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アリアドネの糸  作者: たわし
◆ 魔力ゼロの観測者編
77/81

22部屋目 監視からの反逆

 カラオケ大会の翌日は、いつもどおりの目覚めだった。

 冒険届も提出し、準備万全でマンション前にいる。


「うおーい、ツメてぇよ相棒~! 俺のパーティー追放に眉一つ動かさねえとかさ~!」

「あのね、Q……。そもそも、見送りは頼まなかったけど?」

「へっ。凱旋の出迎えは必要だろ?」

「――それは、ありがと」


 本日は、Qの代わりに桐山さんが加入である。


「や、ややややあああ、薫くん」

「メチャクチャ緊張してますね……、桐山さん」

「そうなんだよぉ、よよよ~。僕は小心者だもの~」


 小動物のような大学生に、ヒシッと泣きつかれてしまった。


「僕は君のお兄さんにさ~、パワーレベリングしてもらってるダケの一般人だから~」

「プレッシャーに弱すぎですって……」


 兄貴の「お願い」に応え続けてくれた桐山太蔵さん。気弱で撤退が早く、それゆえに生き残ってきたのだが、サポートメンバーが1人、また1人とリタイアしていった結果、気付けば最古参に。おかげで、兄貴からはますます頼りにされ、魔力(と逃走力)に磨きが掛かるのだった。


「あのぉ、桐山さんってSSですよね? 青魔道士の先輩なんですし、自信を持ってくださいよ」

「ダメダメ! 僕は精々【盾】を張れるだけ! 究極的には、強制リタイアが目標だから!」

「うわぁ……」

「あ! でもね、でもね!? この御時世って、手伝えるのに手伝わないと、めっちゃ叩かれるじゃん! ヘタなリタイアだともう一生挽回できないし、それもキツいの!」

「へへっ、良く分かってンじゃねぇっスか」


 Qが桐山さんの肩をにこやかに叩いた。


「俺の大炎上が常時1000万表示インプぐらいだったんで、今のイタ蔵さんなら軽~く3000万ってとこスかね?」

「えぇー!?」

「ほら、この前も【瞬間移動テレポート】の使い方で、ちょいとばかし小火ぼやが……」

「や~めて~。まぁたグチグチ言われる~!」


 ――うん、脅かすのは止めてほしい。


 そのとき。


「のお、薫や」


 ジニーが千桜さんと猪尾さんを引き連れてやってきた。


「面白き男から、今日の魔力を補充してきたぞい」

「ん。ありがとう」


 一昨日の時点で、ウニッコさんからの【魔力譲渡】を予約していたが、彼女もパンデモニウム会合が優先であった。そのため、会う時間を調節すると、どうしてもお昼以降の出発だったのである。

 兵藤くんの協力により、早朝に繰り上げだ。


「ん~む、デコペチも忙しいらしいのお。ワシにくれた魔力を補充して、即マンションに昇るようじゃ」

「あはは……。じゃあ、僕らも使いに行こっか」

「んむ。盛大にのお」


 泣いても笑っても、今日がサルベージツアーの締めくくりだ。



 ◆  ◆  ◆



 僕、ジニー、千桜さん、猪尾さん、そして桐山さんの5人は、813にやってきた。



――――――――――――――――――――


 813 監視からの反逆


・飛行目玉を8つ倒す。



――――――――――――――――――――



 ――大丈夫。あとは兄貴のクリア方法をなぞるだけだ。


 813は、風化したコンクリートビルが点在している廃墟だった。


「桐山さん」

「な、なんだい、薫くん?」

「えっと、巡回の周期ですけど」


 緊張をほぐすため、たった今通過していった赤目玉を指差した。


「早いのと遅いのとで、2グループあるんですよね?」

「う……うん」

「で、僕らがエレベーターから出るか、あるいは目玉へのアクションを起こすと、パターンが変更するとか」

「そっ、そうだよ」

「オホホ。それで最初は、あたくしが白を倒して……」

「ワシが緑を倒すんじゃな、薫?」

「うん。向こうの【復活】と【黄泉がえり】は、その場ですぐ出現だからね。回復役2体から退治でお願い」


 巡回ルートはエレベーター前も通るため、そこを狙うのが定石だった。


 青紫銀白ぼうぎょ4色が動きの速いグループなので、一周ごとに白と緑の間隔が詰まっていく。あまり待ちすぎると、目玉はエレベーター内にも攻撃してくるため、チャンスは1度きりだ。


「あわわわわ……。き、緊張する……」


 すごく身震いしている実力者さんのおかげで、過度な重圧からは解放されていた。


 待機中、呪文で準備はできない。ゲイザーが反応してしまうためだ。ほぼ同時に回復役をつぶせるのは、最初だけである。


「――きた!」


 おあつらえ向きに、白目玉が緑をエレベーター前で追い越す感じだった。千桜さんとジニーが各々狙いを定める。


「【鳳仙花】ちゃん召喚! 今よ!!」

「ハジけ飛ぶぜー!」


 ドッパーン……ボシュー!


「【ウインドカッター】じゃ!」


 スパッ。ボシュー。


 白が【鳳仙花】の《自爆》で、緑がジニーの風によって一撃で倒せた。

 ここから一気に慌ただしくなる。


「みんな!」


 僕が【強大防御】を張るや、千桜さんとジニーが勢いよくエレベーターから出ていった。


「目玉の射線上に入らず、お互い5mは離れて!」

「オッケー、薫子ちゃん!」


 直後に、【蕺】どくだみを召喚した猪尾さんと、異世界ゲートツッパリ棒ストッパーをセットした桐山さんもエレベーターから出て左右に展開した。【ブリザード】や【ライトニングボルト】による複数ターゲットを避けるためである。


 ――よし、近くの2人へは【盾】とほぼ変わらない。


 問題は、千桜さんとジニーへの【強大防御】だった。

 細かく位置取りを変える2人に対し、常に射撃呪文を当てる必要がある。


 これは……集中力との勝負だね。


 ヤバい呪文が前衛2人を雨あられと襲うが、【強大防御】で全部シャットアウトする。多対1のため、止めきれないタイミングもあるが、そこは桐山さんの【盾】も併用だ。


「ふはぁ……。か、薫くんの呪文はすごいね」

「いえ、桐山さんありきの作戦ですから」

「えぇーっ? ゼッタイ薫くんが主軸だよぉ~。断然コスパもいいし~」


 たしかに、魔力の消費量は格段の差があった。明らかに分厚い桐山さんの【盾】と、僕が最小限に絞った【強大防御】。これがどちらも、目玉の呪文を1回防ぐ用途である。


 ――ずっと気は抜けないけど、今のペースなら完封できるね。


「【ファイアボール】!」

「【ウィンドカッター】!」


 千桜さんが青目玉を、ジニーが紫目玉を倒して、残り4体。ここから更に攻撃が激化するので、僕はスマホ撮影を始めて攻撃の引き付け役も行う。


「さあ、来い! ――って、あれ?」


 目玉の呪文が、まったく・・・・来ない・・・


 前衛2人に呪文が集中したままだ。攻撃速度が増すため、着弾と防御のズレも考慮すると難度は跳ね上がる。


 おかしい……。ミツオさんを始め、他の人はスグに攻撃が来てたハズ……。



※:なんでヘイトもらえへんの?

※:もしや魔力が少ないせいでは

※:Bランクで813挑んだ人おらんし



「あっ……!」


 ――魔力量が少ないから、脅威とみなされず放置ってこと!?


「ぬわあ!」


 悪いことは重なるらしく、残りの目玉が全てジニーに向いた。【分解】と【石化】を避け、【地震】を【強大防御】で止めるも、【スロウ】を食らう。


「ジニー、エレベーターに下がって!」

「んむ!」


 治癒呪文で【スロウ】は無効化できるが、接触が条件だ。猪尾さんがいま前線に行ったら、集中砲火の餌食である。


 ――くそっ、次も全弾ジニーか!


 【分解あか】と【石化くろ】だと強制リタイアのため、僕と桐山さんで惜しみなく防御呪文を張って耐える。かわせないので椀飯振舞おうばんぶるまいだ。魔力がみるみる減っていく。


「プランC!」


 猪尾さんが出し抜けに叫んだ。【向日葵カメラ】の召喚に、僕らは意識してそちらを見ない・・・


「はい、ウィスキー!」


 バシイィッ!!!


 【閃光】が炸裂し、ゲイザーの目をくらませる。


 ボシューッ。


 その隙に千桜さんが銀を焼き、あと3体。


 しかし、全力で凌いだ代償は大きかった。


「ふはぁっ、はぁっ……。か、薫くん……。僕ねぇ、今の【盾】で、ほぼ打ち止めだよ……」

「僕も大分魔力を削られました」

「ええ、私もね、菊知くん……」


 目玉に【閃光】を通すほどの魔力を一気に使ったためか、猪尾さんは疲労困憊だったが、そこでさらに手首を触られて【魔力譲渡】される。


「さっ……。これで、ホンットに出枯らし……ウプ」

「ありがとう、猪尾さん」

「えぇ、後は託したわ……、菊知くん」


 息も絶え絶えの猪尾さんは、桐山さんと【瞬間移動】で撤退した。

 入れ替わりにジニーが駆け込んでくる。


「すまぬ、薫!」

「ううん、よく頑張ったよジニー」


 【速歩】で少し速くなっているとはいえ、【スロウ】下で神業回避を連発していた。ジニーはすぐさま、エレベーター内で【瞑想】を始める。動けなくなる代わりに、これでしばらくしたら【スロウ】は解除だ。


 ――けど、これでジニーもクリアまで戦力外か。また動けるときには決着済みだよね。


 目玉は残り3体。少しずつ速くなるため、そこまで放置していたら敗北だ。


 僕はスマホ片手にエレベーターから駆け出した。僕が狙われないのなら、いっそ狙われるまで近付けばいい・・・・・・。距離を詰めれば、【強大防御】も立て続けに張れる。



※:ひえっ!【分解】と【石化】の猛ラッシュ!!

※:寸前でことごとくガード!

※:盾が小さいから怖いんよ~

※:これは令嬢も薫子様も覚悟ガンギマリですわ



 目玉の動きが定まらないなか、千桜さんはうまく誘導して茶色に【鳳仙花】を引っ付けた。


「今よ、鳳仙花ちゃん!」

「っしゃあ! もっぺんバクハツ!!」


 ドッパーン! ボシュー。


 カウンターで【地震】が発動するも、【強大防御】でシャットアウトできた。



※:うおおー!

※:っし、あと2体!(グッ

※:イケるぞ令嬢ー!!



 しかし、タイミングがまずかった。次の攻撃が赤黒同時に千桜さんを狙う。


 ――マズい! 【強大防御ガード】がない!


 張り直しても2発同時には防げない。【鳳仙花】もたった今還ったから、《自爆》は不可能……!


「菊知くん! プランZ!」


 凜とした千桜さんの背中に、僕は軽く唇を噛んだ。


「【アイシクルアロー】!」


 ザシュッ。


 首筋への一撃クリティカルで、千桜さんの霊力が流れ出す。すぐさま赤い粒になって“霊界”へと旅立った。直後、目玉の2つの呪文は対象が消えて不発となる。


 ――千桜さん。強制リタイアの危険も顧みず、本当にありがとう。今も、黒まで・・・焼いて・・・くれるなんて・・・・・・。その精神力、心底尊敬するよ。


 相討ちのような形で黒も消え、残るはただ1体。


 赤目玉は、僕でも追尾できるぐらいの速度で廃墟群の奥へと浮遊していった。このとき、帰還して再挑戦すると、クリア失敗で全ての目玉が復活してしまう。もちろん前進だ。


 ――目玉たちは、僕のランクが低いからターゲットにしてこなかったんだ。実際、生半可な当たりでは倒しきれないから、向こうの考えは正しい。最後の方まで強制リタイアの呪文を持つ赤と黒が残るのも、知性のある証だろう。


 急に開けた場所へと出た。かつては車が行き交う大通りだったのだろうが、今は砂まみれのセンターライン上に、赤目玉がゆらゆらと浮かんでいる。



※:荒廃した未来から急に西部劇っぽいな

※:(ゴクリ・・

※:タンブルウィードが転がってそう

※:「ぬきな! どっちが素早いか試してみようぜ」



 ――ありがたい。命中勝負か。


 僕の魔力だと、目玉の中心部クリティカル以外は弾かれるから、チャンスは1度きり。それで仕留め損ねると、向こうは機動力を活かしてくるから、もはや絶望的だろう。この勝負、向こうにすればお遊びか。


 ――でも、こっちには大チャンスだ。


 赤目玉は急速に白目部分を充血させた。僕もまっすぐに指を向ける。


「【アイシクルアロー】!」


 刹那、目玉の【分解】が僕の呪文の上をすり抜けて僕に直撃する。


 ズザアアアァッ!

 ザシュッ!


 僕は【分解】を食らって勢いよく吹っ飛ばされた。



※:無事か薫子様ーっ!

※:赤目玉にHIT音はしたぞ!

※:ブル命中なら一撃やが

※:どっちだ……?



 半身を起こした次の瞬間、空から淡い光が差し込む。宙を舞う砂埃にも当たって、キラキラとまばゆい。


「やった……!」


 そこには、“次の部屋は814”の文字が大写しになっていた。



※:キターーーーーーーーーー!!!!!

※:サルベージツアーのフィナーレやでぇっ!

※:薫子様ッ! あなたの命がけの行動ッ! ぼくは敬意を表するッ!

※:1人の男の娘がいたこと、決して忘れないぜ・・(泣



 ――みんな、ありがとう。


 僕はよろよろと片膝を立てた。周囲を見回すと、すでに8体・・の目玉が復活・・している。



※:うわああああああああ!!!!

※:ヤッパリいるー!(絶望)

※:復活しとるし!(憤慨

※:ジョニキもこのリベンジでやられたんやー!



 赤目玉に廃墟の奥地まで誘われた時点で、覚悟はしていた。兄貴もこの復活反撃で【分解】を食らったから。

 僕にはジニーがいない。あとは強制リタイアをするだけだ。自決だと、僕を助けるために結局誰かが再びここへ挑むことになり、犠牲者・・・が出る。このギミックはそういう悪辣さだ。

 潔く食らって、後は裏方。うん……、それがベストだ。











 ――生き汚くなりなさい。






 ハッと気付いたときには【強大防御】を張っていた。すかさず白目玉を指差し。


「【アイシクルアロー】!」


 目玉の中心部クリティカルで倒す。



※:え、粘るんか!?

※:イヤでも8体やぞ

※:正直ムリ・・

※:もういい…! 休めっ…!



 次は緑だ。呪文が同時に直撃さえしなければ、【強大防御】の張り直しで防げる。あとは……、気合いでかわしつつ、スキを見て倒す!


 その直後、黒と銀が近距離で撃ってきた。同時に・・・


「うぐっ……!」


 あえて黒へと当たりにいき、【石化】を【強大防御】で防ぐ。直後に食らったのが【スロウ】。



※:ぐああああ!

※:初手からツイてねえー!!

※:万事休すやん



 僕の運は、人との縁に全振りしてきたらしく、じゃんけんやサイコロなどには割とソッポを向かれてきた。

 だから極力、出会う運以外のランダム要素は排除したかったけど……、初っ端からこれである。


 次々と襲いくる呪文を【強大防御】で止める。完全に同時でさえなければ、射撃時間はゼロなので止められる。


 しかし、攻撃に転じる余裕がない。


 必死で止める間に、緑の【黄泉がえりリバイバル】で白が復活してきてまた8体に。



※:うああああー!

※:スゴイ、けど動けへん!(泣)

※:これジリ貧や

※:薫子様ぁ……もうサレンダーしてええで



 皮肉なことに、ここにきてコツを掴んだらしく、目玉の呪文がテンポ良くガード出来てきた。強力な【スロウ】が掛かった僕の足では、最早動くことすら困難なのに。


 ――だけど。


 いま耐えるのは、ひとつの可能性を見つけたからだ。

 もしそれが、勢いよく吹いてくるのなら。


 僕は……そのためにあがく意味があった。




 【分解】を発動しかけた赤目玉が、突風・・でド派手に吹き飛ばされる。


「薫よ。よく、頑張ったな」


 落ち着いた、それでいてハリのある声。

 耳に心地いいその低音は、出会い運のSSSランクを再確認させてくれた。


 ――何せ、産まれたときからだもんね。


「あとはもう……、俺にまかせろ」


 風の来た方向では、姿を取り戻した丈一兄貴が拳をグッと掲げていた。

モニター抜粋

※:ジョニーさん!(嬉泣)

※:そっかクリアしたから!!!

※:復活しとるし!!(歓喜

※:これ待ちやったんか薫子様!!

※:ピンチに現れるヒーローとか……今どき恥ずかしくないの?(いいぞ、もっとやれ

※:やりたいシチュには貪欲な兄貴w

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