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     任務遂行!



   プロローグ☆きんもくせいの咲く頃に

「・・・そして良平は美里の書いた小説を読むのを中断して、何ともいえない表情になった。」

原稿用紙に私は書いてゆく。

高校2年生の秋。ベランダの外ではきんもくせいの花が満開で、とてもいい香りが漂っている。

勉強している時も自分の部屋でこうやって机に向かって大音量で音楽をイヤホン通して聞いているから、今、別の部屋にいるお父さんとお母さんがどうしているかよくわからないけれど、誰も邪魔しに来ないから、一人っきり。

これがまた・・・真夜中だと恐い。

音楽が途切れて、違うのに変える時に、しん、と染み込むような静けさと暗闇が背後に迫る。

眠気もピークにかかる頃、コーラをがぶ飲みして頭をごんごん両手で打って起きている。鏡の中の自分の目をのぞきこんで自分と闘う。

家は生活保護を受けていて、大学に進学するお金なんかないけれど、育英会にお願いして進学したいと願っている。私立は学費が高いので、国公立に目標を絞っている。

今、勉強か?小説か?

夜が更け始めたら教科書と参考書にとって変わる、この原稿用紙の束。それでも書き綴ってゆく。

「『何だよみさっちゃん!任務遂行!っていうタイトルだから、てっきりミステリーとかスパイ物とかかと思ったら、SFじゃないか』と良平は言った。『当たり前でしょ!私、SF作家志望なんだから!』と美里は元気良く言い返した。『じゃあもう一度読み直すから、原稿用紙貸して』そう言って良平は右手を差し出した。」




   第一章☆季節外れの転入生

 「茶色のブレザー服姿だ」

「えっ、どこどこ?」

2階にある文芸部部室の窓から、K県立北西高校の校門が見下ろせる。

そこを通って、一人の青年が校内に入って来ようとしていた。

梶尾良平は北西高校の紺色の学ラン姿だから、あちらが他校の制服だということになる。

緑美里は良平の横から下を見下ろして、くだんの青年を見た。

「背が高そうだね」

「うん。やせぎすだ」

「何の用事かな?」

「決闘とか?」

「決闘?まさかぁ」

北西高校は男女共学の進学校で、皆、気立てが良くのどかな校風だったから、決闘はまず、ない、と思われる。

「行ってみよう」

「おう」

美里と良平は管理棟に入っていく茶色い姿を確認して、きっと職員室だろうとあたりをつけて駆けていった。

職員室を覗くと、茶色い制服の青年は、2年B組担任の松永健身先生の机の横に立っていた。

「じゃあ、明日から来れるな?」

松永先生が聞くと、青年はうなずいた。

「先生・・・その人転入生ですか?」

良平が尋ねると、松永先生と青年が良平と美里の方に気づいて振り向いた。

「そうだ。仲良くしてやってくれ。名前は・・・」

「上谷隆也です」

「そう、上谷君だ」

「梶尾です」

「緑です」

お互いお辞儀する。

「・・・そう言えば、梶尾、お前今日補習はどうした?」

「え?・・・やば」

良平があわをくっていると、松永先生に捕まってそのまま補習をやっている教室へ引っ立てられた。

松永先生は去り際に美里に言った。

「緑。緑美里!上谷君に校内案内してやってくれ」

「あ・・・はい」

美里はちょっと戸惑いながら返事を返した。

「緑さん・・・か」

隆也は頭一つ分背が高かった。それで、美里を見下ろして言った。

「よろしく」

「こちらこそよろしく」

美里は隆也を連れて校内を案内して回った。

隆也はなにやら考え込んでいるような目で美里を時折見つめていたが、それに美里は気付かなかった。

「上谷君はどうしてこんな時期に転入するの?」

「任務だから」

「・・・え?」

何の任務?とは聞けなかった。美里は不思議そうに隆也を見た。

「俺は30年後の2018年の世界から来た。これからこの学校でいろいろごたごたが起こるから、気をつけて」

「あの、上谷君・・・?」

「なんてね」

そう言って、真顔で隆也は先に歩きだした。

美里は狐につままれたような感じでその後を追った。


時は、1988年の秋だった。


     ☆

「師匠~‼」

「みさっちゃん、元気ぃ~?」

「元気ですよ。師匠は?」

「NHK教育のアニメ三銃士のアラリンが~」

「アラリン?」

「アラミスのこと」

「実は女性で隠して三銃士やってる」

「そうそう!」

きゃあきゃあ美里と、美里が師匠と呼んだ由美子がはしゃいでいた。

北西高校の漫画研究会に所属している由美子は、美術部でデッサンしていたり、友人たちと自由ノート(白紙のノート)にコマ割りした漫画を描いて回覧していたりする。

美里が見せてもらった漫画は、例えていえば、鋼の錬金術の荒川弘っぽい感じの人物画で洗練されたイメージがした。それで、師匠と呼んでいる。

休み時間はたいてい、こうやって盛り上がって過ぎて行く。

「こら!もう次の授業だぞ」

松永先生が廊下を通りながら声をかけた。

パッと身を翻して、美里たちは教室へ駆け込む。


美里と同じ2年B組に上谷隆也が入ってから数日が経った。

拍子抜けしたことに、隆也は別人みたいに戸惑っている様子でクラスの最後尾に座っている。美里に対して、本当に全く知らない人のような態度だった。

ちゃんと校内案内した筈なのに、他の生徒に案内し直してもらっていた。

「なんでかなぁ」

美里は首をひねる。


良平とはクラスが違うので、放課後、文芸部の部室でしか顔を合わせない。

美里と良平は、一見すると恋人と勘違いされるくらい仲が良かったが、本人たちは幼なじみみたいな存在だと思っていた。

「あれだね、自分を印象付けしたかったとかじゃないの?」

と隆也について良平は言っていたが、どうもそれも違うようだった。

「俺も転入生の様子見とくから、あんま気にしなくて良いんじゃ?」

良平はのほほんと美里に言っていた。


制服が一人だけ違う隆也は明らかに浮いた存在だった。

「北西高校の制服は?」

「注文している最中。しばらく時間がかかる」

「突然、来たよね?」

「そう、突然転校して困ってる」

「私立のM高校だったんでしょう?男子校の」

「うん」

自分で自分のことがわからないみたいにしょんぼりしてるものだから、クラスメートたちはそっとオブラートに包んだみたいに扱っていた。隆也がいないときに、「男子校より共学が良かったからじゃないの?」とか「学費が払えなかったとか?」と口々に言っていた。


今、美里が振り向いて隆也を見てみたら、自信無さそうに色白の顔を曇らせていた。

「あの時と違う人みたい」

そう呟いて、美里は次の授業の用意を始めた。




6月11日に書き足しました。ちょっと意味が通らない箇所を補足しました。

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