第37話 VSノワール教団再び!
龍魔族の兵士たちに連れられて、俺たちは町の大広場にやってきた。
その大広場では、フードを頭に深く被った黒ずくめの集団と、この前見たグランドベヒーモスなるモンスターに匹敵する大きさのゴーレムがいた。
「暗黒神様の祭壇を破壊した不届き者はどこのどいつだ!」
「不届き者がここにいることはわかっているぞ!」
「早く我々の前に出さねば、この町は焦土と化すこととなるだろう!」
多分、あいつらはノワール教団の一味なんだろう。
めっちゃ怒っていらっしゃる。
あいつらの言う不届き者って、多分俺たちのことだよね?
暗黒神が封印されてるっぽい場所を壊したのは俺たちなわけだし。
なら、今回の一件は龍魔族の人たちにとって無関係のことだ。
とんだとばっちりじゃない。
そう思うと、なんか申し訳なくなってくる。
「……む? そこにいるのは……そうか、貴様たちだな? 我々に牙を向いた愚か者どもは」
黒ずくめの集団が俺たちのほうを向いた。
俺たちは龍魔族の暮らす町の中では浮いた存在だから、目につきやすいんだろう。
「我らノワール教団をコケにした報い、その命をもって受けてもらおう……」
やっぱりノワール教団の関係者様方でしたか。
相変わらず物騒な人たちだな。
この前会ったノワール教団の連中も物騒だったけど、今回は激おこな分、いっそう言動が過激になっているように見える。
そんなに祭壇を壊されたのがトサカにきたのかね。
「やれ! グランドゴーレム! 目の前にいる愚か者どもを蹂躙せよ!」
と、俺が冷静に状況分析をしていると、ノワール教団の後ろで待機していた石造りの人型巨大ゴーレムがこちらに向かって歩き出した。
相手はモンスターなわけだし、早速『サーチ』!
グランドゴーレム
身体能力 140800
魔法能力 125600
強さは大体グランドベヒーモスと同じくらいかな。
この前、グランドベヒーモスに『サーチ』をかけたときと似たような数値だ。
ってことは、今回も『ブレイブフレアー』で一撃で倒せそうだね。
……いや。
それなら『ブレイブスラッシュ』のほうでいってみよう。
威力的に、こっちでも十分倒せるはずだ。
数値的には、このゴーレムはドラゴン状態のフラムよりも強い。
だから、『ブレイブスラッシュ』では倒しきれないんじゃないか、とも思える。
しかしながら、『ブレイブスラッシュ』は『ブレイブフレアー』に性能で劣っていない。
それを証明するためにも、ここは『ブレイブスラッシュ』一択だ。
でも、ゴーレム相手に斬撃系のスキルはいかがなものか……。
見るからに固そうだし、やっぱり『ブレイブフレアー』のほうにしとこうかな……。
「……いや、やるといったらやるんだ」
このまま『ブレイブスラッシュ』の価値が低いままにしておくのは、なんかヤダ。
検証をするなら早いうちにやってしまいたい。
攻撃が通らないってわけじゃあないんだ。
気合とかを入れれば、ゴーレムだろうがなんだろうがスパスパと切り刻めるさ、多分!
「ふむ……この巨大なゴーレム……生半可な攻撃では落ちそうにないのう」
「だったら私たちの力を合わせて一点集中砲火でいきましょう!」
「……悪くない案だ。では早速――」
「よし! それじゃあ行ってくる! みんなは後ろで待機してて!」
「「「えっ」」」
俺はイーダたちの驚きの声をスルーし、単身でゴーレムに向かって駆け出した。
「勇者奥義……『ブレイブスラッシュ』!!!!!」
そして、グランドゴーレムに飛びかかると同時に、『ブレイブスラッシュ』を発動させる。
今回この斬撃スキルを使うにしても、固いゴーレム相手にどれほどの効果があるかわからない。
そんな風に思いながらも、俺はそれを気合でカバーするかのように体を動かす。
「……あ、あれ?」
『ブレイブスラッシュ』によって、ジャキジャキと物が切れる音が響き渡る。
それと同時に……グランドゴーレムの腹部はズタズタに切断され、その巨体はガラガラと崩れていった。
「な……!?」
「我らのグランドゴーレムが一瞬で……!?」
「ば、化け物……!」
ノワール教団の連中が俺を見ながら怯えた声を上げだした。
ん、んー……。
な、なんか、凄くあっけなく終わっちゃったな……。
『サーチ』による結果によると、グランドゴーレムはドラゴン状態のフラミーより強かった。
であるならば、『ブレイブスラッシュ』の攻撃にも耐えるのではないかと思ってたんだけど……そうはならなかった。
いったいどういうことなのよ。
本当に気合を入れるだけで威力が代わったりすんの?
そういえば、フラミーに使ったときは、ただ『ブレイブスラッシュ』の使い心地がどんなものかを感じたかった一身で使ってたし……。
もしかしたら、本当にそういった『やる気』の面で技の威力も変わるのかもしれない。
「やったじゃない! アルト!」
俺が首を傾げながら考察していると、背後からイーナの声が響いてきた。
よく周囲を見渡すと、グランドゴーレムがやられたためか、ノワール教団は戦意を喪失したのか棒立ち状態になっている。
そういえば、この前グランドベヒーモスを倒したときも、あんな感じのリアクションされたんだったっけ。
ってことは、もうこいつらに奥の手はないってことでいいのかな。
それなら、迅速に事態の収拾ができたということで、めでたしめでたしだ。
『ブレイブスラッシュ』についてだけ、よくわかんない感じだけど、それはまあ別にいいさ。
「……勇者、なんだ今のへっぴり腰は」
と思っていた俺に、クレアが苦言を呈してきた。
「……あれでは完全な『ブレイブスラッシュ』とは呼べない」
「えっ、そうなの?」
「……平和な時間を甘受しすぎて、勇者は剣の腕が落ちたようだな……国に帰ったら、私と一緒に剣の稽古だ」
稽古をつけてくれるのか。
いつぞやの早朝にも聞いたけど、それはそれで悪くない提案だね。
なんとなくでそれっぽい動きもできちゃう体ではあるけど、俺自身は剣の取り扱いに関して素人同然だ。
今後のために、ちゃんと教えてもらったほうがいいだろう。
というか、クレアから見ると、今の俺の『ブレイススラッシュ』は完全じゃないのか。
スキルを発動すれば体が勝手に動くから、これでいいのかと思ってたんだけど、どうやらそれだけじゃあ駄目みたいだなぁ。
まあ、なんにせよ、それについて考えるのはまた後日にということで。
今はこのノワール教団とやらを縛り上げないと――。
――突如、どこか遠いところから爆発音めいた音が響き渡った。
「…………っ!?」
しかも、その爆発音は一か所だけじゃない。
複数の箇所で響いているみたいだ。
「……クックック……随分と驚いているようだな」
その音を聞いて我に返った様子のノワール教団がニヤリと笑った。
「今、我々の同士が町中で一斉に騒動を起こしている」
「グランドゴーレムは敗れたが、我々はまだ負けてなどいないのだ!」
まだこいつらには仲間がいたのか!
これまででも3ケタ以上の構成員がいたってのに、どんだけ規模の大きい組織なのよ!
「……はっ!? ヌルシ―が危ない!」
ふと、そこで俺はヌルシーたちのことを思い出した。
彼女たちのところにノワール教団の連中が行っていたら危険だ。
早く合流しないと!
「イーナ! イーダ! クレア! いったん別れて行動しよう! 俺はヌルシーたちを探して、安全な場所に避難させに行く!」
「え、ええ! わかったわ!」
「この場はワシに任せるがよい!」
「……私は他の場所にいる敵を排除しに行く」
「じゃあみんな、また後で合流しよう! 気をつけてね!」
そうして俺は、ヌルシーたちを探しに全力で走り始めた。




