二周目以降という疑問
恋をするのは自由だ。
しかし、相手は選んでほしい。本当に、なんで、そいつだ。
「ヒロインちゃんが、二周目の件について」
がっくりとうなだれるどころか、ソファに突っ伏して、お行儀が悪いとヴィリジオ様に嗜められました。
ちゃんと態勢を直したらよろしいと言いたげに頷かれる。うちの婚約者いろいろ厳しい。いや、私が緩すぎるのだろうけど。
今日はヴィリジオ様のお宅にお邪魔している。予定にはなかったけど予定があったから。幸い家にいてよかった。まあ、大体、家か職場か近所の食堂にいるけど。
お気に入りのソファ二人掛けに一人で座っていたから突っ伏すことができる。わりと隣に座っていたヴィリジオ様は、先日より対面にしか座らなかった。
距離感を感じると訴えたら、距離感が欲しいと言われた。
なにか、溝がありますか!? と思いつつソウデスカ―と流した。少し避けられた?と思わなくもないが他はいつも通りなので、やっぱりよくわからないうちの婚約者。
「それで二周目だと思った理由は?」
「彼、つまり、ローが出てくるのって二周目以降だったんですよ」
「ローというのは、確か、最終的撃破目標」
そのローが誰かということは以前も話したことだし、資料にも書いてあったのでヴィリジオ様もすぐ思い出してくれた。
ただ、ラスボスをそう呼ぶのはどうなのか……。
三日前に家業の手伝いをしていたら、いきなりラスボス様の来店で私の心臓は止まるかと思いました。
爵位が欲しいとかいいだすとかなに!? と思ったら、好きな子に求婚するためとか。
ヒロインか。ヒロインなのか。と疑いながら、情報取集したところ、やっぱりウィンディ嬢だった。
いったいどこで知り合って!? というところだが、ローの世を忍ぶ仮の姿は猫だった。どこかで猫として知り合ったのだろう。
というわけで、この世界は二周目以降であるらしい。
ヴィリジオ様は首をかしげている。
「他に理由は?」
「他にも違いはあるんですが、そこが一番違うところなので」
「ふむ。だが、この世界が二回目以上か、現実に存在しうるからゲームの規制を超えたことになったかは観測できない」
「その通りでございます」
「ならば、その二周目のことを今からでも考えに入れればいいだろう」
「それが、ちょっと困ったことになると思うんですよ」
「今でも十分困ったことになっているが」
「追加で、悪役令嬢が出てくるんですよ」
怪訝そうな表情で見られた。この世界にはない造語だから。劇などで振られる悪役は男性で女なら悪女役と言われる。あるいは単純に悪人役。そういう場合を除き普通の会話などで悪役がと言われることはあまりない。
悪口で言われることはなくもない、程度だろうか。
その悪役で、令嬢、わからないだろう。
「ゲームシステムで言うと一周目はチュートリアル、つまりはこの話はこんな感じですよとさらっと流して行くところですね。本格攻略やスチル集めが本格化するのは二周目以降。
難易度もあがります。その難易度上げに貢献するのが悪役令嬢といったところです」
「なにをするんだ?」
「恋の邪魔、ですよ。
ヴィリジオ様の場合には僭越ながら私がします」
「そうならないだろう」
即答だった。むしろかぶり気味だった。
珍しい。
まじまじと見ればヴィリジオ様はふいっと別のほうを向いてしまった。あ、照れた。
「ローの場合にはちょっと面倒なことになったと思うんですよ。
元々は攻略キャラに入れない予定だったのか、ランダムで選ばれるんです。
私じゃないけど、他の誰だろ」
「悪役令嬢が発生しない可能性だってあるだろう」
「そうだといいんですけど、該当者にあたっておきましょう。
せめてもっと昔から記憶があれば対処しやすかったのに」
ぼやいても仕方ない。
「さて、午後からはお仕事ですよね。ついていきます」
「忙しくはないのか?」
「今日は父とローが、お城に行って陛下と謁見となってますが顔みせ程度です。
問題が起こるはずはありません」
ヴィリジオ様は少しばかり難しい顔です。
「そういうときには、問題が起こるものだ」
「嫌な予告いらないですよ」
そういわれると心配になるじゃないですか。
その日のうちに嫌な予感のフラグは回収された。
王家のお姫様、つまりは、私の天敵が、ローに一目ぼれしたそうだ。
「恋する相手は選べ」
これに尽きる。ローは王家に恨みを持っている怨霊だ。お姫様なんて消えて欲しいくらいに不要だろう。
そして、陛下が、その場でローに婚約を打診していることも許しがたい。そういう甘いところが、悪いんだよ。陛下。
ローが恋する相手がいると断ったのは良いことだろう。爵位を理由にしたら、休眠している王家保有の爵位を与えられたに違いない。
そうなったらバッドエンド一直線。国の滅亡へ向けてのカウントダウンが始まる。
もういっそ、王様挿げ替えようかな……。父も時々、あいつダメだと言う顔しているし。
おそらく、ウィンディはやる気になっている。もちろんローもだろう。その場でブチ切れなかったことを褒めたいレベル。
腹をくくるしかなさそうだ。私の幸せと婚約者の生存のために。
こうして、私は反逆への道を歩むことになった。
どう考えても乙女ゲームじゃない。しかし、ここは現実だから致し方ないだろう。