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第16話


「……ねぇ、ミア、本当にこれで大丈夫かしら」


私は、念入りにミアに確認する。今日はいつもより朝早く起き、身支度を始めた。まさか、昨日の夕食だけでなく朝食まで義理母さまと義理父さま……つまり、国王様と王妃様と共に食べるなんて予想していなかった。それどころか、彼らは朝晩の食事は基本共に食べているらしい。レオン王子からは王族はそれぞれのスケジュールがびっしり詰まっていて、ご飯は別々。顔を合わせるのにも事前に許可が必要だと聞いていた。しかし、この家族は全然違う。家庭によってそれぞれなのだろうか。


「もちろん、レティシアちゃんはこれから毎日一緒に食べるのよ♡ ルーカスがいないときもね! 家族なんだから」


義理母さまがそう言ってくれた。まだ、彼の両親と親しくするのには勇気がいる。私はどうやら人見知りらしい。彼らの前だと緊張して表情が引き攣ってしまうし、声が少し震えてしまう。何を話していいのかもわからない。とはいえ、国のトップである彼らに対しては誰でもそうなのかもしれないが。彼らには伝わらなかったかもしれないが、私は本当に嬉しかった。───家族、と呼んでくれて。そして、この一家と共に摂る食事はとても美味しかった。和気あいあいとした雰囲気でその場にいるだけで心が暖かくなる。今も、早く朝食をともにしたいと思いわくわくしているのだ。だから、朝からこんなに気合を入れてミアに頼み込み、ドレスや髪を綺麗に整えてもらっている。


彼らに会うまでは正直不安だった。こんなにも完璧なルーカス様の婚約者……私はきっと、彼に相応しくない。彼にはもっと美しくて、優秀で、誰にでも優しい女性が似合うのだと思う。彼は両親も了承しているとは言ってくれていたものの、渋々了解したに違いないと思っていた。王都に来たら、冷たくされ、少なくとも嫌味の一つや二つは言われるだろうと思っていた。顔を合わせ次第、彼との仲を割かれ、どこか遠くに売り飛ばされるのかもしれない……とまで覚悟していた。


……そしたら、運ばれている途中で御者を気絶させ、もといた別荘に帰ってルーカス様を待とうと考えていたのだけれど……


その心配は全く要らなかった。しかし、彼らの性格を知ると、失礼ながら、この国が心配になる。それくらい優しい人達なのだ。人の上に立つものは、時には非情になることも必要になってくる。しかし、彼らのそんな様子は想像できない。むしろ、ルーカス様の時々みせる、静かな怒りを見ている私は彼が治めていると言ったほうが安心できる。


私の知っている国王───つまり、レオン王子の父はまるで笑わない。威圧的なわけではないのだが、人を寄せ付けないような雰囲気を醸し出す。彼がいるだけで場が引き締まり、ピリピリとした空気が張り詰める。彼の怖い見た目のせいかもしれないが。それに比べ、義理父さまは部下の間違いを全て許してしまいそうなほど寛容な様子で、顔立ちも優しい。お花屋さんの店主だと言われた方がまだ納得できる。


義理母さまもそうだ。明るく、褒め言葉が尽きず、笑顔が可愛らしい。見た目は女神様のようなのに、お喋りな彼女は何歳も年下の私に庇護欲をわかせる。義理父さまが惚れたのもよくわかる。しかし、社交界では女性同士の戦があらゆるところで勃発していると聞く。陰口や虐め。彼女はどのようにしてその中をくぐり抜けてきたのだろう。まったく想像がつかない。


私は公の場に出ることが極端に少なかったため、自分の悪口を直接聞いたり、虐められるような機会はなかったが、この国のような大国の王妃様となれば、また別だろう。他国の舞踏会やサロンにも出席しなければならないし、国王と共に視察や会議にも出席することもある。特に義理母さまは伯爵家の出だそうで、結婚前は周囲の反対がすごかったらしい。だから必然的に敵意を向けられることも多かったはずだ。プレッシャーや執拗な嫌がらせに、命を絶ってしまう女性もいるくらいだ。か弱そうな彼女が社交の場に出るのは少し心配だ。


……でも、私も、今後あることないこと言われるのよね。人のこと心配している場合じゃないわ。


人と関わるのが苦手な私は人に思いが伝わりにくい。そのため、相手に不快な思いをさせてしまったり、誤解を生みやすかったりするのだと思う。ルーカス様やミアには素直になれるのだが、他の人と言葉を交わすときはどうしてもぎこちない表情や口篭ってしまう。


……まずは、義理母さまと義理父さまに素直になれるようにしよう。


家族なんだから。




***




「おはようレティ」

「おはよう! レティシアちゃん♡」

「おはよう、レティシア」


居間へ行くとすでに三人とも席についていた。支度は何十分も前に終わっていたのだが、色々考えていたら遅くなってしまった。私は早足で席に着く。別荘ももちろん豪華だったが、流石王城。規模が違う。このテーブルは街の店三軒分くらいの大きさがある。何人席につけるのだろうか。昨日から使っている自室もそうだが、王城はとにかく広い。そして、一流品の家具やセンスの良いインテリアは文句のつけようがない。廊下でさえ美術館のようなのだ。


別荘ではミア一人で私のお世話をしてくれていたが、新しく何人かの私付きの使用人が増えた。とはいえ、付きっきりなのはミアだけなのだが。きっと、ルーカス様の婚約者という立場であれば、ずっと一緒にいる使用人も多くなければいけないはずだ。なにしろ、仕事が多いのだ。今後はサロンや舞踏会の招待状もたくさん来るだろうし、その準備もある。ただでさえ、部屋が広く、物が多い。掃除や手入れが大変なはずだ。


専属侍女は私の世話と他の使用人をうまく回すという仕事がある。ミアが率先し私の専属侍女を引き受けてくれた。それに、私付きっきりの侍女を選ぶのはとりあえず保留という形にしてくれた。ルーカス様と相談しないといけないらしい。人が苦手な私にとっては本当にありがたかった。新しい使用人といちから仲良くなど……とても時間がかかりそうだ。できればずっとミアだけにお世話してもらいたい。



「……レティ、今日も可愛いね。深い青色のドレス似合うね」


「……ありがとうございます」


彼が目を細め、私を褒める。このドレスの色はルーカス様の瞳に一番近いと思う。この間、注文して届いたドレスだ。何着か送られてきたのだが、どのドレスも本当に美しかった。中でもこのドレスは始めてみたときから気に入っていた。ルーカス様が注目してくれたことに嬉しく思う。


朝食が運ばれてくる。別荘ではすでにテーブルに置かれていた。しかし、王城では作りたてが順を追って出てくる。働いている人の数が膨大なため、それができるそうだ。向こうの国の王城ではレオン王子と食事をともにすることなんて一度もなかったのでそんなことは知らなかった。公爵家はどうだったのだろう。考えてみれば、どんな使用人がいたのかとか、どれくらいの人を雇っていたのかとか……私は無関心で何も知らなかった。


……これからはちゃんと使用人ともコミュニケーションを取りましょう。


そうすれば、きっといつか国民とも仲良くなれる気がする。私の今の人生は本当に希望に満ち溢れている。以前なら、使用人に無関心だったことに気が付いていたら……私はなんてひどい人間なんだろう。やっぱり感情のない人形なのね。そう思っていたにちがいない。


「……レティシアちゃん、本当に所作が洗礼されているわね。食べているときも背がまっすぐで、手つきも安定していて、見ていると思わず食事の手が止まってしまうわ!」


「……そ、そうですかね」


「レティシアを見習わないとな、私達も。ルーナはレティシアに妃教育を始めるどころかレティシアから教育されるかもな」


「……っ、否定できないのが辛いわ。所作は教える必要はないわね。ふふふ、じゃあ、レティシアちゃんには社交界での貴婦人のマナーとか女の戦での必勝法を教えましょう!」


「……それは、是非知りたいです」


私が目を輝かせる。彼女なりのこの世で生き残る特別な方法があるらしい。このか弱い彼女でも使える方法なら……私も頑張れば使えるような気がする。


「……あんまり、レティに変なこと教えないでくださいよ?」


「あら、ルーカス私に口出しするつもり? あの秘密の部屋をバラしてもいいのかしら」


「まって、母さ」


「……秘密の部屋?」


「ええ、絶対にレティシアちゃんは開けちゃだめな部屋があるのよ。そこに入ったら……」


「……入ったら?」


「母さんストップ、入ったら僕が死ぬだけだよ、気にしないでレティ」


「……ルーカス様が死ぬのは一番気にしますよ」


「それほど、僕を大切に思ってるってこと?」


「……っ、はい」


私が少し照れたように返事をすると、彼は照れ臭そうに笑う。そんな私達を彼の両親はにやにやしながら見つめている。


「……ルーカス、今だけよ? 今日は夜までレティシアちゃんには会えないんだから。執務がたくさん溜まってますから」


「休憩時に会いに行きます」


「ルーカス? 休憩してる暇はあるかな? かなり滞っているだろ。だから、別荘に行く前にもっと終わらせとけと言ったんだ。それなのに、レティシアが結婚するってずっと泣き喚いてたから」


「……泣き喚いてた?」


「父さん!」


「ははっいいじゃないか、今はこうしてお前が婚約を結んだんだ。よくやった。レティシアが来てくれたことはこの国の大きな利益になるんだよ。もちろん、我々が大好きなレティシアという存在自体が気を高めてくれるわけでもあるがな」


三人が微笑む。人生でこんなこと言われるなど、少し前の私は思いもしなかっただろう。───私を必要としてくれている。胸が熱くなる。彼らはどれだけ私を喜ばせたら気が済むのだろう。


「……ありがとう……ございます」


私は食事を止め、持っていたフォークとナイフを置く。そして、深くお辞儀をする。彼らを見つめていたら、また目の奥がじんわりと暖かくなってきてしまったから。収まるまで顔をさげたままにする。


「……レティシアちゃん、顔を上げてちょうだい」


「……はい」


「……レティシアちゃん、こんなことであなたは頭を下げちゃだめよ。これからは」


急に義理母さまが真剣な面持ちになる。緩やかな雰囲気の彼女がこんなに引き締まるとは驚きだ。私は姿勢を正し、彼女を見つめる。


「……レティシアちゃん、さっきも話していたけれど、今日からしばらく妃教育をするわ。レティシアちゃんは教養や仕草は完璧だから、そこら辺はやらないけれど、ここの貴族達は向こうの国の貴族のようにレティシアちゃんのことをよく知っているわけではないの。だから、レティシアちゃんに突っかかってくるご令嬢や殿方がいると思うわ。だから、あなたにはしっかりと彼らにどうやって接していくか覚えてほしいの。その一つ目を教えるわ。あなたは絶対に頭を下げてはいけない。あなたの行動はこの国を大きく左右するのよ。軽々しく頭を下げたら、舐められてしまうわ。だから、前を向き、堂々としていればいいの。そうすれば、レティシアちゃんには何も言えないから」


私は驚く。能天気に振る舞っているようにみせていた彼女が実はこんなにも考えて行動している女性だったとは。流石王妃様だ。この国は一夫一妻制だが、近くの国では一夫多妻制の国もある。そのような国では女性が下に見られがちだ。それに、他国からきた私はこの国のご令嬢方に反感を買うだろう。王都でおば様も言っていた。若い女性はみんなルーカス様のお嫁さんになるのを夢見ていると。そんな憧れのルーカス様のもとにぱっと出の私が来たら怒り浸透だろう。でも、頭を下げてはいけない。だって私はルーカス様の婚約者なのだから。彼のように堂々としていなければ。


「……義理母さま、ありがとうございます。……あの、私全然わかってませんでした。……ルーカス様の婚約者になるということを……どうか、今日からよろしくお願いします」


「えぇ、もちろんよ! 私も少し仕事があるから、午後に妃教育をしようと思うわ。いいかしら?」


「はい!」


私は元気いっぱいに返事をする。なんて頼もしいのだろう。彼女のことを心配していたなんて、恥ずかしく思えてくる。


「……いいですね、母さんはレティとお喋りできるなんて」


「……お喋りではないです。……私も早くルーカス様の役に立ちたいから頑張るんですよ?」


「役に立ちたい……か。それなら、午前中少しルーカスの手伝いをしてやってくれないか?」


義理父さまが提案する。私は目を見開く。ルーカス様の手伝い? 私にとってはこの国のことをより知れるチャンスであり、早く執務に慣れたいので、願ったり叶ったりだが……彼は迷惑ではないだろうか。ちらっと横を見ると、彼はとても嬉しそうにしている。


「いいね! それならやる気が出ます」


「……あなた、レティシアちゃんはまだ王城に来たばかりなのよ? 今日から妃教育をするというだけでも大変なのに、ルーカスの手伝いをさせるなんて」


「手伝いというより、ルーカスを見ていてくれるだけでいいんだ。ルーカスがやる気になってくれないと困るんだよ。……こいつは仕事が早いから。部下も最近、残業続きでこれ以上無理させると体に支障をきたす」


「是非、やらせてください! この国の知識はまだわからなくて迷惑をかけるかもしれませんが……向こうの国でレオン王子の手伝いはよくしていたので、何か役に立てるかもしれません」


「それは頼もしい! 是非お願いしたい」


「はい!」


「……もう、あなた。ルーカスはいいの? 大好きなレティシアちゃんに手伝ってもらうなんて、面子が立たないでしょ?」


「レティがそばにいるのなら、面子なんていりません」


義理母さまが呆れため息をつく。義理父さまとルーカス様はとても喜んでいる。私も、内心喜んでいた。早く居場所を作りたい。ここでやれることを増やしたい。 


午前中は手伝いをして、午後は義理母さまから教育を受ける。夕方から夜にかけては本を読んで知識を増やすのと、彼のために刺繍したハンカチを作ろうと思う。あと、剣技の練習もそろそろやり始めたい。……何かに怯えることがないくらい、堂々と生きるために、強くなりたい。早起きして練習しよう。ミアと相談しなければならない。ルーカス様の役に立てる───妃になれるように。


「……私、がんばります」


そう言うと、彼らは目を細めた。






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