第63話 天咲或人のエピローグ
あけましておめでとうございます。
とある夏休みの朝。
パソコンを起動してメールチェックをしていると、変なメールが送られていることに気づいた。
「……えっ、なにこれ?」
宛先がバグってる……。
見たこともない文字列が並んでいて、気味が悪い!
タイトルは……『ファイナルクエストへのお誘い』って、なんじゃそりゃ。
F○とド○クエが混じったような名前だな。
もしかして、どこかの誰かが自作したゲームを適当にメールで流している……とかかな。
なんで俺のメルアドに届いたのかわからんけど。
どこかでメルアドが流失したのかねぇ。
めんどくさいなぁ。
まあ、なんにせよ、こんな怪しいメールは開かないに限るね。
ウイルス入りかもしれないし。
削除削除っと。
「……ん?」
俺は怪しいメールを削除しようとした。
けれど、その瞬間、タイトルの先に文字が続いていることに気づいた。
えーと、なになに……。
『元気で暮らせよ! 歯、磨けよ! あと、風呂も毎日入れよ!』。
わー……。
意味わかんないよー……。
元気で暮らせよとか、そんなん当たり前だし。
言われるまでもないし。
歯だって、ちゃんと食事の後に毎回磨いてる。
俺、生まれてから今まで、虫歯ゼロの男よ?
風呂だって、毎日入ってる。
まあ……たまになにかに熱中して、風呂に入りそびれることはあるけどさ。
とにかく、こんなタイトル君に言われるまでもなく、俺はいつも健康体だ。
このメールを出した人の気遣いなのかね。
なんで、わざわざこんなことを――。
「……おろ?」
今の文字の先にも、なんか書いてあるな。
ずいぶんと長いタイトルだな。
どれどれ……。
『それと最後に……親は大切にしろよ! 俺!』
……なんなんだろう、このメールは。
『俺!』ってなんだよ。
お前は俺か。
天咲或人なのか。
俺ってば、こんなイタズラメール送っちゃうなんて、お茶目さんだなっ。
って、そんなわけあるかい!
俺じゃねえよ!
なに俺ヅラして当たり前のこと言ってんだ!
親を大切にしろだぁ!?
大切にしてるぞこらぁ!?
「……おっと、そういえば、そろそろ時間か」
メールのタイトルを見ながら1人で怒ったりしていた俺は、そこでふと、時計に目がいった。
そろそろ、面会できる時間だな。
早く病院に行こう。
「お前に『親を大切にしろ!』だなんて、言われるまでもないわ!!」
そう思った俺は、謎のメールを削除した。
ふぅ。
スッキリした。
よし。
それじゃあ早速、親孝行してきますかねっと。
……んでも、今のメール、ちょっと気になったな。
なんでだろ?
ちょうど最近、両親が大きな事故に遭って、それでも奇跡的に軽傷で助かったからかな。
さっきのメールのタイトルが、どうにも心にくる。
「……俺、いいこと言うじゃん」
なので、俺はあのタイトルを、心の片隅に覚えておくことにした。
それは、とてもありきたりな言葉であったけれど、なんとなく気に入った。
あのタイトルを書いた奴、きっと、俺のことをよく知る人間だな。
いったい誰だろ。
大学の友人か、それとも、地元の友人か……。
……まあ、いいや。
誰があのメールの送り主だろうと、俺にはどうでもいいことだ。
俺は、ただなんとなく、あのメールのタイトルが気に入った。
本当に、それだけの話なんだから。
「さて……そんじゃあ行きますか!」
そんなことを想いつつ、家を飛び出る。
俺がこれから行く場所は、地元の大病院だ。
あそこには、俺の両親が入院している。
といっても、それは『念のため』らしく、あと数日で退院することもできそうなのだとか。
数日前、両親が車の事故に巻き込まれたって話を聞いて、正直、ちょっと怖かった。
怖いものなんてなにもないって、そう思いながら生きてきたのにね。
あの人たちを失ったら、という想像が一瞬脳をかすめただけで、俺は怖かったんだ。
なんでか、事故に遭ったという話を聞いただけで、死を強く直観したんだよな。
事故に遭ったというのだから、そう思うのも無理はないんだけど、あのときの俺は、どうかしていた。
でも、両親が奇跡的に無事だとわかって、すごくホッとした。
事故の現場検証をしていた刑事さんなんか、『こんな大事故に巻きこまれたのに軽傷で済んだのは奇跡だ』と言っていた。
日頃の行いが良かったのかね。
我が家はそんなに神様とか信じちゃいないんだけど。
俺の両親が無事だった理由。
それが神様か運命のイタズラだというのなら、俺もずいぶん神様に愛されたもんだ。
俺のことを愛してるなら、ついでに俺をモテモテの大金持ちにしてください、神様!
なんちゃって。
本当は、ちゃんとわかってるよ。
俺の両親は、たまたま奇跡が起こって無事だったんでしょ。
神様なんているわけナイナイっと。
「よーし! それじゃあ、今日も元気にいってみよー!」
そして、俺は神様の存在を否定し、病院へ向かって走る。
病院まで20キロくらいあるけど、今日は走ってこうかな!
なんか、今日の俺ってば、そんな気分!
次回。
勇者アルトのエピローグ。




