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アリアドネの糸  作者: たわし
幼女兄貴を終えて編
53/81

1部屋目 男の娘「頭を下げてお断り」 幼女兄貴最初に出した版

 兄貴が幼女だった。


「よおっ、かおる!」


 口調や態度は兄貴そのものだが、体格は極めて縮んでいる。


 ――は?


 バタン。


 開けた扉を、入らず閉めた。


 なにが……どうして、幼女に?


 両目をギュッと瞑った僕は、パニックに陥りそうななか、ここへ来るまでを必死に思い返していた。



 ◆  ◆  ◆



「お疲れ様だね、菊知きくち薫くん。明日から来なくていいよ」

「え?」

「ははは、クビだ」


 異世界マンションから戻ってきた僕は、豊かな毛髪の福生ふっさ課長から爽やかに肩を叩かれた。


「ウチの会社、『マンション・ダンジョン株式会社』との契約終了だよ。君、弱いから」

「なっ……!」

「待てや、おっさん!」


 相棒のQ次郎が詰め寄った。


「薫も強くなってるぜ!? 305号室のフレイムワイバーン! あいつを水の精霊で倒したんだからよ!」

「水鉄砲じゃ動画は伸びんね、滑川なめかわ久次郎きゅうじろうくん」

「何ィ!?」

「ビジネスだよ、冒険者稼業は」


 手櫛で前髪を整える課長。


「黎明期でもあるまいし、精霊で視聴者を釣るなんて、SSSトリプルエスランクの特権さ」

「――ジョニーさんか」

「そう。菊知くんのお兄さん、丈一くんだ。彼が使役精霊を見せれば、たちまち注目の的だろう」


 たしかに。僕にもヒミツだもんね、兄貴の精霊。


「それにひきかえ、君らだが……。魔力は人並み、戦闘力も月並み。そんな高校生、ザラにいるんだよね」


 ぐっ……。


 歯を食い縛りつつ、頭を下げた。


「課長。僕を残してください」

「いいよ」


 紙を差し出してくる。


「じゃ、在籍料を払って」

「は? ――給料減額じゃなく、ですか?」

「図々しいよ、Bランク君」

「な……なんで急に!」

「オイ、おっさん!」


 Q次郎が割って入った。


「俺らの動画に、ジョニーさんの出てたシリーズがあったよな! あれは伸びてただろ!?」


 課長は鼻で笑った。


「無料動画だけ伸びてもね。それに、君らの実力じゃない」

「いいや! SSSの兄さんが、気軽にタダで出てくれる! これだって強烈な薫の魅力だろ!? なあ、ビジネス大好きの福生泰房やすふささんよぉ!?」


 課長は、ため息まじりに僕を見た。


「じゃあ言おう。先ほどジョニーくんが、再起不能になったと連絡が入った」

「――え?」


 不意に視界がグラつき、思わず壁へともたれかかる。


「あ、兄貴が、再起不能……?」

「一命こそ取り留めたが、もはや探索は不可能とのことでね。――ああ、伏せてた理由だが、『お兄さんの消えた君はゴミだ』という正論が残酷だからだよ」

「!」

「ま、いらぬ配慮だったね。サヨウナラ」

「おっさん!」


 Q次郎がつかみ掛かった。


「じゃあ、俺も辞めるわ! ヒデェ会社って分かったからよ!」

「は? ナメクジ君は論外だね」

「クソヒデェ!」

「いいや、Cランク君への貴重な助言だよ? そうだろう? 弱小精霊使いの、クソザコナメクジ君?」

「――テメェ」


 見下ろしたQ次郎は、やおら不敵に笑った。


「なら、こっちも愛称で呼ぶぜ、フサフサ課長?」


 課長の笑みが、スッと消えた。


「――口に気を付けろ、ナメクジ」

「いや~、職務にハゲむ、ハゲしいビジネスマンに脱帽だぜ! 稼ぎの薄い案件からは、即撤退! 髪の毛1本も残さねえときた!」

「貴様……」

「なにせ、フサフサさんには……モウ、ケがないから!」

「出てけー!」




「ありがとう、Q」

「へっ。それより薫、早くジョニーさんを見舞ってやれ」

「うん」


 僕は冒険者組合に連絡を入れた。



 ◆  ◆  ◆



 行き先は、代々木のマンション組合本部だった。


 事務員さんの、「ケガは皆無だが、活動はムリ」という説明に首をひねるも、一目で合点がいく。


 ――アレって、そういうことだよね。


 まなじりを決し、再び応接室の扉を開けると。


「おお、ショックから戻ってきたか、薫」

「……本当に、兄貴なの?」

「おう!」


 幼女だった。


 丈一兄貴は、黄色いフード付き上着フーディーを着た4才ほどの園児になっていた。


「いや~、真っ赤な大目玉みたいな敵の光線を食らったら、体が縮んでしまったぞ。ついでに性別も変わった、ハッハッハ」

「えぇっと……それ、大丈夫なの?」

「なに、いずれ戻るだろう」


 幼女化した探索者など初耳だが、兄貴はそのへん無頓着だった。

 今も、華美なソファに体を沈めつつ、紫に変わった髪を豪快にかいている。


「それより薫、専属契約が打ち切られた」

「え、警備会社のやつ?」

「ああ。攻撃を受けて、姿が変わったのでな」


 安心安全が売りの探索警備保障の大手で、兄貴をCMに起用してくれていた。


「違約金がなかったダケでも御の字だ」

「じゃあ……家の借金は?」

「返済プランを練り直す。まずは、長期借り入れへの変更だな」


 SSランクの冒険者だった両親が行方不明となり、僕ら兄弟には莫大な借金が残された。当時小学生だった兄貴は、「破産宣告は皆に迷惑をかける」と、組合へ直談判。「自分」を担保にして、借入の条件を変更させたのだ。


 しかし。


「何せ、この体だ」


 兄貴は小さな拳を握った。


「ソロ活動はキビしい。といって、仲間を募っても、今度は彼らを守れん」


 幼児特有の高音は、ともすれば強がりにも聞こえてしまう。


 そうだ……。兄貴に、いつまでも頼ってちゃいけない。

 今度は僕が助ける番だ!


「あのさ、兄貴」



 ◆  ◆  ◆



「フム。つまり薫よ、画面に向かって、ただ話すのだな?」

「うん」


 兄貴は中学1年の時点で、警備会社と専属契約を交わしていた。

 そのため、動画サイト『AdvenTube』での収益行為が、一切禁止だったのだ。


 ――だけど、今ならイケる。


「どうも、菊知丈一だ。体が縮んでからは初めましてだな。実は、目玉だけの敵の光線を食らって、この姿になった。性別も変わったぞ。――なあ、薫。これで本当に借金返済が出来るのか?」

「大丈夫だよ、ほら」


 事務員さんから借りた機材を使い、『ジョニーチャンネル』で生配信を行う。


「僕らを見てる人たちが、ここでお布施をくれてるんだ」

「ほお。スゴい仕組みだな」

「アハハ……そうだね」


 5ケタの数字が次々と表示されていく。


「みな、ありがとう」


 兄貴は深々とおじぎをした。はずみで、フードが紫の髪にかかる。



※:ぅゎょぅι゛ょヵヮィィ

※:そのパーカー、言い値で買おう!



「しかし薫。急に始めたが、どんどん人が増えるな」

「相棒に広めてもらったからね」


 さっきQ次郎に、「これから幼女兄貴の配信するから、もし面白かったらSNSにコメントしてね!」と連絡したのだ。


「だけど、その後の伸びは兄貴の実力だよ。幼女になったギャップも込みでね」

「なんと! ううむ、攻撃の被弾を恥じていたぞ。姿が戻るまで隠れておこうかとな」



※:そりゃないよ、幼ジョニーさん!

※:幼女を見せぬは世界の損失



「フム。ならば、薫をホメてやってくれ。生配信は薫のアイディアなのだ」

「兄貴……」



※:よくやった!

※:神幼女の弟=神!



「な、何かコソばゆいね。弱い僕がホメられると」

「ん? 薫は強いぞ。いま腕相撲をしたら負ける自信がある」

「あはは……。でも、さっき『マンダン』の人からは、戦力外って言われちゃったしさ」

「フム」


 兄貴は居住まいを正した。


「薫よ。フツーの幼女は弱いよな」

「そうだね」

「今の俺は、弱そうに見えるか?」


 自信に満ち溢れている。


「見えない」

「だろう?」


 小さな両手が、僕の両肩を叩いた。


「全ては気の持ちようだ。俺に憧れているんだろ? なら、形から入ってみろ」

「え? でも、僕が肉体派の兄貴をマネたって……」

「違う違う。今の俺のマネだ」


 ――んんっ?


「幼児になれってこと!?」

「む、ハードルが高いか。ならば女装だ。薫は華奢だし、これなら楽だろう」

「それでも恥ずかしいよ!」

「おや。じゃあ今の俺は、恥ずかしい存在か?」

「え? ――そ、そんなことない!」

「ならば、薫も出来るハズだ」


 幼女兄貴は不敵に笑った。


「みなも応援しているぞ?」

「うっ……」



※:似合うぞ、弟くん!

※:出たよ悪乗りジョニーw

※:セーラー服でおなしゃす!

※:いいや! 「悪役令嬢」だッ! 推すね!



「あ、あのね兄貴? ノリに流されるのはあんまり……」

「ほお。俺は幼女で動画に出たぞ?」

「うっ」

「これしきのコトで躊躇するとは軟弱だな。憧れはウソだったのか?」

「それは……本当だよ! 天地神明に誓える!」


 だけど、イキナリ女装って……ううん、違う!


 これは――兄貴に覚悟を問われてるんだ!



 ◆  ◆  ◆



 衣装室で予備の女子制服に着替え、手にした青髪ウィッグを見つめた。


 ぐ、むぅ……。


「薫よ、まだか?」

「今行く!」


 ええい、笑いたきゃ笑え!


 ウィッグを被り、ついたてから勢いよく出ると。



※:――ヤベェ、似合ってる

※:アレ! 妹!?

※:こんな可愛い子が女の子のはずがない

※:ようこそ………『男の娘の世界』へ……………



「え? こ、これ、僕へのコメント……?」

「うむ」



※:ボクっ娘キター!

※:男の娘のとまどいだと?(ガタッ

※:さっ更に興奮…して…………きた



「えぇっと……。なんか、みんなの食いつきがスゴイね」

「どうだ薫、自信がついたか」

「うん、少しは。――ん?」


 スマホに着信がきた。相手は……。


「福生課長!?」



※:漫談のフサフサ、キター!

※:あれ、さっきクビ切られてたよな?

※:出ちゃえよ、男の娘!



 ひとまず出た。


「福生さんですか?」

『あ、あぁ。素晴らしい生配信だな』

「ご覧になられてましたか。このやりとりも、流していいですか?」

『い、いいぞ』


 すぐさまスピーカーに切り替えた。


『いやぁ、菊知薫くん! 大盛況じゃないか』

「恐縮です。先ほどゴミと仰った僕にも、温かいお声を掛けて下さるんですね」

『うぐっ……! あー、いや! 先刻の発言は忘れてくれ! また明日から、来てくれていいぞ!』



※:手の平クルーかよw

※:課長「やべぇ、ジョニーさん生きてた……弟クビにしちゃったよ……せや!」



 僕は、努めて冷静に尋ねた。


「Q次郎はどうなりますか?」

『え、彼? あー、君にはもっと高ランクの相棒をつけるよ! だから、安心して明日からも来てほしい』

「そうですか」


 僕は、とびっきりの笑顔を浮かべてみせた。


「お断りします」


 ゆっくり、深々とおじぎした。

 弾みで、青髪ウィッグが地面に落ちる。



※:ヅ ラ 逝 っ た あ ー ッ !

※:髪ングOUT!!ww

※:華麗なるフォールに草生える(髪が生えるとは言ってないw



 僕は丁寧にウィッグを回収した。


「あ、すみません。お見苦しい所を」

『貴様! ワザとだろー!』

「いえ、決して」



※:薫クンじゃないわ、この子! 薫子様よ!

※:神様「悪いな2323、チャンスは前髪だけなんだw」

※:いやー、しっかし、ジョニーさんのケガなくて良かった! ケがなくて!



「それでは福生さん。失礼致します」


 通話を切ると、兄貴が大笑いしていた。


「お布施が倍増したぞ、薫!」

「えへへ」


 生配信は大成功だった。

「これから幼女兄貴の投稿するから、もし面白かったらお気に入りや評価してね!」

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