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アリアドネの糸  作者: たわし
◆ 魔力ゼロの観測者編
78/81

23部屋目 幼女兄貴と往く異世界マンション

「ふっ。薫が粘るなら大通りだと、風の便りでな」

(そうじゃの、丈一。妾の(  わらわ  )おかげじゃ)


 天女の羽衣のような出で立ちで現れた半透明の女性。妖艶な笑みを浮かべ、兄貴の傍らで宙をたゆたっている。


(どうかえ、薫子様? 滲みでとるかのお、大人の魅力・・・・・が)

(――ジニー!?)

(くふっ、今の妾はジェニファーよ。愛称がジニーじゃて)


 ジェニファーは、長い紫の髪をふわりとなびかせた。


「まっ、つもる話は後じゃ。今は目玉に集中するかのお、丈一や?」

「そうだな、ジニー!」


 兄貴が敵陣を指差すと、すかさずジェニファーが【大旋風】ワールウィンドを放った。目玉たちを渦の中心にまとめたところで、今度は上から下へと猛烈な【風】を叩きつける。さながら下降噴流ダウンバーストだ。


「薫よ! 防御は任せたぞ!」

「うんっ!」


 竜巻に駆けていく兄貴へ、目玉たちが無闇に呪文を放つものの、回避力がスゴイため張り直しは微々たるものだ。



※:メッチャかわすやん!

※:もう兄貴一人でいいんじゃないかな

※:あ、ヒットした!

※:いやいや、薫子様がすかさずリカバーよ



 ――後衛の【盾】の強さは、前衛に依存する。

 異世界マンションで生まれた格言の1つだ。

 さっき僕自身に【強大防御】を張ったときは、何度も何度も当てられてヘトヘトだったけど……。何コレ、すっごく楽。



※:あのー、なんで薫子様はジョニキの回避先が分かるん??

※:そりゃオメー見てきた年季が違うぜ(ドヤァ

※:――あれ? じゃあこれメチャクチャ安定では?

※:↑お気づきになりましたか



 兄貴はダウンバーストで押さえ付けた目玉たちのそばまで近寄るや、地面に思いきり拳を繰り出した。


「大地球パンチ!」


 グラグラグラッ!!! ボボボボボボボシュー。


 【地震】が目玉たちにヒットしてほとんどを退治した。唯一、茶色目玉は耐性があって残るものの、素早く兄貴が引っ捕らえる。


「お前は【力場】で逃がさん。――よし、これで全滅からの復活を封じたな」



※:うおおー!!

※:距離つめれたらこんなに早いんか!

※:指向性の【地震】がタメ無しならそりゃ強い(確信

※:「菊知丈一に同じ技は2度も通じぬ!」



「薫よ。このまま目玉には、俺たちが帰るまで明後日のほうを向いといてもらおうか」

「ん、そうだね」


 緊張が解け、互いに笑い合ったとき。






「え~? ソレはイヤよ~」






 ふて腐れた声とともに、茶色の目玉が消失した。


「アンタらはねぇ~、アーシの目から逃げらんないの~」


 廃墟の陰から、目元を隠した茶髪ロングの長身少女が現れた。見た目は僕と同年代ぐらいで、下はデニムのショートパンツ、上は厚めのニットカーディガンだ。


「はーい、これでやり直し~。また腕から目ン玉飛ばして、リタイアさせてやるし~」


 スッと腕まくりすると、おびただしい数の目が付いている。



※:うげゲロンチョ

※:百目の目隠れギャルだと……?

※:なんやコイツ



「ふむ、リスナー諸氏よ。誰か心当たりはあるか?」



※:おk、ジョニキ。「どどめき」や

※:百々目鬼

※:ウデにめっちゃ目がついとる盗っ人妖怪ですな

※:はえーよ有識者!



「そっ! 正解せーかい、どどめき~。ここでのアーシは無敵よ~? なんせ目玉を、好きな風にセットしとけんだもん。こんなふうにさ~」


 言うが早いか、腕にあった目がいくつか消え、僕の近くに現れる。


「なっ……!」

「アハッ! 目ぇ丸くしちゃった~? そっ、所詮はガードありきって言うか~! ヒョロい青びょうたんを消しゃあ、デカブツの茶色も終わりっしょ~」


 一斉にゲイザーたちが光り出す。


「ハ~イ、これでスットロい青はオシマ~イ! 腹に風穴ブチ開けて……!」

「セイッ!」


 ドッグオオオオッッ!!!!


「……あが、ごっ……!」

「おっとスマンな、スットロい百々目鬼よ。長話でつい、腹に風穴チャレンジをしてしまったぞ?」

「テ、メ……この……!」

「ほお。ショック状態は、飛ばしたゲイザーどもだけか」


 あっという間に肉迫した兄貴の攻撃で、宙の目玉は残らず白目を剥いている。もちろん呪文はキャンセルだ。


「あわよくば、本体もと思ったが」

「ハア!? 妖怪はタフに決まってるっしょ! 目玉もすぐに回復するし! 撃ちまくればアーシの勝ちだし!」

「くふっ。妾がおらなんだらのお」


 僕の傍らに来たジェニファーが、再び【大旋風】を放った。


穴とは、この台風のがそうかえ? ほれ、回転の延長じゃ。コインランドリーみたいにのお」

「ハアッ!? そんなバカスカ魔法使ってたら、スグ魔力尽きるっしょ!」

「ん~む、目は多くとも節穴じゃな。戦略眼がまるでないわ」


 ジェニファーのチラ見に、兄貴が苦笑した。


「百々目鬼よ、外に出せるのは8つが限界か? ならば、至近距離の俺を止める手立てがないな。詰みだ」

「ハァ? 茶色って脳ミソも筋肉~? さっき言ったっしょ、妖怪はタフだって~。アンタのヘボい攻撃ぐらい、ヨユーで耐えれるし!」



※:あっ

※:BAKAスw

※:ピコーン(フラグの立った音



「アーシはね~、オメーらの命も余裕で盗めるの! さっきのは不意打ちだったから、ちょっちフラついただけで、もうオメーに勝ち目ねーから! そっちの青もブチ殺すから、無力さを目の当たりにしろし!」

「――ほお。薫への殺害予告は、聞き捨てならんな」


 首を鳴らした兄貴は、百々目鬼の足をゆっくりと踏み付けた。


「すなわち……『目に余る』」

「アハッ、面白~い! 目にモノ見せてくれるの~? お礼にアーシが、テメーの目ン玉えぐり盗っタゴォッ!?」


 アッパーが、目にも留まらぬ・・・・・・・速さで入った。


「はっ……へ? あへっ……!?」

「おお、存分に見てこい。地獄をな」


 すかさず襟元を巻き込み、右手一本で背負い投げの体勢。そのこめかみへと思いきり掌底。


「カバッ……!」


 そのまま側頭部とアゴをガッチリねじってロックし、膝頭へ目がけて逆落とし。


 ズガッシャアアアアアアン!!!!!!


「ぶ……ぶふぅっ、かひゃっ……」



※:決まったアギト落としー!!

※:右手左手右膝で【地震】3連発ッッッ!!!

※:イイコは真似しちゃダメだぜ?

※:↑悪い子でもマネすんな!



「タフな妖怪は脳ミソを揺らすのが定石だ。さて次だが……、む? お前の脳ミソ、ちと筋肉が足らなかったな」



※:ウハッ!消滅やん!!ww

※:あんだけイキってて必サツ技1回でKOとか草

※:まーた井の中の妖怪だったよ・・

※:ドドメキはザンネーン、ジョニキから大目玉デース



(丈一や、今度は目玉の復活もなさそうじゃの。妾たちの勝利じゃて)

「おおっ、ならば別ルートか。やったなあ、薫」

「兄貴のおかげだよ」


 僕は兄貴の撮影から、光の差す方へとパンした。


「あっ! 見て、兄貴!」



※:えええええええええ、823!!??

※:新ルームが最高地点超えッ!

※:にーさん! ニーサンじゃないかっ!

※:やべえ、歴史が動いた……!



 ジェニファーが百々目鬼の灰色オーブをいそいそと回収しにいく間、兄貴が僕に手を差し伸べてくれた。


「薫の門出には、もってこいの部屋だったな」

「ん。これからも頑張るよ」


 僕は手をつかみ、ぐっと引き上げてもらった。



 ◆  ◆  ◆



「――で」


 休憩室にて。


 僕は、ムス~ッと頬杖をついていた。


「なんでまた・・幼女なのさ!」

「ん~? それは俺が……じゃない、この姿だと『ワシ』か。ワシがクリア後も、15kgで昇れると広めるためだ」

「それは……うん。めっちゃ大事」


 さっき組合の人に権限を移譲するまで、“823:運命の糸車”という草原の部屋へパイロットをしていたのだが、僕の体重だと残り乗員数はおおよそ3人なところ、幼女な兄貴だと4人できるのだ。


「1人の差は大きいもんね」

「ああ。部屋の開放が一気に進むぞ」

「うーん、それは喜ばしいんだけど……」

「ん、どうした~?」


 兄貴はニマニマしていた。


「もちろん薫は、ワシが幼女のあいだ女装を続けるんだよな~?」

「それがズルいんだってば! ――あっ」


 兵藤くんが休憩室に入ってきた。


「フン、弟よ。無事にクリアしたようだな。そして……ジニー・・・さん?」


 皮肉っぽく笑った兵藤くんは、兄貴の髪をスグさまくしゃくしゃにした。


「精霊め、いつまで演技をしているツモリだ? ジョニーさんが戻ったというのに」

「んむ! そうじゃそうじゃ、言うちゃれデコペチ!」

「おぅ。――え?」


 兵藤くんが振り向くと、そこには実体化したジェニファーが。


「くふっ、ほんに面白き奴よのお。妾への魔力供与、ご苦労じゃったわ」

「アレ?」

「はてさて、不思議じゃのお。昨日デコチューした妾は、ここにおる。だのに、幼女もおる。――ぬぅ~む。はたしてコヤツ、誰じゃろなあ?」

「――あっ! あぁぁああ……!」


 焦る兵藤くんの手を、幼女兄貴はゆっくりとどけた。


「薫の学年で、トップの兵藤か。ワシの弟と精霊が、ずいぶん世話になったようだな」

「す、すみませんジョニーさん! マサカもうご本人だとは……!」

「なーに、取って食ったりはせんさ。――あっ、ココ・・空いてるぞ?」

「ハ、ハイィ!」


 机を叩いて隣に座らせた兄貴は、オールバックの髪を手でくしゃくしゃした。


「まあ、そう固くなるな。御礼をさせてくれ、じっくり・・・・とな」

「う、うひゃぁぁあああ……!」


 あーあー、兄貴ってばメッチャ楽しんでる。後でちゃんと御礼も渡すんだけど、言い方がさあ。


「よっ、相棒」


 今度はQが顔を出した。


「来てみろよ。すげぇゲストがご到着だぜ?」

「えー、誰? ――あ、それじゃあ兵藤くん、ごゆっくり~」

「へぁ!? う、わ、分かっ……た」


 すっかり兄貴たちのオモチャと化した兵藤くんを残し、僕らはマンション前に戻った。


「オーホホホ!」


 そこには、千桜さんと猪尾さんの他に、福生課長の姿が。


「薫子ちゃんのパイロットに、一名様ご案内よ~!」

「ええ、課長が新ルームに昇りたいんですって。パンデモニウム会議を急遽・・中断して、ね」


 【向日葵カメラ】を向けられた課長は、非常にバツが悪そうだった。


「うぅむ、私は……。他の会議メンバーは組合の手配で順次昇っているが、私だけは君のパーティーによって、こちらへと誘導されて、だね……」

「そうでしたか」


 僕は満面の笑みを浮かべた。


「非常にお忙しいなか、ようこそ」

「ああ、分かっている! 813への助力を拒んでおきながら、新ルームが開放されたらホイホイ来ている恥知らずだというのはな!」


 課長は大きく息を吐いたのち、深々と頭を下げた。


「菊知薫くんには、大変……大変、申し訳なかった。今後の待遇には最大限の配慮をするので、戻ってきてもらえないだろうか」



※:2323ー、角度が足らねえぞー!

※:謝罪なら脱げよ帽子

※:ドゲザーしようぜ!



 僕は穏やかに笑うと、軽く頭を下げた。


「すみません。今後はフリーの方が動きやすいので」

「分かった。誠に失礼した」

「いいえ。それと、僕への対応も今までどおりでいいですよ」

「うっ、ううむ……。分かった」


 おずおずと頭を上げた課長は、咳払いをした。


「いずれにせよ、今後のマンション探索は戦略の見直しとなるだろう。【強大防御マイティガード】を始めとした防御系の進化呪文は、精度さえ高めれば実用に耐えうる。これを、君たち兄弟がハッキリと示してくれたからな」


 課長は手を差し出してきた。


「どうかそのノウハウを、先達せんだつとして冒険者に教えてほしい。お願いできるだろうか」

「それは、喜んで」


 僕は課長としっかり握手をした。

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