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第44話 はりきる勇者様

 俺は奴隷商の元締めであったガルドに舐められないよう、領地開拓をするための手始めに1本の笛を取り出した。


「ふむ? その笛は一体……?」

「あれは『ゴーレムの笛』じゃな。吹くだけで使用者に従うゴーレムを生成できるレアアイテムじゃ」


 ガルドが首を傾げていると、イーダが俺の代わりに説明してくれた。


 そう。

 これはゴーレムを作り出すための笛だ。

 ゲームをやってたときは戦闘時に簡易的なデコイとして使う程度だった。

 けど、今なら多分、なかなかに有用な使い方となるんじゃないだろうか。


 そんなことを思いながら、俺は笛に口をつけて吹き始める。

 ピーヒョロロ~と音楽とは言い難い音色が鳴り響き、それによって目の前にある地面がゴゴゴゴと盛り上がり出した。


「おお……これは……なんと逞しき土のゴーレムか……」


 数秒後。

 俺たちの目の前に、土でできた人型の巨大ゴーレムが完成した。


 しかも、生成されるゴーレムは1体だけにとどまらないようで、新たなゴーレムが作られつつある。

 どうやら、ゴーレムは一度に複数体作ることができるみたいだ。


「……え……ちょ……ええ……?」


 調子に乗って俺がゴーレムをバンバン作り上げていくにつれ、ガルドは戸惑ったような表情を顔に色濃く浮かばせていった。



 ……そして数分後。

 およそ100体にもおよぶ数の巨大ゴーレム集団が爆誕した。



 うわぁ……。

 いっぺんにどれだけの数のゴーレムを作れるんだろうと思って、限界まで作ってみたけど、まさかこれほどとは……。

 まあ、数が多いことに越したことはないから、別にいいよね?


「…………ぁぅ」

「っ!? あ、アルト!? 大丈夫!?」


 ゴーレムの生成にエネルギー的なものを大量消費したのか、みんなの前で若干ふらついてしまった。


 といっても、それは一瞬のことだ。

 俺は足に力を入れなおし、傍に寄って肩を貸そうとするイーナにニッコリと微笑んで制した。


 慣れないことはするもんじゃないね。

 そういえば、ゲームでもゴーレムの召喚には結構な量のMPを消費したっけ。

 多分、今の俺はMPが枯渇した状態なんだろう。


 そう思いつつ、俺は頭の中でゴーレムに指示を飛ばしてみる。

 すると、ゴーレムの集団は二手に分かれて、それぞれの作業を開始した。


 一方は農業用に土を耕し、もう一方は建物を建てるための地ならしをしてもらう。

 どちらもすぐ近くで領民が手をつけている作業だったので、なにをすればいいのかがわかりやすく、ゴーレムに指示をしやすかった仕事だ。


「おお……これほどの数のゴーレムを一度に動かすとは……」


 そんなゴーレムの様子を見ながら、ガルドが驚いたというように感想を口にしていた。


 いや、ガルドだけじゃない。

 イーダやクレア、イーナといった連中も目を丸くしてそれを見ていた。


 驚くのはまだ早い。

 俺はゴーレムの笛に続いて、アイテムボックスから2本の巻物を取り出した。


 この巻物は、広げると任意のモンスターを呼び出すことができる召喚アイテムだ。

 1本につき1回しか効果を発揮しない消費アイテムだけど、MPとかに関係なく使うことができるので、今の俺でも使える。

 そこそこ貴重な品ではあるんだけど、今回は大盤振る舞いだ。


「……! そ、そのモンスターは……!」


 ボンッと召喚された2匹のモンスターを見て、ガルドはさらに目を大きく見開いた。


 俺が召喚したモンスターは、モンスター牧場に置いたままになっていたエンシェントグリフォンのフィールとエンシェントウルフのスコールだ。

 どちらも普通のモンスターとは漂う風格が違うため、初見の人には驚きの対象になるのだろう。


 そんなモンスターたちに俺は近づき、頭や顎のあたりを撫でながら小さな声でそっと指示を出す。


「ちょっとこの辺のモンスターを退治してる人たちに加勢してきて」

「クルゥ!」

「グルグル!」


 俺の指示を受けたフィールとスコールは、元気な返事をした後、荒野を移動し始めた。

 フィールは空を、スコールは大地を駆けていく。


 どちらも凄まじく速い。

 今のこいつらに背中に乗ったらF1レーサーの気分を体感できそうだ。


「……ん?」


 それを眺めていたら、俺の体に纏わりついて隠れ潜んでいたスラ様が突然飛び出し、なにやら張り切った様子でポヨンポヨンとフィールたちを追いかけていった。


 スラ様もモンスター退治を手伝ってくれるってことかな。

 まあ、人手(人手と言ってよいものか)は多いに越したことはないから、別にいっか。


「ず、随分とお強そうなモンスターをアルト様は使役していらっしゃるようですな……」

「あれらに勝てるモンスターなど、そんじょそこらにはおらんじゃろうなぁ」


 ここいらのモンスターがどれくらい強いのかまではわからない。

 けど、イーダの言う通り、スラ様たちならまったく問題ないだろう。

 あいつらの強さはボス級だからな。


「アルト。あの子たちはモンスターの討伐に行かせたってことでいいのよね?」


 イーナが確認してきたので、俺はそれにコクコクと首を縦に振る。


 ぶっちゃけガルドの前では以前に喋ったことがあるから、無理に喋らない風を装わなくてもいいんじゃないかとは思う。

 でも、勇者としての威厳を保つには、やっぱり俺は喋らないほうが無難だ。

 こうしていたほうが『只者ではない』という様子を出しやすい。


 特に、このガルドって人に隙は見せられない。

 いつまでも装えるもんじゃないと思うけど、今は俺のことを過大評価してもらったほうがいいだろうね。


 さて、それじゃあ次行ってみよー。


「……? あ、アルト様? どちらへ行くおつもりで?」


 俺が歩き始めると、ガルドがその後ろをついてきた。

 そのさらに後ろからイーダたちもついてきている。


 みんな、次に俺がなにをしようとしているのかわからないって様子だな。

 だけど、俺は喋らないことで有名な勇者だから、なにをしようとしているのかは実際に見てもらって理解してもらうとしましょうかね。


 俺は歩きながら、アイテムボックスから大きな木箱を出現させる。

 木箱の中には土が詰まっている。


「むむ? それは…………世界樹が育った大地の土である『神の肥料』じゃな?」


 イーダは見ただけでわかるんだね。

 まあ、イーダとはゲームで結構長いこと一緒にパーティーを組んでいたわけだから、俺が持っているアイテムについて詳しいのは当然のことか。


「肥料……それでしたら、国からもある程度支援を受けてはおりますが……」


 これをそんじょそこらの肥料と同じだと思われちゃ困るね!

 俺も効果のほどは全然わかんないけど!


 とはいっても、神の肥料とかいう大層な名前がついてるんだから、それなりに効果は期待できるでしょ。

 俺は軽い気持ちでそう考え、近くに寄ってきたゴーレムにその箱を渡した。


 箱を渡されたゴーレムは、耕した大地に肥料を少しずつまいていく。

 大した量じゃないから、農業用の敷地全体にとまではいかないけど、ひとまず目の前に広がる土地にまんべんなくまこう。


 あとはなにか、育てる物を埋めてみればいいわけだけど……アレがいいかな。


「ほうほう……神の肥料に続いて、次は『大果実の種』じゃな」


 大果実の種は普通の物よりも大きい果実が実るとされている。

 巨人族という種族が住んでいる土地を回ったときに手に入れた代物だ、

 出してみた感じ、どうやら持っていた種の種類も豊富だったようだ。


 肥料も種も、このまま俺が持っててもしょうがないアイテムだろう。

 だったら、この場で試しに使ってみるのも悪くはないだろう。


「肥料に種ときたら……次は『神水』ね!」


 今までの様子を見ていたイーナが、若干興奮気味に俺へ問いかけてきた。


 えっ。

 神水も使っちゃう?

 あれは回復アイテムとして有用な品なんだけど……。


 ……まあいっか。

 肥料と種ときて、水だけ妥協するのも気持ち悪いし、使っちゃえ使っちゃえ!

 これだけやって大した結果が出なかったらイヤだし、やれることはやってしまおう!

 なくなったらまた()みに行けばいいしね!


 というわけで、俺はゴーレムに大果実の種と神水を渡し、みんなと一緒に結果を見守ることにした。



 …………。



 ……1時間後。

 枯草が生えるのみの殺伐とした荒野に超巨大農園ができあがった。




「ま、まさか……たった1時間でこれほどの作物が育つとは……私は夢でも見ているのだろうか……」


 ガルドの顔は驚愕を超えて、もはやドン引きしてるんじゃないかというレベルにまで顔を引きつらせている。


 ……うん。

 俺もビックリしてる。


 ガルドは目の前の光景が信じられないって感じだけど、俺も同じ気持ちだ。

 まさかこんなことになるだなんて……。


 見渡す限りの大地から緑色の植物が生え、そこからあらゆる果実が通常の数十倍、下手すると数百倍といった大きさで実っている。

 ちょっと成長速度早すぎやしませんかね。


「こ、これなら国からの援助なしで領民を養うことができる……?」

「場合によっては、ギリアス領の名産品として輸出することも検討できるのう……」


 ガルドたちがなにやらブツブツと呟きだしている。

 全部は聞き取れないけど、この領の利益になるだろうことを考えてくれているのはわかった。


 この農園が今後維持できるかまではわからない。

 そういった面は、今後の課題になるかもしれないね。

 でも、もし維持できたなら、今後領民が飢えることはないと言えるだけのものが、目の前に広がる光景にはある。


「……アルト様」


 一通り思考をし終えたらしきガルドが声をかけてきた。


 なんだなんだ。

 俺にとっても予想外の結果ではあったけど、とりあえずこんだけ結果を出せたんだから、俺のことをちゃんと領主として認めてくれたかな?


「奴隷解放のために己の資産をなげうったお姿を見ていたというのに、私は、いまだアルト様を見くびっていたようです」


 資産をなげうったっていっても、こうしてチートなアイテムは今も変わらず大量に抱えているんだけどね。

 それらを換金すれば、それなりの額のゴールドになるだろう。

 だから、それほど凄いことをしたという感覚は俺の中にはなかったりする。


「奴隷の身分にやつした民を解放し、自らが領主となってその民を受け入れ、さらにはこのような隠し玉まで持ってこようとは……あなたはいったいどこまで先の未来を描いておいてなのでしょう」


 ごめんなさい。

 行き当たりばったりです。

 でも、この人から見たら、俺が全部計算ずくで動いていたようにでも見えたんだろう。

 それなら、そう勘違いしてくれたままでいてくれたほうが俺にとってはいいか。


 でも、驚くにはまだ早いぞ!

 次はゴーレムたちを使って建築しよう!

 いや、その前に水道設備を整えたほうがいいかな?

 村の中には井戸があるみたいだけど、近くの湖から水を持ってこれたらいろいろと便利だよね!

 あ、それじゃあついでに水車とかも作ろう!

 今日1日でどこまで作れるかな――。


「……しかし、それでも私は、あなたに言わなければなりません!」


 と思っていたら、そこでガルドは突如、膝を屈して俺に頭を下げてきた。


「どうかなにとぞ! なにとぞこれ以上、我々の仕事を奪わないでくだされー!」

「…………」


 ……そして、ガルドはしばらく頭を下げながら、領民へ仕事を振ることの重要性を、必死な様子で俺に諭してきた。



 結論。

 どうやら俺はやりすぎてしまったようだった。

裏題

はりきりすぎた勇者様

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