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第31話 VSノワール教団

 『ヴィネヴィア』にノワール教団がやってきた。


「我々は暗黒神様の復活を望む者……ここにいる勇者を暗黒神様の贄とするため参上した……」


 黒いフードを深々と被ったその集団は、街の外の荒野で不気味にそう告げた。

 それを見た街の住民は、冷や汗を垂らしながら揃ってゴクリと唾を飲みこむ。


「勇者を差し出すにであれば……貴様たちの命は見逃してやろう……それも暗黒神様復活のときまでだがな……」

「とのことです! 勇者様!」

「「「「…………」」」」


 そして、そんなノワール教団のところに、偽勇者一行は無理矢理連れてこられた。


 ノワール教団といえば、関わったら最後、入信するか死ぬかの二択を迫られるという、この世界で最もタチの悪い団体として知られている。

 それが自分たちを標的にしようとしているのだと思うと、生きた心地がしない。

 偽勇者一行は、この場から一目散に逃げ出したくなっていた。


「勇者様! 今こそあなた様のお力を私たちにお見せくだされ!」

「これに勝てたら、これまで滞納していた宿代もチャラにいたしますので!」

「カジノで作った借金も帳消しにします!」

「ですから、なにとぞ我々にお力添えを!」

「う……」


 しかし、偽勇者一行は逃げられない。

 街の住民がそれを許さないからである。


「あ……アイタタタ……きゅ、急にお腹の調子が……」

「み、右に同じくじゃ……」

「き、きっと朝の食事になにか良くない物が混ざっていたのだろう……勇者様もご気分が優れないご様子だ……ここはひとまず逃げるしか――」

「な!? だ、駄目です!」

「ここで勇者様に逃げられてしまっては、私たちはどうすればよいと言うのですか!?」

「戦ってください! 勇者様!」


 腹痛の演技をしてみるも、住民のガードは固く、容易に後方へは下がれない。

 偽勇者一行は進退(きわ)まる状況に置かれ、どうすることもできずにいた。


 今まで曲がりなりにも冒険者の端くれとして活動していたため、偽勇者一行も決して弱くはなかった。

 ただ、今回は相手が悪すぎた。


 街の外に集まった数百人規模のノワール教団は実力派としてもよく知られている。

 時には街を1つ壊滅させることもある。

 そんな集団を相手にして、生きていられるかと訊ねられたならば、偽勇者一行は『ノー』と答える。

 かといって、ここで逃げ出すことは街の住民が許さない。


 偽勇者一行の瞳に涙が浮かぶ。


「困ってるようなら、助けてあげてもいいわよ?」


 すると、そんなところへ、先ほどの謎の集団がやってきた。


「しかし、お主たちの罪をここできちんと告白するのが条件じゃ」

「……さあ、どうする?」


 少女たちが問い詰める。

 それにより、偽勇者一行は悩むような表情をし――そして、すぐさまその言葉を口にする。


「わ、わかった! わかりました! 喋る! 喋りますから!」

「私たちは勇者一行なんかじゃないわ! ただの冒険者くずれよ!」

「今まで騙していて、本当にすまなかった!」

「だ、だから助けてくれ! これから俺たち、心を入れ替えるから!」


 偽勇者一行は謎の集団に泣きつく。


 ノワール教団が相手では、もはやこの先には死しかない。

 であれば、ここで(わら)にもすがる思いで命乞いをしたほうが、まだマシだ。

 そう思ったからこそ、4人はほぼ同時に降参の様子を見せた。


「な、なんだって!?」

「こ、この人たち、勇者じゃないの!?」

「く……ふざけんな! 宿代ちゃんと払えバカヤロー!」

「金返せ! 偽勇者!」


 それを見て、街の住民の怒りが爆発した。


 これまで、偽勇者一行は街の中で贅沢の限りを尽くしていた。

 高級宿に泊まり、美味い物を食べ、カジノで豪遊する毎日。

 そんな日々を送るのに必要な金銭は、最初の3日間だけしか支払われておらず、あとは『無言の勇者』へのツケによって賄われていた。


 しかし、ここにいる勇者一行は本物のではなかった。

 であれば、どこの誰かもわからないような馬の骨にツケなどという概念が適用できるはずもない。

 街の住民が怒るのも当然であった。


「勇者じゃないなんて……それじゃあ、どうやってあの教団を退ければいいの!?」

「あいつらには、この偽物を差し出してお引き取り願うしかあるまい……」

「本当に帰ってくれるか……?」

「……わからん」

「ちょ、ちょっと待って! た、頼むから、あいつらに俺たちを差し出すことだけは勘弁して――」

「うるさい! 勇者を騙った偽物に情けなどない!」

「ぐぅ……」


 住民の怒りに、偽勇者一行は口を挟めない。

 もはや、針のムシロ状態であった。


「……まあ、とりあえず本当のことを言ったんだから、助けてあげますか」

「ここでなにもせず国に帰ったら、勇者一行の名が廃るしのう」

「……行くか」


 が、そんな偽勇者一行に唯一救いの手を差し伸べる者たちがいた、

 先の謎の集団である。


「あなたたちはそこで見てなさい! 教団は私たちが追い払ってあげるから!」

「え……?」


 謎の集団が教団のほうへと向かうのを見て、住民は驚く。

 また、その驚きが教団側も同じで、黒いフードの奥から不気味な笑みが聞こえだす。


「フフフ……我々に立てつく者がいようとはな……」

「命知らずもいいところだ……」


 勇者でないというのであれば、誰が相手であろうと同じこと。

 教団はその謎の集団を舐めてかかっていた。


「……え? なに? ここは自分がいくですって?」

「ほっほっほっ、やはり勇者は勇者じゃのう」

「……先陣を切るか……流石は勇者だ」


 と、そこで謎の集団から1人の青年が先頭にたった。

 しかも、その青年は、なぜか勇者と呼ばれている。


 住民の会話を盗み聞いたところ、どうやらこの街にいた勇者は偽者であったらしい。

 それにより、教団側は大いに失望する。


 だが、ここでまた勇者と呼ばれるものが登場した。

 これには教団側も意味不明な心境であった。


「貴様……今、勇者と呼ばれていたな……?」

「答えよ……貴様は何者だ……?」


 教団は青年に問いかける。

 すると、青年は宙に『アルト』という文字を浮かべ、黄金色に輝く剣を鞘から引き抜いた。


「おお……あれはまさしく勇者の剣の輝き……」

「この世に1本しか存在しないという、神が作りし伝説の剣……」


 光り輝く剣を見て、すぐに教団はその青年が勇者であると理解した。

 加えて、『アルト』という名も、勇者のもので相違ない。


 偽者につられたものの、思わぬところで本物と出くわした。

 教団の笑みが益々深くなってゆく。


「勇者か……ではこちらも、最大限の対応をさせてもらおう……」


 突如、教団は荒野で円陣を組み、詠唱を始めた。


「いでよ……暗黒神様の眷属――グランドベヒーモス!」


 そして、教団は荒野に1匹のモンスターを出現させた。


 モンスターの名はグランドベヒーモス。

 およそ十数メートルにもおよぶその体格は、ドラゴンをも軽々と超える。

 口からは凶悪な牙が外向きに生えており、その鋭い眼光と合わさって周囲の者を威嚇する。

 この世界においては伝説上で語り継がれるのみの超大型生物であった。


「フフフ……流石の勇者でも、これには勝てまい……」

「このモンスターこそ、我々の最終兵器にして勇者を倒す秘密兵器……」

「さあ……グランドベヒーモスよ……宴の始まりだ……」

「勇者を倒せ……そして……暗黒神様の贄とするのだ……」


 教団は不気味な笑い声を続けながら指示を出す。

 それにより、グランドベヒーモスは周囲に轟くようなおたけび声を上げ、青年に向かって突進する。



 しかし――。



「……喋らなければ、みんな信じてくれるのね」


 ――青年は誰にも聞こえないような声でそう呟くと、手のひらから赤色の光線を発射した。


 その光線はグランドベヒーモスの頭部に命中し――首から上を完全に消失させた。


「え……? え……?」

「ぐ、グランドベヒーモス……?」

「あれ……? 頭、どこいっちゃったの……?」


 教団がグランドベヒーモスを見ながら困惑の声をあげる。

 それには先ほどまであった不気味な印象など一切なかった。


「やったじゃない! アルト!」

「うむ! 見事な『ブレイブフレアー』じゃ!」

「……まさか、一撃とはな」


 青年の後ろに控えていた集団が喜びの声をあげる。

 それにつられて、街のほうでも勝利の喝采が広がっていく。


「さて、教団の者たちよ。これでもまだワシらと戦うかのう?」


 ニヤリと笑みを浮かべながら、初老の男が問いかける。


 すると、すでに戦意を喪失していた教団は両手を挙げて投降する意思を示したのだった。

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