失恋ドライブ
君にフラレて気分転換に1人ドライブ。
「ゴメンナサイ…!」
君は俯きながら、可愛い小さな声で、でもはっきりと。
その声がこのドライブのセットリスト。
「好きな人がいるの」
僕は背が低くて格好悪くて取り柄もない。
君が好きな人は背も高くて格好良くて、なんでも出来る凄い人なんだろう。
僕は会ったことのない彼に嫉妬する。
悪の感情を握りしめた拳がクラクションを押そうとする。
「このことで関係を悪くしたくないの」
君は真っ直ぐな目で僕を見つめる。
あの時、僕の心臓はその目に撃ち抜かれた。君は誤射してしまったようだね。
僕も君との関係を悪くしたくない。友達でいたい。君の笑っているところが見たい。
僕はハンドルを握りしめる。クラクションを押すのを我慢して。
「これからも…よろしくお願いします!」
君は僕の目を掴むように見る。
待って、また誤射しないでね。
そんな目で見ないで。
ダメ、ダメ、ギュッてしたくなる。
ダメ、ダメ、そんなことは絶対に許されない。
百年経っても、千年経っても、『好きな人をギュッてしていい』なんて法律はつくられない。
…そんなバカなことを考えていたら、目の前に大きな丁字路が現れた。
目的地の海は右折。
左折したら何処に辿り着くのだろう。
なんとなくだけど、樹海みたいな所だと思う。地図にも載ってない村かも。どっちみち、戻れないかもね。
しっかり右にハンドルをきるんだ。
LOVEからLIKEにハンドルをきるんだ。
この丁字路、曲がり切るのにどのくらい時間がかかるのかな。
いつになったら海に着くのかな。
海に着いたら、何があるのかな。
海に着いたら、誰か居ないかな。
今度は楽しいセットリストを流してドライブしたいな。
この車、2人乗りなんだよ。