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15.VSリザードマン 虎の乙女と青龍刀

鳥籠の出来事を経て、ミストナの中で新人殺しのイメージが少しずつ変わっていく。


一方の現在地はというと、四人はリザードマンが住む異界に居た。理由は鷹人のファフニールから受け取った依頼(三話参照)をこなす為だ。


ミストナはダンジョンのゲート前で、騒ぎを起こすリザードマンを説得しようとするが、ベリルとツバキは思った通りに動いてくれる事もなくーー。


 ミストナだけを上層部へ残し、三人は地上に飛び降りた。


「リザードマン! てめーら迷惑なんだよ! 喧嘩ならよそでやれ!」


 豪快に着地したベリルは先手を取って大声を張り上げる。


『こいつだ! このメイド女だ!』

『狐人も降ってきたぞ!』


 聞く耳を持たないリザードマン達が各々に騒ぎ出す。

 そっちがその気ならと、ベリルは小脇に抱えたラビィの口を片方の手で塞いだ。


「よく見ろ! この人質がどうなってもいいのか!? あぁ!?」


「ーーん!?」


 ラビィがバッと後ろを振り返る。

 ベリルの真っ赤な瞳。それが一際ニヤついていた。


『子供を人質とは卑怯だぞ!』

『関係ない獣人は離してやれ!」


 プルプルと怯えるラビィを見て、リザードマン達はベリルの思惑通りに勘違いを始める。


「離して欲しいか? だったら早く解散しやがれ。さもないとーーこのウサギをめちゃくちゃにする」


「んんっ!? んんんっ!?」


 聞かされていない話に、ラビィは何度もベリルの方を振り返る。


「おめーら誇り高いリザードマンだろ! それとも何か? リザードマン達は子供の裸に興味津々ってか? アーハッハッハッ!」


 ラビィは「んー!! んー!!」と本気の涙目でリザードマンに助けを求めた。

 そんな様子を隣で見守っていたツバキは、


「あぁ、可哀想な兎人さん。あぁ、哀れな兎人さん」


 と、ベリルが脅し文句を言うたびに必要なのかどうか分からない合いの手を打っている。


『卑劣だぞ! メイド女!』

『冒険者の風上にもおけねー野郎だ!』


 誇りに火がついたリザードマン達は次第に対立を忘れ、ベリルに敵意を剥き出しにしていく。『兎人を離せ! 兎人を解放しろ!』と、気高き心中が一つになっていく。


「違うだろ! コイツを離して欲しかったら解散しろって言ってんだよ!」


 ベリルが尻尾を立てて叫ぶ。

 思惑通りに進んだが、想像と違った位置にリザードマン達は着地していた。


『皆騙されるなよ! あの兎人も仲間だ! 今朝、一緒にいる所を俺は見たぜ!』


 そんな中、後方のリザードマンが場を乱す言葉を叫んだ。


「誰だ!? 今余計な事を言った奴ぁ!?」


 ハッとしたベリルが口の隙間から牙を見せた。

 慌ててリザードマンの群がりに目を凝らすが、遠くからのチクリで特定が難しい。



「ーー見つけた」

 

 ミストナが呟いた。

 愛するラビィへの冒涜。歯を食いしばりながらベリルへの鉄拳制裁を我慢していたミストナは、上層部から一部始終の流れを観察出来ていた。


 この孤高の湿地帯にはベリルとツバキを先に潜入させていた。よって、ラビィとベリルが一緒に居た所を朝見られたという事実は全く無い。完全な虚言だ。

 ミストナは標的を見失う前に、急いで鉄柵から飛び降りる。


 ーー依頼主である鹿野の手紙にはまだ続きがあったのだ。


『追伸。調査の結果、騒動の原因にD級賞金首(リスト)、ホラ吹きのデミングがいる可能性が高いわ。見つけたら捕まえといてね。鹿野クリフォネアより』


「ホラ吹きのデミング確保ーーーっ!!」


 落下の速度も乗ったミストナの右ストレートが、妄言を発したリザードマンの顔面に炸裂した。


「アヒィ!!」


 直撃を食らったリザードマンがまぬけな声を出して、ゴロゴロと地を転がった。そして頭部が水飴のようにブヨブヨと変形していく。


「どうやら正解したようね」


 その姿は見る見る代わっていき、ゼリー状の肌へと変貌を遂げた。ホラ吹きのデミングとは擬態能力を持った、スライム種の亜人の男だった。

 ミストナ自身も半ば半信半疑の攻撃だったが、正解したのなら何も問題は無い。結果オーライと虎縞の髪を掻き上げた。


「捕まえたわ! 争いの原因はコイツ! これで一件落着よ!」


 ミストナは賞金首リストのデミングを踏みつけながら、ドヤ顔をリザードマン達に見せつけた。


『……この魔族もお前の仲間だろ!』

『もう騙されねーぞ!!』


 リザードマン達は青龍刀を掲げて、戦闘の開始である雄叫びを上げる。


「ちょっと!? 話を聞きなさいよ! 原因は捕まえたって言ってるじゃない! こいつが有る事無い事言って、あんたらの仲を悪くさせてたのよ! リザードマン達は今すぐここから解散しなさい!」


 必死の説得は、猛るリザードマンの掛け声の中に掻き消されていく。

 対照的にベリルとツバキはすっと構えを取った。


「ほらな。最初っから全員ブチのめせば早かったんだよ」

「やはり仕置きが必要なようですね」


 ベリルは鉄パイプを。

 ツバキは指の間に数枚の札を召喚した。


「あたしはメインディッシュを最初に食うタチなんだよ! 一番強い奴はどいつだ!」

わたくしは好き嫌いは致しません。ですがーー死ぬ覚悟だけは用意して下さいまし」


 ベリルとツバキがリザードマンの群衆に突っ込んで行く。


「あんた達、リザードマンをストレス発散のサンドバッグと勘違いしてるんじゃないの!?」


 ミストナの呼び声虚しく、ベリルは前方に居た三人のリザードマンの顔面を踏みつけ飛び上がった。そして、隊長格の一人に向かって鉄パイプを振り下ろした。


「お前か! 一番強い奴は!」


 叩き付けた鉄パイプ。

 リザードマンは真っ向から青龍刀でそれを受け止めた。


「まだ見習いってところだな。筋は良いが、街のリザードマンの方がよっぽど気合が入ってるぜっ!」


 ベリルは鉄パイプを反時計回りに振り回し、柄の部分で青龍刀を弾き飛ばす。


「やべっ!?」


 ベリルはクルクルと弧を描き飛んでいく青龍刀の軌道を慌てて目で追った。その方角はツバキを説得しに向かったミストナの背中に向かっておりーーーーシュッと。ミストナの頬を切っ先が掠めた。

 ツバキを追いかけていたはずのミストナの足がトボトボと止まる。そして、ゆっくりと流れた血を指先で確認した。


「……どいつもコイツもバカばっかりで」


 次第に肩が震え、ドス黒いオーラがゴゴゴッ!と肩からほとばしる。ミストナは悪鬼の形相で振り向き、拭った血をペロリと舐めた。


「挙げ句の果てに、乙女の顔に青龍刀をぶん投げるバカ爬虫類ですって……」


「ミミミ、ミストナさん!? 落ち着いてくださいですっ!」


「落ち着いてるわラビィ。こんなに落ち着いてるのは生まれて初めてってくらい落ち着きまくりまくってるわ。だからーー回復を宜しくね」


 ニコりと微笑むミストナであるが、その目はどこぞの魔王のように暗い色をしている。


「あの、一応聞きますが……どっちのですか?」


「決まってるわーー今から滅ぶかもしれない“リザードマン達”よ!!」


 ミストナは自身の左右に巨大な鉄腕カイナを召喚し、リザードマン達の中心に向かって跳躍した。


「いくらあんたらの世界って言ってもね、ホワイトウッドにゲートを定着させた以上はダンジョンの封鎖行為は協定違反なのよ! 言っても分からないなら拳で語るのみ! ベリル、ツバキ! リーダー命令よ! 徹底的にやっちゃいなさい!」


 ズドン! とミストナが着地した同時、三体のリザードマンが地に突っ伏した。


「だとよーー気合い入れて来い! トカゲ共!」

「華奢な狐恐怖症にさせてみせましょう」


 時計塔の下。

 ミストナ班VSリザードマン達の大乱闘が起こった。




 一時間後。

 血の気が冷めたミストナが、周りを見渡して頭を抱えていた。


「……やり過ぎた」


 三人は気絶したリザードマン達の山の上に立っていた。

 ラビィはその山の麓で忙しなく傷口の回復に勤しんでいる。もちろん伸び切っているリザードマン達の方だ。


 他人が見ればどこからどう見ても、説得しに行ったと思えない光景がそこには広がっていた。

 ダンジョンへのゲートである時計塔は無事だったが、周りの建造物はほぼ半壊状態だ。


「いやぁ、リザードマンはやっぱ良いな。丈夫で殴りがいがある」

「ふぅ。わたくしはお腹が減りました」


 ベリルとツバキは平常運転で呑気な事を口走っている。

 ミストナは急いで リザードマンの山を駆け下り、ラビィの手を攫うように握った。


「つべこべ言ってないで、賞金首リストを持ってさっさと撤収するわよっ!」


「ですっ!」

「あいよ」

「承知しました」


 ミストナ班は逃げるように街へと続くゲートに急ぐ。

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