第58話 神様とご対面
暗黒神を倒したと思ったら、今度は真っ白な空間に飛ばされてしまった。
「どこよここ!?」
この場所に見覚えはない。
というか、見覚えになりそうな物自体、この空間にはない。
見渡す限りの純白。
死後の世界なんじゃないかとさえ思ってしまうほど、静寂に満ちている。
『ここは死後の世界じゃないよ』
「!」
誰かが俺に声をかけてきた。
俺は声のしたほうへと振り返る。
「って…………俺?」
振り返ったその先には……俺がいた。
「あっ、なんだ。ただの鏡か」
『いやいや鏡じゃないよ! 視覚化するために君の姿を取ったけど、鏡じゃないよ!』
鏡の俺が勝手に喋った!
というか、視覚化?
なによそれ。
『……あー、初めまして天咲或人君。俺は君をこの世界に呼びこんだ張本人で、わかりやすく言うと、神様だよ』
「!」
俺の本名を知っている!?
しかも、神様だって!?
ということは、ついさっきルシフェルが言っていた、『神に直接問いただしたほうがいいだろう』というのが本当に実現できるってことか。
『驚かせちゃってごめんよ。俺は神の座についたときから、自分の姿形や人格といったものがなくなっちゃってね。だから、今は君を真似させてもらってるんだ』
「おお、なるほど」
『……君って本当に肝が据わってるよね。普通はみんな、俺と会ったらかなり驚くのに』
「いやぁ、それほどでもぉ」
『まあ……だからこそ君を選んだわけだけどね』
「ん?」
選んだ?
それって、俺をこの世界に呼んだってことを意味してるのかね?
『そだよ。俺は君の度胸の良さを高く評価したからこそ、この世界に呼んだんだ……勇者として呼ぶのに、君以上の逸材はいないと思ってね』
「あの、さっきから気になってるんですけど、神様、俺の思考読んでません?」
『え? 読んでるよ?』
「いやん! 恥ずかしい!」
『今気にするところって、そこじゃないよね!?』
神様ノリいいですね。
でも、あんまり人の思考を読まないでくれると嬉しいかな。
「それで、神様は今、俺以上の逸材はいないって言ったけど、どういうことなの?」
『そうそう! そっちだよ! ここからはあんまり思考を読まないようにするから、ちゃんと聞いてね!』
はーい!
わかりました神様!
『……ごっほん……ます、君は勇者スキルである『ブレイブスラッシュ』の威力にムラがあるって思ってるよね?』
「うん、思ってるよ」
『それもそのはず……だって『ブレイブスラッシュ』は、勇者の心と連動していて、勇気があればあるほど強くなる性質を秘めていたんだから』
「な、なんだってー! ……って、うん、なんとなくそんな感じなんじゃないかとは思ってた」
『ありゃ、そうだった?』
「そりゃあねえ」
最初、ドラゴン状態のフラミーに試し打ちしたときは、そこまで威力はなかった。
なのに、ノワール教団からヌルシーたちを守ろうとして使ったときは滅茶苦茶強かった。
それからもちょこちょこ検証していった感じ、多分、俺のメンタルに左右されてるんだろうなっていうことは察することができてたんだよね。
「ってことは、さっきノワールを『ブレイブスラッシュ』一発で倒したのも、それが理由だったりするの?」
『一発で倒せた理由としては、それが半分くらいかな。あのときの君は、今までにないくらいの勇気に後押しされてた状態だったから』
ふむ。
確かに俺はノワールと戦う直前、仲間からの言葉に励まされて、気分が最高潮になっていた。
神様の言う通り、勇気の大きさに比例して『ブレイブスラッシュ』の威力も高まるというのなら、あれが俺の最大出力だったと言えるんじゃなかろうか。
「それで、理由としては今ので半分ってことだけど、もう半分はなんだったの?」
『それは……君自身が強くなり過ぎたことだよ。ちょっと調べてみて』
「?」
調べてみてって……『サーチ』でもすればいいのかな?
まあいいや。
とりあえず『サーチ』。
アルト ♂
身体能力 1001519
魔法能力 989327
ほわっ!?
いちじゅうひゃく……ひゃくまん!?
えっ。
確か、初めて自分のステータス見たときって、身体能力も魔法能力も50万とかその辺じゃなかったっけ……。
あれから倍になってたの?
いつの間に……。
『今はノワールを倒した分も含まれてるけど、倒す以前でも、君の強さはノワールを凌駕していた。それが理由のもう半分だよ』
「そうだったのね……」
ステータスなんて、そうそう短期間のうちに変わるもんじゃないだろうと思って、油断してた。
わりと簡単に上がるもんだったのね。
『いや……君の場合は、この世界に存在する強者をことごとく倒してたからだよ……勇者補正も当然あるけど、ステータスの伸びが凄かったのは、君のこれまでの行動が原因だ』
「神様、俺の思考を読まないでって言ったのに、また読みましたね!」
『あ、はい、ごめんなさい』
謝って済む問題じゃありませんよ!
これはプライバシーの侵害です!
あんまり酷いと訴えますよ!
『話が進まなくなるんで、ツッコまなくてもいいですよね』
「あ、はい、おっけーです」
なんか、俺が2人いるみたいな状態は話が脱線しがちだな。
せっかくならヌルシーとかの姿になってくれたらよかったのに。
というのは今さらかね?
『それで、話を戻すけど……君自身、この世界に来てからいろいろな強い敵と戦ってきたって自覚はあるんだよね?』
「まあ、そこそこは」
実際はほぼ一発KOだったから、あんまり強敵と戦った感はないんだけどね。
でも、この世界で比較的強い敵とは、結構たくさん戦ってきたのも事実だ。
「そっかー……俺、強くなり過ぎてたのかー……」
『今の君は間違いなく最強だ。俺の想像を遥かに超えるほどの、ね』
「想像以上なの?」
『うん。もともと俺は、君だったら仲間と協力することで、ノワールをギリギリ倒せるかなって思ってたんだ』
「ギリギリっすか」
実際は一撃粉砕だったわけだから、だいぶ開きがあるなぁ。
『まあ、君が思いのほか強くなり過ぎた原因は、君たちがヴェルディナンドという名の大臣を捕まえ、スタート王国内で揉み消されることがなくなった偽勇者の情報を得てヴィーア共和国に行き、そこでノワール教団と出会うことによってノワールの眠る祭壇の在り処を突きとめ、イーダによって結界を張り直した結果、ノワールが復活する時期に若干の猶予ができたからなんだよね』
「えっ、そんな流れがあったの?」
今さらっと説明してくれちゃったけど、わりと結構重要なこと喋ってない?
『俺の予測では、君がルシフェルを倒して勇者の器に入ってからそう間も開かず、ノワールが復活すると見込んでいたんだ。けど、君の行動でだいぶ流れが変わったよ』
俺の動きでか。
どうも言い方から察するに、この神様は未来予知に近いことができるみたいだね。
けど、外の世界から来た部外者みたいな立ち位置の俺の絡む予知は上手くできてないっぽい。
神様っていうと万能っぽいのを想像するんだけど、この神様はそうでもないのかな。
「……ん? ということは、もしかして……俺って、あのノワールっていうのを倒すために呼ばれたの?」
『その通り。君は俺が過去に倒しきれなかったノワールを倒すために呼ばれたのさ!』
「な、なんだってー!!」
衝撃の事実!
というか、一撃で倒しちゃった相手のために呼ばれたって思うと、なんかちょっとヤダ!
「あの……俺、そんなノワールさんに苦戦しなかったんですけど、いいんですかね?」
『う、うん……だから俺の想像を遥かに超えるほどのって言ったんだよ……』
「おおぅ……」
なんか、ごめんね……ノワールさん……。
本来ならラスボス的立場にいたはずなのに、一撃で倒しちゃって……。
「……もしかして、ルシフェルが大魔王として俺と戦うよう手配したのは、ノワールと戦う予定の俺を強くするためだったの?」
『うん。この世界において、早く強くなるためには、より強い相手を倒すことが一番の近道なんだよね』
「やっぱりか」
つまり、経験値稼ぎのためだったのね。
俺とルシフェルが戦ったのって。
普通なら、大魔王との戦いはラストバトルって感じがするんだけど、あくまでそれは下準備の段階だったか。
「そんなことしなくても、最初から強い勇者とか作ればよかった話なんじゃないの?」
『簡単に言ってくれるなぁ……そんなことができるなら、初めからそうしてるって』
できないのか。
この神様って、わりとできないことがいろいろありそうだね。
ノワールを倒すのも人任せにしちゃってるわけだし。
「……あれ? そういえば神様、さっきノワールのことを『倒しきれなかった』って言わなかった?」
『言ったよ。ノワールは昔、神の座をめぐって俺と争ってたんだ』
「あらまぁ」
神様にそんな過去があったのか。
そういえば、ノワールも神様になにか恨みがあるような感じだったな。
今の話を聞けば、そう感じるのも当たり前だったってわかるよ。
……って、待てよ?
神様はノワールを倒しきれなかった。
でも、俺はそのノワールを一撃で倒した。
この2つの事象があらわすもの……それはすなわち……。
「神様、ちょっと『サーチ』かけてみてもいいですか」
『やめて』
神様の強さを計ってみようと思ったけど、お断りされてしまった。
いやがるなら仕方がない。
俺と神様、どっちが強いのかちょっと興味あったんだけど、比べないでおこっと。
知ってどうするって感じだしね。
神様と戦うっていうなら話は別だけど、別に敵対なんてしちゃいないし。
「なんにせよ……それじゃあ俺、神様がこの世界に呼びだした目的を果たしたわけなんだ?」
『そうなるねぇ』
「そっか……」
なら、俺ってもう……この世界からいなくなっちゃうのかな?
こうして神様と話をする機会が設けられたのも、それが本題だったりして……。
「神様、そろそろ俺をここに招いた理由……聞かせてもらってもいい?」
『ああ、いいとも』
俺は神様が次になにを話すか、固唾を飲んで待ち構える。
さあ、来るなら来い。
どんな回答がこようとも、俺はうろたえないぞ。
『今回、君をここへ呼んだ理由は……これまでの君の頑張りを評して、俺からご褒美をあげようと思ったからだよ』
「ご……ご褒美……?」
『そう、ご褒美』
ご褒美……。
なんか、ちょっと気が抜けてしまった。
もしかしたら、『貴様はもう用済みだ! グハハハハ!』みたいな展開になるんじゃないかと考えたりしたんだけど。
でも、まあよかった。
流石に神様と戦うのは気が引けるし、ご褒美が貰えるっていうなら、いくらでも貰っちゃう所存だ。
「それで神様、ご褒美っていったい、なにをくれるの?」
『それは君次第だ。俺にできること、与えられる物の範囲内ではあるけど、なんでも言うといいよ』
えっ。
それって、つまり……。
『君の望みを、俺のできる範疇でなんでも1つだけ叶えてあげるよ。それが君へのご褒美だ』




