第55話 暗黒神襲来!?
以前、俺たちが行った『ホワイトマウンテン』にある『毒の大地』。
そこに封印されていたという暗黒神が、ノワール教団の手によって、ついに復活したのだという。
白龍王からイーダに寄せられた情報によると、ノワール教団の連中は数百人がかりで一斉にその地へと押し寄せ、人海戦術によって暗黒神の眠る祭壇をあっという間に掘り出したらしい。
龍魔族の邪魔がなるべく入らないよう、一気に仕掛けてきたってわけだ。
イーダが結界を張り直してたはずだっていうのに、よくやるよ。
一応、『毒の大地』は龍魔族の戦士が警戒のために見まわることもしていたそうだ。
けど、今回は流石に多勢に無勢で、その戦士たちは自分たちの里にこの異常事態を伝えるので精いっぱいだったらしい。
まあ、ノワール教団の構成員がめっちゃ多いってことは、俺も実際に見てよく知ってる。
だから、責めるの酷だとは思う。
でも、もうちょっとなんとかしてほしかったなぁ。
封印から解き放たれた暗黒神っての、スタート王国に向かって飛んでいったとか言うし。
それ、多分さっきガルドが知らせてきた謎の超巨大飛行物体と関係あるよね?
こんな異常事態が一度に起こったら、そう関連付けるのが妥当でしょう。
なので、ガルドには念のため、領民を安全な場所に避難させてもらうことにした。
飛行物体の正体がなんであれ、もし戦闘にでもなったら、周りの人に被害が出るかもしれないからね。
「…………おー、あれが例の飛行物体か」
と、そうしたことを考えているうちに、外の開けた場所まで移動した俺の視界に、それらしい物が見え始めた。
まだ距離があるから豆粒サイズにしか見えないけど、明らかに鳥とかの部類じゃないことはわかる。
「って、結構速いなオイ!」
そんな豆粒サイズの飛行物体は、秒単位でドンドン大きくなっていく。
この分だと、あと数分でここまで来そうだ。
「ワシらのいる方角へ一直線に飛んでくるようじゃな」
「……私たちに用があるのだろう」
「用があろうがなかろうが関係ないわ! あれがもし暗黒神だっていうのなら、問答無用で倒すまでよ!」
どうやら、イーダたちは戦う気マンマンのようだ。
相手の出方次第ではあるんだけど、俺も戦闘態勢で待ち構えておいたほうがいいか。
そう思っている間にも、謎の飛行物体は俺たちへ向けて近づいてくる!
……あ、止まった。
「フハハハハハハハハ……感じる……感じるぞ……私を封じた、憎きあの神に近しい気を……」
俺たちから数十メートル離れた上空で停止した……よくわからないソレは、どこからともなく言葉を発した。
……なんだろ、これ。
なんと形容すればいいのかわからない姿だ。
めっちゃクネクネしてるし……。
でも、どっかで見たことがあるような……。
どこでだったかな……?
「な、なんですか、あのご馳走は……!」
「あんなに大きな『ペモペモ』……生まれて初めて見ましたわ……」
あ!
そうだ!
ペモペモだ!
俺が初めてこの世界に来た日に出された、よくわからなかった料理のやつじゃん!
……って。
なんでそんなもんが空中に浮いてんのよ。
しかも、なんか意味深な台詞吐いちゃってるし。
「私はご馳走でもなければペモペモでもない……暗黒神ノワール……皆からはそう呼ばれている……」
この流れで名乗っちゃったよ!
暗黒神ノワールだって名乗っちゃったよ!
いやまあ、さっきガルドとイーダから聞いた情報を合わせて考えると、タイミング的に暗黒神がこっちに来てるんだろうなって思ったけどさ。
でも、今ので暗黒神としての大物的な畏怖とか、なんかそういう大事な物が全然感じられなくなっちゃったよ。
ヌルシーとかヨダレ垂れそうになってるし……。
「暗黒神って……どう見てもでっかいペモペモにしか見えないわよね?」
「ペモペモじゃな」
「……ペモペモだな」
「だから、ペモペモなどという名ではないと言っているだろう! 私の名はノワールだ!!!」
うわぁ。
暗黒神ムキになっちゃってるよ。
もう完全にシリアスな流れになれないよ。
「…………ゴッホン…………フハハハハ……流石は神が遣わした勇者の仲間たちだ……出会ったばかりだというのに、こうも私を怒らせるとはな……」
暗黒神、シリアスな流れに戻そうとしてるー!?
もう無理だよ!?
ムキになった時点で、もうシリアスな口調で喋っても流れ変わんないよ!?
「やはり貴様たちは……私自らの手で始末してくれよう……」
「!」
やっぱり俺たちを倒すために来たのか!
だとしたら、気を抜いていられないな!
気持ちを切り替えよう!
「私は貴様たちを亡き者にし……今度こそ、この世界を支配するのだ…………そう……私こそがこの世界の真の神として君臨するのだ……!」
「そうはさせないぞ!」
「なにぃ……?」
俺は剣を取り出し、構えを取りながら叫ぶ。
「この世界をお前の思い通りになんてさせないぞ! ペモペ……暗黒神ノワール!」
「今、ペモペモって呼ぼうとしたろ貴様あああああああああぁぁぁ!!!」
怒らせちゃったよ!
いや、だってみんなペモペモ言ってるし!
そう言われたら、俺も『ペモペモだ!』って思っちゃうし!
なんかもうペモペモにしか見えないんだもん!
「私をここまで怒らせるとは良い度胸だ……軽口を吐いたことを後悔するまで、ジワジワとなぶり殺しにしてくれる!」
どうやらペモ……ノワールは俺たちを始末する気のようだ。
であれば、俺たちも応戦しないわけにはいくまい。
黙ってやられるわけにはいかないからね。
なんたって、俺はここの領主様なんだから。
「……くっ、空に浮かんだままでは、槍で攻撃できない」
っていうか、あちらさんは空に浮いたまま戦う気なのかね。
だとしたら、こちらの攻撃手段もだいぶ限られてくるな。
クレアもだいぶ困ってるみたいだし。
どうする?
ここはひとまず魔法で撃ち落とす方向でいくか、それとも、フィールとかを呼んで、こちらも空中戦を仕掛けるか――。
『どうやら、困っている様子だな』
――背後から、聞きなれない何者かの声が響いてきた。
いや、響いてきたという表現は違うか。
その声は鼓膜にというよりも、心に伝わってきたような感覚だった。
いったいどういうことか。
なにがなんだかわからず、俺は後ろを振り向く。
『困っているのなら、私が手を貸してやらんこともないぞ』
……俺が振り返った先には、およそ2メートルほどのそこそこ巨大な黒いドラゴンが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
どちら様!?




