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少女たち

作者: 藍井 湊

 私は皆と楽しく過ごせればそれで満足だった。

 放課後に友達とバカみたいな話をしたり、一緒にゲームをしたり、そんな普通で平凡な日常が送りたかった。

 今になってわかることは、普通を望む者は普通にはなれない。

 皆が普通であり続けることは決して普通なことではない。


 皆で仲良く?

 皆って誰?

 こうゆう場合の皆の中には、大抵その人の苦手な人、嫌いな人は無意識のうちに排除されている。

 そしてそれが暗黙の了解のようになる。

 時には、罪のない人が悪役として犠牲になり、その人を罵り、虐めることで結束しようとする。

 人が最も結束を固めやすい状況は、共通の敵がいることなのだろう。

 だが、そんなものは表面上の物に過ぎない。

 やがては飽き、次の犠牲者を探し出す。

 誰かが外れくじを引くのだ。


 外れくじを引かないためには上手くその場の空気を読み、高い協調性を持っていなければならない。

 現実とは時に残酷だ。

 どこまでいっても、理想と現実には必ずギャップがある。

 きっとこれは、これからも変わらないだろう。

 

 こんなことをするくらいだったら、始めからくじなどとは関係ないところにいればいい。

 そして定期的に、強制的に持たせれるはずれくじを黙って持っていればいい。


 隣のクラスによく話しかけてくる世話好きな幼馴染がいるが、家が隣同士というだけなので、特に仲良くしようとか、そうゆうふうに思ったことはなかった。

 まぁあっちはそうは思っていないようだけど。


 

 今日も適当に授業を受け、放課中はさほど面白くもない本を読んで過ごした。

 同じような日々の繰り返し。

 

「奈央ちゃーん。一緒に帰ろ~」

 校門を出たところで名前を呼ばれた。

 振り返らなくても、誰なのかは分かっている。

 私はそのまま歩いた。


「あれ?おーい、奈央ちゃーん。聞こえてますか~」

 あー、もううるさいなー。

「何?」 

「だから一緒に帰ろ」 

「はいはい。嫌って言っても聞かないんでしょ」

 何でこいつは私なんかに構うのかな。


「奈央ちゃん、優しい」

「七海がいつもいつもしつこいだけでしょ」

 そう言うと、七海はえへへっと笑う。

 褒めてないからな。


「奈央ちゃん。今度の日曜日、どこか遊びに行かない?」

「いやだ」

「どうして?」

「外出したくない」

 極力体は動かしたくないので、休日くらいゆっくりさせてほしい。


「もー、奈央ちゃん。そればっかり」

 お前も毎週毎週、遊びに誘ってばっかりだけどな。

「人の趣味趣向が一週間やそこらで変わるわけないでしょ」

「それはそうだけど…」


「そんなにどこか行きたいなら、他のやつ誘えよ」

「いや他の人はちょっと誘いにくくてさ」

 そう言って七海はまたえへへと笑う。

「あっそ」

 他人の事情など知りたくなかった。


 * * * *


 ある日、宿題を忘れて教室で残ってその宿題をやらされた。

 宿題をちゃちゃっと終わらせて、教室を施錠して帰ろうとした。

 歩きながらさらっと隣のクラスを確認する。

 中には誰もいなかったが、昨日まで奇麗だった席に落書きがしてあるのが見えた。


 あの席が誰の席かは、分かっていた。

 思わずため息をついた。

 

 だから、他人の事情など知りたくなかったのだ。

 いや、正確には違う。

 七海がクラスでどうゆう位置づけなのか、知りたくなかったのだ。


 七海はクラスでは人気者で気配りができて、友達がいない私をほっとけなくて、それで仲良くしてくれているのだと。

 私は勝手に自分で作り上げた七海の人物像を押し付けていたのだ。


 しかし見てしまったものは、なかったことにはできない。

 私は、職員室で自分のクラスの鍵を返すついでに、横にかかっている鍵を取った。


 * * * *

 

 ある日の放課後、とぼとぼと歩いて下駄箱に向かった。

 すると下駄箱に私の靴がなかった。


 またか。

 今年に入ってから何度目だろうか?

 もう思い出す気にもなれない。

 とりあえず探すか。


 靴は意外とすぐに見つかった。

 ゴミ箱に入れられていたのだ。

 いつもなら水でびしょ濡れになっていたり、グラウンドの端にあったりといった感じで、色々と面倒だった。

 その点、今回は楽でよかった。


 * * * *


 夜、私が部屋にいると部屋のガラスをたたく音がした。

 またか。

 私の部屋と七海の部屋は50cmほどしか離れておらず、容易に飛び移れる。

 だから、こうしてよく七海が私の部屋に遊びに来るのだ。

 

 私はスマホの画面を見ながら慣れた手つきでカーテンと窓ガラスを開けた。

「何の用?私忙しいんだけ…ど…」

 顔を上げて七海を見ると、七海の顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。

「え?どうしたの七海」

「私……私…」 

 上手くしゃべられないようだった。

「え、えっと。…とりあえず上がる?」 

 七海は頷いて、私の部屋に入ってきた。


「………何か飲み物持ってくるね」 

 私はそう言って一階に降りてお茶とちょっとしたお菓子とハンカチを用意した。

 私にしては気が利きすぎているような感じさえした。



部屋に戻って七海が落ち着くまでしばらく待った。

「ちょっとは落ち着いた?」

「うん。急にごめんね」

「別にいいけど」

「「……」」

いつもよりも沈黙が気まずかった。


「奈央ちゃんに謝らないといけないことがあって……あのね…それは…」

「その話は聞きたくない」

 言わなくても大体の状況はわかった。

 直接言葉にしてほしくなかった。

 言葉にしたら、私の中の何かが壊れてしまうような気がした。


「え……でも…」

「聞きたくない」

「…ごめんね」

 七海も色々事情があったのだろう。

 私たちは似てないようで、どこか似ていたのだ。

 

「その代わり、日曜日に買い物に一緒に行って……くれませんか?」

 七海は驚いたような表情をしている。

 それもそうだ。

 私自身もそんなこと言う気はなかった。

「いいの?」

「私が頼んでるんだけど」

 私はなんだか照れくさくなって、横を向いた。

 七海はそんな私を見てくすっと笑った。

「じゃあ、行こっか」

「うん」

「もう約束しちゃったからね。後から行きたくないとか言っても駄目だからね」

「わかってるよ」


 これが正しいのかどうかは分からない。

 こうゆうのが普通なのかもどうかも分からない。

 ただ今はこれでいいような気がした。

 普通じゃないと感じていることも、いつか普通だと感じられる時が来るんだろうか?

 とりあえず、そんなことは今はどうでもよかった。


「あのさ」

「何?」

「今日さ…泊まってく?」

 七海はふふっと笑った。

「うん」


 * * * *


 私たちは一緒の布団に入って電気を消した。

 外からの光で七海の顔ははっきりと見えた。

「今日の奈央ちゃん、優しいね」

「…そんなことない」

「奈央ちゃん照れてる~。顔真っ赤だよ」

「うるさい」

 私は逆向きになった。

 すると七海は私に近づいて、私を抱きしめるように手を私のお腹に回した。


「何すんの!気持ち悪い。離れて」 

「お願い。今日だけだから」

 そんなこと言われたら断れない。

「…今日だけだよ」

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