第23話 魔族元老院、襲来!
VS魔族元老院編開幕!
勇者奥義の1つ、『ブレイブスラッシュ』。
剣による怒涛の十五連撃で敵を圧倒する、俺の一番好きな技だ。
その剣技は、昨日ドラゴン状態のフラミー相手に一度使った。
でも……今なにげなく身体能力に任せて放った攻撃のほうが、威力的が高かったような気がする。
言うまでもなく、ドラゴン状態のフラミーとアンデッドドラゴンとじゃ、後者のほうが強い。
多分、アンデッドドラゴン相手に『ブレイブスラッシュ』を放っても仕留めきれないだろう。
俺は地面に横たわったドラゴンに目を向ける。
……やっぱりもう動く気配はない。
「あ、あるぇー……?」
ど、どういうことかなー……?
最強剣技、力任せの一振りに負けちゃったぞー……?
「……使い方が悪かったのかなぁ?」
剣を眺めながら、大きく首を傾げる。
もしかしたら、フラミー相手に放った『ブレイブスラッシュ』の使い方に問題があったんじゃなかろうか。
そう考えないと、ちょっと納得できない結果だ。
「あ」
と、そこで大臣と目が合った。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!」
すると、大臣は地べたをはいずるようにして、少しでも俺から離れるようにもがきだした。
腰が抜けちゃったのかね。
まあ、たとえ走っても逃がすつもりはないけど。
「おい、アンタ。今のドラゴンはどうやってアンデッド化したんだ?」
「あばばばばばばばばばば…………」
俺は大臣に問いかける。
しかし、マトモな言葉は返ってこなかった。
……情報を引き出すのは、大臣が落ち着いてからにしよう。
というか、俺がやらなくても誰かしらがやってくれるか。
イーダあたりとかがさ。
――そう思った直後。
「ふぇっふぇっふぇっ……情けないのう……せっかく儂が力を貸してやったというのに……」
「!」
どこからともなく、しわがれた男の声が聞こえてきた。
「ここじゃよ……お主の上じゃ」
声につられて空に目を向ける。
そこには、青い肌の老人が宙に浮いていた。
この世界のおじいちゃんって、空を飛びたがるのかね。
どうせ飛ぶなら美少女にしてほしいんだけど。
魔法のステッキとかホウキを使う子ならよりグッドだ。
「お初にお目にかかる……スタート王国の勇者よ……儂は魔族元老院幹部のバイルと申す者じゃ」
バイルという魔族は、俺に挨拶をしてきた。
「その勇者の剣……それにあの冴えわたる剣技……ふぇっふぇっふぇっ……貴様が無言の勇者じゃな?」
どうやら、相手側は俺を勇者だと断定したようだ。
それじゃあ、どうしようか……。
ここで俺が喋ったら、また驚かせちゃうかもしれないし。
喋らないほうがいいかな?
「ルシフェルの躯をアンデッド化させたのは儂じゃよ」
「なに! お前がやったのか!」
「!?」
バイルの説明に、つい反応してしまった。
俺が喋ったことにより、バイルは驚いたというような表情をしている。
無言の勇者の話は、魔族の間でもちゃんと有名なのね。
「き、貴様! もしや、無言の勇者ではないな!?」
「あ、いや、俺が勇者で合ってます」
「嘘をつくな! 無言の勇者は喋らないことで有名なのじゃぞ! そんなことも知らんのか!」
「ええ!?」
めんどくさいな!?
また勘違いされちゃってるよ!?
「くっ……まあいい……貴様! 無言の勇者に伝えておけ! 今回の騒動は、儂ら魔族元老院と勇者の戦いの序章に過ぎんとな!」
「!」
魔族元老院は俺と争うつもりなのか!
というか、本人を目の前にして『伝えておけ』とか、ちょっとひどいぞ!
「ふぇっふぇっふぇっふぇっ! せいぜい怯えながら束の間の平和を甘受するがいい! 『ワー――」
「!」
その刹那。
バイルが魔法を唱えようとしているのを見た。
「――プ』」
だから俺は――。
「…………ふぇっふぇっふぇっ……まさか、ルシフェルの躯で作り上げたアンデッドドラゴンが一撃でやられるとはのう」
薄暗い空間で、バイルが力なく笑う。
「儂らは勇者を舐めていたのかもしれん……早急に戦力の増強を図らねば……」
そうしつつも、これからの戦いに備えて、そのようなことを呟く。
「おお……帰ってきたか、バイル殿よ」
「早かったではないか。なにかあったのか?」
そんなバイルに、部屋の奥から声をかけてくる者たちがいた。
「……スタート国には、無言の勇者以外にも厄介な敵が潜んでいるようじゃ。儂ら元老院の力だけでは厳しいかもしれん」
「なに!? それは本当か!?」
「バイル殿にそこまで言わせるとは……侮りがたし!」
奥にいた者たちは、バイルと同様に魔族の老人だった。
そして、そこに集う老人たちは、揃って悩むような仕草をしている。
「…………ん? バイル殿。後ろに誰か連れてきておるのか?」
「ふぇ?」
バイルが俺のほうを向いた。
「あ、どうも、勇者です」
「ぬあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!?」
俺を見た瞬間、バイルはいきなり奇声を発して、ドタドタと音を立てながら老人集団のほうへと駆け寄った。
「き、貴様! どうしてこんなところにいるのじゃ!」
「どうしてって、『ワープ』を使いそうだったから、一緒についてきたんだけど?」
「な……なん……じゃと……?」
いやー。
多分、ギリギリセーフだったよー。
『ワープ』って言い切る前にバイルのすぐ近くまでジャンプしてみたら、上手くついてこられた。
これも勇者のズバ抜けた身体能力があってこそだねっ!
「何者だ貴様は! ここが魔族元老院本部と知っての狼藉か!」
「魔族でない者が生きてここを出られると思うな!」
元老院のおじいちゃんズは、俺がここにいることに、たいそうお怒りのご様子だ。
みんな歳なんだから、あんま怒らないほうがいいと思うんだけどなぁ。
「えーと……俺、巷では無言の勇者って呼ばれている者です。無駄な殺生とかはあんまり好みませんので、皆さんには投降をお勧めします」
とりあえず俺は、おじいちゃんズに降参してもらうようお願いしてみた。
「な、なにぃ!? 無言の勇者だとぉ!?」
「馬鹿な! 無言の勇者が喋るわけがない!」
「あの者は偽物だ! 自らの身を偽って、我らに投降しろなどとぬかすとは……この命知らずめ!」
やっぱり誰も俺のことを勇者だと認めてくれなかった。
まあ……いいんだけどさ。
俺も勇者だって自覚なんてないんだし。
「死ぬがいい! 無言の勇者を騙る愚か者よ!」
「己の無知蒙昧さを恥じながら、あの世へ旅立つがいい!」
「我ら魔族元老院幹部衆が、貴様を排除――」
「勇者奥義! 『ブレイブフレアー』!!!」
「「「!?!?!?」」」
俺は天井に向かって手を伸ばし、究極攻撃魔法、『ブレイブフレアー』を発動させた。
その瞬間、俺の手のひらから赤い極太の光線が発射され、物凄い破壊音を響かせながら天井に大穴を開けた。
「な…………我々は辺境の土地の地下深くにいるはずなのに…………」
「どうして……空が見えるのだ……」
「おかしい……おかしすぎるぞ……」
見上げると、そこにはどこまでも続く透き通るような青い空があった。
これが『ブレイブフレアー』の威力か。
ゲームじゃないほうを使ったのは初めてだけど、上手くいった。
でも、あんまり使わないほうがいいな。
予想外の破壊力に、俺もちょっとビックリした。
一撃の重さでいったら、『ブレイブスラッシュ』より強力な技だし、使いどころには気をつけよう。
「さて……それじゃあ、さっきの続き……やる?」
俺は『ブレイブフレアー』の威力に内心でドン引きしつつも、おじいちゃんズに訊ねた。
「「「…………降参します」」」
すると、おじいちゃんズは今度こそ、俺の言葉に耳を傾けてくれたのだった。
VS魔族元老院編閉幕!




