第9話 VSドラゴン(?) ~やりたい放題な勇者様~
ドラゴンが町にやってきた。
そんな情報を耳にした俺は、町の外にある草原へとやってきた。
すると、遠くの空から赤いドラゴンがこちらに飛んでくるのを見つけた。
「本当にドラゴンだー!」
ドラゴンを目にするのは、この世界に来てから二度目だ。
でも、生きているものという条件がつけば、今回が初めてになるな。
ちなみに、ヌルシーは町の入口の西門付近に置いてきた。
本当は常に一緒にいないと駄目かもしれないけど、状況が状況だから、少しだけ離れたところで見ていてもらおう。
「ほわぁ……でかいなー……」
目の前までドラゴンが迫ってきた。
けれど、それでも怖いとは思わなかった。
昔から、どうも俺はそういう感情が希薄なんだよな。
ご近所のおばさま方からは『無敵のアルト君』と呼ばれていたし、知り合いの組長さんからは『不死身の鉄砲玉』というよくわからない表現で例えられた。
今は亡き、猟師だった俺のじいちゃんも、『お前が生きているのは奇跡みたいなもんじゃ……』と、事あるごとに呟いていた。
要するに『命知らず』って評価なんだろう。
「まあ……それでも少しは緊張するかな」
2メートルくらいまでの人や動物となら喧嘩したこともある。
とはいえ、5メートルを超すドラゴンさんとは流石に戦ったことがなかった(当たり前か)。
無理に俺が戦う必要はない。
が、町で調べた能力値を見る限り、人任せにするよりも自分が出たほうが早いだろう。
大魔王さえ倒せるスペックを持っている俺なら、そんじょそこらのドラゴン相手でも大丈夫のはず。
そういう心算を持って、俺は勇者の剣を構える。
……ああ、そういえば、あともう1つやってみたいことがあったんだった。
「相手にとって不足はない……」
スキルの発動途中で敵がやられると、スキルも中断されちゃうから、全部やりきって倒すのって結構難しいんだよな。
でも、ドラゴン相手なら、全部くらっても耐えるだけの体力はあるだろう。
「ギャオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「うるせー! とっとと終わらせるから、覚悟しやがれい!」
吼えるドラゴンに飛びかかる。
今の俺の身体能力なら、数十メートルジャンプも軽々とこなせた。
動作チェックがまだ不十分だったけど、わりと体も自由に動かせるな。
そんなことを思いながら、剣を振り上げた。
あと数メートル先には、赤いドラゴンの腹部がある。
俺は、その腹へ向けて1つのスキルを念じる。
「『ブレイブスラッシュ』!!!!!」
そして俺は、スキル『ブレイブスラッシュ』を発動させた。
『ブレイブスラッシュ』は、勇者スキルの中で一番好きなスキルだ。
このスキルは、発動させると15回の剣撃ダメージを敵に加えるというものだ。
そのときのエフェクトや効果音がとても爽快なため、俺は『ブレイブスラッシュ』を決め技としてきた。
今まではパソコンのモニターからドット絵で見ることしかできなかったが、これからは実際にスキルを振るうことができる。
これは嬉しいな。
スキルが発動した直後、勇者の剣が光り輝いた。
同時に、怒涛の15連撃がジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキーン!という効果音を伴って、ドラゴンの腹に命中する。
「ぎゃー!!!!!!!!!!」
「…………」
やった、と思ったのも束の間。
この場に不釣合いな可愛らしい叫び声が聞こえてきた。
その声がどこからしたのかわからず、俺は周囲を見回す。
けれど、この場には俺とドラゴンしかいなかった。
遠くからは、俺を追ってくるヌルシーや、さらに後方から第一王女や町の衛兵集団が走ってきている。
が、今の声はすぐ近くから聞こえたように思う。
幻聴だったのか?
「……まあいいか」
よくわからないけど、とりあえずドラゴンは倒した。
ドラゴンにはまだ息があるものの、腹を八つ裂きにされたことで、大分苦しんでいる様子だ。
「今、楽にしてやろう」
このままにしておくのは、いささか不憫だ。
トドメを刺してやるのが情けというものだろう。
俺はそう思って、ドラゴンの首筋に剣を当てた。
「タイムタイムー。アルトさん、タイムです」
「……? ヌルシー?」
と、そこでヌルシーの声が聞こえてきた。
ヌルシーは俺を止めるようとしている。
なんでだろうか。
「……どうしたヌルシー。なんでトドメを刺すのを止めるんだ?」
「その子、私のお友達です」
「え? 友達?」
「ですです」
友達って……このドラゴンが?
凄い大きな友達もいたもんだな。
「でもなヌルシー、このドラゴンは町に迷惑がかかりそうだったんだ。だから、こいつを見過ごすなんてこと……俺にはできねえよ」
一度抜いた剣は収められない。
いくらヌルシーが止めても無駄だ。
俺は非情になりきってドラゴンを倒す!
「でもその子、人の姿に戻ると凄く可愛いですよ」
「バカヤロウ! それを早く言え!」
俺はドラゴンを助けた。
具体的には、回復魔法の最上位である『オールヒール』をかけて、腹の傷を癒しつつナデナデしてあげた。
可愛いのなら話は別だ。
手厚く保護しよう。
「ぐぅ……酷い目にあいましたわー……」
「うおっ!」
そんなことをしていたら、目の前のドラゴンが輝き出し、1人の少女の姿へと変身した。
少女はヌルシーと同じくらいの年頃といった見た目で、瞳とドリルな巻き髪の色は輝くような赤だった。
確かに、ヌルシーの言った通り、とても可愛い容姿をしている。
やや目がつり上がっていて、気の強そうな印象を受けるが、むしろそれがいい。
ヌルシーと同様、完璧と言っていい美少女だ。
「無事だったかい、お嬢さん」
「ぎゃー!!! 気安く触んないでくださいましー!」
お腹ナデナデを再開しながら労わりの声をかける。
すると、その美少女は突然怒り出して距離をとり始めた。
なんで怒ってるんだろう。
俺はただ、お腹につけた傷がちゃんと癒えたかどうか、念入りに確認していただけなのに。
癒えきっていなかったらペロペロもする所存だったのに。
失礼しちゃうなー。
「その様子だと、怪我はもう大丈夫っぽいな」
「え? あ、そ、そうですわ! あれ位の傷では、私を倒すことなどできませんのー!」
「そうか、それは凄いな」
瀕死だったけどな。
放っておいたら、わりとマジで死んでたかもしれないくらいのダメージだったぞ。
「ラミちゃん、こんなところまで来るなんて、いったいどうしたのです?」
「! ああ! ヌルシー! 無事だったのですわね!」
「はあ、まあ」
俺と美少女が楽しくトークをしているところへ、ヌルシーが加わってきた。
「アルトさん、紹介します。この子の名前はフラミー・ドラゴネスで、私のお友達です」
この子、フラミーっていうのか。
良い響きだ。
というか、名前とかは『サーチ』を使えば一発でわかるんだったな。
さっきの戦闘でも能力値を見ておけば良かったのに、すっかり忘れていた。
まあ、ドラゴンが相手だったわけだしな。
多少テンパってても、それはご愛嬌で済ませられる程度の範囲に事態が収まって良かった良かった。
そんなことを思いつつ、フラミーに『サーチ』をかけてみた。
フラミー・ドラゴネス ♀
身体能力 38
魔法能力 753
あれ。
なんでこんな身体能力低いんだろ。
身体能力38って、一般人でもそこそこいたぞ。
……もしかして、ドラゴン形態の能力は反映されてないのか?
益々『サーチ』に信用が置けなくなったな。
「……なに人の顔をジロジロ見てるんですの?」
「美少女の顔はいつまでも見ていたいものなのさ」
「変態ですわ! やっぱりこの人変態ですわー!」
なぜそうなる。
俺はちょっと彼女の素性を調べてただけなのに。
でも、そんなことを面と向かって言えないから、とりあえず褒めて誤魔化してみただけなのに。
「変態じゃないですよ、ラミちゃん」
「ヌルシー?」
「変態じゃなくて、奴隷となった私のご主人様です」
「変態ですわ! 絶対にこの人変態ですわー!」
だから、なぜそうなる。
俺は『ちょっとあの子可愛いな』って思ってヌルシーを助けただけなのに。
その結果、奴隷とご主人様といった関係になってしまっただけなのに。
「というか、ヌルシー! あなた、やっぱり奴隷となってしまったんですの!?」
フラミーはヌルシーの首輪を指差しながら、そう叫んだ。
やっぱ、首輪がついてるのは奴隷の証なんだな。
「うん。でもいいのです」
「なにが良いと言うんですの! 私たちは由緒正しきドラゴネス一族の末裔! 奴隷になるだなんて前代未聞ですわー!」
ドラゴネス一族か。
そういえば、フラミーもヌルシーと同じく『ドラゴネス』って名前が入ってたな。
この世界にはそんな一族がいるのか。
ゲームでは聞かなかったと思うんだけど。
って、あんまりゲーム準拠で考えないほうがいいな。
この世界はゲームじゃないんだし。
そこはちゃんと認識しておこう。
「あなたにも一族の誇りがあるでしょう! ヌルシー!」
「んーん」
「んーん!?」
そんな俺の思考をよそにして、ヌルシーとフラミーの会話は続いている。
といっても、ヌルシーのボケにフラミーがツッコミを入れているというカンジだが。
「はぁ……はぁ……ど、どうやらドラゴンは無事抑えられたようだな」
「…………」
そんなところへ、さっき助けた第一王女がゼエゼエ息を切らしながらやってきた。
第一王女の後ろには、衛兵が数十人控えている。
「もしや、その少女が先のドラゴンか?」
「…………」
この世界では、人がドラゴンになることに違和感はないみたいだな。
と思いながらも、王女たちの剣呑な様子に嫌な予感を抱きつつ、俺は首を縦に振った。
「そうか……では皆の者、その少女を捕らえよ。これから裁判にかけるゆえな」
「「「ハハッ!」」」
「!」
そして、第一王女は背後に控えさせた衛兵に指示を出し――フラミーを裁判にかけると言い始めた。
次回
VS第一王女様 ~勇者の力は誰がために~