第7話 勇者様のスイーツタイム
「ささっ! こちらでございやすぜダンナァ!」
「……あ、ああ」
俺とヌルシーは、いきなり現れて怒って怯えて土下座したチンピラに連れられて、『レイダの酒場』にやってきた。
この男には強い奴が集まってそうなところに案内してくれと頼んだのだが、どうやら冒険者が集まるここが一番手っ取り早いようだ。
ちなみに、これは補足だが、ここへ来る途中でヌルシーの尻尾はスカートの中に隠してもらった。
こうすれば、ヌルシーを魔族だと一瞬で見抜くことはできないだろうからな。
往来を歩いても、まあ大丈夫だろう。
「それにしても、どうして強いヤツの集まるところなんかに来たがったんですかい?」
「まあ、ちょっとな」
この世界の人間(人間族とも言う)がどれ位の強さなのかを確認しておこうかと思って来たわけだが、それはみだらに人へ話すことでもない。
俺は言葉を軽く濁して、周囲の人々に『サーチ』をかける。
「……2000が限界か」
一通り数値を見終えて、『ふう』と息を漏らす。
さっきも町中で『サーチ』をかけまくったから、なんとなくわかっていたんだが、俺は数字的に見ると桁外れの強さを持っているようだ。
町にいた一般人らしい人々は身体能力が2~500、魔法能力にいたっては0がほとんどだった。
また、この酒場にいる強そうな人間でも、身体能力は1902、魔法能力は1980が最高値のように見える。
身体能力も魔法能力も50万を超えている俺と比べると、200倍以上の開きがあるな。
ヌルシーも身体能力こそ子供並だが、魔法能力のみならここにいる連中とも渡り合えそうだ。
「まさか、ここまで差があるとは……」
勇者であるのなら、それなりに強いのだろうとは思っていた。
が、数字で見ると、その強さがいかに化け物じみているか、よくわかる。
とはいっても、あくまで目安程度として考えておかないとだろう。
変なとこで足元を掬われてもイヤだしね。
「さて……それじゃあちょっと休憩するか。ここに甘い物とかはあるか?」
「え……甘いものですか?」
「彼女に食わせてやりたいんでな」
「あっ! そういうことでしたか! それならフルーツパフェなんかが、ここでの一押しですぜ!」
「そんなものがあるのか……」
酒場にパフェがあるとは意外だな。
でも好都合だ。
「じゃあそれを……って、いくらになる?」
「金貨1枚ってとこですね」
「そうか、それじゃあ1つ買ってきてくれ」
俺はポケットに入れていた金貨を2枚渡した。
「あれ? 2つですかい?」
「いや、半分は手間賃だ。お前も、それでなんか食べてくれて構わない」
「へへっ、そうですか。ありがとうございやす」
「…………」
パシリにするのも可哀想だから多めに渡してみたんだが……。
なんかコイツ、発言とかいちいち小物っぽいんだよな。
本人には失礼だから言わないけど、チンピラの鏡みたいな奴だ。
「……いいのです?」
「? なにがだ?」
と、そこでヌルシーが俺に疑問の声を上げてきた。
「パフェ、私に食べさせても」
「甘い物は嫌いか?」
「んーん、大好きです」
「それならいいだろ。俺の奢りだから、遠慮せず食ってくれ」
金貨1枚程度なら、大した出費じゃない。
ゲームでいうところの1Gだからな。
パフェでこの程度の価格なら、本当に働かなくても一生食っていけそうだ。
「ありがとです」
「どういたしまして」
ペコリと頭を下げてきたヌルシーに、俺は軽く答える。
「お待たせいたしやした!」
「おお、それじゃあ彼女のとこに置いてくれ」
「へい!」
そこに、ちょうどよくチンピラの男が戻ってきて、ヌルシーの前のテーブルにフルーツパフェをゴトンと置いた。
生クリームの中に、バナナやイチゴといった俺もよく知るようなフルーツがたくさん詰まっている。
わりとでっかい!
それに、すっごく綺麗なデコレーション!
見た目だけでも、勇者の私が三ツ星付けちゃうわ!
いやー……。
これで金貨1枚とは……。
俺が思ってたのより、金貨の価値は高いのかもしれないな。
金貨1枚で1000円くらいか?
……って、あれ?
「? お前はなにか食わないのか?」
チンピラの男は、フルーツパフェ以外になにも持っていなかった。
「あとで食いやすが……その前に俺は、これを元手にして一儲けしようかと」
「は?」
訊ねると、なんだかよくわからない回答をされてしまった。
一儲けって、もしかしてギャンブルでもするつもりなのか?
「この酒場では今、賭けポーカーが流行ってるんですよ。俺もさっきまでやってたんですが……有り金全部スッちまいやして」
「…………」
うん。
コイツに金を渡すのは金輪際止めよう。
「でも、今なら勝てそうな気がするんですよ」
「へー……」
いかん。
それは駄目なパターンだ。
どうせ聞く耳もたないだろうから止めはしないけど。
いつか自分で気づいてくれることを祈ろう。
「近々大会も開かれやすし……それの参加費用を稼ぐためにも、俺はやりやすぜ」
「あらそー、じゃーがんばってねー」
俺はチンピラの話を聞かず、適当な相槌をしながら、ハグハグとパフェを食べるヌルシーを眺めていた。
食べてる姿も可愛いなぁ。
「ヌルシー、パフェ美味しい?」
「むぐむぐ…………はい、とっても……これは私の中でも上位につく美味しさです」
「それならよかった」
甘い物が好きなんだろう。
こんな熱心に食べられちゃったら、また奢りたくなっちゃうよ。
「アルトさんも、一口どうです?」
と思っていたら、ヌルシーは俺のほうにイチゴの欠片と生クリームが乗ったスプーンを寄越してきた。
「いいの?」
「これはアルトさんのお金で買った物なんですから、いいに決まってます」
「そっか、それじゃあ遠慮なく」
『可愛い女の子との間接キスでドキドキしちゃうから食べられないっ』などと言う俺ではないのだ!
俺はヌルシーのアーンによって、パフェを一口いただいた。
口の中で、なめらかな甘い生クリームと甘酸っぱいイチゴが混ざり合う。
見た目も良かったけど、お味のほうも大変美味である。
無言の勇者も思わず唸る!
レイダの酒場の三ツ星パフェでございますってね。
スマホが手元にあったら、すぐさま写メってブログに載せちゃうのにっ!
「このパフェ、アルトさんも気に入りましたか?」
「うん、凄く気に入った!」
「そですか。では特別に、もう一口だけあげましょう」
「わぁい!」
俺は喜びながらヌルシーにアーンをしてもらう。
今回はバナナの欠片が入ってる。
口の中がトロけちゃう~。
「アルトさんもまだまだお子様ですね」
「男はいつだって童心を忘れない生き物なのさ……というわけでもう一口ちょうだい!」
「ふぅ、しょうがない人ですね。これがホントに最後ですよ?」
ありがとうございます、ヌルシーさん。
って、これじゃあどっちがご主人様なのかわかんないな。
だけど、これでヌルシーも俺に気負うことなく接してくれるだろうから、別にいいや。
「ダンナも食べるなら、最初から2つ頼めば良かったのに……」
すぐ近くで無粋なことを言う人がいる。
けど、俺は気にしない。
1人で1つのお菓子を食べるより、女の子と分けあって1つのお菓子を食べるほうが美味しいに決まってるのだから……!
そんなこんなで、俺たちは荒くれ者の集う酒場で束の間の甘いスイーツタイムを満喫したのだった。
次回
勇者、やんごとなきお立場にあらせられるお方を町中で助けるの巻