表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

第13話

「……レティ、大丈夫?」


「……はい」


馬車の中では、彼と何か話すわけではなく、私は彼の膝の上にのったまま、ただただ抱きしめられていた。別荘に着くとすぐ、あざが出来てしまった腕の手当をミアにしてもらった。そんなこんなでいつの間にか、日が暮れる。本当だったら、御者とゆっくり話をして、今ごろ安心した気持ちで王都に向かう準備をしていたはずなのに。


唯一の救いはルーカス様が手紙を用意していたようで、すぐ帰れたことだ。レオン王子やレアナのことを思い出すと、少し怖くなる。違うことを考えようと、昔の日常を思い出す。あの頃は辛かったが怖くはなかった。父や母や兄は厳しかったが決して声を荒げたり、感情的になったりはしなかった。


レオン王子の『待てぇ!』と叫ぶ声が耳の中で聞こえる。また思い出してしまう。本当に彼はどうしてしまったのだろうか。レアナと御者は怪我をしていないだろうか。暴れ回る若い男性をか弱いレアナと五十代の特別鍛えているわけではない御者が止められるはずがない。私は心配になる。予想外のことに気が動転して頭が回らなかった。レオン王子を気絶させるくらいするべきだったのかもしれない。


……でも、もう関係はないわ。


我ながら冷たいと思う。助けてくれた優しい御者と実の家族を見捨て、一人ルーカス様に縋って逃げたのだ。それに、ルーカス様と共に王都へ行けば、もう、彼らと会うこともない。レオン王子とも。だから、怖かったけれど、あんな怖い思いをすることはもうないだろう。


「……レティ、食事は食べれる?」


私が居間へ来ていなかったから痺れを切らしたのだろうか。ルーカス様が部屋まで迎えに来た。


「……すみません、今すぐ行きます」


私が立ち上がると、ルーカス様は私の右腕の包帯をみる。


「……絶対に許さない」


「……ルーカス……様?」


「あ、ごめん。何でもないよ。……ねぇ、レティ、右手怪我しちゃったからスプーンやフォーク持てないね。僕が食べさせてあげるよ」


「食べれます」


ルーカス様がそんな軽い冗談を言いながら、居間へ向かう。


「……明日、父と母と会うときに、レティが怪我しているのを見たら、僕が傷つけたように思われてしまいそうだ。まぁ、僕が傷つけたわけでもあるんだけど……彼がいるとは思ってなくて、剣も持ち合わせていなかったし……」


「……え、ちょっと待ってください」


彼がさらっと大事なことを言った気がし、足を止める。父と母と会う? ルーカス様のご両親ということは、国王様と王妃様に会うということ。そんな話を彼から一度も聞いていなかった。それと……剣持ってたら、レオン王子を斬りつけていたと言うことでしょうか? こっちは触れないでおきましょう。


「……国王様と王妃様に会うのですか?」


「そうだね。でも、なんていうか、家族を迎える感じだから、堅苦しい場にはならないと思うよ。父も母も僕たちの婚約に大賛成だから心配しないでね」


「……婚約?」


さも当然のことのようにルーカス様が言うので、私がおかしいのか一瞬疑ってしまいそうになった。いや、おかしいのは彼の方だ。婚約の話など全く聞いていない。彼の両親と会う約束までしているということは、今日昨日のうちに決まったわけではないと思う。いつからそんな話になっていたのだろう。


「……ルーカス様、私たちはいつから婚約していたのでしょう? 初めて聞いたのですが」


「……えっと、その……レティ、食事が冷めちゃうから早く行こう」


「……ルーカス様!」


彼は聞かれたくないことがあるとあからさまに話を逸らす。以前まではそれでも良かったけれど、婚約者になっていたことを隠していたとなると話は別だ。私は大きい声を出し喉を痛め、咳をする。すると彼は血相を変え私の肩を抱き、背中をさする。私は長年、百字以内で喋る生活をしていたためか、喉が弱い。痛くならない、喉の開け方や息の通し方を身につけ、よく喋れるようになったが、叫ぶのはまだダメなようだ。人生で叫んだのは、今ので二度目。一度目は湖のとき。叫び、たくさん喋ったあと咳込んだ。あのときは水を吸って咳込んだのだと思ったが喉が弱いせいもあったらしい。


「……レティ、ごめん。食事を取りながらゆっくり話そう。レティに隠したりはしないから」


私は頷く。二人でゆっくり歩き出した。




***




「……この間、仕事をすると言って何日か会えなかったでしょ? 実は、仕事っていのは……レティと婚約するための準備だったんだ」


私は、瞬き一つせず、固まる。


「……えっと、なぜですか?」


私は驚いて、思考がうまく働かず、あまり考えもせずそう言ってしまった。


「レティはわかっていなかったみたいだし、気づいていないのは知ってたんだけど……初めにね、レティに『僕のものになって』っていたよね。僕的には、婚約者とか結婚とか、そういう意味合いでその言葉を君に言ったんだ。回りくどい言い方でごめん。レティは僕のものになると言ったけど、いつ心変わりするかわからなくて不安だった。今は、レティは傷ついているから僕のそばにいるけれど、元気になったら遠くに行ってしまう。そんな気がしたんだ。だから、何とかして婚約を進めて、君が逃げられないようにしちゃおうと思ったんだよね」


彼が、にこっとあどけない笑顔をみせる。そんな顔しても私は騙されない。つまり、私が彼を好きになろうがならなかろうが、婚約し、結婚しようとしていたのだ。


「父と母には了承を得たし、昨日御者に渡した手紙の中に、婚約の話などを書いたマーティン家に渡してもらうものも入っている。この国は、君がいた国よりだいぶ大きいからいくらマーティン家でも断れないだろう」


昨日の手紙はそういうことだったのか。彼の用意周到さには一周回ってすごいと関心してしまう。


「……そういうことはちゃんと言ってほしかったです」


「……ごめん」


「……私は、まず貴方の家に来て、青と黒のドレスがあることに戸惑いました。……結局あのドレスは私のために用意されたのだと聞きましたが……あのときは婚約者がいるのに私がここにいていいものかと困ったんです。それに……ルーカス様は距離がすごく近くて、婚約者の方に罪悪感を抱くこともありました」


「……そうだったのか、ごめんね。ちゃんと言うべきだったね。僕はレティ以外を好きになることはない。今はレティが僕のことを好きでいてくれているから安心だけど、あのときは、自分で君に跡を刻むくらい……余裕がなかったんだ」


彼が、寂しそうな顔をし、私の右首に触れる。もう跡は見えないくらいになってしまった。


「……また、付けますか?」


「そんなことしないよ。今はね。明日両親に見つかったら流石の僕も合わせる顔がないし、君が嫌なことはしたくない」


「……嫌ではなかったですけど」


「……レティ」


彼は少し驚き、顔を緩める。そして、私の左手に視線を寄せる。


「今は、お揃いのブレスレットで我慢するね」


「……はずしたらそれでおしまいって言ってたの誰でしたっけ」


「レティ!? もしかして、聞いてたの!?」


「……全部聞いてたって言ったじゃないですか」


「言ってたけど、そんなことまではっきり覚えてるとは……」


「……私、悲しかったんですから。ルーカス様にそんなこと言われて」


「……ごめん。でも、僕は、あの日から肌身放さずこのブレスレット着けてるよ!? もはや僕の身体の一部と言っても過言じゃないくらい」


「……お風呂のときくらいは取ってください」


「……レティは、お風呂のときは取っちゃうの? お風呂のときは僕と繋がってないってこと?」


「……心は繋がってます。ブレスレットがなくても」


「……レティ、好き」


「……私も好きです」


二人で顔を赤くする。こんな甘々な会話をドアに張り付いて、大勢の使用人たちが聞いていることをこの二人は気づいていない。


「……ルーカス様、今後隠し事はなしですよ! 絶対!」


「……そうだね。できればこれからは隠し事はしたくないな。……でも、以前のことは追求しないでほしい。ミアや使用人にも。流石の僕でもレティにバレるのは恥ずかしいから」


「……何がですか? 隠し事はなしです」


「……あ、えっと、だめだめ、レティに嫌われちゃうから」


「……言ってください嫌わないので」


「……本当に? レティの写真を実家の部屋に飾ってたり、レティが汗を拭いたハンカチを大切に持ち歩いてたりしても?」


私は唖然とする。彼がなぜ私の写真を持っているのか、汗を拭いたハンカチを持っているのか。予想外のことを口にする彼に、私は何も口にできない。


「……これくらいならまだましな方だよね。僕もこの程度の話ならあまり抵抗なくレティに、いくらでも話せるんだけど、もうちょっと過度なものだと……恥ずかしいな。でも、レティがどうしても知りたいって言うなら……」


ましな方!? これでましなら、過度なものは……一体なんなのだろう。私は固唾を呑む。


「ストップ殿下!」

「それ以上はやめてください」


急にドアが開いたと思ったら、ミアとルーカス様の執事が入ってくる。ドアの向こうには何人もの使用人が集まっていて驚く。もしかして、話を聞いていたのだろうか。


「殿下、ましな方でもレティシア様は気持ち悪いと思ったと思いますよ?」

「これ以上話したらレティシア様今晩中に逃げてしまいますよ?」


「……レティ、気持ち悪いと思ったかな? ……でも、レティのことは絶対に逃さないよ?」


「……あ、はい」


正直、少し気持ち悪いとは思ってしまった。少しだけだけれど。好きな人ができると普通どうなるのかわからない。でも、一方的に好きな人の写真を飾ったり、ましてや汗を拭いたハンカチなど……


「……あの、ハンカチ洗いましたよね?」


「え? 洗うわけないじゃん、勿体無い」


「殿下!」

「ルーカス様!」


彼は使用人にそう言われ、はっとし、口を押さえる。私はぞっとした。そして、顔が熱くなってくる。……恥ずかしい。


「……い、今すぐ、洗ってください!」


「やだ、あれがないと僕は生きていけない」


「……嫌です、私はそれがあると生きてけません」


「……嫌なんて言わないで、レティ嫌わないで」


「……ルーカス様のことは嫌いにはなりませんけど、ハンカチは嫌です」


「お嬢様、今すぐ洗ってきます」


「待ってミア、僕がそのハンカチをどれだけ大切にしてきたかはよく知ってるよね? 洗ったりしたり、触れたりしたら即解雇だよ!?」


「……そしたら、私が、雇います」


ミアがルーカス様の部屋に行くのをみて、ルーカス様が嘆く。もうわけがわからない。彼がなぜここまで慌てるのか。ミアが見えなくなると、ルーカス様は落胆し、椅子に項垂れるように座る。生気を失ったようだ。


「……ルーカス様、別のものを用意しますから」


「……新しくレティの汗を拭いたハンカチを用意してくれるってこと?」


「ち、ちがいます!」


「ただのハンカチじゃ意味ないよ」


ルーカス様が拗ねたようにそういう。少し可哀想に思ってしまう。でも、汗は流石に無理だ。そういえば、ミアと刺繍の約束をしていた。もともとルーカス様に何か作ろうと思っていたところだ。刺繍したハンカチなら満足してくれるのではないだろうか。


「……ルーカス様、私が刺繍したハンカチを作りますのでそれじゃ、だめですか?」


ルーカス様が勢いよく顔をあげる。そして、目を輝かせる。


「それならいい! 一生使わずに大切に持ち歩くよ! 傷つかないように、木箱に入れて」


「……それじゃあハンカチの意味がないので使ってください。……ハンカチくらい、何枚でも刺繍しますので」


「……僕、やっぱりレティがいないと生きていけない」


「……そうですね。……私もルーカス様のそばにいないと、何されているのか不安で生きていけなさそうです」


「それは、僕のそばにずっといたいってことでいい?」


「……まぁ、そうですね」


彼が私を抱きしめる。私は心が暖かくなる。彼を見上げると、嬉しそうに笑う彼の瞳が目に映る。私は胸がきゅっとする。どうしてこんなにかっこいい人がストーカーじみた行為をするのかわからない。まぁ、こんな人を好きになったのだから、こんな彼の一面も受け入れていくしかない。


「……とりあえず、明日、写真もミアに片付けてもらいますからね」


「レティ、それはだめ」


「……本物が近くにいるんですから、直接見に来てください」


「僕と会いたいってこと?」


「……そ、そうです」


「レティ! 好き」


今日怖いことがあったことを忘れるくらい、こんな甘々な雰囲気が続き、長い夕食になった。

最後まで読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)

この作品をいいと思った方は、ブックマーク、下の評価、感想 等いただけると嬉しいです。

作者のモチベーションがあがります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ