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第32話 この世界には暗黒神なるものが存在するらしい

 ……うん。

 なんていうか、『ブレイブフレアー』の威力って滅茶苦茶高いな。

 剣を使うまでもなかった。


 わざわざ剣を抜いて戦闘態勢に入ってたっていうのに。

 なにもせず鞘に収めるしかないとは。

 ちょっぴり恥ずかしいぞ。


 にしても、『ブレイブフレアー』って『ブレイブスラッシュ』より強力な技だったっけ?

 確か、威力的にはそこまで差はなかったと思うんだけど。

 機会があったら、今度もう一回『ブレイブスラッシュ』をモンスター相手に使ってみよう。


 そんなこんなを思いながら、俺はノワール教団という輩があっさりお縄につくのを眺めていた。

 何人か逃げ出そうとしてたのもいたけど、それはクレアに任せて、力づくで縛ってもらった。


 この場にいた教団員の数は、およそ100といったところだ。

 よくわからない宗教団体だが、わりと盛況だな。


「……イーナさんイーナさん」

「ん? なによ」

「……ノワール教団って、どんな集団なの?」


 俺はすぐ近くにいたイーナに小声で訊ねた。


 こんな集団、ゲームでは見なかったぞ。

 まあ、俺も完全クリアしたとはいえないから、どこかしらで情報を聞き損ねていたりイベントを見損ねていた可能性もあるっちゃあるんだけど。


「ノワール教団は、暗黒神ノワールを崇拝する宗教団体よ」


 ノワールといえば、大昔に神によってどこかに封印されたという神の名だ。

 それは、俺もゲームの設定としてではあるものの、知っている。

 街の人々や本の文献でたまに見かけるワードだったからな。


 ただ、なにかのイベントがあるのかと思って探してみても、特になにもなかった。

 ラスボスを倒した後のラスボスかなと考えていたものの、今となってはそれも疑わしい。


 なんにせよ、そんなのがどこかに封印されているかもしれないというのは物騒だ。

 そんなのとは戦う気もないから、ここでしっかり情報を聞き出しておこう。


「暗黒神ノワールが封印されている場所はどこにある?」


 俺は地面に座り込んでいる教団の連中に訊ねた。


「ひぃっ!?」

「ゆ、勇者が喋ったっ!?」


 あ、やべ。

 また怖がらせちゃった。

 うーん……まあいいか。

 むしろ、この場合は有利に働くだろうし。


「……早く話したほうが身のためだぞ?」


 開き直ることにして、今度は低い声で脅しをかけてみた。


「は、話します! 話させていただきます!!」

「ですから、どうか命だけは! 命だけはあああぁぁぁっ!!!」


 ……別に取って食おうとしてるわけじゃないんだけどなぁ。

 知ってることを喋ってくれたら、俺はそれで良いわけだし。


 そうして、俺はノワール教団から暗黒神の封印場所を教えてもらった。






「勇者様……このたびは本当に申し訳ありませんでした!!!!!」

「…………」


 街のほうに戻ってみると、偽勇者たちが横一列になって、俺たちを土下座で出迎えてきた。


 勇者を騙ることが、どれほどの罪なのかは知らない。

 けど、あんまり変なことはしないでほしいところだよ、まったく。


「お主たちが行ってきたことについては、この街の長から問い合わせで、だいたい知っておる」

「勇者一行と身分を偽って、宿の代金を滞納していたそうね?」

「……カジノで豪遊していたとも聞く」

「も、申し訳ありません……」

「許してください……」

「つい、魔が刺したんですじゃ……」

「勘弁してください……」


 イーダたちの追い込みに、偽勇者たちは頭を地面にこすり付けながら謝罪の言葉を口にする。


「頭を下げるだけで許せるほど、アタシたちの名に泥を塗った罪は軽くないわよ!」

「聞くところによると、お主らはスタート王国の『王家の紋章』を持っているそうじゃな?」

「……偽物であるなら、重罪だ」

「下手したら首が飛ぶのう」

「「「「!?」」」」


 命の危険を感じたのか、偽勇者たちは顔を上げ、泣きそうな表情をしだした。


「こ、この紋章は、とある貴族様からいただいた物です!」

「私たちが勇者を演じていたのも、その貴族様の御依頼によってなのです!」

「儂らは頼まれた仕事をこなしていただけなのですじゃ!」

「ですから、どうか……どうか命だけはお助けください!」


 命乞いならついさっきも聞いたなぁ……。

 あまり何度も聞きたくないことだ。


「……まあ、宿代とか、その他諸々迷惑をかけた人たちに償いをすれば、許してあげてもいいんじゃないの?」


 なので、俺は軽い気持ちでイーダたちにそう言った。

 すると、偽勇者たちは全員こちらを驚くような表情で見始めた。


「お、おおお…………ゆ、勇者様は我々を許して下さるのですか……!」

「え? ああ、うん、そうだけど?」

「なんと慈悲深きお方……」

「これが本当の勇者様なんじゃな……」

「喋るというだけで偽者扱いしてしまった自分が恥ずかしい……」


 ……なんか、すんごい尊敬の眼差しを向けられてるように見える。

 命乞いされるのも気分が悪いけど、そんな目で見られるのも居心地が悪いなぁ。


「ふぅ……それで、その勇者一行を偽るという依頼は、いったい何者が出したものなんじゃ?」


 イーダがヤレヤレというようにため息をついた後、偽勇者たちに訊ねた。


 そうだよ。

 こんな依頼を出した張本人をしょっぴかないことには、今回の一件は解決しない。


 いったい誰なんだ!

 そんな馬鹿げたことをした奴は!


「スタート王国のアルディアス・ヴォ―ガンという貴族様です」

「……ヴェルディナンドと特に親交の深かった男爵の名じゃな。今はヴェルディナンドが裏で行ってきた所業の共犯者疑惑によって事情聴取を受けているはずじゃ」

「つまり、今回のも私たちに毒を盛ろうとした元大臣の差し金だったわけね……」


 すでにしょっぴかれてた!

 あの人、いったいどれだけの罪を重ねれば気が済むのよ!?


「ふむ……ヴェルディナンドはスタート国において重鎮じゃった男じゃ……あやつなら、紋章を偽造することも不可能ではなかったじゃろう」

「ショージキポーションが効いてるときに、国内部のこと以外もいろいろ訊いておくべきだったわね」


 そうなのかー……。

 あの人って伯爵だったらしいけど、結構な国のお偉いさんだったのね……。

 大臣だっていうんだから、偉くないはずはなかったわけだけど。


「我々は1ヶ月ほど前、貴族様からご依頼を受けまして……この地で勇者一行を演じていた次第です……」

「数週間ほど好き勝手に遊んだら、また他の地で同じことをしろ……というような内容でした……」

「前金も十分すぎるほど用意してくれて……儂らにとっては大助かりだったんですじゃ……」


 おいおい。

 遊ぶだけでいい仕事とか最高だな。

 その仕事、俺にも紹介してくださいよヴェルディナンドさ~ん。


「ヴェルディナンドめ……偽の勇者を操ってワシらの悪評をばらまくつもりじゃったな……?」


 俺が羨ましがっていると、イーダはこめかみに青筋を浮かべながら怒り出した。


 おじいちゃん。

 落ち着いて落ち着いて。

 年が年だから、そんな顔をされると俺も心配しちゃうよ。


「これも魔族元老院の裏工作だったってことかしら……」

「……なんて卑劣な」

「まあまあ、それは魔族元老院については上手く纏まったんだし、あんまり悪く言わないであげよ?」


 イーダの背中を撫でて落ち着かせながらも、俺はイーナとクレアの怒りを治めるべく仲裁に入った。


 魔族元老院は、王様と一緒に今現在も城で検討を重ねている。

 和睦への道のりはまだまだ険しそうだというカンジだけど、特に王様のほうのやる気が凄くて、確実に進んでいる様子だ。


 なので、俺は魔族元老院のことを悪く言わない。

 この偽勇者たちも、依頼を受けたのは1ヶ月も前らしいから、行き違いが生じてしまったというのは理解できるし、許すこともできる。


「アルト殿は優しいのう……まあ、このことは帰ったらヴェルディナンドをきっちり問い詰め直すとするかのう……」

「もしかしたら、魔族元老院との交渉を優位に進めるカードになるかもしれないしね」


 イーダもイーナも(したた)かだなぁ。

 今回の件を国の交渉事に使おうとするとは。

 って、そんなふうに思う俺が甘すぎるだけかね?


「とりあえず、この連中は衛兵さんにでも引き渡そう」

「……無銭飲食と宿代踏み倒しくらいであれば、首を跳ねられることもないだろう」

「きちんと誠意を見せればじゃがのう」


 偽勇者一行の処遇は、ひとまずこの国の人たちに任せよう。

 身分の偽りや紋章の件については、それが終わってからだ。


 こうして、俺たちは偽勇者一行をとっちめることに成功した。

 ノワール教団なる集団も捕縛したが、それはあくまでついでの話だ。


 ……ああ、そうそう。

 ついでに暗黒神の封印された場所も教えてもらったんだった。

 そっちのほうも確認しておいたほうがいいよね。

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