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第15話

「……ィ……ちゃん」


耳につく気持ち悪い声。その声は絶えず何度も何度も私の耳元で囁く。べたべたと私の腕や手のひらをまさぐる気持ち悪いごつごつした手。薄暗い何もない部屋は、埃っぽく、蜘蛛の巣が張っている。窓はなく、じめじめとした空気が体をまとわりつく。男の生ぬるい息が私にかかる。


「やめて!」


精一杯叫んでも、誰も助けに来てはくれない。だんだんと声は掠れ、弱々しくなる……私が何をしたのだろう。この男はなぜ私にこんなひどいことをするのだろう。もう何日泣き続けたかわからない。顔が乾いた涙でひきつる。喉が焼けるように痛い。やめて。声は出なかったが、力を振り絞り、彼の手を振り払う。私の爪が彼の頬を引っ掻く。


「……痛いなあ。まだわからないのかな? ……レティちゃんは俺のものになったんだよ。悪い子には、躾をしないといけないね」


男がそういった直後、私の頬に激しい痛みが走り、体が壁に打ち付けられる。私は何が起こったのかわからなかった。男が近づいてくる。……いや、来ないで……いや!




***




呼吸を乱し、勢いよく目を開ける。すると見知らぬ天井が広がっていた。心臓がわけも分からずどくどくしている。全身に汗をかき、服がまとわりつく。怖い夢を見ていた。


……何の夢だっけ。


私が思い出そうとすると、頭がズキと、針を刺されるような痛みが走る。


「……っいた」


「レティ!? 大丈夫? ずいぶんうなされていたけど……」


彼がそう言うと、私の手がぎゅっと握りしめられる。あのフードの男に握られた時とは全然違う。心から安心できる温かい手。


「……レティ」


温かい声。私が声のする方に頭を向けると、彼はいつかの時のように傷ついたような顔をする。そんな顔を彼にさせてしまうことはもうないと思っていたのに……。レオン王子に会うこともなければ、お互いに好きだとわかっている、この状況なら、何も心配いらないはずなのに。しかし、どこに居ても、私は彼に心配をかけてしまうらしい。ごめんなさい。と心の中で謝る。


「……何か、怖い夢を見ていたようです。でも、もう大丈夫だと思います」


「……あの自殺しようとした日の夜ですらうなされるなんてことなかったのに……レティ、医者を呼ぼうか?」


「……大丈夫です。何の夢かも思い出せないので」


「……あの男のせいかな?……昨日のレオン王子のせいもあるのかな」


彼の瞳が陰り、青い瞳が冷たく見える。私がそうかもしれません。なんて言ったら、彼は今すぐにフードの男やレオン王子を手にかけてしまうかもしれない。一見落ち着いているように見えるが、彼の怒りが尋常でないのを私は感じ取る。私は、いつも通りの彼に戻ってもらいたくて、話を逸らす。


「……ルーカス様がここまで運んでくれたんですか?」


「うん。……レティ、本当にごめん」


あのとき彼から離れたのは自分だし、あの不気味な男にぶつかったのも自分の不注意のせだ。……さっきのあの男を思い出し、また体が微かにふるえる。私は、彼の手のひらを強く握る。


……大丈夫。ルーカス様がいるから。


そう自分に言い聞かせ、体の震えを抑える。そして、ルーカス様に笑顔を向ける。


「……私こそ、心配かけて申し訳ありません。でも、ルーカス様がいれば大丈夫です」


「……レティ」


その時、ドアが勢いよく開き、輝くような銀髪に青い瞳の美しい女性が入ってくる。私が彼女に見惚れていると、彼女はぐんぐんと私に近づいてくる。そして、いきなり抱きつかれ、私は軽いパニックに陥る。固まっている私に彼女は、


「レティシアちゃん起きたのね! よかったわ。本当に心配したのよ。ルーカスが気を失ってる女性を抱えて戻ってきたんだもの! 気を失ってるレティシアちゃんもそれはもう天使のようだったけれど……写真でしか見たことなかったから、こうして間近で見られるなんて夢みたいだわ。人生で初めてルーカスを生んでよかったと思ったわ! ストーカー極めていつか捕まったらどうしようって毎日心配だったのだけれど、まさか婚約を結んでくるとは驚きよ! レティシアちゃん、こんな子のどこがいいのかしら、レティシアちゃんにならもっといい人がいると思うのだけれど……あら、顔色少し悪いわ、お医者様を呼んだ方がいいんじゃないかしら。ねぇ、ルーカスかあなた、お医者様を呼んできてくださらない?」


私は彼女の勢いに押され圧倒されていると、ルーカス様が私と女性を引き離す。


「母さん、いい加減にしてください。レティを抱きしめていいのは僕だけです」


「あら、嫉妬深い男は嫌われるわよ? いいじゃない、女性同士なんだから。ねーレティシアちゃんも嫌じゃないわよね?」


「レティ、はっきり嫌だと言ってくれ。レティは僕にしか抱きしめられたくないよね?」


なぜか二人が私を見つめそれぞれ同意を求める。私は思考が停止し、頭が真っ白になる。


「……え、えっと……」


「レティシアが困ってるだろ! いい加減にしなさい二人とも。すまないね。落ち着きのない妻と息子で」


「……はい」


困っていたところを助けてくれたのは、長い黒髪を束ねた、優しそうな男性だった。彼は翠の瞳を細める。私はこちらの男性にも思わず目を奪われる。そんな私を見て、ルーカス様が口を開く。


「父さん、レティをその顔で誘惑しようとしたってダメですからね! レティは僕のものです。僕の方が若くてハンサムなんですから」


「そうか? 案外年上の方がタイプかもしれないぞ?」


「あなた達、女性は、美しいものが好きなのよ? 私以上に……いえ、レティシアちゃんと私以上にこの世に美しいものなんてありませんわ」


「母さんは化粧でごまかしてるだけでしょう」


「まぁ、ルーカス。私はこんなことを言うようにあなたを育てた覚えはありませんわ。ねえ、あなたも何か言ってちょうだい!」


「ルーカス、そういうのは母さんがいないときにいいなさい」


「まぁ、あなた、どういうこと?」


「……あの」


口論をしていた美形の顔が一斉にこちらを向く。眩しい。輝きすぎて目線をどこに定めればいいかわからない。彼らを見ていては、緊張でまともに話ができなさそうなので、私は布団で顔を隠す。そしてそのまま話しかける。


「……あの、その……お、王妃様……と、こ、国王様……ですよね」


私がそう聞くと、返事がない。彼らの顔が見えないため、今どんな表情をしているかわからない。そして、私ははっとする。国王様と王妃様にこんな布団で隠れながら話しかけるなど、どこのばかがするのだろうか。それに、ここはベッドの上。髪も服も整っていない。こんな状態で王妃様や国王様に会うなど失礼すぎる。ルーカス様が寛容で私は王族への礼儀がすっかり体から抜け去っていたようだ。すぐに謝ろうと、布団を下げると


「かわいい……レティ」

「……かわいっレティシア」

「やん……かわっ天使」


そう呟く彼らの仕草や表情がみんなそっくりで、思わずふふっと声を漏らしてしまう。


「……あっ、すみません。えっと、……皆さんがすごく似ていて」


「そうかな?」


「……はい。とても仲が良さそうで……羨ましいです」


私がそういいほほ笑むと、彼らは少し寂しそうにこちらを見る。ルーカス様が私の家庭の事情をなんとなく察してくれたのは知っている。でも、国王様や王妃様まで? もしかしたら、マーティン家の人々がレティシアのことを嫌っているということは思いのほか知られているのかもしれない。


……今となっては、どうでもいいことだけれど


「……彼らは……こんなに可愛らしい娘を……かわいそうね」


「あぁ、そうだね」


国王様と王妃様が一層寂しそうな顔をする。ルーカス様と私はよくわからず、顔を見合わせる。……親になると、わかる気持ちなのかもしれない。私は、実の父や母のようにはなりたくないが。


「レティシアちゃん、私たちも、もう家族みたいなものだから、たっくさん仲良くしましょうね」


王妃様が私を抱きしめる。さっき抱きしめられたときは戸惑ってしまったが、彼女もルーカス様のように温かい。私は心がきゅっとし、目の奥がじんわりとする。


「レティは僕の、家族になるんです。抱きしめるときは、僕の許可を得てください」


王妃様に優しくされたあと、さらに彼の『僕の、家族になるんです』という言葉を聞き、私の頬を涙が伝う。


「レティ!?」

「レティシアちゃん!?」


「母さんが抱きしめるから……」


「ち、ちがうわよね? え、そうなのかしら、私、少し強引なところがあると昔から言われていたから……ルーカス、レティシアちゃんを泣き止ませてあげて頂戴!」


彼が私を抱きしめ、泣かないで。母さんがごめん。と言う。私は首を振る。


「……そうじゃないんです。……私、うれしくて……」


「私たちは、いつでもレティシアの味方だ。もし、何かルーカスに言えないことや、ルーカスに何かされそうになったらいつでもいってくれ」


「そうよ! いつでも助けるわよ! ルーカスは長年こじらせてるから、結構危ないのよ! 別荘から送られてきた手紙の量もほんとすごかったんだから! レティシアちゃんの一日の様子や、レティシアちゃんのいいところがびっしり書かれてて……幸いレティシアちゃんがルーカスに一目惚れしてくれたからよかったものの……そうじゃなかったら連れ去ったようなものよ。若い女の子を許可なく別荘に連れ込むなんて、犯罪よ」


「……一目惚れ?」


「ええ、湖に落ちたレティシアちゃんをたまたま通りかかったルーカスが助けて、一目惚れされたから別荘に連れてきたって……だからすぐに婚約を結んだんでしょう?」


私はルーカス様をじっと見る。彼は私を抱きしめる手を緩める。そして、目を泳がせる。


「……義理母(おかあ)さま、義理父(おとう)さま、ルーカス様と少し話があるので、またあとでお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「まあ、義理母(おかあ)さまですって!」


「ああ、義理父(おとう)さまと……」


「仕方ないわ。ここはルーカスに譲りましょう。あとで、夕食の時に会いましょう」


「……まって、母さ」


「はい」


彼が助けを求めようとするが、私がすぐに返事をする。義理母さまと義理父さまは満足したように部屋を去っていった。私は彼に笑顔を見せる。彼は余裕のない表情をする。


「……ルーカス様、先ほどの話、どういうことでしょうか?」


「な、なんだろうね」


彼がごまかすように私に笑顔を向ける。


「……私、ルーカス様に一目惚れなんてしていませんよ?」


「……ぼ、僕には、一目惚れしてるように見えたんだけどな……」


「……そうですか。じゃあ、私はあなたの写真だけあれば生きて行けるようですので、私はしばらく義理母さまに可愛がってもらいますね」


「だめ! 僕が生きてけない! 謝るから! ごめんレティ。この通り」


彼が手を合わせ、私を見つめる。ふふっ思わず笑ってしまう。命の恩人にこんなことさせるなんて。思い返せば、一目惚れ……とは違ったが、初めて会ったときから彼はほかの人とは違って、私にとって特別な人だったのだと思う。自分のすべてをさらけ出せたのだから。彼は私のことをたくさん知っている……たぶん私よりも。だから、初対面でも、彼を信用できたのかもしれない。……まあ、このことは彼には言わないが。


「……これ以上エスカレートしたら困りますから」


「そしたら、レティが止めてね?」


「……はい」


自分で止める気はないようだ。まあ、彼に興味をなくされるよりはそっちの方がいい……と心の片隅で思っている自分がいる。そんな私の心を見透かしたかのようにいたずらに笑う彼をどうしても憎めないのだから、恋ってすごいと思う。


最後まで読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)

この作品をいいと思った方は、ブックマーク、下の評価、感想 等いただけると嬉しいです。

作者のモチベーションがあがります!


明日、できれば16話出したいとは考えているんですがもしかしたら投稿ができないかもしれません(* > <)⁾⁾

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