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第11話 シスタードラゴネス

 よくわからないけど、王女様に頭を下げられてしまった。

 そんなことされても、あんまり嬉しくないんだけどないなぁ。

 どうせ美少女にされるなら、ニッコリと微笑みかけてくれたほうが嬉しい。


 そんなことを思いながら、俺はヌルシーとフラミーを連れて城へと戻ってきた。


「勇者殿! 町でドラゴンを討伐したという話は真か!?」


 すると、すぐさまイーダが俺のところへと駆けつけてきた。


 情報が回るの早いなー。

 でも、その情報にも一部間違いがあるぞ。


「討伐まではしてない。この子が、そのドラゴンだった子だ」


 慌てふためくイーダに向けて、フラミーを前に出す。


「お会いできて光栄ですわ、『スタートの賢人』様。私は『赤龍王』フェルドの娘、フラミー・ドラゴネスと申しますの」

「……ほほぅ、赤龍王の娘とな。それにワシのことも知っておるようじゃのう?」

「あなたの名は『無言の勇者』とともに、暗黒大陸でも広く轟いておりますわ」

「ふむ、そうじゃったか」


 赤龍王といえば、大魔王である黒龍王ルシフェルとは犬猿の中にいたキャラだったな。

 龍魔族を纏めている四龍王の1人で、魔王城に張られた結界を解くために必要な宝玉を勇者に渡すっていう重要なポジションにいたから、よく覚えてる。


 でも、黒龍王の娘と赤龍王の娘は友達なのか。

 それは知らなかったな。

 娘がいたこと事態も、今日が初耳なんだけど。


「では、ここにドラゴンの姿で来たのは、町を襲うためかのう?」

「そんなこと、するわけありませんわ。ただ単に、ここに到達する直前で転送費が尽きてしまったから、自力で来るしかなかったというだけですの」


 なに?

 転送費?

 それって『ワープ』かなにかを使って人を輸送しているってこと?


「ふむ、魔大陸からでは、相当高くついたのではないかの?」

「ええ……それはもう……今まで溜めていたお小遣いが全部なくなってしまいましたわー……」


 フラミーの表情がブルーになって、ため息をついている。

 なんだかよくわからないけど、それなりに高額な移動手段で来たらしい。


「しかし、なぜお主はこの国へとやってきたのじゃ? 赤龍王と人間族は敵対関係になどなっとらんはずなんじゃが」

「ヌルシーが心配だったからですの。いくらお父様が黒龍王を快く思わなくとも、私にとってヌルシーは大事なお友達ですわ」

「ほう。ヌルシーといえば、黒龍王の……」


 そこで、フラミーとイーダの目がヌルシーのほうに向く。

 するとヌルシーは、特に表情も変えず俺のほうを見る。


 いやいや。

 俺のほうを向いてどうするんですか。

 フラミーとイーダもこっち向かないでください。


「……んで、フラミーはヌルシーに会って、どうするつもりだったんだ?」

「大魔王の娘ともなれば、我らも滅多なことでは引き渡せんぞ」

「そ、それは……来てから考えようと思っていたことですわー!」


 ようするに、考えなしだったということか。


 まあ、まだ大魔王倒してから1日も経っていないからな。

 あんま責めないであげよう。


「でも、いざ来てみれば、ヌルシーは奴隷扱いされているじゃありませんの!」


 と、そこでフラミーは俺をキッと睨みつけてきた。


 その視線はゾクゾクするから止めてくれ。

 変な趣味が開花しそうだ。


「というか、あなたはなんなんですの! さっきの強さから考えても『無言の勇者』としか思えないのに、なんで普通に喋ってるんですのー!」

「なんでって言われてもなあ……」


 それは、今までこの世界にいたという俺が自分の意思を持っていなかったからじゃないか?

 別に、俺自身は無口って訳でもないし。


「それに、ヌルシーを奴隷にしているというのはどういうことですの! 勇者が聞いて呆れますわー!」

「えー、そんなことを言われても困りますの。俺はただ、ヌルシーが処刑されそうになってたから保護しただけですわー」

「だから、人の口調を真似しないでくれませんこと!? ぶん殴られたいんですのー!?」


 ぶん殴る、か。


 うん。


 悪くないな。


「なんでそこでニヤケ面するんですの!?」

「おっと。失礼」


 いかんいかん。

 これ以上変な目で見られたら『キモいので死んでほしいですの』とか言われかねないですわー。


「今ちょっとフラミーに殴られるのなら悪くないなとか思ったけど、俺は変態じゃないから、そんなことで喜んだりなんて全然しないよ」

「変態ですの!! そんな発想が出る時点で、もう完璧な変態ですのー!!」


 俺の言い訳を聞いたフラミーは、顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。

 そんなに俺を変態扱いしたいのか。

 まあ、変態だと思うけど。


 でも俺は、妹属性萌えとかくらいのもので、そこまで大したものじゃないし。

 変態という名の紳士的なものだし。


「ほっほっほ。なんじゃ、寡黙であった勇者殿も、実は男だったということかの」 


 イーダは俺の発言に一定の理解を示している様子だ。

 このおじいちゃんも、昔はハッスルしてたんだろうな。

 今度ゆっくり語り合おう。


「とにかく! ヌルシーを解放してほしいですの! ドラゴネスの者が奴隷だなんて、私は許しませんわー!」

「そんなこと言われてもなぁ」


 ヌルシーが大魔王の娘である以上、この国では自由にさせちゃあマズイみたいだし。

 困ったなぁ。


「ラミちゃん。私は平気」

「ヌルシー!」


 俺が頭を悩ませていると、ヌルシーの助け舟がやってきた。

 どうやらヌルシーは、俺の奴隷ということで特に問題はないようだ。


「アルトさんは悪い人じゃないです」

「……本当ですの?」


 フラミーは俺をジト目で見つめてきた。


 その目はなんだ。

 清廉潔白な勇者を疑っているのか。

 俺はまだ前科持ちじゃないぞ。


「信用できませんわ。色々と発言が怪しすぎるんですの」


 どうやら、フラミーは俺を完全に不審者として見ているようだ。


 ちょっとおふざけが過ぎたかな。

 俺なりのコミュニケーションだったんだけど。


「けれど……ヌルシーがそこまで言うのなら、今の状況を条件付きで認めてあげてもいいですわよ」


 と思ったら、フラミーは条件付きということで、俺とヌルシーの関係を認めてくれた。


「条件ってなんだ?」

「ヌルシーになにか不埒な真似をしないか、私があなたを監視しますの。それで手を打ちますわ」


 ほう。

 つまり、俺とフラミーは監視しあう仲になるということか。


 うん。


 悪くないな。


「だから、なんでそこでニヤケ面するんですの!?」

「おっと。失礼」


 美少女に監視されながら美少女を監視する。

 そんな幸せな図を思い描いていたら、つい顔が緩んでしまったようだ。

 反省反省。


「本当に、あなたは勇者なんですの……? なんだか凄い違和感がありますわ……」

「まあ、一応勇者です」


 とは言ったものの、あんまり勇者という自覚は無いんだけどね。


「ふん……けれど、私がここに来た以上、あなたに好き勝手させませんの! ヌルシーは私が守りますわ!」


 失礼な子だな。

 俺が奴隷とご主人様という関係を利用して、ヌルシーにいかがわしいことをするとでも思っているのか!

 彼女と一緒にお風呂入ったり添い寝したりお兄ちゃんと呼ばせたりするとでも思っているのか!


 あ、でもお兄ちゃんとは呼ばせたいな。


「わかった。ただし、それなら俺のほうからも条件をつけさせてもらおう」

「な、なんですの……?」


 フラミーは途端に警戒を強めた。

 いやなに、別に大したことを条件として提示するわけではないさ。


「俺のことはお兄ちゃんと呼んでくれ」

「ぶっ!? なんでそんな呼び方しなくちゃいけませんの!?」

「お兄様、兄君さま、にいさま、お兄ちゃま、あにぃ、おにいたま、兄や、アニキ、兄上様、兄くん、兄チャマ、あんちゃんのどれかでも構わない」

「呼び方少し変えればいいって訳でもありませんの!? ていうか呼び方多っ!?」


 そりゃ多いさ。

 これは妹をこよなく愛する先人様たちが考えたものだぞ。

 我々ニューエイジは、過去の先駆者たちの意志を継がなくてはならないと思うのだよ、うん。


「ほら、言ってごらん。お兄ちゃんって」

「絶対にイヤですの!」

「ふむ……」


 どうやらフラミーは俺の要求を受け入れてはくれないようだ。

 残念だ。

 わりと凄く残念だ。


「お兄ちゃん」

「!」


 と、そこでヌルシーが俺を見ながら、静かに『お兄ちゃん』という単語を口にした。


「ヌルシーはそう呼んでくれるのか……!」

「うん、割とどうでもいいですし」

「うおおおおおお! ヌルシー!」


 テンションを上げた俺は、ヌルシーを高い高いしながらクルクル回り始めた。


 ヌルシーはホント良い子だなぁ。

 相変わらずボケーとした表情で、なに考えてるのかわかんないけど、凄い良い子だなぁ。


 よし!

 今日からヌルシーは俺の義妹(いもうと)だ!

 俺の義妹はこんなに可愛い!

 義妹だけど愛さえあれば関係ないよねっ!


「本当になんなんですの、この勇者は……」


 そして、そんな俺の隣ではフラミーが呆れ声を出していた。


 結局、その後もフラミーは俺をお兄ちゃんと呼んでくれなかった。

 なので、しょうがないから代案として、国内での龍化を禁じるということで、この場を治めたのだった。


 ちなみに、龍化とはドラゴネス一族の秘術で、龍になることができる魔法なのだとか。

 おっかない魔法もあるもんだなぁ。

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[一言] 殴られるより、罵倒される方が…
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