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第18話

「……レティ、寂しいけど、またあとでね」


「……はい。ルーカス様は引き続きがんばってください」


「数時間の辛抱だろ、情けないなぁ」


「……あなたも若いときは私が離れると寂しいって抱きついてきたものですよね」


「ああ、今だって寂しいさ。机の上に結婚式の時の写真を置いてるから我慢できるものの」


「ふふっそうね」


「僕もレティの写真を……」


「やめてくださいね」


義理父さまと義理母さまの仲睦まじい姿を見て、羨ましく思う。私達も……こんな夫婦になれたらいいな。彼を見るとしゅんとしてこっちを見ている。私が手を伸ばして彼の頭を撫でると彼は私の背中に手を回し、抱きしめる。そんな私達をみて、彼の両親が言う。


「ああ、本当にレティシアが来てくれてよかった。もう、孫は見れないだろうと思っていたからな」


「そうね、レティシアちゃんじゃなきゃ結婚どころか身体を交えるのも嫌だと言っていたものだから。養子を連れてこないといけないと本気で考えていたのよ」


彼がずっと一途に私のことを思い続けてくれていたことを知る。一体何故なのだろう。そういえば、彼から好き……とはよく言われるが、好きと言われるタイミングがよくわからない。また、私のどこを好きなのかは聞いたことがない。


「レティシアちゃん、そろそろ行きましょうか」


「……あ、はい」


後で聞いてみよう。


「明日もよろしくなレティシア」


「……レティ、終わったらすぐ会おうね」




***




手入れを施され、綺麗に形どられた緑の植木。バラやダリア、コスモスなど、この時期に咲く花が白や桃色で統一されている。花の鑑賞など無意味なものだと思っていた頃もあったが、とんでもない。この庭園ならどれだけ見ていても飽きないだろう。


……ルーカス様と、二人でここを歩きたいな。


さっきは何ともないふりをしていたが、実は私も少し寂しかった。……ずっと彼と一緒にいれたらいいのに。そんなことを言えば、彼は本気でずっと一緒にいよう。と言い出しかねないので言わなかったが。


義理母さまは色んな話をしながら庭園を歩いていく。思い出話がほとんどだ。義理母さまと義理父さまの馴れ初め話や、ルーカス様の子供の頃の話。笑顔で楽しそうに語る彼女を見ていると、本当に家族のことが大好きなのだと知る。


……お父様とお母様は私の話なんてしないのでしょうね。


父と母は私のことは好きではなかったようだが、他の家族のことは溺愛していた。母はよく父にキスをしていた。他にも兄の頭を撫でたり、妹と手を繋いで出かけたり……しかし、私にはそんな記憶は一切ない。物心ついてからというもの、彼女に触れた回数は両手で数えられるくらいしかない。それに比べて、ルーカス様や義理母さまは私にたくさん触れてくれる。


ずっと私が可愛くないから、出来損ないだから……嫌われて当然だと思っていたが、さっき執務室でも、たくさん褒められた。考えてみれば、テストや成績、何かの大会ではずっと一番だった。マーティン家の私以外の人間が優秀すぎたり、美しすぎたりするだけで、私は自分なりには頑張っていたはずだ。人には向き不向きがある。父や兄は領地や剣技の扱いに長けていて、母や妹は女性としての嗜みに長けていた。両方を私に課すから悪いのだ。


思い出すと辛くて、苦しくて、自分をどうしてもせめてしまっていたが、今はそうではない。私は何も悪くないのだと考えられるようになった。ルーカス様が「レティは何も悪くない」いつもそう言ってくれるからだろう。何でもかんでも人のせいにするのは悪いことだが、精一杯頑張ってもだめだったのなら、相手が悪いと少しくらいは思いたい。それくらいは許してほしい。


「レティシアちゃん、ここでこれから妃教育をしようと思うのだけれど、どうかしら?」


義理母さまが連れてきてくれたのは、テラスだった。テーブルの上にはお茶や軽食、お菓子が乗せられている。私はマーティン家の庭で食事をしたことがなかったが、母と妹はよく、テラスで楽しそうに話をしていた。


「……とても、素敵です」


「あら、気に入ってくれた? 嬉しいわ! じゃあ、座りましょう」


「……はい」


彼女に促され、私は椅子に腰掛ける。彼女と向かい合う形で座る。向かいにいる彼女は、本当に女神様のようで、女性の私でも、どきどきしてしまうほどの美しさ。綺麗な庭園とテラスも相まって、幻想的だ。そんな彼女が急に頭を下げた。


「……レティシアちゃん、お願いがあるの」


「……あ、頭をお上げください!」


私が慌ててそういう。昨日、絶対に頭を下げてはいけないと言われたばかりだ。……それなのに、彼女がどうして頭を下げるのか。答えはそれほど重要な願いであるということ。


「……ルーカス様と破談は……したくありません」


「へ?」


重要な願いであるのなら、ルーカス様との破談しか頭に思い浮かばなかった。それ以外だったら私にとって重要なことではない。……マーティン家に帰ってほしいと言われたら少し渋るが、ルーカス様との離縁よりだったら全然マシだ。


「そんなの、私だって嫌よ! レティシアちゃんいなくならないで!」


彼女が勢いよくテーブルに両手を付き、立ち上がる。コップやティースタンドが揺れる。彼女ははっとし、素早く姿勢を戻すと溜息をつき、落胆する。


「……レティシアちゃん、私に作法を教えてほしいのよ」


「へ?」


「……お願い! 今日の朝、その、あの人が言ったから気づいたんだけれど、レティシアちゃんに教えて貰ったら、作法の先生に来てもらうことも少なくなるかなぁって」


「……作法の先生?」


「レティシアちゃんも知ってるでしょ? マルクス先生よ! あの鞭を手に脅してくる怖〜い先生よ!」


「……はい」


マルクス先生には小さい頃にお世話になった。十二で学園に入るまでの六年間指導していたおかげで、私は作法を身につけることが出来た。見た目は鞭も持っていて怖そうに見えるが、実際鞭を使うことはなかった。……そういえば、「あの方も、レティシア様くらい綺麗になって下さればいいのですが」と、彼女の受け持つ生徒(問題児)の話を溜息をつきながら話していたのを思い出す。


……まさかね。


「……えっとね、私も彼女に教わっててね、一応合格を頂いたのだけれど……まだ、週に一回は家にやってくるのよ。毎回毎回鞭で手を叩かれたり、背中を叩かれたり、傷にはならないものの、痛くて痛くて……」


「……えっと、鞭を使われたことがあるのですか?」


「もしかして、レティシアちゃんはないの!? それは彼女が絶賛するだけあるわ! 彼女にレティシアちゃんが家に来ると言ったら色々話してくれたのよ。『彼女の作法は私でも超えられません。それに、一度彼女の妹と合同授業をしたときの教え方も上手で、私でもなるほどと勉強になったのよ』って言ってたわ!」


そういえば、先生のご予定の関係でレアナと一緒に教えてもらったときがあった。私はレアナより一年早く教えて貰っていたためか、あの頃はまだ私のほうが作法が身についていた。今はきっと彼女には届かないだろうが。


「……だから、レティシアちゃんに教えて貰ったら、先生の訪問を月一くらいまで減らせるんじゃないかなぁって思うのよ!」


「……私は、いいですけれど」


「本当!? 私、自分で言うのもなんだけど、手強いわよ? 先生に何年も鞭打たれてるけれど、全然身につかないの!」


笑顔でそういう彼女。確かに、こんな満面の笑みは公の場ではNGだ。友達同士や恋人同士でかつ、ひと目につかないところなら別だが。微笑みを浮かべるくらいが淑女らしいとされていると習った。まぁ、私は笑うことがなかったため、その点では注意されるわけもなかったのだけれど。


「……わかりました、明日からでいいですか?」


「ええ! 始めの二時間作法の勉強をして、後の二時間で妃教育でいいかしら!」


「……はい。大丈夫です」


義理母さまがやった! っと、拳を握りしめ、腕を伸ばす。淑女としては……よくないけれど、こういうところが好感を持てるのだ。


「ふふっ、じゃあ、妃教育を始めますか!」


「……はい!」


そこからは、雑談三割、教育七割くらいで興味深い話をたくさんしてくれた。


「もし、レティシアちゃんが、他国の王女様に話があるから庭に来てほしいと言われたらどうする?」

「じゃあ、国内の公爵令嬢から呼ばれたらついていく?」

「ルーカスを思う女が現れたらなんて言う?」

「他国の王子にダンスを申し込まれたときの対応は?」

「ルーカスがいない間にお酒を進められたときはどう断る?」

「男性に襲われそうになったら、どう対処する?」


様々なシチュエーションでどうするべきかを私に考えさせる。シチュエーションがぽんぽんと頭に浮かんでくるのが本当にすごい。頭の回転が早い。実際は、瞬時にどうするべきか考えなければならない。私は答えるのに何秒もかかってしまうが、その一瞬が命取りになるのだ。


「次の舞踏会が婚約して初めての公の集まりでしょう? そこまでで正しい判断を即座にできるようになってほしいの。私も過去に失敗したことがあるから……レティシアちゃんには後悔してほしくなくて」


正しい対応を身につけるのにも、時間はかかるようだ。彼女でも、失敗することがあったのかと驚く。


「他国のクズ王子に襲われそうになってね、男性の大事なところを蹴飛ばして再起不能にしちゃったのよねぇ」


私は息を飲む。この華奢で、細い足にそんな力があるとは……。


「正当防衛だったし、あの国にとっても恥だったから、あの件については向こうの国も何も言ってこなかったのだけれど……。他面で急にいちゃもんをつけ始めて、大変だったのよ……。終いには、戦争吹っかけてきて……まぁ、ラウスがこてんぱんにやっつけて、今やこの国の属国になったのだけれど」


嘘のようだが、本当の話なのだろう。この間読んだ、この国の歴史の本に数十年前に戦争が起こった。と書いてあった。そして、その国が属国になっているのも知っていた。……が、まさか、こんな背景があったとは。しかし、今になってもお熱い義理母さまと義理父さまのことだ。いくら普段は温厚でも、きっと、義理父さまの怒りは凄かったのだろう。


「私の魅力に抗えず、よってくる男は今でも絶えないのだけれど……レティシアちゃんはまだ若い上に、この見た目、本当に気をつけないとだめよ? 早くルーカスと結婚してくれれば、少しは私達も守りやすくなるのだけれど……」


───結婚と言われ、私はうつむく。彼とこれからを歩んでいく姿は想像できる。むしろ、彼以外と歩む自分の姿など、考えようとも思えない。でも、時々、別荘のときに見た夢を思い出してしまうときがある。「レティのことは、もう愛していない。僕は愛している者がいる」ルーカス様の声で、そう聞こえる。


きっと、自分が思っているより、レオン王子との結婚式は衝撃的なものだったのだと思う。しかし、ルーカス様の声でそれを何夜も聞かされたのだ、一生忘れられなくなりそうだ。レオン王子の声で言ってくれればいいものの、あの夢は本当に質が悪い。今あの夢を見たら、「ルーカス様はそんなこと言いません! あなたは偽物ですね」それくらい言えるのだが。


「……まだ、あの結婚式からそこまで経っていないものね、もう少し先の方がいいわよね」


ルーカス様の事は大好きだ。大好きだけれど……教会で、またあの白いドレスを纏うのは勇気がいる。黒や青を基調としたドレスを着ることができればいいのに。……でも、想像すると、彼の白いタキシードを身に纏う姿は見てみたい。どの色でも、どの型でも彼には似合ってしまうのだが、全身白を纏った彼は一生に一度しか見られない。


「……いつかは、結婚式を挙げたいです。もちろんルーカス様と」


いつになってもいい。私はこれから先、ずっと彼のことを好きで居続けるから。結婚していようと、していまいと。


「ふふっ、そうね。ルーカスのことをもうちょっと知ってからの方がいいかしら」


「……義理母さまが教えてくれるんですか?」


「……うーん。言える範囲のものはね? でも、大事なことはちゃんと本人の口から聞いたほうがいいわよ。男の人って不器用だから、女性から積極的に行かないと。お互いの気持ちが伝わらないときがあるのよ」


「……そう……なのですね」


積極的に……私は後で、聞いてみようと思う。彼が私のどこを好きなのか。どうして好きになったのか。


「……義理母さま、ありがとうございます」


私は微笑むと、彼女も微笑み返した。

最後まで読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)

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作者のモチベーションがあがります!


次回はレティとルーカス様のいちゃいちゃかな(◦ˉ ˘ ˉ◦)

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