2ー2
野次馬の後ろに、ちらり、茶色い制服姿が見えた。美里はなるべく急いでその姿を追った。
「上谷君、ごたごたが起きるって、高橋君のことだったの?」
「いや。まだこれは序の口」
「どういうこと?」
ひょろりと長い腕を伸ばして、隆也は美里の制服の肩についていた花びらを払った。
「本当にきんもくせいの花が好きなんだね」
「あなたは、何を知っているの?」
美里は思わず後ずさった。
隆也は肩をすくめて見せると、その場に美里を残してさっさと立ち去った。
☆
北西高校の普段使われていない一角に、防火扉がある。
隆也は、人影がないのを確かめてから、防火扉を半分開いて、くぐり抜けた。
からんからん。
「いらっしゃい」
扉は、K県の北区にある、デル・ムンドという喫茶店の扉にとって変わった。
隆也は一瞬で、数キロ移動したことになる。
「こんにちは。」
「やあ、来たね」
ヒゲを貯えたマスターがグラスを拭きながら声をかけた。
隆也は店内を通り抜けて、奥のドアを開けた。
「予定通りです」
ドアの中はどこか違うビルの高い部屋の一室に繋がっていて、そこは隆也の所属している時空パトロール本部だった。
後ろ手にドアを閉めると、隆也の外見は46歳の男の姿になった。
「高橋一馬は発明を続けているの?」
「はい」
「ならば、その時間軸にリンクを固定しましょう」
「俺は17歳に戻ってみて、とても奇妙な感覚です」
「同じ時空に同じ人物は二人存在しないから。今あなたがここにきている間は17歳のあなたが別の高校で戸惑っているかもね」
「俺がいた間は、その俺は存在しないんですか?」
「そうよ」
隆也の上司の女性が口の片端を上げて、にやりとした。
隆也には理解しにくいことだった。
「今度は何時に行けば良いですか?」
何処?ではなくて、何時?と尋ねた。
隆也は上司の指示を待った。