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第29話 新たなる波乱の予感?

「ちょっとアルトさん! また私の巻き髪に物を仕込みましたわね!?」


 王宮でのとある早朝。

 部屋の前にある通路にて、フラミーがいつもの挨拶で俺を迎え入れてくれた。


「おはようフラミー。今日も清々しい朝だね」

「こっちは全然清々しくありませんわよ!? いい加減幼稚な遊びはやめてくれませんこと!?」


 幼稚な遊びとは失礼な。

 そりゃあ、ぶっといフランスパンでフラミーのドリルな巻き髪をガバガバにさせちゃったのは申し訳ないと思うけど、こっちだって真剣なんだぞ。


「フラミー、俺は君といつも真剣に遊んでいるつもりだ。これだけは信じてくれ」

「なに真面目な顔して馬鹿みたいなこと言ってるんですの!?」


 怒られてしまった。

 やっぱりフランスパンがいけなかったのだろうか。

 ガバガバにしてしまったのがいけなかったんだろうか。

 もうちょっと段取りを踏むべきだったか。


「今度はクロワッサン辺りから入れていくことにするよ」

「大きさを変えればいいってもんじゃありませんわよ!?」


 やっぱり怒られてしまった。


 いや、だってさ。

 フラミーの巻き髪がとてもビューティフルで、ついいじってしまいたくなるんだよ。

 だからむしろ、遊ばれているのは俺の悪戯心のほうなんだよっ!


「あ」


 と、そこでイーナが通路の奥から歩いてくるのを見つけた。


「…………」


 イーナは、なんというか、とてもイヤそうな顔でこっちを見ていた。

 なにか不愉快になるようなことでもあったのだろうか。


「おっはよっ、イーナっ! 今日も清々しい朝だね!」

「……なんであの勇者がこうなるのかしら」

「なにか言った?」

「……なんでもないわよ! まったくもうっ!」


 イーナさんはご機嫌ナナメのようだ。

 というより、俺と会うときはいつもこんなカンジな気がする。


 これは俺のせいだろうか?

 イーナをプリプリさせているのは、俺の言動に問題があるからなのだろうか。


「なにか言いたいことがあるならハッキリ言ってくれていいぞ。俺、大抵のことならショック受けないから」

「…………それじゃあ、言ってもいいかしら?」

「おう! ドンと来い!」

「アルト。あなた、もう喋んないで」

「そんな!? イーナったら酷い!」

「…………」


 俺が泣き真似をすると、イーナは益々眉間にシワを寄せだした。


 うーん。

 ちゃかしても駄目か。

 それなら、正攻法で直接訊いてみよう。


「イーナは俺が喋ると駄目なの?」

「だ、駄目っていうわけじゃないけど……なんていうか、大魔王を討伐するために旅をしてた頃とのギャップが大きすぎて……」


 ふむ。

 まあ、それはしょうがないな。

 イーナは喋らない俺と一緒に旅をしていた。

 それも、数多くの仲間が選べるなかで、彼女は最後一歩手前までずっと一緒だったはずだ。


「イーナから見たら、俺はどんな男だったの?」

「え? そ、それは……無口で無愛想で無表情で……なにを考えてるのか全然わかんなくて……行動だっていつも突拍子もなくて……」


 だらしないぞ!

 無言の勇者だった頃の俺!


「でも、困ってる人がいたらすぐ助けにいって……強くて優しくて頼もしくて……アタシも何度も助けられて……」


 よくやったぞ!

 無言の勇者だった頃の俺!


 っていうか、まあ良いところもあれば悪いところもあるっていう評価なわけね。

 でも、どっちかというと褒めているときのほうが感情が籠ってるような気がしないでもない。


「……って、今はそんなことを話しに来たんじゃなかったわ」


 もっと褒めてほしかったところだが、イーナは別の話題に切り替えるようだった。


「アルト、おじいちゃんが呼んでるわよ。アタシと一緒にちょっときなさい」

「なに? イーダが?」


 こうしてイーナを使って呼ぶということは、なにかあるに違いない。

 いったいどんな用事だろうか。


「多分、あんたの記憶を完璧に治すための薬ができたんじゃない?」

「あ、あー……それね……」


 イーナたちは、いまだ俺の記憶に問題があると勘違いしている。

 ただ、2週間前に俺がスラ様を連れていたことで、『勇者の記憶喪失は徐々に回復しているのではないか』というような勘違いに変化した。


 そのことに、イーナはたいそう喜んだ表情を浮かべていたように見えたのは、はたして俺の気のせいだろうか。

 気のせいじゃないんだろうなぁ。


「イーナってさ、少し前の無口な俺のことが好きだったりしたわけ?」

「ぶっ!? す、すす好き!? なにいきなり変なこと言ってんの!? バーカバーカ!」


 バーカバーカって。

 久しぶりにそんな幼稚な煽りを聞いたぞ。

 小学生でも今どき使わないだろう。


「とにかくっ! 今はおじいちゃんのとこに急ぐわよ! ほら!」

「おっとっと」


 顔を赤くして怒るイーナは、俺の背中を押して、イーダのいる部屋のほうへと歩かせようとしだした。


 しょうがないなぁ。

 それじゃあ、イーダのとこに行ってみるか。


「フラミーはヌルシーと一緒に朝ごはん先に食べてていいよ」

「そうですの? なら、ヌルシーを起こさないといけませんわね」


 ヌルシーはまだ部屋のベッドで熟睡中だ。

 そのすぐ近くにはちっちゃいドラゴンも寝ていて、その風景を絵画にでもすれば良い値で売れるんじゃないかというくらい美しい。

 フラミーもそこに加わったら完璧な構図だ。

 俺はその光景を毎日1時間じっくり眺めている。


「それじゃあ、俺たちはイーダのとこにいこっか、イーナ」

「行くのはいいけど、アタシのほうに重心を傾けるのやめてくんない!?」


 そんなこんなで、背中から押してくれるイーナの力によって、俺は楽々とイーダの部屋へ向かって歩き出したのだった。






「おお、アルト殿。来てくれたか」


 俺とイーナはイーダの部屋にやってきた。

 すると、イーダは俺に声をかけ、少し言いづらそうにして口を開いた。


「今回お主を呼んだのはじゃな……その、なんじゃ……ここ1週間ほど、アルト殿はヴィーア共和国に行ったことはないか確かめたかったからじゃ」

「ヴィーア共和国?」


 確か、スタート王国から東にある国のことだったよな。


 というか、俺への用事は記憶に関することじゃなかったみたいだ。

 イーナも適当なこと言っちゃって……って、俺が思うことじゃないけど。


「行ってませんけど? それはヌルシーとかフラミーに聞いてもらえば、裏も取れますし」

「そうか……ならいいんじゃ」

「? そこでなにかあったんですか?」

「うむ……」


 イーダはそこで、とても歯切れの悪い様子で俺たちに言う。


「実はのう……今ヴィーア共和国に……無言の勇者一行を名乗る集団がいるらしいのじゃよ」


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