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第64話 勇者アルトのエピローグ

「我が名はグラン! 魔族を統率する新生魔王なり!」

「はーい、領内で暴れる子は痛い思いしましょうねー」

「ぐあああああああああああああああああ!?」


 新生魔王なる魔族の男が俺のもとを訪れた。


 その男は、『無言の勇者を出せ!』と領民にしつこく迫っていたようだ。

 なので、俺はいつも通り、コブラツイストなどを決めてやった。

 勇者にかかれば、これくらい当然のことである。


「い、いきなりなんだお前は!」

「あ、俺、勇者です。最近では『よく喋る無言の勇者』って呼ばれてますよ」

「なんだそれは! 喋るのか喋らないか、どっちかにしいだだだだだ!?!?」


 文句のある子はおしおきよ!

 勇者だからって舐めないでよね!


「いきなりなんだって、アタシたちのほうが言いたいわよ……」

「まったくじゃな。領内で暴れている魔族がいるというから駆けつけたというのに」

「……とんだ期待外れだ」


 イーナ、イーダ、クレアの3人は、涙目になっている新生魔王を見てため息をついている。


「ぎ、ぎぶ! ギブ! いったん離せ! いったん離してくれ!」

「駄目。反省するまで離さない」

「は、反省した! 反省したから! とりあえず離れてくれ!」


 本当かな?

 でも、まあいいや。

 いったん離してあげよう。


「はぁ……はぁ…………き、貴様! 新生魔王であるこの私になんたる仕打ちか! 許せん!」

「えー」


 全然反省してなかった。

 それじゃあ、今度はキン○バスターいっちゃう?


『新生魔王だとほざくのなら、もう100年くらい鍛えてからにしろ』


 と、思っていたら、俺たちのところにルシフェルが飛んできた。


 背中にはヌルシーとフラミーが乗っている。

 3ヵ月前にあった黒神との一戦以来、俺は乗せてくれないというのに……ヌルシーたちだけは乗れるなんて不公平だ。

 今度、彼女たちと一緒に無理やり乗せてもらおう。


「な、なんだ……貴様たちは……?」

『貴様は私のことも知らんのか……とんだ若造だな』

「この方は、魔王、ルシフェル・ドラゴネス様ですわよ」

「ま、魔王!? なんで!? 魔王って死んだはずじゃないの!?」


 新生魔王が取り乱してらっしゃる。


 うん。

 間違いない。

 この人、新生魔王だって自称しちゃってる系男子だ。


「しかも、勇者と一緒にいるなんて、おかしいじゃないか! ……ハッ! さては……貴様たちは偽物だな!」

「あ?」

『あ?』

「ひっ」


 俺とルシフェルの睨みに、新生魔王が再び涙目になった。


 まあ、俺もよく喋るようになって、『この人って本当に勇者なの?』って言われることも沢山あるよ。

 でも、新生魔王を自称しちゃってる人にだけは偽者扱いされたくないなぁ。


『あまりふざけていると、炎のブレスをお見舞いしてやるぞ?』

「す、すみません! その鋭い眼光と殺気は、まさしく魔王様のものです!」

『わかればいい』


 うわぁ。

 新生魔王弱いなぁ。


 これも、若気の至りってやつかね。

 若い子は、これだからいかんよ。

 まあ、俺もその若者の1人なわけだけど。


「ふぅ、これで一件落着ですね」

「そうみたいだね」


 俺はヌルシーと相槌を打つ。


 今回の騒動は、わりとあっさり解決したな。

 領民から新生魔王襲来と聞いたときは、『えっ!? マジ!?』って驚いたもんなんだけど。


 でも、こういうことは俺の異世界ライフにおいて、日常茶飯事だ。

 別段、特筆すべき点などない。


「それじゃあ、帰りましょっか」

「うむ、そうじゃな。今日はアレスティア様もお忍びで屋敷にいらしていることじゃしのう」

「……あの娘は、いつもお忍びで来ているな」


 イーナたちはそう言って、屋敷へ向かって歩き出した。


『貴様は、これから私がみっちりしごいてやるから、覚悟しろ』

「ヒィッ!?」


 自称新生魔王は、ルシフェルが預かるようだ。


 ルシフェルに任せておけば問題ないでしょ、多分。


「ここはパパに任せて、私たちも帰りましょう」

「そうですわね。途中で抜けたティータイムの続きが待ってますわ」

「お兄ちゃんも行きましょう」


 ヌルシーたちも、俺に帰ろうと声をかけてきた。

 なので、俺はいつも通りの調子で答える。


「うん、そうだね。なんだったら、屋敷まで手を繋いで帰っちゃう?」

「繋ぎませんわよ……突然、なに変なこと言いだしてんですの?」

「いや、今のはヌルシーに聞いたんだよ」

「私、お兄ちゃんと手を繋いで帰りたいです」

「じゃあ、俺と2人で手を繋ごっかー」

「なんで私、除け者みたいな扱い受けてるんですの!?」

「フラミーがツンデレなのが悪い」

「ツンデレってなんですのー!?」


 そうして、俺たちは帰路につく。

 俺たちの暮らす家へ帰るために。


 これは、俺たちにとって、もはや日常のようなものだ。

 特別なことなんてない。

 普段の出来事だ。


「ゆ、勇者のダンナァ! 助けてくだせぇ! 向こうで魔物が大発生してますぅ!」

「ほわっ!? 魔物が大発生!?」


 だから、こうして唐突に起きる騒動も、俺にとってはいつものことだ。


「お兄ちゃん、どうしますか?」

「当然! 様子を見に行くよ! それが領主の務めってもんでしょ!」

「……いつもはチャランポランなのに、こういうときは頼りになりますわよね」

「そんなこと言うから、フラミーはツンデレだって言うんだ!」

「だから、ツンデレってなんなんですのぉ!?」


 そうしたやり取りをしつつ、俺はヌルシーたちを抱えて走り出す。

 次の騒動へ向かって。


「2人とも! 振り落とされないよう気をつけて!」

「はい、わかりました、お兄ちゃん」

「ちょ、速い速い速い!? もうちょっと遅くできないんですの!?」

「できないね! ほら、しっかり掴まってて!」


 抱えた2人のうちの1人は騒がしいけど、それもまあ、俺の日常と言っていいだろう。


「お兄ちゃんと一緒にいると、退屈する暇がありませんね」

「これからも、退屈する暇なんてないだろうさ!」

「そうですか。それなら私も、いつも楽しくしていられそうです」


 ヌルシーは俺に抱えられながら、そう(ささや)く。


 いつも楽しくしていられそう……か。

 だったら、もっと楽しくさせちゃおう!


「勇者特急便、加速します!」

「ぎゃああああああああああああ! だから、速いって言ってるじゃないですのぉぉぉお!」


 そして、そんな日常は、これからも続いていく。


 無言の勇者としてではない。

 お喋りでお調子者な勇者アルトとして、俺はこれからもこの異世界で生きていく――。

完。




『無言の勇者って呼ばれてるけど、喋ってもいいよね?』、これにて完結です!


ひたすら明るく楽しい作風に挑戦し、総文字数およそ21万字という中編規模の作品となりましたが、いかがでしたでしょうか?

『面白かった!』という方がおりましたら、是非ご感想のほうをいただけますと、作者として嬉しく思います!


本作品の詳しい話につきましては、活動報告にて纏めようと思いますので、そちらもご確認いただければと思います。


また、本日、新連載を始めました。

そちらのほうも完結目指して頑張りますので、是非読みに来てください!


新連載URL

http://ncode.syosetu.com/n9750ds/


それでは……最後までご愛読下さいまして、誠にありがとうございました!

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[良い点] いい話だった…!! 最近のランキングはなかなか面白いのないから過去作を掘り掘りしてたら辿り着けました! 内容的にもすっきりする感じの最強物だったし勇者=無言には納得してしまった!
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