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第24話 国王様、泣くの巻

 俺は魔族元老院のおじいちゃんズを連れて、スタート王国に戻ってきた。


「……この者らが今回の騒動の主犯格か」


 スタート王国の王様が、おじいちゃんズを見ながらホッと息をついている。


 大きな騒動にならなくて安心したんだろう。

 さっきのアンデッドドラゴンによる襲撃も、人的被害はそれほどなかったそうだし。

 大きな損害と言えるものは、建物がいくつか壊れたくらいのものだ。


「貴公らだな? ヴェルディナンド卿をそそのかし、余の周りで問題を起こすよう取り計らっていたのは」

「……ふぇっふぇっふぇっ……その通りじゃ」

「ヴェルディナンドという男は、自分がスタート王国の王となるために我らと手を組んだのだ」

「城のどこにルシフェルの亡骸が安置されているかを教えてくれたりもしたのう……」


 どうやら、俺たちに毒を盛ろうとした大臣は魔族側のスパイだったみたいだな。

 俺たちを殺そうとしたのも、それが理由かね。

 まったくもってけしからん。


「……ヴェルディナンド卿の処罰は後でじっくり検討するとして、今は貴公らの処遇を決めなくてはな」


 王様はそこで、『ううむ……』と唸るような声をあげた。


「儂らは魔族! 人間族の下になどつかぬ!」

「奴隷同様に扱われるのであれば、我らは死を選ぶ!」

「公開処刑でもなんでもするがいい!」


 おじいちゃんズのほうは腹をくくっている様子だ。


 命よりも誇りを優先するその姿勢は、人によって評価が分かれるだろう。

 けど、あんまり命を粗末にしちゃいけないと俺は思うなぁ。


「ちょ、ちょっとお待ちになってくださりませんこと!?」


 そう思っていたら、俺の傍にいたフラミーが突然前に出てきた。


「この元老院の方々は、魔族の中枢を担っているんですの! そんな方々が一斉にいなくなったら、魔族を統率できなくなりますわ!」

「む……それは困るな……」


 フラミーの言葉に、王様が悩むような仕草をしだした。


「魔族の中には血気盛んな種族もいると聞く。その者らが自分勝手に動くとしたら……余らも不利益を被ることになりかねん」


 大魔王がいなくなって魔族の勢いがなくなったのに、一部の魔族によってまた国が脅かされかねないってことか。


 ゲームでは、たしか人間族と魔族は戦争をしている状態なんだったっけかな。

 魔族が世界を脅かしている、というような表現もたまにあるけど、実際は国同士の争いでしかない。


「だからといって……この者らを魔族の領土に返すというのもな……」


 王様は、おじいちゃんズの処遇を決めかねているようだ。


 相手は魔族の中枢を担う連中。

 逃がすには惜しい存在だろう。


 ……でも。


「連れてきた俺が言うのもなんだけど、逃がしてもいいんじゃないですか?」

「!?」


 俺が声を出したことで、王様の目が大きく見開かれた。


 そろそろ俺が喋るのにも慣れてほしいところなんだが。

 まあ、それは置いといて、今はおじいちゃんズについてだ。


「処刑にするのも奴隷にするのも、なんか後味悪いですし」

「ふ、ふむ……だが勇者よ。このままこの者らを逃がせば、またこの国に危害を加えにくるやもしれんのだぞ」


 そうだよね。

 ただ逃がすだけじゃ、仕返しに来ることもあるかもしれない。


「だったら、もういっそのこと平和条約でも結んだらいいんじゃないですか? 人間族と魔族で」

「!?」

「ば、馬鹿な……!」

「平和条約だと……!」


 俺の提案に、この場にいる全員が驚きの声を発した。


 そんな驚くようなことかな。

 別に、そこまで突拍子もない提案じゃないと思うんだけど。


「ゆ、勇者よ……それは……とても難しい道だ……我々はもう何百年といがみ合ってきたのだからな」


 王様が難しい顔をしながらそう言った。

 なので、対する俺もまた反論を述べる。


「でも、絶対に無理ってわけではないんでしょう? ちょうどよく、ここに魔族側の権力者さんたちが集まってるわけですし」

「ううむ……? 確かに、その点については一考の余地があるか……」


 拉致紛いな方法で連れてきちゃったおじいちゃんズだけど、ここで王様と和平に向けた会議をしてくれるなら、連れてきた甲斐(かい)もできるってもんだ。


 さて。

 本来ならありえなさそうなこの状況を上手く活用してくれないものだろうか。


「魔族側は大魔王という強力なカードを失っているんだから、話に乗っておいたほうがいいんじゃないですか?」

「ぐ……!」

「ま、まだ儂らは負けておらん!」

「いや、ここで負けてないとか言われても……」


 どうもみんな考えが固いな。

 わりと良い案だと思うのに。


「平和条約とまではいかずとも、休戦協定くらいのものでもいい。どうか、考えてはくれませんか?」

「……どうして貴様は、我らと平和の道を模索しようとするのだ?」

「貴様ら人間族にとって、儂らは敵だったはずじゃろう?」


 どうしてもなにも、俺、別に魔族に恨みとかないですし。

 みんな仲良くすればいいじゃんって思ってる人ですし。


 でも、強いて理由を挙げるとするならば……。



「俺は……ここにいるヌルシーやフラミーが堂々とこの町を歩けるようにしたいだけですよ」

「「「!」」」



 おじいちゃんズがヌルシーとフラミーのほうへ視線を向ける。


 ヌルシー。

 視線を横にずらすな。

 おじいちゃんズのほうを見てあげてよ。


「……ルシフェルの忘れ形見と、赤龍王の娘か」

「忘れ形見のほうは奴隷の身となったようじゃが、そういえば、赤龍王の娘はなぜここにおるのじゃ?」

「も、もしや、我々と(たもと)(わか)った赤龍王は、人間族と手を組んだのか……?」


 魔族のカテゴリーに入るヌルシーたち龍魔族は、大魔王である黒龍王派と、争いを好まない四龍王派の2つに分かれていると聞く。

 今の状況的に、四龍王の1人である赤龍王が人間族と内通しているかもしれないと思われても、まあしょうがないか。

 全然的外れなわけだけど。


「違いますの! 私はただ、ヌルシーがここにいると聞いて駆けつけただけですの!」

「その通りです。ラミちゃんは私のところへ真っ先に駆けつけてきてくれた親友なのです」

「ヌルシー……!」


 フラミーの熱い視線がヌルシーに注がれる。


「まあ、赤龍王の叔父さんが人間族と内通していたかまでは知りませんが」

「そこは否定しないんですの!?」


 いや、そこは否定してあげようよ!

 せっかくフラミーがヌルシーへの好感度をうなぎ登りに上げてたのに!


「……まあ、なんにせよじゃ。休戦協定を結ぶにしても、儂らだけで決めてよいものではない」

「我らは魔族衆の方向性を決める重要な役割を担っているが、我らの意見を魔族衆が受け入れるかは別の話である」

「だが……ルシフェルが亡くなった今、停戦しようとする流れがないこともない。検討はしても良いだろう」


 どうやら、おじいちゃんズは話し合いをする余地がまんざらないってわけでもないらしい。

 であれば、俺としては願ったり叶ったりだ。


「それに……次代の魔族のことを持ち出されては、儂らも頑なに休戦を否定できんしのう……」


 なるほど。

 休戦を考えてくれるようになったのは、俺がヌルシーたちの話を出したからか。

 特に計算したわけじゃなかったことだけど、言ってみるもんだな。


「もっとも、それはスタート国王が協定を結ぶことに積極的である場合に限るがな」


 そういえば、まだ王様のほうは首を縦に振ってはくれてなかった。


 というか、さっきから王様が声をあげてないな。

 俺たちの会話が終わるのを待ってるんだろうか。



「くぅ……勇者の発言は、未来を担う者たちのことを思ってのものだったか……!」



 ……なんか、王様が泣いてた。


 えっ。

 なんで泣いてんのよ。

 今の会話のどこに泣く要素があったってのよ。


「やはり勇者は真の勇者だ……! わかった、和平への道は困難を極めるだろうが……余が責任を持って諸外国と交渉し、協定を結ぶよう働きかけよう……!」


 でも、なんか俺の提案を100パーセント受け入れてくれてるみたいだ。

 それならそれで、別にいいか……。


 こうして人間族と魔族の共和への一歩が、この日初めて踏み出されたのだった。

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