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第三章☆文芸部分裂
放課後。いつものように美里と良平が黙々とお互いの書いた小説を読みふけっていると、2年D組の神沢利香がやって来て、黒い学生カバンを部室のロッカーに放りこんだ。
「利香ちゃん!久しぶり。どうしてたの?」
長いストレートの黒髪を腰の辺りで束ねて、眼鏡をかけている利香。
その外見を第一印象で気に入ってしまった美里は、利香に「親友になってね」とさえいったことがある。
「うちの高校の名物体操をやってるときに、アキレス腱切れた」
「えっ」
「もう、でっかい音でぶちっていった。」
「怖い」
「お陰で2ヶ月入院してた」
ただでさえ、入学当時から怪我や手術で病院に行ってばかりの利香。
美里は利香が不憫でならなかった。
「歩くのは大丈夫なの?」
「うん」
「痛かったでしょう?」
「うん」
「何か気晴らししようか?」
「図書室行きたい」
「あ、私も!」
良平はおいおい、俺は?と思っていたが、邪魔しなかった。
美里は自分のロッカーから図書室に返しにいく本を2冊取り出した。
見ると、利香は5冊抱え込んでいる。
図書室の貸し出しカードは紙に書名を書き込んで、貸出日と返却日を書いて、図書委員から印鑑をもらうやり方だ。
利香は貸し出しカードの枚数を他の生徒と競っていたから、また挽回する気満々みたいだった。
「お。利香ちゃん!」
3年の太田弘樹が入れ違い様に気づいて声をかけた。
「太田先輩!お久しぶりです」
丁寧に挨拶する利香。
利香と太田先輩はひとしきり話に夢中になった。
美里は以前、利香から太田先輩が好きだと聞いていたので、微笑ましく見守った。
「みさっちゃん、ちょっと・・・」
良平が美里を呼んだ。
「なに?」
「お宅が昨日帰った後、部長と太田先輩がえらい大喧嘩してね」
「うそ・・・」
「かなり根が深いみたいだから気をつけとかないと、とばっちり来るかもな」
利香は大丈夫かな、と美里は思った。