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第25話 ヌルシ―との異世界生活

 魔族元老院と王様の話し合いを聞いた後。

 俺は城で貸してもらっている部屋のソファーで横になり、夕食まで休もうとした。


「ん……うぅん……」


 すると、どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようで、目が覚めたときにはすっかり暗くなっていた。


「あ、起きましたか、お兄ちゃん」

「……ヌルシー?」


 薄暗い部屋のなか、俺はヌルシーと目が合う。

 というか、目が覚めた瞬間には、その先に彼女の顔があった。


「あれ、膝枕してくれてたんだ」

「そですよ。夕食も食べずに眠りこけるお兄ちゃんを残したままにはしておけませんですから」


 嬉しいこと言ってくれるねぇ。

 しかも、膝枕のご褒美付きとは。

 もうこのまま死んじゃってもいいんじゃなかろうか、俺。


 ヌルシーもまだ夕食を取ってないのかな。

 それなら、早く一緒に食事を取りにいかないとだ。


「今日はありがとうございました、お兄ちゃん」


 と思っていたら、ヌルシーは唐突に感謝の言葉を口にした。


「それは、なにに対してのありがとう?」

「いろいろありますが、アンデッド化したパパの躯についてが一番の感謝事項です」

「ああ……それね……」


 よくよく考えてみれば、俺はヌルシーの目の前でお父さんの首をはねちゃったんだよな。

 だというのに、彼女は俺に感謝の言葉を述べるばかりとは。


「ヌルシーはさ……本当に俺のこと、恨んでないの?」

「恨んでませんよ。今日のことについても、仕方のないことだと思いますし」

「……そう」


 仕方のないこと、か。

 もしかしたら、そう思うことで俺を恨まないようにしてくれてたりするのかな。

 なら、俺は鈍感にもほどがあるというものだ。


「……もしヌルシーが魔族の土地に帰りたくなったらさ、遠慮なく言ってね」

「? なんでですか?」

「いや、ほら……やっぱり自分の住み慣れたところで暮らすのが一番じゃない?」


 それに、俺と毎日顔を合わせなくて済むしね。


「ヌルシーには、俺に見張られる毎日じゃなくて、もっと自由な毎日の中で生きてほしいな」

「でも、私から目を離したら危ないんじゃないです? この国の国王様も、私のことを厄災の芽と考えてるみたいですし」

「厄災になるようなことなんて、ヌルシーはしないでしょ?」

「むぅ……それはそうですが……」


 まだ大した時間を一緒に過ごしてきたわけじゃない。

 けど、この子が悪い子じゃないことは十分わかった。

 父親のアンデッドが町を脅かしたときなんか、自分がそれを解決しようとまでしていたくらいだ。

 ヌルシーは、人間族の敵じゃない。


「……1つ、勘違いをしているかもしれないので言っておくことがあります」

「ん? 勘違いって、なにをさ」


 俺はヌルシーのジト目を見ながら訊き返す。


「私はお兄ちゃんと一緒にいることを苦痛に感じてなどいないのです。だから、あまり気を使わなくてもいいですよ?」

「…………」


 気を使ってるの、バレちゃってたか。

 流石は女の子だな。

 カンの鋭さが違う。


「まあ、お兄ちゃんの無駄に明るい性格は、演技でもなんでもないと思いますけどね」

「そりゃそうよ。俺、自分を偽れるほど器用じゃないし」


 俺にできる気の使い方なんて、たかが知れている。


 ヌルシーを奴隷のようには扱わない。

 この状況を気負わせるようなことは言わない。

 気分が暗くなっていないか、彼女の様子を逐一観察する。


 もし、それで彼女が俺といることになにかしらの不快感を感じているようなら、俺はすぐさま彼女との接点をなくすつもりだった。

 幸いなことに、ヌルシーの友達だというフラミーもいた。

 彼女に俺の持っているありったけのゴールドを渡せば、赤龍王のところで養ってもらえるんじゃないか、とも思っていた。


 これは王様との約束を反故にしかねない考えでもある。

 けど、そうでもしないと俺の気分が滅入ってしまう。


「……でもさ、やっぱりふと思うんだよ。俺はヌルシーにとって親の仇だろってさ」


 たとえ明るくしていても、俺とヌルシーの間にはそんな負の関係が存在する。

 今さらそれをどうにかすることなんてできない。

 だから俺は、ふとした瞬間に悩んでしまう。


「昨日も言いましたが、私はお兄ちゃんがパパを倒したこと、全然恨んでませんよ」


 俺を気遣ってなのか、ヌルシーはそう言いながら俺の頭を撫でてくる。


 優しいな、ヌルシーは。

 親の仇にこんな態度で接することができるだなんて――。



「それに、パパならもう、すぐそこにいますし」

「えっ」



 ――ヌルシーがベッドのほうに視線を向ける。



 そこには……小さな黒い龍が丸まってスヤスヤと眠っている姿があった。



「え……アレなに?」

「私のパパです」

「えっ」

「え」

「えっ」


 えっ。


 なにソレ。

 どゆこと?


「そういえば、お兄ちゃんには説明してませんでしたね。パパは神様の願いを聞き入れた代わりに、一度だけ転生する機会を得ていたのです」

「え…………ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」


 神様ってなによ!?

 転生ってなによ!?

 そんなの初耳なんですけどおおおおおおおお!?!?!?


「今の話もっと詳しく!!!」

「は、はい。かつてパパはこの世界の神様に会ったらしく、ある条件を呑む代わりに、いくつかの助言と転生の機会を貰ったそうです。」

「条件ってなにさ!?」

「私が知っている範囲で言えば、パパが大魔王となって魔族の頂点に君臨することと、大魔王を討伐しに来た勇者と正々堂々戦うことの2つです」

「なんと!?」


 勇者と大魔王の戦いは神様の差し金によるものだったのか!


 …………でも、なんでそんなことを?

 しかも、大魔王だったヌルシーのパパさんを転生させるなんてことまでして、意味がわからない。

 この戦いにどんな理由があるっていうのか。


 うーん……。

 わかんないなー……。

 まさしく『神のみぞ知る』だ。

 あっ、カニの味噌汁飲みたい。


「私の知っている情報はこれだけなので、あとはパパがちゃんと話せるようになってから訊いたほうがいいと思うのです」

「パパさんにねぇ……」


 俺はベッドの上にいる小龍のほうへと再び目を向ける。


「なんか、魔王城で見たときより小さいね」

「まだ生まれたてってカンジですね」

「ヌルシーも、生まれてきたときは龍の状態だったの?」

「違います。龍魔族は龍に変化する力や龍の尻尾を持っていますが、龍そのものではないのです」

「じゃあ、なんでここにいるヌルシーのパパさんは龍の状態なの?」

「多分、パパは本物の龍に転生したのかと」

「ああ、なるほど」


 ヌルシーのパパさんは正真正銘の龍になったのか。

 生物的には上位種にクラスチェンジした感があるな。


「まあ、そういうことですので、パパのことでお兄ちゃんが気負うことはないです」


 そう言うと、ヌルシーは俺を見ながら微笑んできた。


「だから、これからもよろしくお願いしますね、お兄ちゃん」


 今のヌルシーの微笑みは、これまで見た彼女の表情の中でも一番輝いているように感じた。


「…………おうとも! こっちこそ、これからもよろしく! ヌルシー!」


 俺もまた満面の笑みを返し、ソファーから飛び上がって手を伸ばす。

 すると、彼女はその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


「さあ! それじゃあ腹ごしらえをしに行こう! 城の食事が俺たちを待ってるぜい!」

「ですね。私ももうお腹がペコペコです」


 そして俺は、暖かくて小さいヌルシーの手を引き、2人で一緒に部屋を出ていったのだった。

第2章、完!


続きは3日後に投稿!

今後ともよろしくお願いします!

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