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第43話 ギリアス領

 俺、イーナ、ヌルシー、フラミーそれにルッシーの4人と1匹は、『ワープ』によってスタート王国の最南端にあるギリアス領へとやってきた。


「……む? おお、アルト殿、やっと来たか。待っておったぞ」


 ギリアス領内部にひっそりとある小さな村の入り口に『ワープ』した。

 そんな俺たちを出迎えたのは、先にこの土地の様子を見まわっていたというイーダだった。

 イーダの隣にはクレアもいる。


 イーナもだが、みんな俺が困らないように手助けしてくれて、本当に助かるよ。

 まあ、勇者は言葉を喋らないということになっているから、そういったサポートをしないといろいろ問題が起きかねないって考えてるんだろうけどね。

 真意はなんであれ、助かることには変わりない。

 感謝感謝ですわ。


「これから開拓を始める土地だというのは聞いてましたけど、本当になにもないところですね」


 ヌルシーが村の外に見える広大な荒野を見ながら呟く。


 確かに、ここは人の手がほとんど加えられていない自然の荒野だ。

 村のほうも、つい最近できたって感じのささやかなものだし、こりゃあ先が思いやられるなぁ。


 ちなみに、今のヌルシーの首には首輪がない。

 今後、スタート王国から奴隷制度を失くしていくということになったわけだから、もう首輪なんてものは必要ないだろうと思っての処置だ。

 流石に国の防衛上、奴隷呪までは失くしてもらえなかったけど、首輪がなくなったことの意味は大きいんじゃなかろうか。


「……って、あれ?」


 と、そんなことを思いながらイーダたちの後ろにも視線を向けると、そこには男が1人、こちらに近づいてくる姿が目に映った。


 気のせい……かな?

 なんか、最近どっかで見かけた顔のような……。


「お待ちしておりました、アルト様」


 男のほうから声をかけられてしまった。


 えっと、えっと……誰だっけ……。

 最近見かけたことがあるのは確かなんだけど、誰だったか思い出せない……。


「……もしや、アルト様は私のことをお忘れになられましたのですかな?」

「…………」


 男の問いかけに、俺は冷や汗をかきながらも首を縦に振った。


 下手に嘘をついても仕方があるまい。

 後でイーダあたりに訊くという手もあるんだけどね。


「…………そういえば、あの場では自己紹介をしておりませんでしたな。私の名はガルド・ロウエン。少し前まで、奴隷商会の会長を務めておりました」


 奴隷商会の会長……?


 …………!

 この人、王様に会わせてもらった奴隷商会の元締めか!

 身なりとか様子がだいぶ変わってて、自己紹介されるまで全然わかんなかった!


 まあ、この人とは2週間前に会ったっきりだし、なかなか思い出せなくてもしょうがないよね。

 だから、決して俺の記憶力が悪いわけじゃあない、うん。


 っていうか、なんで元締めの人がここにいんの?

 元奴隷の引き渡しはつつがなく終了して、奴隷商会も解散したっていう話は聞いてたんだけど……。


「私がこの場にいることが不思議というご様子ですな?」


 俺はまたも首を縦に振る。


 不思議も不思議だ。

 誰か、この状況の説明プリーズ!


「ガルド殿は元奴隷商会の長じゃから、この土地の領民となる元奴隷について詳しい。どの者がどの働きに適しているかアドバイスを貰うのに、この者以上の逸材はいないじゃろうて」


 俺の疑問にはイーダが応えてくれた。


 なるほど。

 そういうことね。

 確かに、ここにくる領民(元奴隷)のことを詳しく知る人間がいてくれると、なにかと便利なはずだ。

 力仕事が向いている人や、なにか特殊な知識や技術を持っている人とかを選別して仕事を割り振ってもらえたなら、とても効率的でありがたい。


「それに、誰がどのような理由で奴隷落ちしたのかを把握できる者がいるのは、領内の治安維持という観点からも有用でしょう?」


 奴隷商会の元締めであったガルドは、イーダに続いてそのような説明を加えた。


 一理ある。

 奴隷になる理由は千差万別だろうけど、その中には犯罪を行ったから奴隷の身となっていた人間もいるだろう。


 流石に、重犯罪を行った人間は奴隷落ち以外の刑罰を受けていると思うし、そもそも危険な元奴隷がいるならあらかじめ俺の耳にも入ってるはずだから、領民となる人間に極悪人はいないと信じたいね。


「私以外にも元奴隷商会の人間が国からこの地に派遣された者は何人もおります。皆、アルト様の御活躍で職を失った者たちでございます」


 この人、痛いところを突いてくるな!

 職を失ったっていっても、その分の手当ては俺から国経由で渡ったはずなんだから別にいいでしょ!

 奴隷商という仕事が思いのほか安定した職であるというのなら、悪いことしちゃったなって思うけどさ!


「もちろん、元奴隷の方々の中には我々のことを快く思わない者もおりましょうから、我々はあくまで裏方に徹するつもりでございます」


 ……この人が今の自分の状況をどう思ってるのかよくわからないけど、それでもいろいろちゃんと考えてるのね。

 奴隷商会という組織の頂点に立ってた人なんだから、これくらいは当然ってことかな。


「ですので、アルト様には大船に乗った気持ちで私に領地経営をお任せいただければと」


 ……本当にこの人に任せちゃっていいものなのか。

 全部任せちゃったら領地丸ごと乗っ取られそうで、ちょっと怖いんですけど。

 って、それは考えすぎか?


「すでに領地内部では、力仕事の得意な者と知識のある者で固めた精鋭500名がインフラ整備を行っております。また、戦闘に特化した精鋭500名と王都から派遣されたスタート王国騎士団が周囲のモンスターを狩り、領民の安全を確保しているところです」


 もうそんなことをやってるのか。

 開拓することが決まってから日も浅いっていうのに。

 イーダとクレアが先に領へ来ていたのも、そういったことに力を貸すためだったんだろう。

 知識面ならイーダ、戦闘面ならクレアって感じで、それぞれ凄い頼りになるし。


「その他の領民も、こちらの受け入れ可能人数が増え次第、『ワープ』にて順次連れてくる予定となっております」


 ……にしてもだ。

 俺の指示がなくても、このガルドという人は勝手にちゃっちゃか領地運営を行っていくみたいだな。

 まあ、これなら無言の勇者と呼ばれてる俺でも問題なく領主という立場でいられるから、これもまた王様の配慮なのかねえ。


 いや、でも一応、けん制くらいはしておこう。

 領地経営をすべてこの人に任せるのも危ない気がする。


 それに、上の立場でふんぞり返ってなにもしないっていうのは俺の性分じゃない。

 俺がのほほんと経営を見守るだけの領主様でないというところをイヤというほど見せちゃる!

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