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七話 宵街の女達~6~

  百合子さんの死から、少しだけ立ち直った頃。俺は久しぶりに店に出る事にした。


「姐さん……しばらくの間私情で休みをもらいすいませでした」


 出勤して直後、俺はそう言って皐月さんに謝罪した。


「ちぃっとは元気になったんやなぁ……ほな今日からまた頼むでぇ……あんたの辛い胸の内はウチ等ぁみぃんなよぅわかってる……せやからな辛ろぅなったらいつでも言うんやでぇウチの店のスタッフであんたの事嫌いや思ぅてる人間は一人もいてへんからなぁ今の[クラブ皐月]はあんたがいてへんかったら何も始まれへんねん……」


 皐月さんはそういうと、頭を下げる俺を抱き起こしてくれるのだった。


「兄弟……今はめちゃくちゃしんどいかもしれねぇけどよぅこのまま立ち止まっちゃいられねぇぜ。この店にゃああんたの育てねぇといけねぇ女が三人も待ってんだからよぅ……微力ながら、この俺も協力させていただきやす!」


 皐月さんに抱き起こされ、店のメンバー全員と向かい合った時今度は俺の対面に立つ栄二さんがそう言って俺に頭を下げてくれた。


「百合子さんは亡くなっちゃったけど……あたしや紗子や真希はまだまだこれから裕さんに鍛えてもらわないとだからここで職務放棄は無しにして下さいね……今のあたし達には、裕さんの力が絶対不可欠なんですから……」


 今まで、俺と皐月さんだったり栄二さんだったりの会話を紗子さんや真希と一緒に黙って聞いていた文香さんが、そう言って俺に深々と頭を下げるのだった。


「あたしぃおバカで天然ボケだけどぅこのお店面接来た時から裕さんの熱意ビシビシ感じてました。あたしも目いっぱい頑張るからぁ裕さんもファイトですぅ」


 文香さんの後からそう言ってガッツポーズをしながらあどけなく笑ったのは、新人ながら成長著しい宮村真希だった。


「ありがとうございます!皆さんの思いに感謝申し上げます!」


 拳を交わして解り合った友、さらには俺の熱意にここまで応えてくれる。この[クラブ皐月]のスタッフ全員に土下座した俺の本音の謝罪だった。


「裕ちゃん頭ぁ上げないやぁ……こんなぁがウチ等ぁにおせぇてくれたんじゃろ。人は助けおぅて支えおぅて初めて本当の力が発揮できるんじゃゆうて……今度はウチ等ぁがこんなぁを全力で助けるけぇこんなぁもちぃっと気張りんしゃいやぁ」


 自分達の前で、感謝の念から頭を下げ続ける俺に年長者でもあり、この店一番の泣き虫女の英美さんが目いっぱいの涙を溜めて俺を抱き起こしてくれるのだった。


「裕さん頑張って!裕さんがこの店来てくれなかったらあたしと英美とチーコの三人じゃここまで流行る店には到底出来なかったと思うし……裕さん居なかったらさっき皐月も言ったように何も始まらないよ……裕さん、指示をお願いします……」


 普段は無口で物静かな麻奈美さんのこの一言が決定打だった。俺の心の闇は一瞬にして取り払われ、再びまた、忙しい現実に引き戻されるのだった。


「真希、俺の居ない間アルバイトの従業員管理してくれてたんだってな?入ってまだ間がねぇのによく頑張ってくれたよ。ありがとな……」


 天然キャラをスタッフ全員にいじられながらも、順調に、確実に成果を上げてくれている真希に俺は、感謝の言葉をかけるのだった。


「ありがとうって……やぁですよぅ裕さんってばぁ……あたしぃ天然キャラでおバカだしぃ先輩達に迷惑かけっぱだからぁ……少しでもみんなの力になれたらって、そう思っただけですからぁ」


 俺が感謝の言葉をかけた瞬間、真希の奴が急に照れたようにモジモジしながら言った事で開店前の張り詰めた空気感が解けたようにスタッフ全員から笑い声が上がるのだった。


「よっしゃ、話ぃまとまったみたいやなぁ。[クラブ皐月]今夜も元気に開店やぁ」


 皐月さんの声かけを合図に、店の看板に灯りがともり本日の営業が始まった時刻は、夜の八時。今夜も店は、常連客であふれかえっていた。


「おぉお裕司ぃ久しぶりやのぅ……百合子ちゃんの件でだぁいぶしょぼくれとるゆうて皐月ちゃんから聞いとったがよ。ちぃっとは元気になったみたいやのぅ……まぁ、なんやぁお前がこうやって店で忙しょうに頑張っとるんがあの子の一番の供養になるんやないかぁ……わしゃそう思うでぇ……」


 開店と同時に常連客で混み合う店内、そのテーブルを一つづつ挨拶して回る俺に、一つのボックス席に陣取る一団から声がかかるのだった。


「鬼原さん……ご無沙汰してました……」


 俺がそう挨拶を返した一団の中央部分に座る壮年の男性は、俺がこの店に入る以前からの皐月さんとはもうかなり長い付き合いになる常連客の一人で、この岐阜県でも勢力拡大一著しい神戸天神会系鬼原組初代鬼原誠二郎組長だった。

 そして、今夜も忙しく、間もなく閉店時間をむかえよう午前二時少し前。久しぶりに店に復帰した俺に、皐月さんと鬼原さんで考えてくれていたのだろう。俺は、思いもよらぬサプライズを受けたのだった。


「兄弟、いつも皐月を手助けしてくれてありがとな。お前、今日が何の日かも忘れてんだろう?お前の十八歳の誕生日だ。みんなで盛大に祝ってやろうってよ……皐月始め鬼原さんからも声かけがあってよぅ……兄弟、十八歳の誕生日おめでとう!」


 ひしめき合っていた常連客達もほとんど帰って行き、身内同然の人間ばかりになった店内、鬼原さんと皐月さんの声かけに何かと忙しい組の用事の合間をぬって急遽駆けつけてくれたヒロさんがそう言って俺にデカい花束を渡してくれるのだった。


「……え……えぇえっと……ありがとうございます……」


 突然のサプライズにしどろもどろになりながらも、どうにか感謝の言葉を口にした俺だったが、みんなの優しさが実感できたとき俺の目からは堰を切ったように涙が溢れて止まらなかった。


「……えぇんよ……こがぁな時まで我慢せんでも……思いっきり泣いたたらえぇよ……こん店ん中でこんなぁの涙誰も笑やぁせんけぇこんなぁの辛い胸の内誰もがわかっとる事じゃけぇ……裕ちゃん、十八歳のお誕生日おめでとぅ……」


 その場に居合わせた全員の前、感謝と温情の念から涙が止まらず、泣き崩れた俺を、本人も時折声を詰まらせながらそう言って英美さんがうずくまる俺をキツく抱きしめてくれるのだった。


「あぁあ……英美さん抜けがけずるぅいあたしや文香だって裕さんの事ぎゅうってしたいのにぃ……」


 俺を抱きしめる英美さんに、何故か急にここに俺を連れ戻してくれた紗子さんが駄々っ子のように腰をくねくねさせて言った。


「こんなぁ等もおいでやぁ……ゆっと裕ちゃん抱きしめたりぃ……」


 場を和ませようと、わざと戯けて言った紗子さんだったが、英美さんの真剣な眼差しに感極まって文香さんと二人泣きながら俺をさらに強く抱きしめてくれるのだった。

 ――――――――――――――――――――――

 私はこの当時、正直言って思春期だった事もあり、誕生日を祝ってもらう事にかなり照れがあったのですが、この時のサプライズは今も鮮明に覚えている最高のサプライズ誕生日パーティーでした。

 けれどこの日を境に、後は裏社会に生きた人間の性とでも申しましょうか、表も裏も群雄割拠のこの時代。裏社会の覇権争いは熾烈を極めておりました。

正に弱肉強食、弱気者は強き者の餌食になり、出る杭は打たれるのことわざそのままに、私が十八歳の時、共に義兄弟の契りを交わした幾人かの方が黄泉の国へと旅だって逝かれました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分は今幸せなのか。 そんな疑問がふと湧き出てきました。 とにかくとても恵まれた居場所だったのですね。
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