのまま白目を剥き、気を失った。


「武器破壊及びクリーンヒット……よって、勝者はロアン&クレア!」


 ワアアアアアアア!! と歓声が上がる。 

 喜んでいるほとんどの生徒がクレアやロアンと同じ六等貴族だ。


「うっそ! ホントにあんな重い剣で勝っちゃった!」


 クレアは勝ったのに信じられないという顔だ。なぜならロアンに作ったのはヴィンセントならば振り上げることすら困難な重量の武器。


 ロアンはスカした表情で、


「これでも(いささ)か軽いぐらいだな」 


「……ご、ゴリラ並みの筋力」


 パチパチパチと、拍手の音が2人の会話を引き裂く。



「素晴らしいですわ。ロアン」



 そう言って近づいてきたのはエヴァリーだ。


「……何の用だ?」


「あなたの剣技、しかと拝見させていただきました。いいでしょう、あなたとのパートナー契約、再契約してあげますわ」


 エヴァリーはさっきまでの出来事がなかったかのような笑顔で、右手を差し出した。

 ロアンはエヴァリーの右手をジッと見つめ、最後に呆れたように笑った。


「失敬、エヴァリー殿。その話は受けれませんな」


「どうしてですか?」


「この小娘の方があなたより優れた剣を作るからです」


「ふふ……ロアン、あなたは知らないようですね。彼女は武具の錬成は確かに錬金術専科(アルケミストクラス)の中でも上位。しかし、それ以外はすべて赤点ですのよ」


 ロアンが無言でクレアを見る。

 クレアは「えへへ」と苦笑いする。


「好きなことは頑張れる子なのですが、嫌いなことは頑張れない子でして……」


「なるほど。錬金術の腕で言えば良くて同等かも知れませんな。しかしエヴァリー殿、あなたは言っていた。実力が同じならより位の高い方を取ると」


「ええ、そうよ」


「俺も似たような感覚を持っているのですよ」


 ロアンはクレアの側に立つ。


「実力が同じなら、より()の良い方を取る」


「……なんですって」


「尻の軽い女は嫌いでね」


 エヴァリーはロアンとクレアを交互に睨み、背を向ける。


「……後悔しますわよ」


 そう言い放ち、エヴァリーは去っていった。


「ちょっと! 負けたんだからロアンに謝罪を……」


「もういいさ。気は晴れた」


 ロアンは満足げに笑った。

 それならいいか、とクレアも引き下がる。


 こうして決闘は終わった。



 --- 



「本当に良かったの?」


 他に誰もいない渡り廊下で、クレアはロアンに言う。


「なにがだ?」


「エヴァリーとパートナーにならなくて。私は別に止めなかったけど? その……結構、好きだったんじゃないの?」


「……くだらん邪推(じゃすい)だな」


 ロアンはクレアの方を向き、片膝をつく。


「クレア=シーフィア。改めて頼みたい」


「な、なによ」


「俺と、パートナーになって……星級(ステラランク)を目指してほしい。お前となら、俺はあの空に届く気がするんだ」


 ロアンは頭を下げたまま上げない。

 その様は、一国の姫に、忠誠を誓う騎士のようだ。


「べ、別に……断る理由はないわ。あなたとなら、私も星級(ステラランク)になれると思う。私の方こそ、お願いしたい」


 クレアは右手を差し出す。


「私と、パートナーになってください」


 その言葉を聞いたロアンはクスりと笑い、そして――クレアの右手を包み込むように掴んで引き寄せ、右手の甲に口づけをした。


「え?」


 クレアの顔が真っ赤に染まる。


「うえええええええええええええええっっっ!!? ちょ、ちょっといきなり何を!!?」


「やれやれ。この程度で顔を赤く染めるとは……やはり子供だな」


 ロアンは立ち上がり、余裕の表情でクレアを見下ろす。


「俺のパートナーになるのなら、この程度のおままごとでいちいち動揺しないでほしいな」


「かっ……! こんの、筋肉ゴリラが!!」


 クレアはドロップキックの助走を取る。


「なっ! お前、また!!」


「くらえ! この!」


 ロアンはドロップキックを紙一重で躱す。


「くそ! なんて品のない女だ!」


「うるさいバカ! おとなしく制裁されろ!」


「断固拒否する!」


 昼下がり。

 誰もいない渡り廊下に、2人の喧騒が響き渡る。


 廊下に飾られた女神像が、穏やかな表情で2人を見守っていた。

【読者の皆様へ】


異世界恋愛はじめて書きました!

この小説を読んで、わずかでも

「面白い!」

「続きが気になる!」

「もっと頑張ってほしい!」

と思われましたらページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださると自信になります。

面白くなかったら★1つでもいいですし、押さずに閉じても全然かまいません。

よろしくお願いいたします。


【12月11日追記】

好評につき連載版予定してます!

続報は活動報告にて。


【12月16日追記】

12月18日に連載版はじまります!

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― 新着の感想 ―
[一言] 珍しい設定で面白かったです。
[良い点] 勢いがあって、とっても面白かったです!(-^〇^-) この二人の関係が、恋や愛に育っていくところ、ステラを掴むところを読みたいです!
[一言] この二人なら、なんやかんやいいつつ、あれこれぶっ飛ばして視界をクリアにしていきそう。(笑) 青空の似合う二人ですね。彼らの成長?していく様子を、じっくり読みたいです!
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