第22話
レアナ視点です!
いつもより短いです
父が再び私に目を向ける。
「……レティは……あの男に……一ヶ月弱監禁されていた。……あいつがレティを……!」
父は怒りを抑えれず、殺気を放つ。私が結婚式を壊したときでさえ、ここまで怒りはしなかったのに。今まで見たことのない父の姿に恐いと思ってしまう。握りしめた拳からは一筋の血が流れ、ぎりぎりと歯を食いしばっている。
「……あのクズは自分の屋敷に地下牢を作り、そこにレティをっ…………私達が見つけたときのレティは…………小さな腕や細い足は鎖で繋がれ、赤痣や青痣がくっきりと線を作っていた……それ以外にも、打撲や切り傷が体のいたる所にあった。………助けてと……叫び続けていたんだろう……声が出せない状態で、息をすうだけで喉がひゅーっと音を立てていた。……やせ細り、脱水と栄養失調になっていた。……医者にはあと少し遅かったら命はなかったと言われたよ」
父はなるべく思い出さないようにしているのか、無表情で無機質な声でそう言う。しかし、声は震え、所々言葉を詰まらせる。
私の頬を一筋涙が伝った。直接見たわけではないが、想像するだけでも……酷い状態だったのだろうと思う。とても非人道的な行為をしたその男に抑えきれない怒りを覚える。
姉様に、なんて酷いことを……!
「……レティは、幸いなことに、起きると全て忘れていた。……何もかも。自己防衛本能が働いたらしい。幼い子には……いや、幼くなくても、あまりにも酷な状況に置かれたのだから。……私のせいで」
私は父に何と声を掛ければ良いのかわからず、目を逸らしてしまう。
「……レティには、あの酷な記憶を思い出させないように……そして、二度と同じ過ちを侵さないようにしようと……私達は誓ったんだ。……まだ幼いレアナやレオン王子に話せば、口を滑らせレティにあの時のことを思い出させてしまうかもしれないと思い、……ずっと隠していた。……すまない」
「……そうだったんですね」
私は俯く。両手の拳を握り身体を震わせる。……もし……私がレオン王子と姉様を……監禁していたら。
……姉様は壊れてしまったかもしれない。
私の心臓がばくばくと脈打つ。とんでもないことをしようとしていたんだ。……あの、男のように。人間から外れた、自分の欲のために……姉様を……。
……ルーカス殿下に感謝しなければならないわ。……本当に、何もかも。
そう思い、やはり、姉様に見合う人物は彼しかいないと感じた。
……姉様に剣技をさせていたのは、自衛のため。……厳しくし、感情を抑えさせ……姉様を人形のようにしたのは、魅力を少しでも減らすため。そして、レオン殿下と結婚させようとしたのも、姉様の身の安全のため……
私は自分の不甲斐なさを実感する。何が姉様のため……だ。父も、母も兄も、姉様のためを思って……姉様を守るために……苦渋の決断をしたのだ。たとえ、自分たちだけでなく、姉様を苦しめてでも。
「……その、姉様を監禁した人は……どうなったんですか?」
「……国外追放になった。殺したかったが、相手が侯爵家の息子で……親は既に息子を見捨てていたが、あの男、質が悪くてな。……記憶がないと主張し続け、目撃者もいなかったため、証拠が不十分だと……死刑にはならなかったんだ。二度とこの国の地を踏ませないという約束で侯爵家と話がついた」
「……だから、姉様を国外に出さなかったんですね」
「あぁ……地獄に落ちていればいいんだが」
国外追放。……ということは、隣国にいないとも言い切れない。
「……周辺国の王は機密情報としてレティの事情を知っている。特にアスラン家とは前から交流があったから……レティを丁重に扱ってくれるだろう。……信頼は……しているつもりだ。……しかし、それでも不安なんだ。……また、私の選択で、レティを傷付けてしまったら……」
父の自信なさげな声でそう言い、くしゃくしゃに顔を歪める。
「……父様。もし、強制的にこの家に姉様が戻したら、また同じことの繰り返しです。いえ、今まで以上に辛い思いをさせてしまいます。もう、姉様は人形ではなく、ルーカス殿下と出会ったから。……臆病になる気持ちはわかります。私も……姉様には傷ついてほしくない。でも、傷つかなければ、それでいいわけではありません。ただ、生きる意味もなく生かされているだけならば……それは、死ぬことよりも苦しいことかもしれません。……悪く言えば、永遠に監禁されることと同じですから。自由になれなければ……幸せになれなければ……姉様を不幸にするだけです」
私は、落ち着いて父と向き合う。……父は涙を流しながらも、私の目をしっかりと見て頷く。
「……ありがとう。レアナ。…………すまない。レティ」
「……それは、ちゃんと姉様の顔を見て言いましょう。きっと彼が守ってくれるから、もう、私達も我慢する必要はないんです。ちゃんと、大好きだって言ってあげましょう……っ」
気づけば、私も涙が止まらなくなっていた。
公爵家の者は一晩、レティを思って涙を流し続けた。
***
陽の光の入らない薄暗い地下部屋。ろうそくの炎が小さく辺りを灯らす。薄茶髪の三十後半の男は、歳に見合わない幼い口調で男によく似た焦茶髪の険しい顔の男に話しかける。
「ふふっ、レーティーちゃん、あぁ、大きくなっていたなぁ。天使みたいなレティちゃんが女神のようになっていたなぁ! 叔父さんにも見せてあげたかったよ。本当にあの人に似ていたよ?」
「……そうか。それは、早く見たいものだね。早く連れてきてくれ。準備は整ったんだから」
「まさか、自ら僕の近くに来てくれるなんて、本当に運命だよねぇ」
「ははは、そうかもな」
「あぁ、あの赤い瞳に僕を映してくれ! あんな男ではなく、運命の相手である僕を!」
「……お前がレティシア・マーティンを好きになるなんて……血は抗えないな」
「あははっ、そうだね。叔父さん〜、誘拐監禁なんてだめだよ?」
「お前に言われなくないな。私は女性を誘拐したが、お前は小さな子どもを誘拐した。お前の方が重症だな」
「何言ってるの、年齢は関係ないよ。僕はレティちゃんだから誘拐したんだよ。レティちゃん以外には何もいらない。叔父さんもそうでしょ? あの人だから、でしょ?」
「……あぁ、彼女だから、だったよ」
「……そろそろ、あいつが帰ってくるかなぁ、ふふっ、あぁ、レティちゃん、愛しの君よ、早く僕のもとへ戻っておいで!!」
「はぁ、私は先に上に上がっているぞ」
「はーい」
一人地下牢に残った男は用意した、彼女を繋ぎ止めるための鎖を手に取る。指先にひんやりとした感触が伝い、彼は酷く興奮する。そして、顔を歪めニタリと笑う。
「……レティちゃん……レティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃんレティちゃん…………………愛してる♡」
※監禁した男は気持ち悪い人を想像してください(一応、太ってはないけど気持ち悪い設定)




