表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/64

第56話 VS暗黒神!

 俺の背後に黒いドラゴンが立っていた。

 それを見た瞬間、俺は暗黒神の存在を忘れて、思わずツッコミを入れていた。


「どちら様!?」


 このドラゴン、いったいどこから来たのよ!?

 領地の中にこんな立派なドラゴンが入ってきてたら、俺のとこに連絡が来てもおかしくないのに!


 ……っていうか、今の声って、もしかしなくてもこのドラゴンさんの声だよね?

 今の声に聞き覚えなんてないし。


『ほう……なんだ、お前は自分が倒した相手の姿も覚えていないのか。いや……それとも、お前にとって見れば私など、覚えるほどの価値もない取るに足らん存在だったということか。だとしたら傑作だ』


 なんかいっぱい喋ってる!?

 このドラゴンさん、結構饒舌でいらっしゃる!?


「って……自分が倒した相手の姿……?」


 あれ?

 そういえば、確かにどっかで見たことがあるような……?


 あれ、あれ?

 そういえば、以前ヌルシーが龍化した姿に、なんとなく似ているような……?

 色が黒だから、そう見えるだけ……?


 ヌルシーはイーナたちのすぐ近くにいるから、このドラゴンはヌルシーじゃない。

 それは間違いない。


 でも……やっぱり、なんか引っかかるものが――。



『私の名はルシフェル・ドラゴネス。かつては魔族の頂点に立ち、大魔王としてお前と戦った龍魔族の者だ』

「!」



 あっ!

 そうだ!

 どこかで見たことがあると思ったけど、俺がこの世界に来て初めて見たドラゴンじゃん!


 あのときは、俺が見たときにはもう息絶えていた。

 だから、実際に動いている姿を見るのは初めてになる。

 それに、全体の大きさもまだまだ小さくて、迫力みたいなものが足りなく感じる。


 そういうことなら、俺がすぐにこのドラゴンのことを思い出せなくても、仕方がないことと言えよう。

 うん、仕方がないったら仕方がない。

 決して俺がボケていたわけではないのだ。


「……ということは、あんた、ルッシーなの?」

『いかにも。これまで随分とふざけた名で呼んでくれたな』

「あ、イヤだったんだ。全然そんな風には見えなかったけど」

『まあ、意識が若干あやふやで、その名を抵抗なく受け入れていた私にも非があると言えよう』


 このドラゴンが大魔王ルシフェルであるならば、ルシフェルの転生体であるという幼ドラゴンのルッシーだということになる。

 少し見ないうちに随分と大きくなったなぁ。 


 って、数分程度しか見ないうちにこんな大きくなるかい!

 思わずノリツッコミしちゃうレベルだよ!

 多分、老化の薬の影響によるものなんだと思うけどさあ!


「……というか、もしかして老化の薬を飲んだのって、あんたの意思だったの?」

『そうだな。意識があやふやであっても、一応、私はお前たちの会話を理解してはいた』


 あら、そうだったの。

 そういうことなら、無理に薬を吐き出させないほうが良かったかもしれないね。


 全部飲み切ってたら、俺が初めてこの世界に来たときに見たドラゴンと同じくらいのサイズになってたかもしれない。

 今もそれなりのサイズと言えるけど、あのときのは5メートル超えてたと思うし。


「貴様ら! 私を無視して話し込むんじゃない!!」


 おっとっと。

 ルッシーことルシフェルとの会話に夢中で、目の前にいるノワールのことをすっかり忘れていた。


 俺たちからぞんざいな扱いを受けまくってか、ノワールは激おこのようだ。

 そろそろ相手しないと、向こうから攻撃を仕掛けてきかねない。


『悪かったな、暗黒神よ。お前の相手は今からしてやろう――』


 おっ。

 ルシフェルさんったら、ずいぶんと好戦的じゃないの。

 元大魔王だったドラゴンが一緒に戦ってくれるなら、俺としても心強い。


『――この男がな』

「俺に丸投げ!?」


 と思ったら違った!

 このドラゴン、俺を矢面に立たせる気マンマンだ!!!


『勘違いするな。あくまでメインはお前がという意味であって、私も戦闘に参加するつもりだ』

「……ほんとぉ?」

『なんだその目は……まあいい、とにかく私の背中に乗れ。暗黒神と戦える位置まで飛んでやる』


 ふむぅ……。

 ならいいかな。

 俺を乗せて空を飛んでくれるっていうなら、素直に助かるし。


「そういうことなら、乗っけてもらおうかなっと」

『ああ、そうするがいい』


 俺はルシフェルの言う通り背中に飛び乗り、再びノワールのほうを向いた。


「待たせたな! ノワール! 今度こそお前の相手をしてやるぜ!」


 そして、勇者の剣の切っ先をノワールに向けて叫ぶ。

 すると、ルシフェルは俺を乗せたまま、黒い翼をはばたかせ、ゆっくりと空に浮かび始めた。


「私たちも戦うわよ!」


 そこで、地上にいるイーナたちが声をあげた。


「魔法でだったら地上からも攻撃できるんだから!」

「……まずは敵を空から撃ち落としてくれ。そうすれば私も戦える」


 ルシフェルにはサイズ的に俺1人しか乗れないけど、イーナたちは地上から戦いに参加してくれるようだ。

 意気込みは十分のようで、なんとも頼もしい。


「クックック……どうやら貴様たちは、結束の力で私と戦う気のようだな……?」

「そうだけど、なにか文句ある?」


 俺たちの会話を聞いていたらしきノワールは、そこで笑い声をあげていた。


「いやいや……文句などあろうはずもない……貴様たちがそういう腹積もりであるなら、私も援軍を呼ばせてもらうだけのことよ……」

「なに…………!!」



 ――空に浮かぶノワールの真下に巨大な魔法陣が現れ、そこから黒ずくめのローブを着た集団が大量に現れた。



 あれは……ノワール教団の連中か!

 ノワールめ……『ワープ』で信者をここまで一瞬で転移させてくるなんて!

 しかも、こんな大量に!


「フハハハハ……これで数の優位は私たちが取ったぞ……」

「……くっ、なんてことだ」

「数の暴力で攻めてくるなんて卑怯よ!」

「イーナよ……それはワシらが言えるセリフではないぞい……」


 なんてことだ。

 これじゃあ地上からの援護は期待できない。

 イーナたちも、ノワール教団の出現で戸惑っているように見える。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! これが暗黒神様のお力!!」

「我らノワール教団の信徒を一瞬のうちにすべて転移なさるとは……これぞ神の御業!」

「勝機は我らにあり! この世界は我らが神、ノワール様の物だ!!!」


 対するノワール教団の士気は高い。

 数が優勢なのと、なによりノワールが自分たちに味方していることが強みになっているんだろう。


『雑兵がいくら増えたところで、どうにもなりはしない。勇者アルト、お前が見るべきは、空に浮かぶ暗黒神のみで十分だ』


 俺が動揺していると思ってか、ルシフェルがそんな励ましの声をくれた。


 ノワール教団の出現には驚いたけど、動揺はしていない。

 とはいえ、こうして俺を励ましてくれるんだから、素直に感謝しておこうかね。


「ありがとう、ルシフェル。俺は大丈夫だよ」

『そうか、ならばいつあのデカブツに突っ込んでもいいよう、覚悟しておけ』

「おうよ!」


 こっちはもう戦闘体勢だ!

 いつでもカモン!


「国からも援軍がこちらに向かっておるぞ! 領内の常駐兵士も、民の避難が終えたらここに駆けつけてくるはずじゃ!」

「白龍王様が率いる龍魔族の軍も、暗黒神を追ってこちらに向かっているそうですわ!」


 地上からイーダとフラミーの声が聞こえてくる。


「アルトだけに暗黒神を任せてなんていられないわ! こっちが片付き次第、私たちも加勢するから、それまでやられるんじゃないわよ!」


 さらには、数の暴力に負けず、いつもの強気なイーナが俺に向けて叫ぶ。


 ノワールを倒すべく、みんなが力を合わせようとしている。

 イーナたちだけじゃなく、この領地、この国、さらには他種族からの援軍までやってこようとしているんだ。


 なんて……なんて頼もしい仲間たちなんだろう!

 そんなみんなの気持ちだけで、俺も勇気100倍だ!!

 体の奥底から力がみなぎってくる!!!


「私たちも戦います」

「龍化すれば、私たちもそれなりに戦力になりますわよ!」


 と、そんなとき、地上でヌルシーとフラミーがそんなことを喋っているのを耳にした。

 なので、俺はすかさず彼女たちに聞こえるよう、大声で叫んだ。


「いや、ヌルシーとフラミーはイーナたちの後ろにいて! ノワールとはひとまず、俺たちだけで戦ってみるから!」


 2人も戦いに参加したそうにしてるけど、それはひとまず保留にさせてもらう。


 気持ちはありがたいし、戦力になるというのもあながち間違いではない。

 けど、彼女たちはまだ子どもだ。

 できることなら、戦いに参加させたくはない。


 それに、彼女たちが後ろで見守ってくれていると思うと、それだけでも『この戦いに勝たなくちゃ』って気になってくる。

 つまりは、俺のやる気がさらに上がるわけだ。

 これは気持ち的にとてもデカい。


「そうですか……では、お兄ちゃんもパパも、無茶だけはしないでくださいね」


 そんな俺の思いが伝わったようで、ヌルシーはそんな声をあげてきた。


 無茶はしないでというお願いは、もしかしたら聞けないかもしれない。

 だって、相手は暗黒神とか呼ばれている、おそらくはこの世界でも最強クラスの敵なのだから。


 ……ちなみに、暗黒神の強さって、どの程度の物なんだろう。

 出会った直後にやっとけよって感じだけど、『サーチ』してみよ。



 暗黒神『ノワール』


 身体能力 668232

 魔法能力 519300



 今まで『サーチ』で見てきた中で一番高い数値だ。

 暗黒神などと名乗るだけのことはある。


 これは……俺1人だけでは負けるかもしれないほど強いな。

 でも、今の俺には、心強い仲間が傍に沢山いてくれている。

 ノワールは確かに強い――が、俺たちに勝るほどの強さじゃあない!

 この戦い、俺たちが絶対勝つ!


「フハハハハ……はたして、勇者1人と小龍1匹で、どれだけ私と戦えるかな……?」


 ノワールが俺たちを煽っている。


 地上からの援護は、今のところは望めない。

 でも、それで俺が攻撃を躊躇うはずもない!

 むしろ、イーナたちが加勢してくれる前にノワールを倒してしまうくらいの意気込みでいかせてもらうぜ!


 この世界をお前の好きにはさせるもんか!

 覚悟しろ!


「いくぞ! 暗黒神ノワール!!」


 そうして、俺はルシフェルとともにノワールへと特攻した。



「これが俺の全力だ! 『ブレイブスラッシュ』!」



 ノワールに攻撃が届くところまで来た。

 なので、手始めに俺は自分の持てるありったけの力を、ノワールの頭上に叩きつけることにした。


 ――発動した感覚だけでわかる。

 これは今までにない――過去最高の『ブレイブスラッシュ』だ。


 クレアとの訓練が効いたのか、それとも、他に理由があるのか。

 それはわからない。


 が、理由なんて、今はこの際、どうでもいい!

 この攻撃でノワールを地上に叩き落してやる!


 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキーン!


「フハハハハ……そんな剣技で私に傷をつけられるとでも………………!?!?!? ぐ、グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

「…………」

『…………』



 ……俺の放った『ブレイブスラッシュ』はノワールを八つ裂きにし、地上に叩き落とすまでもなく、その巨大な体を散り散りにしていた。



 えっ。


 そんな。


 まさか。


 ありえない。


 だって、だって……。



 ……これは……俺の勘違いか?

 もしくは、なにかしらの罠が隠されていたり……?

 いや、でも……今起きた現象を見るに、そうとしか考えられない……。


 勘違いでもなければ、錯覚でもない。

 暗黒神は……暗黒神ノワールは……今の攻撃で……。



「倒しちゃっ……た…………?」 

『そのようだ……な……』



 俺は――暗黒神ノワールを倒していた。

激しい戦いだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ