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一話 その男コードナンバー893~出会い~

私、枝垂れ桜のお蘭のヤンチャをしていた頃の実体験を脚色したハーフフィクション私小説です。

  俺、里中裕司十六歳は女性とは全く無縁の男子校育ちだった。背も低く、引っ込み事案の俺が、女にもてようなんて本当に夢物語でしかなく、日々憂鬱な高校生活を過ごしていたためか、高校生になった頃から喧嘩だけは負けた事がなかった。

 ただし、学校内でわもっぱら目立たない存在に徹していて、校外に出たら何でもありだった。タバコも吸ったし、目と目が合えば即殴り合いの喧嘩になるなんて事は常に日常茶飯事だった。

 ただ一つ、その日は何時もと様子が違っていた。


「おぉお兄ちゃん?人にぶつかっといて詫びの一言もねぇのかよ!」


 仕事帰りのサラリーマンだったり、とにかく当時の柳ヶ瀬のメインストリートは人があふれていて、肩が触れ合わない事など皆無に等しいくらいだった。そんなメインストリートのど真ん中を八人程の舎弟を引き連れて歩く、街ゆく人達にとっては迷惑この上ない集団と遭遇してしまったのである。

 そして、こう言う場合たいていこう言って、やれ肩が外れたの何のと文句というよりは、最早言いがかりに等しい事を言っくるのがいわゆる、チンピラという連中である。

 今であれば、素知らぬふりしてすごせる事なのだろうが、当時の俺にはどうしようも無く不愉快で苛立たしさえ、感じてしまったのだった。


「あんたの肩ってのは……そんなに柔なのかよ?そんなんでよくチンピラ務まるなぁあ!」


 苛立ちとうっとうしさから俺は、そのチンピラの外れたと文句をつけて来た肩を近くにあった道路標識の支柱に、思いっきり叩きてけてけやり、さらに向かって来たそのチンピラの顔面に渾身の力を込めた右ストレートを見舞ってやった。

 しかし、チンピラという輩はこれからが実に面倒な連中なのだ。一人やられたら、また、一人、二人と束になって向かってくるのが予測てきた俺は、次々に向かってくるチンピラ達を一発づつのパンチで確実に叩き伏せてやったまではよかったのだが、次に俺の前に立ちはだかったのは、そいつ等の兄貴分的存在で、身長も百九十を超えるであろう、白地にゴールドのストライプ柄のマオカラーのスーツを着た大男だった。


「兄ちゃん……中々やるなぁ……この短時間で七人全滅かよ? すげぇえって褒めてやりてぇとこだけどよ……ここまでやられちゃあよ……俺等の面子ってもんが立たねぇ……わりぃが、見逃す訳いかねぇな……」


 その大男はそう言うと、着ていた上着を脱ぎ捨てた。その下から姿を現したのは、見た目とは違い、めちゃくちゃストイックに鍛えあげられた筋肉の鎧だった。


「関東國龍会系、初代飛炎会若頭、朝倉寛之だ……舎弟共の敵、わりぃが全力でとらせてもらう!」


 彼のその言葉が、ストリートファイトのゴングだった。彼のそのストイックなまでに鍛えられた筋肉の鎧を俺は正直見誤っていた。大柄ゆえに、攻撃も単調だろうと。

 しかし、実態は全く別物で彼の拳は、ヤクザの喧嘩拳法でわなく、完全にプロボクサーの拳だったのである。

 スピード、破壊力。加えて、瞬発力抜群のフットワークから繰り出される連続ラッシュ。

 正直、その時の俺に勝機など、掴めるはずはなかったのだが、少しだけボクシングの経験があった俺は、やり合ううちに、彼の攻撃パターンが徐々にではあったが把握出来たのが最後の望みの綱だった。

 嫌というほど、プロボクサー崩れのパンチを浴びるうちに、俺は、彼の攻撃パターンが先読み出来きるようになり、彼に対して一発、二発ではあったが、ダメージを与える拳が打てるようになってきたのだった。とはいえ、いくら十代の身体でも、プロ崩れのラッシュを二度もくらっていた俺の身体は、スタミナ、体力の部分では、彼に比べて最早限界に達しかけており、最後のカウンター攻撃に望みをつなぐしかなかったのである。


「短時間に、うちの若い衆七人。全滅さしたのは……さすがだと、褒めてやんぜ。けど……これで終わりだぁ!」


 彼の雄叫びにも似た、その言葉が、全てを物語るように、俺に向かって踏み込んで、ボディブローを決めにきた時が、俺にとっても最後にして、最良のチャンスだった。

 そして、お互い最後の力をぶつけ合った結果は、クロスカウンターの引き分けだった。彼の懐深く潜り込み目いっぱいに振り抜いた俺のカウンターアッパーと彼の強烈な右ボディブローがほぼ同時に決まり、勝負を決したのである。しかし、やはり部は彼の方にあり、先に意識を手放しかけた俺の負け。というのが真実なのだが、勝負を決した瞬間に、意識を手放なそうとした俺を、彼が助け起こしてくれたのだった。


「あらよっと……俺も久しぶりにマジになっちまったがよぅ……おめぇ……おもしれぇな。ちっと付き合えやぁ……兄弟の盃といこうやぁ」


 俺の、倒れそうになった身体を支えて、そう言う彼の顔からは、先ほどまでの顰めッツラでは無く仲良く身体中に青アザをこしらえて笑っていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 死合が終わればノーサイドってヤツですね。 こういう戦いの中で芽生える感情とか好きです( ´∀` )
[良い点] 私にとっては全てが未知の世界ですが、とにかくかっこいい!の一言です。 昔のヤンキー(不良?)は筋が通っていて、その意気込みにとても惹かれるのだと思います。 ゆっくりですが、これからも読ませ…
2021/08/07 19:25 退会済み
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