第23話
お久しぶりです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
ログインしたら執筆中の小説が一話ありましたのであげておきます。
「おはよう、レティ」
「……お、おはようございます」
剣技をして、心を整えたはずなのに……彼の顔をみたら、あっという間に動揺してしまう。顔は熱くなってしまうし、心臓がばくばく鳴っている。気づくと反射的に顔を背けていた。無意識に表情に出ていないか心配になったのだろう。彼といると安心する……はずだったのに、今は隣を歩くだけで緊張し、ぎこちなくなってしまう。
「レティ、右手と右足一緒に出てるよ」
ふふっと彼が笑う。その顔も愛おしくて、私は顔が緩んでしまいそうになり、ばちんと頬を叩く。
「レティ!? 何してるの!? ……頬が赤くなってる」
彼が私の頬に触れる。……頬が赤いのは叩いたせいなのか……ルーカス、のせいなのか。
「……ル、ル、ルーカス、……は、離して」
「……レティがルーカスってっ……ふふっ、しかも、照れてる……可愛すぎる。……レティ、僕のこと好き?」
彼がお得意の上目遣いで聞く。
「……昨日散々言ったじゃないですか」
「……そうなんだけどね、毎日聞きたいんだよ。……レティが誰にも心移りしないように」
「しません」
「……まぁ、僕もそうならないように、君に近づく男は徹底的に排除するけどね」
そう言うと彼は私に笑顔を向ける。排除……物騒なことを笑顔で言わないでください。それに……彼ならただ単に排除するだけでは済まさないだろう。きっと………想像するのはやめておこう。
「……今の所、一番危険なのは父さんと母さん何だよね。レティと言葉を交わすことも多いし……」
義理父様と義理母様も対象なんですね? ルーカスのご両親はもちろん大好きですけど、彼への好きとは全く違う種類です。
「未婚者の使用人や騎士はレティに近づけないようにしてるけど……レティの魅力だと、結婚してても危ないよな」
王城の男性の使用人は確かに平均年齢が明らかに高かった。長年のスキルが必要なのだろうと思ったのだけれど……どうやらそう言った理由ではないようだ。騎士も私の周りには女性が多い。女騎士の少なさは騎士に混じり何度も練習していた自分が一番わかる。考えてみれば、男騎士も若くて三十代後半。その人は、いかにも、いい父親感の溢れる人だった。
……流石、ルーカス。
でも、そういえば、彼は違う。
「……テオは別なんですね」
「……テオ?」
彼は異性関係が複雑そうだ。女性慣れしていそうな口調と表情の作り方だった。なにより、自分で女性にモテると言っていた。そんな人をルーカスが護衛につけるなんて……と少し不思議に思う。……直接剣を交えなければわからないが、身の振り方からは相当な実力者だと伺えた。騎士というよりは……機敏さや身の軽さは密偵に近いような感じがする。彼のような優秀な人材はなかなかいないだろう。性格は難有りそうだが、王家が重宝している人物なのかもしれない。
「……だれ? 男? ……レティ、もう、浮気? ねぇ……教えて? ……レティが名前を呼ぶなんて……ミアは百歩譲って許したけど、本当は僕の名前しか呼んでほしくないんだ。……僕もレティの名前しか呼ばないから。……ねぇ、レティ」
流石に王城にいる膨大な数の使用人や騎士ひとりひとりの名前をルーカスが覚えているわけがない。少し考えればわかることだ。テオの名前も覚えてはいないようだ。彼も久しぶりに名前を呼ばれたと言っていたから、この国では雇い人のことを名前で呼び合うことはしないのかもしれない。
……名前を呼ぶこと。名前を知ること。公爵家ではそれは当たり前のように行われていた。
「ルナ、そのお花綺麗ね! シーナ、掃除お疲れ様! アルド、これ、兄様に持っていってくれるかしら?」
「「ありがとうございます、レアナ様!」」
「かしこまりました、レアナ様」
可愛らしい声で、可愛らしい笑顔で使用人に声を掛けていくレアナが羨ましかった。
「メリーが結婚するんですってね、お母様!」
「ええ、あの子は長く勤めてくれていたから少し寂しいわね」
「……はい、でも、きっと幸せな奥さんになりますよ!」
「えぇ、あの子は美人で気が利くから」
「退職祝いに何をプレゼントしましょう?」
「そうねぇ、何がいいかしら」
お母様とレアナと三人で……いや、私は空気みたいなものだったから、三人と言えるのかわからないけれど。……お茶をしたときの使用人についての話題に付いていけなかったのを思い出す。……私もメリーに祝ってあげたかったけれど、メリーが誰なのかわからなかった。公爵家にいた使用人の顔は全員思い出せる……けれど、名前は……一人もわからなかった。
「……公爵家では、私、家族の名前しか知らなかったんです。……何年か世話をしてくれた侍女の名前もわかりません。……母や……レアナはいつも使用人を名前で呼んでいたんです。……私も、心の何処かで……憧れていたんだと思います。も、もちろん、ルーカスのことは、たくさん名前を呼びたいです! ……でも、出来れば……他の使用人の方や騎士の方とも、仲良く……なれたらなって。来たばかりなのに……図々しいですかね」
私は眉を下げ少し笑う。そんな私を見て、ルーカスがため息をつく。……まだ数日しか立ってないのに、仲良くなりたいだなんて……呆れられたのだろうか。それに、使用人や騎士達は仕事をしているのに、私が馴れ馴れしくすれば邪魔になるから心配しているのだろうか。
「……あの、」
「……レティ、優しすぎ! 女神? 絶対女神の化身だよね? もう、本当に困るんだよ。こんなに優しいと、誰かが自分に気があるのかもしれないと勘違いするかもしれないでしょう? 僕だって、レティの写真と目が合うだけでレティが自分を見てくれているんだと思っちゃうんだよ? それなのにリアルのレティに名前を呼ばれて仲良くしたいだなんて……僕も使用人や騎士に混じっていれば、『ルーカス、いつもありがとう』……なんて言われるのかなぁ!?」
「……ルーカス、いつもありがとう」
「っ!?(声にならない叫び)」
「これくらいならいつでも言いますよ? 実際にそう思っていますし」
「ルーカス、愛してる……も?」
「……ル、ルーカス、……愛してる」
「っっっっ!?(声にならない叫び)」
せっかく心が落ち着いたと思ったのに、愛してる……なんて、慣れない言葉にまた恥ずかしくなってしまう。お互い顔を真っ赤にして立ち尽くす。早く朝食を取らないといけないことはわかっているのだけれど。
「……ふふっ愛してるですって! 朝から熱々ね♡」
「……まさか、レティシアがルーカスに……これはルーカスの夢の中に紛れ込んだわけじゃないよな?」
「……っ義理母さま、義理父さま!?」
後ろから声が聞こえ、振り向くと、腕をくみ、ピッタリとくっついてこちらに笑顔を向ける美男美女が……
「おはようございます、母さん、父さん。そして、邪魔しないで下さい」
「あらぁ、廊下で堂々といちゃつくのが悪いのよぉ」
「まぁまぁ、ルーカスの積もりに積もった愛が溢れ出てしまうのは仕方がないさ」
「ふふっ、まぁ、レティシアちゃんもルーカスのことを愛してるみたいだけど!」
「……っ義理母さま!!」
義理母さまは口角をきゅっと上げ、揶揄うように笑う。私は彼の両親に聞かれるとは思っていなくて慌ててしまう。……それに、私はルーカスをちらっと見る。
……昨日、キス……したんだもん。……結婚する前に。……もし、義理母さまと義理父さまにバレたら……
私は気を引き締める。そして誓う。王様と王妃様が大切にしている、婚前の王子を私も大切にしなければと。もちろんルーカスのことは何よりも大切だが、……恋愛的に好きなので、私も女性としての欲求が湧いてきてしまう。
……我慢しなきゃ。
昨日は雰囲気に呑まれてしまったが……結婚前に、性行為はしてはいけないと昔習った。……男性は生理的にそういう情が出てきてしまうのは仕方がない。……だから、女性が嗜めなければいけないと習ったのに……
……私が、欲求に流されてどうするの!
……でも、ルーカスを拒むなんて……出来そうにない。しゅんとした彼の顔を見ると辛くなってしまうし、強引な彼には……身を任せたくなる。彼の満足そうな顔は、愛されていると実感出来るし……キスした後の少し呼吸の乱れた彼は……
「……ティ……レティ?」
「ひゃいっ!」
「……ふふっ……また自分の世界に入ってたでしょ?」
「……す、すみません」
私は考えていた内容が内容なだけあって、後ろめたくなり、俯くと、彼の顔が近づく。表情を読もうとしているのか何なのかわからないが、今はやめてほし……
「何……考えてたの?」
彼の低い声が耳のすぐ横で鳴り、耳に温かい空気がかかると、お腹の下のあたりがきゅっとする。よくわからない感覚に少し力が抜ける。
「レティ、大丈夫!?」
「すみません」
「……レティシアちゃんには刺激が強すぎるわよねぇ」
「ルーカス焦り過ぎも良くないぞ」
「……レティごめんね」
恥ずかしくて、恥ずかしくて仕方がない……穴があったら入りたい。
「……ふふっまぁ、とりあえず、朝食にしましょう?」
「そうだな、朝食は冷めるといけない。お前たちは熱々なままでもいいけどな」
「私達も、でしょう?」
「ははっそうだな」
そう言いながら歩いていく、義理母さまと義理父さまに付いていく。ルーカスが肩を支えるので、熱は冷めないままだった。
***
「……なんとかして、いつも通りの私を取り戻さなければ……」
朝食中も散々だった。彼を見れば、変なことを考えてしまい、スープを零すし、スプーンやフォークは何度も落す。空のコップを持ち空気を飲んでいたり、クロスに染みを作ったり……。終いにはトマトを義理父さまの顔に……つまり、国王様の顔に飛ばしてしまう始末。
「……幼児でもあんな失敗しないわ」
……これじゃあ義理母さまにテーブルマナーのレッスンをするどころじゃない。むしろ、私が一から始めなければならない。これ以上、失態は許されない。
私は酷く落ち込む。……やはり、私は出来損ないなのかもしれない。ここ数日は今まで蓄積されたスキルが残っていたが、ここにいる優しい人たちに甘え、努力を怠っていたから……。ここに来て、たくさん褒められて、自分はあの優秀な人たちがいる公爵家に生まれたから……出来損ないに見えるだけなんじゃないか。そんなふうに少し思ったこともあったが、そういうわけではなかった。本当に私が能無しなだけだったと痛感する。
「……頑張らなければ」
……捨てられる……ことはないと思う。優しいから。彼も、彼の両親も、ここで働く人々も。……でも、
「……大丈夫。……頑張っていれば、また、もとに戻るはず……」
もとに戻る───感情がないあの頃に。……それは、嫌だ。……でも、あの頃くらい頑張らないと、私は……きっと幻滅されてしまう。彼の隣に立てる女性にはなれない。今、寝ずに勉強して、倒れそうになるまで剣技をしたら……きっと止められるだろう。心配してくれる人がいるから。特にルーカスは「レティは僕の側にいてくれるだけでいいから無理しないで」なんて言うだろうな。
「……でも、それじゃあ、だめ」
だから、誰にもバレないように、頑張るんだ。彼にも甘えないようにしないと。……別に努力しなければいけないのは今に限ったことじゃない。今までもやってきたことだし、これからもやらなければいけないことだから……。私はふいに立ち上がり、鏡の前に行く。
「レティ可愛い」
「お嬢様、本当に綺麗です」
「まぁ、レティシアちゃん、美しいわぁ!」
そんなふうに言ってくれて、勘違いしていたけれど、
「……やっぱり、私は私だ」
鏡に映るのは、以前と変わらない無機質な人形だった。
変わりたかったけれど、結局、変わってはいなかった。恵まれた優しい環境に来ただけ。私自体は変わっていない。むしろ、当たり前のことが出来なくなった。私は、何故かどん底に突き落とされた感覚に陥る。しゃがみこむと、息が少ししにくくなる。
「……苦しいなぁ」
……幸せを知ったぶん、それを失うのが怖い。失わないために───
「……お嬢様? 大丈夫ですか?」
「大丈夫。……やる気を出していただけよ」
「……そうですか。何かあったら言ってくださいね?」
部屋に入ってきてすぐ私のことを気遣ってくれるミア。……本当に優しい。
「ありがとう」
次話は気長にお待ちくださるとありがたいです!




