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二話 宵街の女達 ~1~

  殴り合いを終えた、俺と彼は

 ほどなくして彼の内妻が経営する一件のナイトクラブにきていた。


「どないしたんねぇあたら?二人共アザだらけやないのぅ」


 この店の経営者であり、彼の内妻でもある幹本皐月が、入店早々に素っ頓狂な声を上げるのだった。


「皐月ぃ紹介するわぁ。本日、たった今からこいつと俺はダチ公よぅ……高校生ながらに中々根性ある奴でなぁ。おめぇにも紹介しとこうと思ってよ、連れてきた……よろしくしてやってくれやぁ……けどこいつ、女たぁあんまり接点ねぇみてぇだからよ。ま、お手柔らかによろしくしてやってくれやぁ」


 驚く俺と彼女を余所に彼はそう言って切れた口内の痛みに顔を顰めてショットグラスに注がれた琥珀色の液体を一気に流し込むのだった。


「……あんたがそこまで、ゆうんやったらそうなんやろねぇ……あんた昔っからせぇやもんなぁ自分の気に入った子ぉしかこんなとこ連れて来ることもないしぃ。わざわざ、ウチに紹介する事もないよってになぁ。幹本皐月やぁヒロ共々、よろしゅうしたってなぁ」


 彼女、幹本皐月が屈託のない笑みを俺に見せて、笑うのだった。


「せやけど、あんたも不運やったなぁ。せっかくの美男子が台無しやぁヒロぉあんたもあんたやでぇ何んでまたこない可愛い子ぉに何をそないあつぅなったんねぇ。もう少し手加減したりぃやぁ。この子がかわいそうやぁ」


 俺とヒロさんが彼女の店に来て一時間ちょっと過ぎた頃だった。ヒロさんの内妻になる皐月さんが急に俺のアザだらけの顔を撫でてきたのだった。


「おめぇはこいつの事何もわかってねぇからそんな同情じみた事が言えんだよ……今回のこの喧嘩、勝負の明暗はまさしく紙一重だったよ……ほんの少しでも俺がこいつに加減していたとしたら、負けていたのは俺だったかもしれん。それにだ、今日の喧嘩で加減をする事は捨て身で殴りかかってきたこいつに対して礼儀を欠く事になると思ったからよぅ」


 今の今まで、俺と皐月さんの会話を笑いながら聞いてバーボンを呷っていたヒロさんが急に真顔で語り出すのだった。


「ふ~ん……女のウチにはわからん何か壮大な男のドラマがあるんやねぇ」


 ヒロさんの真顔で語る言葉に何か感じる物があったのだろう。皐月さんは納得したようにそう言って、ヒロさんの空になったグラスに三杯目か四杯のバーボンを注ぐのだった。


「とりあえず今日は顔見せやぁ……また、近いうち連れてくるわぁ……したら、裕司。今日はこれで帰ろかぁ。お互い、明日があるしな」


 ヒロさんはそう言って勘定を済ますと、俺を促し皐月さんの店を出るのだった。


「おぉ、裕司。いつでもいいからよぅ気が向いたら、いつでも遊びにこいやぁ……そんときはまた、メシでも食いに行こうやぁ」


 皐月さんの店を出た後、ヒロさんはそういうと車を取りに店裏の従業員専用の駐車場へと行きその数分後俺の前に停まったのは、当時はまだ珍しかった黒光りする左ハンドルの高級外車だった。真っ黒にフィルムの貼られた運転席側の窓を開け、ヒロさんが乗れと俺に合図してきた。


「ヒロさん今日はごちそうさまでした」


 俺が助手席に乗り込みドアを閉めると、ヒロさんの運転する車は静かに走り出した。俺は、今日一日の事全てに感謝の意味をこめて車を走らせるヒロさんに礼を言った。


「礼には及ばねぇよ。俺とおめぇは、一生モンのダチ公だと思ってるしよ。義兄弟以上だと俺は思ってる……」


 ヒロさんの運転する車が新岐阜駅前に近くなった頃、ヒロさんは笑ってそういうと、これから先、水くさい事は無しだと言いたげに駅前に着き車を降りる俺の頭を軽くはたくのだった。


「痛ぇよぉヒロさん……」

 俺も、ヒロさんの冗談に対して戯けて応えて言うと満面の笑みをヒロさんに返して、彼の車を降りて駅の改札を通り最終に近い時間の電車に乗り家路に着くのだった。

 これが、俺と何も無ければ出会うことの無かったヒロさんと皐月さんの店で働く女性従業員達との、最高に楽しくもあり、悲しくもあった。物語の幕開けだった。

 ―――――――――――――――――――――――

 1980年代初めの頃、私は岐阜県本巣市にある、当時はまだ男子校だったとある私立高校に通っておりました。

 今想えば、どれもこれも私の中では良き想い出です。

 岐阜市の柳ヶ瀬通りが東も西も、最後の光を放っていたように思うと、想い出と現実はあまりにもかけ離れていて、哀しささえ感じる。今日この頃です。

 また、当時関わりのあった方々にお会いできればよいのですが、それはもう叶わぬ夢とあきらめております。ごく一部の方は今尚存命なのですが、今の現状コロナ騒ぎで県を跨いでの行動は出来ませんし、後は、大半の方が今でいうとこの反社会勢力と言われる暴力団関係者のため、大半がこの世を去られているからです。

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― 新着の感想 ―
[一言] この哀愁がヤバい。 心にしみる+シビれるってのはこういうのだよなぁ。 最近のチーレムものからはほとんど感じられん(探せばあるかも?)ものがここにある(`・ω・´)
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