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レーヌ姫の態度が、その日から我が儘で粗暴で意地の悪いものに変わったということには、周囲の人間の誰しもが気づいていましたが、だからといって醜い奴隷の小娘が実は本当のレーヌ姫なのだとは、誰ひとりとして気づくことができませんでした。レーヌ姫の両親や兄弟たちでさえそうでした。いえ、もしかしたらなんとなく薄々はそうと気づきながらも、無意識のうちにも気づきたくない、認めたくないとの思いが強かったのかもしれませんね。何しろ、これまで敵対していた隣国の王子が、貢ぎ物をたくさん持って今日の午後にもエシュタオルの王城へ辿り着こうというところだったのですから。
カンツォーネ王国のフェルナンド王子の元には、美しい、この世のものとも思われないほどのレーヌ姫の容貌を模写した肖像画が贈られていましたから、その美しい姫が実はこんな醜い豚娘……いえ、小娘とわかりでもしたら、せっかく仲直りをしたばかりの両国の関係は、一体どうなってしまうことでしょう。
王城の入口から、街の目抜き通りである商店の立ち並ぶ街道までは、ラッパを持った軍の勇士たちがずらりと並び、フェルナンド王子一行の到着をいまかいまかと待ち受けています。
慎み深いお姫さまなら本当は、王城の大広間で謁見の時まで、自分の部屋で身なりを整えるなどしつつ、高らかなラッパの音が鳴り響くのを待っているところなのでしょうが、美しいレーヌ姫の中身は、何しろ今は魔女リンダなのです。リンダはフェルナンド王子の到着が待ちきれず、しぶる召使いにカツをひとつ入れると、馬の用意をさせました。魔女リンダは一国のお姫さまとしてのたしなみなど何ひとつ知りはしませんから、乗馬服姿で馬に跨ると、まわりの人間の制止の声も聞かずに、フェルナンド王子を迎えるため、王城の外へ飛びだしていってしまいました。そして今はもう醜い小娘と成り果ててしまったレーヌ姫も、自分に擦り変わった魔女リンダのことがとても気になりましたので、自分で厩舎の馬に鞍を置くと、リンダのあとを追っていったのでした。