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 その夜。

 僕が彼女に寄り添って寝ていると、人間の女性がやってきた。

 彼女と同じ匂いのする女性だ。その顔はやせ細って、なんだか元気がない。

 少し違和感を感じる。人が夜の森に来るときは、だいたい松明を持ってくるのだけれど、女性はなにも持っていない。月の夜だから、いらないと思ったのかもしれない。

 

 最初、女性は僕たちに気がついていなかった。

 逃げようという気は、しかし、僕にはなかった。彼女を置いて逃げるなんてできるはずがない。なにより、僕はもう二度と彼女から離れたくなかった。


 邪魔をするな。

 あっちへいけ。

 お前がいると、彼女がまた悲しい思いをしてしまう。


 そんな思いが出てしまったのか、僕は知らずにグルル、と威嚇をする。

 女性が振り向き、僕たちに気がついた。女性はまず僕に怯え、次に彼女へと視線を移す。一呼吸ほどの間のあと、「あ、あぁ……」と声を震わせて彼女に駆け寄る。僕のことは、もう見えていない様子だった。

 女性は彼女を抱き寄せ、大きな声をあげて泣いた。

 なんで泣いているのか、僕にはよくわからない。僕は女性の頬を舐めてみる。しょっぱい味に彼女の匂いが混じっていた。女性はえずきながら僕を見る。


「……あなたは、この子を守ってくれてたのね」


 僕は首をかしげる。

 なにを言ってるのだろう。僕は彼女を守った覚えなんてない。

 逆だ。彼女が僕を守ってくれたんだ。


「ありがとう」


 と女性は僕の頭に手を置く。

 なんでお礼を言われてるのかわからなかった。

 でも、悪い気はしなかった。


 女性が去り、辺りには静かな夜が戻ってきた。

 僕は、少しだけもどかしい気持ちになる。

 きっとあの女性は、彼女のことを心から思っていたんだろう。僕はあの女性に、彼女の話を聞かせてあげたかった。彼女は僕のことを助けてくれて、僕にあたたかさを教えてくれたんだ、って伝えたかった。

 けれど、僕と女性の間には決して混じ入ることのできない壁のようなものがある。

 その壁は、ときとして大きな勘違いを生み出す。

 僕は思う。

 バケモノは、その壁の中にいるって。


 僕はバケモノじゃない。

 僕はドン助だ。

 彼女はそれを僕に教えてくれた。

 そんな彼女は、僕が堀り返した穴の中で眠っている。


 彼女が起きたらお礼を言おう。


 ありがとう。

 君のおかげで僕はドン助になれた。


 ありがとう。

 君のおかげで、僕はいま、とても幸せだ。


 とても。


 とても。





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