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第41話 王様の妙案

 やっべー。

 本当に買えちゃったよ。


 いや、王様から事前に奴隷商会の規模を教えてもらってたから、もしかしたらいけるんじゃないかとは思ってたけど。

 だけど、実際に企業の買収みたいなことをやれるんだっていう自覚はなかったから、ちょっと驚いた。

 俺、凄まじい大金持ちだったんだな。


「流石は勇者。高潔な志もさることながら、やることのスケールも桁違いだ」


 さっきまでいた執務室とは別の部屋に連れてこられた俺は、そこで王様から賛辞の言葉を送られた。


 なんというか、この人は相変わらず俺を過大評価してるみたいだな。

 さっき奴隷についてなんとかならないかと相談しに行ったときも、『ゆ、勇者あああああぁぁぁ! 余は、余はああああぁぁぁ!!!』とかいって号泣した後、快く奴隷解放へ向けて全面的に協力してると約束してくれていた。


 多分、あれは感激したとかそういう意味の泣きだったんだと思う。

 でも、いきなり泣かれたから、流石の俺もビビったよ。

 王様がする反応じゃない。


「しかし、今はまだ、奴隷商会が管理している奴隷の所有権のみが勇者に移っただけだ。奴隷そのものがいなくなったわけではない」


 そうだね。

 奴隷商会は俺が買収したから、もうそこから奴隷が売られることはない。

 けれど、すでに売られている奴隷については対処できていないのが現状だ。


「それに加え、貴族の中には奴隷を解放するという気運を快く思わない者もでてくるだろうが、まあ、勇者が今回の件に深くかかわっているのだと知れば、表立って抵抗することはしないだろう」


 それはさっき、奴隷商会の人と話す前に、王様との話し合いで聞いた。

 なんでも、俺たちに毒を盛ろうとした伯爵が捕まって、そこから芋ずる式に貴族間のいろいろな黒い部分が王様の耳に入ったらしい。

 これによって、一部の貴族は王様に弱みを握られたことになり、また、伯爵を返り討ちにした俺に対して攻撃的な姿勢を取ることは躊躇われるようになっているのだとか。


 まあ、なんにせよ。

 このまますんなりと奴隷解放の動きが上手くいってくれると、俺としては嬉しい限りだ。

 国から奴隷がいなくなるということは、ヌルシーも奴隷扱いされなくなるってことなんだからね。


 いくら俺がヌルシーを奴隷扱いしなくても、周りはそう思わない。

 だから、それをなんとかしたいとは、常日頃から考えていた。


 そんな日々の悩みの1つが、今回無事に取り除かれようとしているわけだ。

 めでたいねぇ。


「して、勇者はこの後、買い取った奴隷をどうするつもりか、算段はついているのか?」

「…………」


 え?

 そりゃあ、奴隷の身分から解放して、自由にさせますけど……。


「先の奴隷商も口にしていたが、奴隷は奴隷でこのまま解放されても戸惑うばかりだ」


 ご、ごもっとも。

 確かに、ただ奴隷の身分から解放しましたっていうんじゃ、全部解決したとは言えないんだろう。


 だけど、これ以上俺にできることなんてないよ。

 お金だって全部使っちゃったし。

 自由になった後のことまでは、流石に面倒見きれない。


「どうやら、この先のプランはなにもないといった様子だな?」


 その察しの良さで、どうして俺のことを過大評価しているのか。

 意味が分かりませんよ。


 とはいえ、恥ずかしながら、今の言葉に言い返すことができない……。

 王様なら、なにか妙案でも持ち合わせているのかね。


「であれば、余に良い考えがある」


 やっぱりあるのか!

 この人、何気に優秀な王様だな!


「先日、貴公に伯爵の地位と、ある土地の管理を任せたいという話をしたことは、覚えているな?」


 俺は王様の問いにコクリと首を縦に振る。


 覚えてますとも。

 あのとき、王様はやけに俺を貴族にさせたがってたよね。


「実のところ、そこで口にした土地の管理の中には、我が国の開拓予定の地域も含まれていたのだ」


 なに。

 開拓予定の地域?

 つまり、これから町なり畑なりを作ろうとしてる場所も俺に譲ろうとしてたのか。


「勇者が買い取った奴隷の数は、ゆうに万を超えるだろう。流石にそれだけの数を勇者が単独で養うことはできまい」


 そこでまた王様が訊いてきたので、これにも俺は首を縦に振ることで答える。


「だが、その者らを先の地域に住まわせ、開拓作業に従事するのであれば、余も国のほうから開拓援助という名目で支援することができる」

「!」


 そこまで言ったところで、俺は王様の考えがなんなのか、ようやく理解するに至った。


「どうだ、貴公も貴族になる気になったか?」


 ……この王様、なかなか侮れないね。

 って、別に今まで侮ってたわけでもないんだけどさ。


 開拓援助を受けるには、俺が貴族になって、開拓地域に買い取った元奴隷たちを向かわせる必要がある。

 俺が貴族にならないと成り立たない話ってわけだ。


 この王様は、どうも俺を貴族にさせたがっている。

 そうすることで、俺とこの国の繋がりをより強固なものにしたいっていう腹積もりなんだろう。

 けど、あんまりかたっくるしいのはイヤなんだよなぁ。


 とはいえ、この案以外に、なにか元奴隷たちを養う方法があるかといえば、微妙なところだ。

 元奴隷たちも、速攻でちゃんとした仕事につけるのだから、悪い話ではないだろうし。


「この案を呑んでくれるのであれば、余は開拓援助を惜しまん。開拓業務に従事する者の衣食と人権も保障しよう」


 王様はさらに言葉を浴びせ、俺の決断を促してくる。


 ……こうまで言われちゃったら、しょうがないか。

 安易に奴隷を全部買い取るとか言っちゃった俺にも非はあるわけだし。

 毒を食らわば皿までってね。


「貴族になるというお誘い。お受けいたしましょう」

「その言葉を待っていた」


 王様はそこでニヤリと笑みを浮かべた。


 流石は王様。

 伊達にこの国のトップじゃないねぇ。


 こうして、俺は貴族になることとなったのだった。

第3章、完。

4章に続く!

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