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第17話 悩み多き賢者様

5月8日投稿1回目。

 俺はイーナの無慈悲な暴力から生還し、いつの間にか起きていたヌルシーたちと一緒に、食事が用意された部屋へと移動した。

 そして、今回も念のため料理に毒が盛られてないか確認してから、みんなで朝食をいただいた。


 朝は軽い物が中心で、パンや野菜サラダ、高そうなフルーツ類などが皿の上に置かれていた。

 健康そうな食事で大変よろしい。


 個人的には、もっとお肉とかがデデンと置かれてても良かったけどね。

 だって男の子だし?

 まだまだ食べ盛りだし?

 でも、俺以外は全員女の子というこの食卓では、お肉はあんまり好まれないのだろう。


「私としては、昨日のお肉を朝食にも所望したいですね」


 と思ってたけど、どうやらヌルシーは俺と同意見だったようだ。


 肉食な子ね、ヌルシーちゃんは。

 育ちざかりなわけだから、それも大変よろしい。

 あとでお肉を食べさせてあげよう。


「ヌルシー、私たちが余所者だってことを忘れちゃだめですわよ。贅沢言っちゃ駄目ですの」


 フラミーがヌルシーを叱っている。


 良い子ね、フラミーちゃんは。

 子どもなのに礼節をわきまえていて、それもまた大変よろしい。

 さっきは『私の髪にバナナを入れた馬鹿はどこのどいつですの!?』とか怒ってたけど、あとで甘いオヤツでも食べさせてあげよう。


「そういえば、イーダは結局来なかったな」

「……そうだな」

「まだ自室にいるのかしら?」


 俺、ヌルシー、フラミー、イーナ、クレアの5人は食事の場に集まったが、イーダだけは姿を現さなかった。


 昨日のことでごたついてるのかな。

 イーナ曰く、イーダにはここへ来る前に一度声をかけたそうだけど。


「じゃあ、またおじいちゃんの部屋に行ってみるわ」

「俺も行く」

「アルトも? まあ、別にいいけど……」


 さっきのことを引きずってるのか、イーナが俺を見る視線は嫌そうな感じだ。

 そんなイライラしてたらお肌に悪いぞっ。


「さあ、行きましょうかイーラさん。あ、違った、イーナさん」

「なんで今、私の名前言い間違えたの」


 他意はない。

 そんなこと気にしてたらお肌に悪いぞっ。


「調子に乗るなよ」

「あ、はい。すんません」


 割とガチめで低い声を出したイーナさんについていき、俺はイーダの部屋へと向かった。






「ここがおじいちゃんの部屋よ」


 イーナにつれられて、俺は頑丈そうな扉の前までやってきた。


 俺たちが今日寝泊まりした部屋の扉は木製だったのに対し、イーダの部屋の扉は金属製だった。

 こりゃあ、開けるのにも一苦労しそうだなぁ。


「なんで扉が金属製なの?」

「もしも爆発とかしても被害を最小限に食い止めるためよ。魔法の実験も、この部屋でするから」

「なるほどね」


 爆発とかしちゃうんだったら、部屋と扉は固いほうがいいよね。

 そもそも、宮廷内でそんな危なっかしいことをしてもいいのかってツッコミを入れたくなっちゃうけど。

 問題ないのは、イーダに対して国が信頼しているからなのかねぇ。


 でもこれ、どうやって開ければいいのよ。

 ドアノブに結構力を込めないと開かなそうだけど……。


「あ」


 そう思いながら俺がドアノブを引っ張ると……金属製の扉はいとも簡単に『バキン!』と外れてしまった。


「ちょっ!? なに壊してんのよ!」

「わ、わざとじゃないって!」


 やべっ。

 力の加減間違えた。


 そうだよ。

 普通の感覚で力を込めちゃ駄目なんだった。

 今の俺の体は無駄にハイスペックなんだから、もっと優しく触れるべきだった。


「……って」

「あ、アルト殿……?」


 と、そこで俺は、部屋の中にいたイーダと目が合った。



 ……イーダは頭にカツラを付けてる最中だった。



「…………」


 俺は無言のまま扉を元の場所に戻した。


 見てない。

 なにも見てないよ。

 イーダがなんか白い物体を頭に被せようとしてたような気がするけど、それは気のせいだよ。


「待つのじゃ」

「うおぅ!?」


 扉を蹴り破って、イーダが俺たちの前に姿を現した。


 ……今はちゃんと乗っかってるな。

 いや、なにが乗っかってるのかは、あえて言うまいが。

 無表情ではあるものの、いつも通りのイーダさんだ。


「アルト殿」

「なんです」

「見たな?」

「見てないですよ」

「誤魔化さなくともよいぞ」

「誤魔化してないですよ」

「ワシ、怒っとらんから、素直に言うてみい」

「いや、めっちゃ怒ってるじゃん!」


 なんだよ!

 目が据わってるよ!

 これ、めっちゃ怒ってる人の顔だよ!


「おじいちゃん……いい加減年なんだから、ハゲを気にするのやめたら?」

「だ、誰がハゲじゃ! わしはまだハゲとらんぞ!」


 うわぁ……。

 イーダ……ハゲてるの気にしてたのか……。


 年齢的に、そういうのはもうしょうがないだろうに。

 とはいっても、諦めきれないのが男心ってやつなのか。

 俺も、いずれはわかるようになるのかねぇ……。

 あんまわかりたくないことだけど……。


「頼むぅ! アルト殿ぉ! このことは内密に! どうか内密にいいいぃぃぃ!」

「だ、黙ってるから、(すが)りつくのはマジやめて!?」


 なんだこのおじいちゃんは!?

 そんなに自分がハゲてることを隠したいのか!?


「本当じゃな? 男に二言はないな?」

「ホントホント…………はぁ……」


 朝っぱらから疲れるなぁ……。

 イーダはもうちょっと頼れるようなおじいちゃんだと思ってたんだけど……。


「なんか、イーダのイメージ崩れちゃったなぁ……」

「イメージ云々はアンタが言えることじゃないと思うわよ」


 イーナに突っ込まれてしまった。


 なんだよ。

 また『俺が喋ると印象がー』ってやつか。


「俺、喋るとそんなにイメージ崩れる?」

「とんでもなく崩れるわよ」

「どんなカンジによ? そもそも、俺ってイーナからどんなふうに見られてたの」

「え? そりゃあ、前までは無口でクールでカッコ…………」

「カッコ?」

「……なんでもないわよ」


 イーナがプイッと横を向いた。


 なんだこの反応は。

 髪とかいじっちゃったりなんかして、変な子だなぁ。


「そっかぁ……なんでもないかぁ。てっきり俺は、イーナが俺のことをカッコイイって言おうとしたのかと思ったよ!」

「かっ……んなわけないでしょうがぁ!」

「ヤァッフゥゥッ!」


 突如怒りだしたイーナの鉄拳制裁から逃げる。

 二度目ともなれば、もう慣れたものだ。


 そう思いつつ、俺はイーダに声をかける。


「まあ、そんなわけでイーダも早く朝ごはん食べたほうがいいですよ!」

「む……そうじゃな。では、そろそろワシも行くとするかのう」


 そうしてイーダは部屋から出て、俺たちが朝食を取った部屋があるほうへと歩いていく。


 ……あ。

 ヅラが微妙にずれてる。


「……な、なあ、イーナ」

「く……はぁ……はぁ…………なによ?」

「あれ、指摘したほうがいいのかな?」

「え? あー……」


 全力で回避運動を取る俺を殴れずにいたイーナは、イーダの頭部に視線を注ぎながら息を整えた。


「別にいいんじゃない? 多分誰も指摘しないと思うし」

「ありゃ、そうなの?」

「そうよ」


 ふーん?

 まあ、イーナがそう言うなら……って。


 イーダの進行方向から、ちょうどよく通行人がやってきた。

 城内の警備している兵士さんだ。


「ん? おお、イーダ様。今日も良い朝…………」

「ふむ、どうかしたかのう?」

「い、いえ……なんでも……」

「?」


 通行人はイーダを横切り、そそくさと俺たちのほうへと歩いてきた。


「ほらね。おじいちゃんの頭髪事情は、この王宮ではタブーになってるのよ」

「へえ……」


 どう反応していいかわからないな。

 カツラに気づいても知らないフリをするというのは、一種の優しさと取るべきか。

 あるいは、残酷な仕打ちと取るべきか……。


「イーナ様……私は、イーダ様のアレを見て見ぬフリをすることに罪悪感を覚えます……」

「我慢して。見た目はおじいちゃんだけど、暴れられでもしたら結構シャレにならないから」


 通行人が俺たちの傍に寄ってきて、イーナと話し込んでいる。


 なんか、イーダが災害みたいに扱われてる……。

 カツラを指摘しただけで暴れられるかもしれないというイーダもイーダなわけだが……ちょっと不憫だ。


 そんなこんなで、俺たちはイーダを連れて、ヌルシーたちがいる食事をする部屋へと戻った。


「そういえば、ヌルシーたちはイーダのアレのこと知らないと思うけど、大丈夫なのかな?」

「あ」


 部屋に戻って早々、フラミーがズレたカツラを指摘したことでイーダが自爆魔法をぶっ放そうとしたものの、それ以外は特に問題のない朝だった。


 さて、今日はどんなことが起こるかなぁ。

次回

モンスター牧場

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