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第59話 天咲或人の願い事

 神様との会談中。

 俺は、ノワールを倒したことによって貰えることとなったご褒美についてを聞き、驚きの表情を作った。


「の、望みをなんでも1つ叶えてくれる……だって……?」


 今、神様は確かにそう言った。 

 ここでの『なんでも』というのが、どこまでの範囲をカバーしているのかまでは、わからない。


 とはいえだ。

 多分、大抵のことは叶えられちゃうんだろうなぁ……。

 どうしよう……。


『お金持ちになりたいっていうなら、無限にお金が出てくる財布をプレゼントしよう。その場合は、世界で流れているお金の価値を暴落させないよう、気をつけてね』

「いや、お金持ちになるというお願いはしません」

『ありゃ、そう?』


 お願い事の定番とも言える『お金持ちになりたい』は、あんまり興味がない。

 そりゃあ、お金はあるに越したことはないわけで、くれるっていうならありがたくもらうよ。

 でも、なんでも願いが叶えられるのであれば、それが一番叶えてほしいという内容にはならない。

 なんでも願いがかなうってときに『お金が欲しい』って言うんじゃ、夢がなさすぎるもん。

 『もっと凄いことできるでしょ!』ってね。


『それじゃあ、ハーレムをご希望かな? 絶世の美女たちをはべらせて、毎晩酒池肉林の限りを尽くすというのも、男の夢だよね』

「うわぁ……それ、結構心惹かれるなぁ…………でも、俺はそのお願いもしません」

『あら』


 俺も男の子ですから。

 そういうことに興味がないわけじゃあないんですよ?

 だけど、それもお金持ちになりたいというお願いと同じく、一番のお願いにはなりえない。

 こっちのほうが、叶えてみたいと思う気にはなったけどね。


「ここでお願いすることといったら、もっとこう……ここでお願いしないと絶対に叶わないようなことにしたいよね」

『そっか。まあ、お金持ちになりたいもハーレムを作りたいも、運や努力で、ある程度は叶えられたりするもんね』


 その通りだよ!

 神様もよくわかってるねぇ!


『それじゃあ、君はいったいなにが欲しいのさ』

「う、うーん……それは……」


 ぶっちゃけ言うと、いきなり『欲しい物ある?』って聞かれても困る、というのが本音だ。

 そういうのはクリスマスとかに言ってほしいね。


「ちなみに、最大でどれだけのことを叶えてくれるの?」 

『最大でっていうと……この世界の神様になる、とかかな?』

「マジっすか!?」

『マジっすよ』


 俺、神様になれちゃうの!?

 神様になりたいって言えば、神様になれちゃうの!?


『ちょうど、俺も他の世界のことで手が回らなくなってきてたところだから、君がこの世界の神様になってくれるなら助かるよー』


 うわー。

 マジかー。

 というか神様、何気に結構忙しいんですね……。


「でも、そんな簡単になれるもんなんですかね、神様って」

『俺も昔、先輩の神様からスカウトされて、神様になったクチだよ』

「わりと簡単だった!」


 本当に神様になれるんかい!


 うわっ、うわっ。

 どうしよ。


 俺、神様になっちゃう?

 この世界の神様になっちゃう!?


『さあ、それじゃあ君は、いったいなにを望む?』


 神様が俺に問いかけてくる。

 そろそろ決める頃合いだ、ということなのだろう。


 なら、俺も回答を出そう。


 俺は。


 俺、は……。


 …………。



 ……………………。



「……………………………………事故死しちゃった俺の両親、生き返らせることってできませんか?」



 ――か細い声で、俺は神様にそんなお願い事をした。


『……驚いた。さっきまでの話の内容とは全然違うお願い事だね』

「ごめんなさい。でも本当は、俺が神様にお願いできるなら、これしかお願いすることってなかったんですよね」


 これしかなかった、と言うより、これがいい、と言うべきか。

 神様からのご褒美などという、ありとあらゆる法則を無視できそうなチートがあるのであれば……俺は、家族を生き返らせることを望む。


 この世界に来る、少し前。

 俺の両親は交通事故で死んでしまった。

 なんの前触れもなく、最後のお別れを言うこともなく、唐突に死んでしまったのだ。


 大抵の悪い出来事なら、俺もケロッとした顔でやり過ごせるし、運が悪かったなぁで済ませられる。

 でも、肉親の唐突な事故死は、俺を納得させなかったのだ。

 実際、そのせいで半分引きこもり状態になっちゃってたしね。


『君の両親を生き返らせることはできない。それをすれば、君が元いた世界の秩序が乱れちゃうからね』 

「…………っ……そう、ですか」


 まあ、そりゃ駄目だよな……。

 駄目元で訊いてみたけど、やっぱり駄目だったか……。



『だけど、時間を過去に(さかのぼ)って、君の両親を事故死しないようにすることはできるよ』

「マジっすか!?!?!?」

『マジっすよ』



 神様、アンタ神様ですか!?

 いや、さっきから自分で言ってる通り、神様なんだけど!


 過去に遡って事故死しないようにとか、そんなことできちゃうわけ!?

 マジでアンタ神様じゃん!


『テンパってるところ悪いんだけど、それには1つ問題があるから、聞いてほしいな』

「あ、はい、なんでしょう」


 問題ってなんだ。

 なにか条件でも出されちゃうの?


『問題っていうのは、君の存在だ』

「……俺の存在?」

『そう。今ここにいる君は、両親を事故死しない過去になるよう願うとする。そうすると、そういった過去に改変されるわけだけど、今ここで願い事をした君の存在は改変されちゃいけないわけで。だから、それを解消するために、今の君は両親が存命だった頃の君と別存在になっちゃうんだ』

「ん、んーと……つまり、このお願いをすると、俺と過去の俺が同時に存在するようになるってこと?」

『わりとすんなり呑みこめてるね。その通りだよ』


 そうなのか。

 まあ、こういった話は、創作物でよく聞くね。

 タイムパラドックスってやつ。


『今いる君は、両親が事故死しないという運命に改変した原因として、特異点となる。もう、いくら過去を改変しても、君という存在は残り続けるわけだ』

「ふんふん、なるほど。でも、それのなにが問題なの?」

『わかんない? 君は両親は事故死しないようになるけど、その傍にいるのは、君じゃなくて過去の君ってことになるんだよ?』

「ああ……そういうことね」


 俺が両親の存命を願っても、俺は両親の傍にいられない。

 両親の傍には、俺に存在レベルで限りなく近い、別の俺がいる。

 だから、俺があの温かだった家庭に戻ることはできない……ってことか。



 でも、それがどうしたっていうのさ。



「このお願いをすることで、父さんや母さんがちゃんとした余生を送れるのなら、俺はそれでいいよ」

『……そっか、うん、そうだね。君はそういう人間だった』

「そういう人間って、どういうことよ?」

『感心してるんだよ。俺は君を選んで本当に良かったと思ってる』


 感心されても困るな。

 俺は、自分がしたいようにしているだけなんだから。


 確かに、この選択は俺にとって、少し寂しいものだ。

 今の俺は、もはや両親とともに生きることができず、お別れの言葉も告げられないのだから。


 だけど、その役目は過去の俺がやってくれる。

 それがわかっているだけで、俺はもう満足だ。


「あ……ちなみにだけど、この過去改変って、俺が元いた世界だけの話?」

『うん、そだよ。今いる世界には、君は勇者となってから来たからね。過去改変の影響は、この世界にはない』


 なら安心だ。

 もし、こっちの世界も過去改変されて、俺のことを誰も知らないようになっちゃったら、流石にショックだったよ。


『願い事は決まったようだね。それじゃあ、改めて聞こう。君の願いは――』

「あ、ちょっと待った。そのお願い事のついでに、もう1つだけやってほしいことがあるんだけど」

『やってほしいこと? お願い事は1つしか叶えてあげないよ?』

「まあまあ、無理なら無理で別にいいですから」

『……しょうがないなぁ。聞くだけ聞いてあげるよ』


 なぁに。

 そんな大したことじゃないさ。


「えっとですね――」


 そうして俺は、神様にやってほしいことの内容を伝える。


『……まあ、その程度なら、やってあげてもいいかな。なにが変わるってわけでもないし』

「やった!」


 神様は話がわかるねぇ!

 今度一杯奢らせてよ!


『まったく……君は本当にお調子者だなぁ』

「よく言われます」

『知ってる。さて、それじゃあ……そろそろ締めといこうか』


 そう言うと、神様は真剣な眼差しで俺を見つめてきた。


『勇者アルト。君は見事、暗黒神を打ち滅ぼしてくれた。その褒美として、神である俺が、1つだけ望みを叶えてあげよう』


 神様は言う。

 1つだけ望みを叶える、と。


 だから、俺は望む。

 俺が叶えてほしい、唯一のことを。


『望みを言うといい、勇者アルト。君が真に欲した、その望みを』


 そして、俺は――。

次回

勇者がいなくなるかもしれないってホントですか!?

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