サーファーの恋人
車の中でただじっと海と空を眺めていた。
彼はもう4時間戻って来ない。
トイレのない砂浜の上で、彼を待ち続ける。
彼のほんとうの恋人は私ではない。
波が彼の恋人。
調子よく波に乗れた後には、いつもの1000倍は優しくなる。
だからいつも許してしまう。
私は海が嫌いになった。
でも彼の前では『好きだ』と言って微笑む。
彼のせいで海が嫌いになってしまった。
嫉妬したところで勝ち目のない雄大さを眺めながら、缶コーヒーを飲む。
今日は一緒に服を買いに行ってくれる約束だった。
そういう時に限って彼女はやって来る。
「明日にしない? いい波が来るんだ」と言って、彼は彼女に会いに行った。
彼を奪われた私は車の中で1人待ち続けている。
これを『無駄な時間』だとは思わない。
だから無駄な時間を利用して何か有意義なことをしようなどとは思わない。
これは彼を待つための時間なのだ。
彼が波を待つように、私はじっと意識を集中して、彼を待ち続ける。