第21話 金貨の価値
よくわからないけど、なんか勝手に対戦相手が棄権してくれた。
チンピラの男がポーカーでフルボッコされたって聞いてたから、どれだけ凄い相手なのかと思っていたのに。
まあ、負けを認めてくれるなら、それはそれで楽だからいいかな。
なーんかイカサマみたいなのもしてて、どうしたもんかと悩んでたとこだし。
ポーカーで戦った相手は、どういうわけか、手札がちょこちょこ変わっていた。
俺はその様子を――肉眼で捉えていた。
勇者の目は凄いもんだ。
もともと視力は良かったほうだったけど、今では相手の瞳に映るカードの種類まで見分けることができるんだから。
どんだけチートなのってカンジだよ、まったく。
「うおおおおおぉぉぉ!!! 勇者のダンナが勝ったぞおおおおおおぉぉぉ!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
俺たちの勝負を見ていた観客が騒ぎ出した。
みんなポーカーで負けた連中だと思うのに、ずいぶん楽しそうだな。
この大会は、そういうお祭り気分の行事だったのかね。
「さあ! これで勇者のダンナが優勝かぁ!? 誰か挑戦者はいるかぁ!」
なぜかチンピラが仕切り始め、観客に問いかけている。
「…………いねえようだなぁ! ということは……このポーカー大会は勇者のダンナの優勝で決まりだああああああああああぁぁぁ!!!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
再び、観客連中が湧きあがった。
えっ。
俺、優勝なの?
1回しか戦ってないのに?
「おめでとうございます! 勇者様! こちら、優勝賞金の金貨300枚となります!」
「…………」
酒場の店員さんらしき人が、俺に大きな小切手らしきものを手渡してきた。
ちょっと今『どうも』と相槌を打ちそうになったけど、俺はそれをなんとか堪えた。
なんたって俺は、『無言の勇者』として知られてるわけだからな。
モンスター牧場での一件だったり、これまでのアレコレだったりで、俺は不用意に喋らないほうがいいとわかった。
喋ると、周りを無駄に驚かせてしまう。
こんな大観衆の前では特に気をつけないとだ。
にしても、賞金は300ゴールドか。
今の対戦相手から貰った金額のほうが圧倒的に多いな。
どちらにせよ、はした金すぎる。
あぶく銭と言ってもいいし、どうしたもんかね。
「『この金で観客に酒でも奢って』」
そう思った俺は、さっきの対戦相手から貰った分を含めた全額を店員のお姉さんに渡しながら、魔法文字でそう伝えた。
ここで手に入れた金なんだから、ここで使うのもまた良しだろう。
どうせ、大した額じゃないんだし――。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉ!!! 流石勇者のダンナだぜええええええええええええぇぇ!」
「みんな! 今日は好きなだけ飲めるぞ!」
「いや、あれは好きなだけ飲めるとかいう次元の額じゃねえだろ!?」
「どんだけ太っ腹なんだよ! 勇者様よぉ!」
……あれ?
なんか、物凄く盛り上がってない?
まあ……確かに金貨1000枚以上あれば、100万円以上にはなると思うけど……。
「いいなぁ……あれだけありゃあ、この店を買い取ったって釣りがくるぜ……」
俺の耳に、どこからともなくそんな声が聞こえてきた。
マジで?
確か1ゴールドって、ゲームをやってるときは安物のポーションの最低価格くらいだったと思うんだけど……。
それに、この店のお菓子は1ゴールドしたはず……。
ポーションとかお菓子が1000個くらいあると、お店が1つ手に入っちゃうの?
よくわからなくなってきた……。
……もしかして、1ゴールドって1万円くらいの価値があるのかな?
それで、ポーションもお菓子も高級品という扱いだったりして。
「……フラミー。普通の飲食店で使うお金って、1食でどれくらいになる?」
俺は周囲に聞こえない小声で、フラミーに訊ねた。
少しくらい喋っても、この喧騒の中では目立つまい。
「? 一般的に言えば、だいたい銀貨5枚から10枚ってとこですわよ?」
「……銀貨って、金貨1枚と比較すると何枚になる?」
「金貨1枚は銀貨100枚ですわよ。突然なにを訊いてますの?」
おぉぅ……。
つまり、俺の予想は大体当たってたっぽいな。
銀貨は1枚で100円くらいだとすると、この世界の外食は1食当たり500円から1000円くらい。
そして、銀貨100枚で金貨1枚の価値だとすると、金貨は1枚1万円って計算になる。
俺が知らなかっただけで、ポーションとかは高い商品だったんだ。
なんていうか、金銭感覚がマヒしてくるぞ……。
「パフェが金貨1枚か……わりと贅沢品だったんだな……」
「? なんでパフェがそんな高いんですの?」
「……ん? いや、この店のパフェがそれくらいするんだってさ」
「そんなわけありませんわよ。ほら、店のメニュー表にも、銀貨10枚だって」
「…………」
俺はチンピラのほうをジト目で見た。
「おっしゃあああああああぁぁぁぁ! 今日は吐くまで飲んでやるぜええええぇぇぇ…………って、なんか俺に用ですかい? 勇者のダンナ?」
「……アンタ、昨日パフェの値段、高めに言っただろ?」
「…………」
……チンピラは勢いよく店から飛び出していった。
今度会ったら足をロープで縛って町中を引きずり回してやる。
というか、俺が勇者だってわかってるはずなのに、ずいぶんと大胆なちょろまかしをしたもんだな……。
今回も勝手に俺をポーカー勝負に引き込んできたし、大物なのか小物なのか、よくわからない奴だ。
「ところで、そのパフェは今日も食べられるんです?」
俺がため息をついていると、ヌルシーが訊ねてきた。
「そりゃあもちろん。好きなだけ食べてけ」
「やったっ。ありがとう、お兄ちゃん」
「!」
ヌルシーが嬉しそうに笑顔を向けてきた。
うん。
なんていうか、生きてるって素晴らしいっ!
俺は、彼女のこの笑顔を見るために生まれてきたんじゃないだろうかっ!
「ヌルシーは相変わらず甘い物が好きなんですのね……」
「それは否定しませんが、このお店のパフェが絶品であるという点も無視できないのです」
「ああ……そうですのね……」
「まあまあ、フラミーにも奢ってあげるから」
「む……ま、まあ、殿方が奢ると言っているのですから、淑女としてはそれを無下になどしませんことよ?」
フラミーも甘い物には興味があるようだ。
12、13くらいの年頃の子なら、お菓子が好きでも不思議ではあるまいて。
ジャンジャン食べなさいっ!
「……というより、アルトさんは人前でなるべく喋らないんじゃありませんでしたの?」
「おっと……」
喋りすぎてたな。
一応、喋ってるとこを見られないよう、口元に手を置いてたけど、これ以上は話さないほうがいいだろう。
「勇者様! 本日は当店のご利用、誠にありがとうございます!」
「みんな! 無言の勇者様に感謝しながら酒を飲むんだぞ!」
店員さんや観客が、俺に向かって感謝している。
『どういたしまして。』
そんな返しもできないっていうのは、ちょっともどかしいね。
無言の勇者っていうのも結構不便だ。
まあいいや。
今日はみんな、お祭り気分を楽しんでいってもらおう。
それを眺めるだけでも、俺は楽しいからね。
「た、大変だー!」
……と思っていたところに、店の外から慌てて大声を出す男がやって来た。
なんだ。
またなにかあったのか?
昨日はドラゴンが攻めてきたとかで、町が騒いでたけど――。
「城に腐ったドラゴンが現れたぞー!」
――この町を騒がせたのは、またしてもドラゴンだった。
次回
VSドラゴン再び?




