第22話 VSアンデッドドラゴン!
城のほうでドラゴンが現れた。
それを聞いた俺たちは、急いで現場へと駆けつけた。
「おー……マジかー……」
城の前には、確かにバカデカいドラゴンがいて、周囲の建物を壊していた。
まるで怪獣映画だな。
しかも、なんかドラゴンの体から黒い液体が出てて、ちょっとグロイ。
さっきドラゴンの情報を持ってきた男も『腐った』と表現していたけど、こういうことか。
なんて考えてる場合じゃないか。
見たカンジ、負傷者っぽいのは出てないっぽい。
けど、早くなんとかしないとヤバいでしょ、これ。
「……ん? あれは……」
と、そこで俺は、ドラゴンのすぐ傍に人が立っていることに気づいた。
あれ……俺たちに毒を盛ろうとした大臣じゃん。
どうしてあんなとこにいるのよ。
「フハハハハ! 私の思い通りにならない国など滅びてしまうがいい!」
うわー。
なんか、凄い悪役っぽいセリフ吐いてらっしゃるー。
あのドラゴンが暴れてる元凶って、もしかしてあの大臣なの?
いったいどういう流れでそうなった。
「…………っ! こ、このドラゴンは…………っ!」
「ま、まさか……!」
俺が大臣に訝しむような視線を向けていると、隣にいたヌルシーとフラミーが声をあげた。
「? どうした、ヌルシー」
「……あのドラゴンは、私のパパの躯を魔法でアンデッド化させたものです」
「えっ」
それって、つまり……。
あれ、大魔王って呼ばれてたドラゴン?
おいおい。
もしそれが本当なら、本格的にマズイんじゃないの?
だって、大魔王といったら、この世界では最強クラスの実力者だったんでしょ?
「だったら、なおのこと早く止めないと――」
「おおっ! アルト殿! ここにおったか!」
「!」
と、そのとき。
イーダが突如、空から舞い降りてきた。
空飛ぶおじいちゃんって。
なんともファンタジーな光景だ。
メルヘンとは遠いカンジだけど。
今のでちょっとドラゴンに対する驚きが薄れちゃったぞ。
「イーダ、ちょうどよかった。あのドラゴンはいったいなんなんですか」
「む……そ、それは……」
「私のパパの……ルシフェル・ドラゴネスの躯ですよね?」
「……そうじゃ。あれは、王宮の騎士が魔王城から運んできた……正真正銘、大魔王の躯じゃよ」
なんてこったい。
倒したはずの大魔王が、アンデッドと化して町を襲うだなんて。
「ヌルシー……」
それに、父親をアンデッド化されたこの子の心情は、どのようなものか。
俺にはとても想像できない。
「これからクレアたちや王宮の騎士がドラゴンに一斉攻撃を仕掛ける予定じゃ。わしらも加勢するぞい」
「あ、ああ、了解」
ひとまず、あのドラゴンをなんとかしてからだ。
じゃないと、町がどんどん壊されてしまう。
「流石に生きている状態よりは弱体化しているはずですけれど、それでもとんでもない強さのはずですわ……」
フラミーの言葉が真実であるなら、あれに対抗できるのは俺やイーダたちくらいのものだろう。
一刻も早く対処しないと――。
「……私が戦うのです」
「ぬ、ヌルシー?」
俺たちがクレアたちと合流しようとしていたところで、ヌルシーが呟き声を発した。
「あれはもうパパではありませんが、パパの躯をあんなふうにされて、黙ってはいられないのです」
「……そっか」
やっぱり、ヌルシーにとって大魔王はお父さんなんだな。
こうして怒れるということは、つまりはそういうことなんだ。
……だったら。
「ヌルシーはここで見ていてくれないか?」
「え?」
俺はヌルシーに向けて宣言する。
「あのドラゴンは、俺が倒すよ」
実際のところ、ヌルシーがあのドラゴンと戦えるほど強いのか疑問だった。
多分、龍化すれば相当強くなると思うのだが、相手は腐っても元大魔王だしな。
でも。
たとえ亡骸であったとしてもだ。
娘がそれと戦うだなんてことは、あっちゃいけないでしょ。
「許してくれるかな? ヌルシー」
だから、俺はヌルシーに戦うことへの許しを請う。
その代わり、大魔王の躯はできるだけ速やかに葬ろう。
俺は、そんな意志を瞳に宿して、ヌルシーをジッと見つめる。
「…………ふぅ、しょうがないですね。今回はお兄ちゃんの顔を立ててあげることにします」
すると、ヌルシーはため息を零しつつ、俺にそう言った。
わかってくれたようだ。
なら……俺も今の自分にできる最大限の力を行使して、あのドラゴンを倒そう。
「ありがとう、ヌルシー……じゃあ、行ってくる!」
「! あ、アルト殿!? 1人でどうするつもりじゃ!」
こうして俺は、後ろから呼び止めるイーダの声を無視し、町で暴れているドラゴンに向かって走り出した。
「フハハハハ! 壊せ壊せぇ! これが地上最強と謳われた大魔王の力だ!」
大臣が愉快そうに笑っている。
なんともまあ、見事な悪党だこと。
というか、大臣はどうやって大魔王の亡骸をアンデッド化させたのかね。
そういうのって、案外簡単にできるものなの?
「……む? そこにいるのは勇者か!」
駆けつけた俺に気づいたようで、大臣が嫌そうな顔をしだした。
「早速で悪いんだけど、そのドラゴン、討伐させてもらうよ」
「っ! そ、そうやって私を脅そうとしても無駄だぞ! 勇者!」
脅してませんって。
だから喋っただけでそんな驚かないでください。
「た、たとえ勇者であろうと、私のアンデッドドラゴンに勝つことなど不可能だ!」
「? どういうことだ」
「この大魔王は、アンデッド化したことによって、より強くなったということだ!」
「…………」
さっきフラミーが言ってたことと違う……。
どっちが本当なんだよぅ。
俺をあんまり惑わせないでくれよぅ。
あっ。
そうだ。
こういうときこそ『サーチ』だよね。
あんまり役に立ちそうにない『サーチ』さんだけど、今回はちゃんと役に立つよね。
というわけで、俺はドラゴンに『サーチ』をかけてみた。
…………。
「ククッ……どうした? 勇者ともあろう男が、今さら怖気づいたか?」
「……まあ、戦ってみれば、ハッキリわかるか」
俺は勇者の剣を鞘から引き抜き、ドラゴンのほうを向いて低く構える。
「やれ! アンデッドドラゴン! 貴様自身の仇を葬り去――」
――俺はドラゴンの首元をかすめるようにして飛んだ。
「ごめん、手加減できなかった」
直後。
ドラゴンの首が、ズルリと地面に落ちる。
同時に、胴体のほうも糸が切れたようにズシィンと倒れ込んだ。
「………………へ?」
大臣がマヌケな声を発する。
そして、動かなくなったドラゴンを見て、大きく口を開いた。
「なっなっなっ………………なんだこりゃああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
どうやら、この結果は予想外であったようだな。
でも、俺にとっては至極当たり前の結果だ。
全盛期の大魔王の強さがどれほどのものかは、よくわからない。
が、このドラゴンの強さは、だいたいクレアたちと同じくらいのものだった。
『サーチ』の性能はあんまり信用できないと思ってたけど、今回は数値通りの結果が出てくれたな。
アンデッド化して弱体化するというフラミーの言葉は、多分当たっている。
大魔王の強さがクレアクラスだとは、ちょっと考えづらいからな。
どこ情報なのかは知らないが、大臣のほうが間違っていたってわけだ。
大魔王は弱体化していた。
だから、一撃で倒すこともできた。
それに……。
「この戦いを見ている女の子がいるんでね。カッコ悪いところは見せられなかった」
俺が全力を出しきれたのは、ヌルシーの存在が大きいだろう。
彼女に父親の哀れな姿を見せ続けるわけにはいかない。
そう思ったからこそ、俺はこれほどの力を発揮できたんだ。
「さて……それじゃあ……」
こうして俺は、大臣に剣の切っ先を向ける。
「これで俺の勝ちだと思うけど……まだやる?」
「ひっ……ひゃあああああううああああああああああぁぁぁぁぁ!?!?!?」
すると、大臣は失禁しながらその場に倒れ込んだ。
戦意喪失かな。
流石に失禁するとは思ってなかったけど、これで一件落着か。
「…………はっ!?」
――そう思った直後、俺はそこで重大なことに気づいた。
な、なんてことだ……。
まさか……そんなことが……?
いや……待て……?
俺はなにか見落としをしているんじゃないか……?
しかし……特になにか理由があるとも思えない……。
だとしたら……俺は……。
「俺………………『ブレイブスラッシュ』使わないほうが強いじゃん……」
その驚愕の事実を知った俺は……その場で膝をつき、地面に両手をついたのだった。
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