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第5話 ごめんね。このアイテムボックスは勇者専用なんだ

「さて……それじゃあこれからどうするかな」


 大魔王の娘、ヌルシーとの会話を終えた俺は、イスに座りながら考え込んでいた。


 思えば、今の俺は帰る家もなく、成すべきこともない。

 元の世界に帰る術を見つけることを目的として上げることはできる。

 でも、帰れなければ帰れないで別にいいやくらいの気持ちなんだよなぁ。


 なので、今の俺は特にやることがないわけなのだが……。


「……とりあえず、仕様の確認からか」


 仕様の確認。

 この世界は俺にとってリアルなものであるのだから、ゲームっぽく言うと語弊がある。

 が、今からすることは、そう呼んだほうがしっくり来るだろう。


「メニューオープン、ステータスオープン、ウインドウオープン……」


 俺はまず、ゲームにあったメニュー画面が開けないかどうかを確認した。

 それらしいことを言ったり、頭の中で念じたり、手をサッと横に動かしたりと、いろいろだ。


「無理か」


 しかし、それらは不発に終わった。

 まあ、できない前提で考えていたから、そこまで気にしない。


「でも、アイテムボックスが使えないのは痛いな……」


 メニュー画面にあったアイテムボックスだけは、便利そうだから使いたかったと思ってたんだけどなぁ。


 ――目の前の空間が僅かに裂けた。


「え……もしかして、これが?」


 『アイテムボックス閉じろ』と念じると、空間の裂け目も消えていった。


 今度は『アイテムボックス開け』と念じてみる。

 空間の裂け目は、再び俺の目の前に現れた。


「ビンゴだな」


 その空間の避け目に手を入れて、ある物を想像してみる。

 なにかが手に触れる感触があった。

 それを摘みながら引き抜いてみると……俺の手には金貨が握られていた。

 どうやら、アイテムボックスからゴールドも引き出せるようだ。


 大魔王を倒したとき、手持ちはカンストしてたと思う。

 この世界の貨幣価値だと、それがどれほどの意味を持つのか知らないが、しばらく飢えることはないだけの金はあるはずだ。


 俺はアイテムボックスと金が両方使えることに、安堵の息を漏らす。


「アルトさん。もしかして、それって『アイテムボックス』ですか?」

「ん? ああ、そうだけど」


 と、そこで俺の実験を見ていたヌルシーが声をかけてきた。


「おお……初めて見ました」

「? 初めて?」

「そです。『アイテムボックス』は神話上でのみ語り継がれている、伝説級の魔法ですから」

「神話上……て」


 だとすると、アイテムボックスが使えるのは俺だけということか。


「そんな魔法を使えるとは……さすがは勇者と呼ばれる人ですね……」

「あー……まあね……」

「流石の私も、こんなのを見せられたらアルトさんの評価をツーランクくらい上げざるをえないです……」

「そりゃどうも……」


 ……ごめんなさい。

 目をキラキラさせているところアレなんですが、ぶっちゃけ本当は全然凄くないんです。


 というか、俺ってばヌルシーの中でどんな評価されてんだろ。

 ツーランク上がったら、なにか特典とかあったりしないのかな?


「私も欲しいです……どうすれば使えるようになりますか?」

「え、ええっと……それは勇者の力がグワーとなってだな……」


 俺は無垢な少女に適当な勇者パワーを説明して、アイテムボックスをなんとか諦めてもらった。

 どうすれば使えるようになるかなんて教えようがないからねぇ……。


「むう……残念です……」


 自分のアイテムボックスが持てないと知り、ヌルシーは頬をプゥっと膨らませている。


 いやん。

 可愛い。


「ごめんね。俺のアイテムボックスでよければ、ヌルシーも使っていいから」

「自分専用のがいいです」

「まあ、そりゃそうだよね」


 人のバッグに物を入れても、しょうがない。

 自分の意思で好きなときに物を取り出せるからこそ、アイテムボックスは便利なんだ。

 誰かを経由しないといけないのなら、それは荷物持ちがいることと変わらない。


 そんな考察をしながら、俺は腰に帯刀していた金色の剣や体に着込んでいた豪奢な鎧を、アイテムボックスに放り込んでいく。

 さっきからずっとガチャガチャ音が鳴って邪魔くさかったし、見た目が派手過ぎて落ち着かなかった。

 でも、これでやっとスッキリした。


「他には、なにかできたりするんですか?」

「えっと……他には……」


 ヌルシーは期待するような目で俺を見ながら、次の催促を始めていた。

 どうやら、俺がまだなにか凄いことをするんじゃないかと考えているようだな。


 しかし、俺の使えるであろう魔法は、基本的に戦闘で役立つものばかりだ。

 室内でというと、できることも限られてくる。


「……あ、そうだ。『サーチ』」


 そこで、ふと閃いた俺は、ヌルシーに向かって『サーチ』を唱えた。


 これは、敵モンスターの情報を見るのによく使っていた魔法だ。

 はたして、この世界ではどのように見えるのだろうか。


 と思っていた俺の網膜に文字が映し出された。



 ヌルシー・ドラゴネス ♀


 身体能力 5

 魔法能力 988



 なんか、随分と簡略化されてるな……。

 ゲームではHPやMP、それに力とかすばやさ、それにレベルとかも見れたんだけど……。


 この世界では、そういったものを数字で表しきれないんだろう。

 とすると、今見える数字も、過信しないほうがいいのかもしれない。

 まあ、目安程度にはなるってカンジか。


 というか、ヌルシーの能力、凄い偏ってるな。

 魔法能力が1000いきそうだけど、上限は999だったりするのだろうか。

 だとしたら、ヌルシーは凄い魔法的素質を秘めた逸材になるけど。


「? なにかしましたか?」

「うん、まあ、ちょっと」


 ヌルシーには、俺が今なにをしたのか、わからなかったようだ。

 それなら、あとで他の人にも使ってみよう。


 俺はそう思いながら、自分に向けて『サーチ』を行ってみた。




 アルト ♂


 身体能力 580702

 魔法能力 502731



 ……桁が違った。

 58万と50万って、どこぞのフ○ーザ様に匹敵するような数値じゃないですか。


 なんか高そうだなと思っていたヌルシーの魔法能力値と比べてさえ、500倍以上の差があった。

 上限は999じゃなかったわけか。


 勇者の力が凄いのか、ヌルシーの力がショボイのか。

 少し判断に迷うところだが、おそらくは前者だろう。

 ヌルシーは女の子だからというのもあるだろうが、身体能力が5しかない。

 でも、それは普通の人と比べて少し低いといった程度の数字なのだろう、多分。


 まあ、その辺りも外で『サーチ』をかけまくって調べてみるか。


「よし、じゃあちょっと外行ってみよう」


 そう思った俺は、ヌルシーに外出を提案した。


「え……外ですか」

「? イヤか?」

「……いえ、いきます」

「そっか」


 一応、彼女は俺が監視することになっているから、一緒にいないとマズイ。

 外に出るのを渋る様子を見せたが、彼女もそれがわかってるから俺についていくよう考え直してくれたんだろう。


「ですが、30分に一度は休憩をください。私、歩くの下手ですので」


 歩くのに下手とかあんの……?

 ただ単純に体力がないだけなんじゃ……?


「なんですか、その目は。私を馬鹿にしてるんですか。だったら私も出るとこ出ちゃいますよ」

「馬鹿になんてしてないしてない。それじゃあ、30分ごとに休憩するってことで」

「……ふぅ、しょうがない人ですね。今日は特別に許してあげましょう」

「ありがたき幸せ」

「それと、歩くのはゆっくりでお願いします。で、もし私が疲れて動けなくなったら、おんぶもしてほしいのです」

「お安い御用です、お嬢様」


 ヌルシーくらいの女の子を運ぶのなんて楽勝さ。

 おんぶだろうがだっこだろうがドンとこい!


 こうして、俺とヌルシーは外出することに決めたのだった。


 そうだ。

 ヌルシーには外で、なにか甘い物でも食べさせてあげようかな。

 無理に付き合わせたお詫びもかねて。

次回

平和な城下町に無言の勇者が舞い降りる……!

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