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三題噺もどき

なれない

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくはちじゅうご。

 お題:雨降り・背伸び・馬車



 朝晩が本格的に冷え込むようになり。

 夏の喧しさが鳴りを潜め。秋の鈴やかなうるささが訪れる。

「……」

 外は秋とは思えぬ暑さだが。昼間は未だに暑いのだ。

 それでもあの虫がいないだけで、暑さが和らぐようなきがするのは私だけだろうか。あれの音がするだけで、暑さが増すのは私だけだろうか。

「……」

 まぁ。今は。

 そんなことどうでもいいのだが。

「……」

 ホント。

 ホントのホントに。心の底から。

 どうでもいいのだが。

「……」

 しかしたしかに。

 どうでもいいことはどうでもいい事であって。

 どうでもいいことでしかなくて。

 それ以上でも以下でもなくて。

「……」

 だから。

 どうでもよくないことに。

 あっさりと塗り替えられるし。

 そちらに思考は傾く。

「……」

 傾いて。

 傾いて。

 沈んで行って。

 そのことしか考えられなくなって。

 どうでもよくない事で頭がいっぱいになって。

「……」

 何せ昨日の今日の話なもので。

 それのせいで、寝不足というのもあるし。―帰ってから一睡もしていないから。

 思考はさらに加速して傾く。ずぶずぶ沈んでいく。

「……」

 昨日。

 そう、昨日。

「……」

 楽しい。嬉しい。

 幸せな一日になる

 ―はずだった。

 昨日。

「……」

 何があったかなんて。思いだしたくもないが。

 ちっとも思いだしたくなんてないが。

 それでも、傾いた思考は。

 それをひたすらに繰り返していく。あの記憶をただひたすらに。

「……」

 昨日。

「……」

 昔からの幼馴染と遊びに行ったのだ。

 長年の付き合いで。大人になって社会に出るようになっても。お互いに連絡をとったり、遊んだりするような。そんな仲で。

「……」

 ここ最近はお互い忙しくって直接会う事はなかったから。

 昨日。

 久しぶりに時間が合って。会う事が出来て。―もしかしたらその時点で話したいことがあるぐらい言われていたのかもしれない。浮かれていたなぁ。

「……」

 ご時世もご時世だったものだから。“最近”といっても数年のレベルだ。

 だから。ホントに、久しぶりで。

「……」

 久しぶりに2人っていうのに。浮かれてしまって。

 らしくもなく。

 背伸びをしたような、服を着て。あの子に会うのだから。ほんの少しはと思って。そんなことをして。

「……」

 待ち合わせ場所で、久しぶりに声を聞いたときの。なんと嬉しかった事か。

 最近は電話も控えていたから。

 ちゃんと会話をしたのが、妙に嬉しくって。

「……」

 それから。

 2人で。

「……」

 ウィンドウショッピングをしたり、久ぶりにお揃いのものでも買おうかとか楽しんだり。

 一日中満喫した。

 大人らしくもなく。社会人らしくもなく。まだ幼かった頃に戻ったような気持ちで。それだけが。とてもとても幸せに想えて。嬉しくって。

 世界一の幸せ者だと思った。

 ―このまま死んでもいいとさえ。

「……」

 ホント。

 あの時のあのままの気持ちで。

 死ねたら。

「……」

 一日のおわり。

 2人で。ごはんを食べた。

 少しおしゃれな落ち着いた雰囲気のお店で。

 ある程度の食事が終わったあたりで。

 そこで。

 ふと。

 あの子が、口を開いた。

『――あのね、』


 そこから先は。

 どうだったか。

 私はちゃんとしていただろうか。

 あの子に、彼女に、ちゃんと。おめでとうと。言えただろうか。

「……」

 気づけば。

 彼女と別れて。

 帰路についていて。

 いつの間にか降り出していた雨に打たれていて。雨降りのなか、ただ茫然と歩いていて。

 ぐっしょりと濡れたまま。

 部屋に入って。

 床に座り込んで。

 ただぼうっとしてしまって。

「……」

 分かっていたことなのに。

「……」

 わたしじゃ。あの人の。白馬の王子様にはなれない。

 そういう対象ですらない。ただの友人の私には。

 できない。

 なれない。

「……」

 いつのまにか。

 彼女は。

 あの子は。

 かぼちゃの馬車に乗って。

 王子様と結ばれた。


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