22部屋目 監視からの反逆
カラオケ大会の翌日は、いつもどおりの目覚めだった。
冒険届も提出し、準備万全でマンション前にいる。
「うおーい、ツメてぇよ相棒~! 俺のパーティー追放に眉一つ動かさねえとかさ~!」
「あのね、Q……。そもそも、見送りは頼まなかったけど?」
「へっ。凱旋の出迎えは必要だろ?」
「――それは、ありがと」
本日は、Qの代わりに桐山さんが加入である。
「や、ややややあああ、薫くん」
「メチャクチャ緊張してますね……、桐山さん」
「そうなんだよぉ、よよよ~。僕は小心者だもの~」
小動物のような大学生に、ヒシッと泣きつかれてしまった。
「僕は君のお兄さんにさ~、パワーレベリングしてもらってるダケの一般人だから~」
「プレッシャーに弱すぎですって……」
兄貴の「お願い」に応え続けてくれた桐山太蔵さん。気弱で撤退が早く、それゆえに生き残ってきたのだが、サポートメンバーが1人、また1人とリタイアしていった結果、気付けば最古参に。おかげで、兄貴からはますます頼りにされ、魔力(と逃走力)に磨きが掛かるのだった。
「あのぉ、桐山さんってSSですよね? 青魔道士の先輩なんですし、自信を持ってくださいよ」
「ダメダメ! 僕は精々【盾】を張れるだけ! 究極的には、強制リタイアが目標だから!」
「うわぁ……」
「あ! でもね、でもね!? この御時世って、手伝えるのに手伝わないと、めっちゃ叩かれるじゃん! ヘタなリタイアだともう一生挽回できないし、それもキツいの!」
「へへっ、良く分かってンじゃねぇっスか」
Qが桐山さんの肩をにこやかに叩いた。
「俺の大炎上が常時1000万表示ぐらいだったんで、今のイタ蔵さんなら軽~く3000万ってとこスかね?」
「えぇー!?」
「ほら、この前も【瞬間移動】の使い方で、ちょいとばかし小火が……」
「や~めて~。まぁたグチグチ言われる~!」
――うん、脅かすのは止めてほしい。
そのとき。
「のお、薫や」
ジニーが千桜さんと猪尾さんを引き連れてやってきた。
「面白き男から、今日の魔力を補充してきたぞい」
「ん。ありがとう」
一昨日の時点で、ウニッコさんからの【魔力譲渡】を予約していたが、彼女もパンデモニウム会合が優先であった。そのため、会う時間を調節すると、どうしてもお昼以降の出発だったのである。
兵藤くんの協力により、早朝に繰り上げだ。
「ん~む、デコペチも忙しいらしいのお。ワシにくれた魔力を補充して、即マンションに昇るようじゃ」
「あはは……。じゃあ、僕らも使いに行こっか」
「んむ。盛大にのお」
泣いても笑っても、今日がサルベージツアーの締めくくりだ。
◆ ◆ ◆
僕、ジニー、千桜さん、猪尾さん、そして桐山さんの5人は、813にやってきた。
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813 監視からの反逆
・飛行目玉を8つ倒す。
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――大丈夫。あとは兄貴のクリア方法をなぞるだけだ。
813は、風化したコンクリートビルが点在している廃墟だった。
「桐山さん」
「な、なんだい、薫くん?」
「えっと、巡回の周期ですけど」
緊張をほぐすため、たった今通過していった赤目玉を指差した。
「早いのと遅いのとで、2グループあるんですよね?」
「う……うん」
「で、僕らがエレベーターから出るか、あるいは目玉へのアクションを起こすと、パターンが変更するとか」
「そっ、そうだよ」
「オホホ。それで最初は、あたくしが白を倒して……」
「ワシが緑を倒すんじゃな、薫?」
「うん。向こうの【復活】と【黄泉がえり】は、その場ですぐ出現だからね。回復役2体から退治でお願い」
巡回ルートはエレベーター前も通るため、そこを狙うのが定石だった。
青紫銀白4色が動きの速いグループなので、一周ごとに白と緑の間隔が詰まっていく。あまり待ちすぎると、目玉はエレベーター内にも攻撃してくるため、チャンスは1度きりだ。
「あわわわわ……。き、緊張する……」
すごく身震いしている実力者さんのおかげで、過度な重圧からは解放されていた。
待機中、呪文で準備はできない。ゲイザーが反応してしまうためだ。ほぼ同時に回復役をつぶせるのは、最初だけである。
「――きた!」
お誂え向きに、白目玉が緑をエレベーター前で追い越す感じだった。千桜さんとジニーが各々狙いを定める。
「【鳳仙花】ちゃん召喚! 今よ!!」
「ハジけ飛ぶぜー!」
ドッパーン……ボシュー!
「【ウインドカッター】じゃ!」
スパッ。ボシュー。
白が【鳳仙花】の《自爆》で、緑がジニーの風によって一撃で倒せた。
ここから一気に慌ただしくなる。
「みんな!」
僕が【強大防御】を張るや、千桜さんとジニーが勢いよくエレベーターから出ていった。
「目玉の射線上に入らず、お互い5mは離れて!」
「オッケー、薫子ちゃん!」
直後に、【蕺】を召喚した猪尾さんと、異世界ツッパリ棒をセットした桐山さんもエレベーターから出て左右に展開した。【ブリザード】や【ライトニングボルト】による複数ターゲットを避けるためである。
――よし、近くの2人へは【盾】とほぼ変わらない。
問題は、千桜さんとジニーへの【強大防御】だった。
細かく位置取りを変える2人に対し、常に射撃呪文を当てる必要がある。
これは……集中力との勝負だね。
ヤバい呪文が前衛2人を雨あられと襲うが、【強大防御】で全部シャットアウトする。多対1のため、止めきれないタイミングもあるが、そこは桐山さんの【盾】も併用だ。
「ふはぁ……。か、薫くんの呪文はすごいね」
「いえ、桐山さんありきの作戦ですから」
「えぇーっ? ゼッタイ薫くんが主軸だよぉ~。断然コスパもいいし~」
たしかに、魔力の消費量は格段の差があった。明らかに分厚い桐山さんの【盾】と、僕が最小限に絞った【強大防御】。これがどちらも、目玉の呪文を1回防ぐ用途である。
――ずっと気は抜けないけど、今のペースなら完封できるね。
「【ファイアボール】!」
「【ウィンドカッター】!」
千桜さんが青目玉を、ジニーが紫目玉を倒して、残り4体。ここから更に攻撃が激化するので、僕はスマホ撮影を始めて攻撃の引き付け役も行う。
「さあ、来い! ――って、あれ?」
目玉の呪文が、まったく来ない。
前衛2人に呪文が集中したままだ。攻撃速度が増すため、着弾と防御のズレも考慮すると難度は跳ね上がる。
おかしい……。ミツオさんを始め、他の人はスグに攻撃が来てたハズ……。
※:なんでヘイトもらえへんの?
※:もしや魔力が少ないせいでは
※:Bランクで813挑んだ人おらんし
「あっ……!」
――魔力量が少ないから、脅威とみなされず放置ってこと!?
「ぬわあ!」
悪いことは重なるらしく、残りの目玉が全てジニーに向いた。【分解】と【石化】を避け、【地震】を【強大防御】で止めるも、【スロウ】を食らう。
「ジニー、エレベーターに下がって!」
「んむ!」
治癒呪文で【スロウ】は無効化できるが、接触が条件だ。猪尾さんがいま前線に行ったら、集中砲火の餌食である。
――くそっ、次も全弾ジニーか!
【分解】と【石化】だと強制リタイアのため、僕と桐山さんで惜しみなく防御呪文を張って耐える。かわせないので椀飯振舞いだ。魔力がみるみる減っていく。
「プランC!」
猪尾さんが出し抜けに叫んだ。【向日葵】の召喚に、僕らは意識してそちらを見ない。
「はい、ウィスキー!」
バシイィッ!!!
【閃光】が炸裂し、ゲイザーの目をくらませる。
ボシューッ。
その隙に千桜さんが銀を焼き、あと3体。
しかし、全力で凌いだ代償は大きかった。
「ふはぁっ、はぁっ……。か、薫くん……。僕ねぇ、今の【盾】で、ほぼ打ち止めだよ……」
「僕も大分魔力を削られました」
「ええ、私もね、菊知くん……」
目玉に【閃光】を通すほどの魔力を一気に使ったためか、猪尾さんは疲労困憊だったが、そこでさらに手首を触られて【魔力譲渡】される。
「さっ……。これで、ホンットに出枯らし……ウプ」
「ありがとう、猪尾さん」
「えぇ、後は託したわ……、菊知くん」
息も絶え絶えの猪尾さんは、桐山さんと【瞬間移動】で撤退した。
入れ替わりにジニーが駆け込んでくる。
「すまぬ、薫!」
「ううん、よく頑張ったよジニー」
【速歩】で少し速くなっているとはいえ、【スロウ】下で神業回避を連発していた。ジニーはすぐさま、エレベーター内で【瞑想】を始める。動けなくなる代わりに、これでしばらくしたら【スロウ】は解除だ。
――けど、これでジニーもクリアまで戦力外か。また動けるときには決着済みだよね。
目玉は残り3体。少しずつ速くなるため、そこまで放置していたら敗北だ。
僕はスマホ片手にエレベーターから駆け出した。僕が狙われないのなら、いっそ狙われるまで近付けばいい。距離を詰めれば、【強大防御】も立て続けに張れる。
※:ひえっ!【分解】と【石化】の猛ラッシュ!!
※:寸前でことごとくガード!
※:盾が小さいから怖いんよ~
※:これは令嬢も薫子様も覚悟ガンギマリですわ
目玉の動きが定まらないなか、千桜さんはうまく誘導して茶色に【鳳仙花】を引っ付けた。
「今よ、鳳仙花ちゃん!」
「っしゃあ! もっぺんバクハツ!!」
ドッパーン! ボシュー。
カウンターで【地震】が発動するも、【強大防御】でシャットアウトできた。
※:うおおー!
※:っし、あと2体!(グッ
※:イケるぞ令嬢ー!!
しかし、タイミングがまずかった。次の攻撃が赤黒同時に千桜さんを狙う。
――マズい! 【強大防御】がない!
張り直しても2発同時には防げない。【鳳仙花】もたった今還ったから、《自爆》は不可能……!
「菊知くん! プランZ!」
凜とした千桜さんの背中に、僕は軽く唇を噛んだ。
「【アイシクルアロー】!」
ザシュッ。
首筋への一撃で、千桜さんの霊力が流れ出す。すぐさま赤い粒になって“霊界”へと旅立った。直後、目玉の2つの呪文は対象が消えて不発となる。
――千桜さん。強制リタイアの危険も顧みず、本当にありがとう。今も、黒まで焼いてくれるなんて。その精神力、心底尊敬するよ。
相討ちのような形で黒も消え、残るはただ1体。
赤目玉は、僕でも追尾できるぐらいの速度で廃墟群の奥へと浮遊していった。このとき、帰還して再挑戦すると、クリア失敗で全ての目玉が復活してしまう。もちろん前進だ。
――目玉たちは、僕のランクが低いからターゲットにしてこなかったんだ。実際、生半可な当たりでは倒しきれないから、向こうの考えは正しい。最後の方まで強制リタイアの呪文を持つ赤と黒が残るのも、知性のある証だろう。
急に開けた場所へと出た。かつては車が行き交う大通りだったのだろうが、今は砂まみれのセンターライン上に、赤目玉がゆらゆらと浮かんでいる。
※:荒廃した未来から急に西部劇っぽいな
※:(ゴクリ・・
※:タンブルウィードが転がってそう
※:「ぬきな! どっちが素早いか試してみようぜ」
――ありがたい。命中勝負か。
僕の魔力だと、目玉の中心部以外は弾かれるから、チャンスは1度きり。それで仕留め損ねると、向こうは機動力を活かしてくるから、もはや絶望的だろう。この勝負、向こうにすればお遊びか。
――でも、こっちには大チャンスだ。
赤目玉は急速に白目部分を充血させた。僕もまっすぐに指を向ける。
「【アイシクルアロー】!」
刹那、目玉の【分解】が僕の呪文の上をすり抜けて僕に直撃する。
ズザアアアァッ!
ザシュッ!
僕は【分解】を食らって勢いよく吹っ飛ばされた。
※:無事か薫子様ーっ!
※:赤目玉にHIT音はしたぞ!
※:ブル命中なら一撃やが
※:どっちだ……?
半身を起こした次の瞬間、空から淡い光が差し込む。宙を舞う砂埃にも当たって、キラキラとまばゆい。
「やった……!」
そこには、“次の部屋は814”の文字が大写しになっていた。
※:キターーーーーーーーーー!!!!!
※:サルベージツアーのフィナーレやでぇっ!
※:薫子様ッ! あなたの命がけの行動ッ! ぼくは敬意を表するッ!
※:1人の男の娘がいたこと、決して忘れないぜ・・(泣
――みんな、ありがとう。
僕はよろよろと片膝を立てた。周囲を見回すと、すでに8体の目玉が復活している。
※:うわああああああああ!!!!
※:ヤッパリいるー!(絶望)
※:復活しとるし!(憤慨
※:ジョニキもこのリベンジでやられたんやー!
赤目玉に廃墟の奥地まで誘われた時点で、覚悟はしていた。兄貴もこの復活反撃で【分解】を食らったから。
僕にはジニーがいない。あとは強制リタイアをするだけだ。自決だと、僕を助けるために結局誰かが再びここへ挑むことになり、犠牲者が出る。このギミックはそういう悪辣さだ。
潔く食らって、後は裏方。うん……、それがベストだ。
――生き汚くなりなさい。
ハッと気付いたときには【強大防御】を張っていた。すかさず白目玉を指差し。
「【アイシクルアロー】!」
目玉の中心部で倒す。
※:え、粘るんか!?
※:イヤでも8体やぞ
※:正直ムリ・・
※:もういい…! 休めっ…!
次は緑だ。呪文が同時に直撃さえしなければ、【強大防御】の張り直しで防げる。あとは……、気合いでかわしつつ、スキを見て倒す!
その直後、黒と銀が近距離で撃ってきた。同時に。
「うぐっ……!」
あえて黒へと当たりにいき、【石化】を【強大防御】で防ぐ。直後に食らったのが【スロウ】。
※:ぐああああ!
※:初手からツイてねえー!!
※:万事休すやん
僕の運は、人との縁に全振りしてきたらしく、じゃんけんやサイコロなどには割とソッポを向かれてきた。
だから極力、出会う運以外のランダム要素は排除したかったけど……、初っ端からこれである。
次々と襲いくる呪文を【強大防御】で止める。完全に同時でさえなければ、射撃時間はゼロなので止められる。
しかし、攻撃に転じる余裕がない。
必死で止める間に、緑の【黄泉がえり】で白が復活してきてまた8体に。
※:うああああー!
※:スゴイ、けど動けへん!(泣)
※:これジリ貧や
※:薫子様ぁ……もうサレンダーしてええで
皮肉なことに、ここにきてコツを掴んだらしく、目玉の呪文がテンポ良くガード出来てきた。強力な【スロウ】が掛かった僕の足では、最早動くことすら困難なのに。
――だけど。
いま耐えるのは、ひとつの可能性を見つけたからだ。
もしそれが、勢いよく吹いてくるのなら。
僕は……そのためにあがく意味があった。
【分解】を発動しかけた赤目玉が、突風でド派手に吹き飛ばされる。
「薫よ。よく、頑張ったな」
落ち着いた、それでいてハリのある声。
耳に心地いいその低音は、出会い運のSSSランクを再確認させてくれた。
――何せ、産まれたときからだもんね。
「あとはもう……、俺にまかせろ」
風の来た方向では、姿を取り戻した丈一兄貴が拳をグッと掲げていた。
モニター抜粋
※:ジョニーさん!(嬉泣)
※:そっかクリアしたから!!!
※:復活しとるし!!(歓喜
※:これ待ちやったんか薫子様!!
※:ピンチに現れるヒーローとか……今どき恥ずかしくないの?(いいぞ、もっとやれ
※:やりたいシチュには貪欲な兄貴w




